作品タイトル不明
第七十八話 宗教法人の監査
「……五斗米道。
信者から『米五斗』を徴収し、
それを資本に福祉を行う宗教組織ですか。
……極めて強固な、
『コミュニティ通貨』を持っていますね」
馬超を破り、
西方の門を叩いた峻は、
次なる攻略目標である漢中の情報を整理していた。
教主・ 張魯(ちょうろ) が治めるその地は、
信仰という名の「見えない契約」で結ばれており、
通常の武力侵攻では「占領コスト」が、
跳ね上がることが予想された。
「峻殿、漢中の山道は険しく、
輸送隊の歩留まりが最悪です。
……しかも、民たちは張魯を神と崇め、
我らを『外敵』と見なしています」
韓恢(かんかい) が、
険しい山岳地図を前に弱音を吐く。
峻は眼鏡を指で押し上げ、冷徹な一言を放った。
「……神を否定する必要はありません。
……ただ、彼らの『帳簿』が、
信仰という甘い言葉でどれほど粉飾されているかを、
民に見せつければいいのです」
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峻が仕掛けたのは、
攻城兵器ではなく、
「物流の自由化」だった。
峻は漢中の国境付近に、
曹操軍公認の「巨大な自由貿易市場」を設置した。
そこでは、峻が北中原で生産させた、
安価で高品質な「新魏ブランド」の塩、布、
そして高度に精製された酒が、
驚くほどの低価格で並べられた。
「……張魯殿が徴収する米五斗。
……それを我々の市場に持ってくれば、
その三倍の物資と交換できます。
……さあ、どちらの『教義』が、
皆さんの生活を豊かにしますか?」
漢中の民たちは動揺した。
信仰は心を救うが、
峻の提示した数字は「生活」を劇的に改善した。
峻は、
宗教的な結束を「経済的な合理性」によって、
外側から溶かしていったのだ。
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「……峻。お前、
ついに神仏の領域まで数字で買い叩き始めたな」
曹操が、市場に詰めかける漢中の民を眺め、
皮肉げに笑う。
「……曹操様。
……信仰とは、一種の『長期投資』です。
……死後の安心という、
確認不可能なリターンを約束するビジネスです。
……私はただ、
それよりも利回りの良い、
『現世の配当』を提示したに過ぎません」
やがて、内部からの「経済的崩壊」を恐れた張魯は、
ついに降伏を申し出る。
峻は、漢中に入城するやいなや、
即座に教団の蔵を封印した。
「――これより、
五斗米道の『特別監査』を開始します。
……隠し資産、および不明な支出。
……神の名の下に行われた『不透明な会計』を、
すべて一銭単位で清算させていただきます」
漢中。
それは、峻の算盤によって、
宗教という霧が晴らされ、
巨大な「兵糧供給基地」へと書き換えられた。
北、西、そして今、南西の漢中。
峻の帳簿の上で、
天下を包囲する「数字の包囲網」が、
着実に完成へと近づいていた。