軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八十話 決算日の対話

定軍山の霧が晴れ、両軍の陣営が露わになる。

蜀の陣地からは、四輪車に乗った諸葛亮が、

静かに進み出た。

対する曹操軍からは、馬に跨り、

泥に汚れた帳簿を抱えた峻が歩み寄る。

歴史上、最も「数字に強い」二人の、

最初で最後の直接交渉だった。

「……峻殿とお呼びすべきか。

貴殿の『新魏通宝』による経済封鎖、

実に見事でした。

我が蜀の山間にまで、

貴殿の算盤の音が響いておりましたよ」

諸葛亮が羽扇を揺らし、穏やかに微笑む。

「……過分な評価です、諸葛亮殿。

……貴方の『木牛流馬』によるロジスティクスこそ、

私にとっては恐怖の対象でした。

……メンテナンス費用を度外視すれば、

あれは物流の革命ですから」

峻は眼鏡を指で直し、冷徹な視線を返した。

「峻殿、一つ聞きたい。

……貴殿はなぜ、これほどの才を持ちながら、

乱世を終わらせる『大義』を語らず、

ただ数字のみを追うのか。

……数字に心はありません。

民が求めているのは、

明日への希望という名の仁義だ」

諸葛亮の問いに、峻は短く、鼻で笑った。

「……諸葛亮殿。

……貴方の言う『仁義』は、複利を生みますか?

……死ぬ間際の民に、仁義を一枚差し出せば、

その腹は膨れますか?」

峻は算盤を高く掲げた。

「……私の追う数字は、現実そのものです。

……一石の米を、一銭の金を、確実に民の手に届ける。

……不確かな『天命』を待つより、

確実な『物流』を構築する。

……私が曹操様を支えるのは、

彼がこの世で最も『巨大な資本』を動かし、

最も効率的に戦を終わらせる、

能力(リソース) を持っているからです」

「……相容れませんな」

諸葛亮の目が、わずかに鋭くなった。

「……ええ。貴方は『理想』を現実にしようとし、

私は『現実』から理想を削り出す。

……諸葛亮殿、貴方の蜀は、

この定軍山での戦費を維持するために、

民の血税を『前借り』しているはずだ。

……その負債は、勝利しても、

完済できないほどに膨らんでいる」

峻は、懐から一枚の、

「蜀軍損益計算書(峻による予測)」

を取り出し、風に流した。

「……これより、

強制的な『債務整理』を開始します。

……諸葛亮殿、

貴方の知略という無形資産を、

私の圧倒的な資本力で買い叩かせていただく」

その瞬間、峻の合図とともに、

後方から大量の「新魏通宝」を積んだ馬車が現れた。

峻は戦うのではなく、

蜀軍の「給与」をその場で、

現金支給(買収)するという、

前代未聞の戦場スカウトを開始したのだ。

「――蜀の将兵に告ぐ!

諸葛亮の理想に従い餓死するか、

私の帳簿に名前を連ねて腹を満たすか!

今すぐ決算せよ!」

定軍山の空気が、戦いの熱ではなく、

剥き出しの「欲望」に震え始めた。

事務屋と軍師。

二人の天才による「天下の買い取り」が、

ここに幕を開けた。