軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第429話 最強の“盾”

ドレークは楽しそうな笑顔を見せた後、表情を一変させて集中力を高め始めた。

ダメージも蓄積しているはずだし、かなりの疲労も見えていた。

覚醒した俺のガードを突破する術はないと思いつつも、この表情からは何か奥の手があるようにも思える。

「【猛鬼猛攻】」

察知していた通り、ドレークは何かしらのスキルを発動。

その瞬間に皮膚が赤くなり始め、体から湯気が立ち昇り始めている。

心配になるほどの変化だが、溢れ出ているオーラは先ほどと比べ物にならないくらい上昇しているのが分かった。

俺は慌てて盾を構えたが、ドレークは動くことなく更なるスキルを発動させた。

「【仙道不動】」

そのスキルを発動させた瞬間に、ドレークから立ち昇っていた湯気は治まった。

ただ皮膚は赤いままで目は真っ赤に血走っており、筋肉が一段階膨張したような気がする。

「……ふぅー、待たせてわりぃな。これが本気の状態だ。ラルフ、本気を出すまで待ったことを少しは後悔し始めたか?」

「それがドレークの本気ってことなら、全然後悔なんかしてない! ただ具合悪そうに見えるけど、そんな状態で戦えるのか?」

見た目に反して冷静さを保っているようで、会話は先ほどまでと同じように行えているけど……。

纏っているオーラはまるで別物で、先ほどまでのドレークとは別人と対峙している感覚だ。

「戦闘後に数日間動けなくはなるだろうが、スキルの効果が切れるまでは普段以上に動ける。――なぁ、そろそろ始めようぜ? ウズウズして仕方がねぇんだよ」

「問題ないなら良かった! ああ、いつでもかかってこい! ドレークの全部を受け止めて、その上で弾き飛ばしてやるから!」

「ははっ、なら遠慮なくいかせてもらう。あっさりと倒れないでくれよ」

ドレークはそう告げたあと左手に盾を構え、空いた右手で剣を引き抜いた。

盾と盾の完全守備型から、盾と剣の王道スタイルで来るようだ。

動きを注視して、初撃だけは絶対に食らわないように――。

俺はそう最大限の警戒をしていたのだが、まばたきをした次の瞬間にはドレークが目の前まで迫ってきていた。

斬るというよりも、叩きつけるような強烈な一打を放ってきたため、俺は慌てて盾でガードを行う。

ほとんど無意識下でのガードだったけど、先ほどまでの感覚が残っていたお陰で完璧に受け流せすことができた。

剣を正面から受け止めるのではなく、剣の側面を盾で逸らして衝撃を完全に後方へと流したつもりだけど……盾を持つ手がジンジンと痛む。

ドレークの攻撃は完璧な受け流しでもダメージを通してくるのか。

生まれ持った恵まれた体格に、天から授かった圧倒的な適性職業。

そこに強力なスキルで更なる補正をかけたのだから、当たり前といえば当たり前だけど。

受け流した後にシールドバッシュを入れる暇もなく、ドレークはすぐに次の一撃を浴びせにきた。

先ほど使ってきた【武道一極・鬼神乱撃】よりも、重く素早い動き。

あれだけダメージに加えて疲弊もしていたのに、先ほど以上に機敏に動くんだからスキルってのは本当にズルいな。

俺はいきなり強くなるようなスキルを持ち合わせていないため、地道に坦々と冷静に攻撃を受け流していく。

ガードというのは試行錯誤の積み重ね。

タイミングを見計らいながら、虎視眈々とシールドバッシュを打つ隙を狙い――懐に潜り込んで盾をみぞおち目掛けて突きあげた。

俺的にはこれほどにもないタイミングだったのだけど……ドレークはまさかの盾で防いできた。

機敏な動きで一発一発重い一撃を浴びせてきながら、守備もガッチガチに固い。

【猛鬼猛攻】が攻撃スキルで、【仙道不動】が防御スキル。

攻守を同時にトップクラスで行ってくるなんて本当にズルすぎる――俺は歯が欠けるのではと思うほど強く歯嚙みして飛んでくる衝撃に備え、避ける間もなく放たれたドレークのシールドバッシュを顔面にモロに食らったのだった。

一撃で意識が吹っ飛びかけるほどの強い衝撃。

それも、盾で殴られた時と壁にぶつかった時の二回も。

壁に頭を強く打って意識が朦朧とする中、なんとか意識を手放さなかったのは強烈な嫉妬心だろうか。

なんだかんだ俺は、生まれてからずっと誰かに嫉妬する日々だったのかもしれない。

幼少期は幸せな家庭に対し、少年期は自由に動ける人に対し、少し前は何でもできるクリスに嫉妬して……。

今は何度も何度も攻撃を受けてようやく覚醒した俺を、一瞬で凌駕してくる才能を見せたドレークに嫉妬している。

幼い頃から貧困に喘ぎ、父親からの虐待で膝に重い爆弾を背負わされ、何も持ち合わせていなかった奴がここまでこれたからいいじゃないか。

大多数の人間にそう言われるぐらいには、今の俺は幸せであることは間違いないが……。

ドレークにも、クラウスにも、もちろん――クリスにも俺は負けたくねぇ!

強く食いしばっていた歯を更に食いしばり、俺は全身の痛みを堪えながら立ちあがった。

力を込め過ぎたせいで両の鼻血が吹き出たが、ドレークにではなく自分に余裕だとハッタリをかけるために不敵に笑う。

「ボロボロの状態で、今の俺の一撃をまともに受けてまだ立てるのかよ。――ラルフ、やっぱお前面白れぇな!」

「ドレーク、確実に今までで最高で最強の相手だ! ただ、俺は絶対に負けねぇぞ!」

そう宣言してから、俺はこの戦いで初めてのスキルを発動させる。

使わなかったではなく、使いどころがなかったから使わなかったスキル。

煮えたぎる強い嫉妬のお陰か、俺は燻らせていたスキルの使い方を思いついた。

「――【神の加護】」

【神の加護】のスキル名を発した瞬間に、金色に輝く光が俺を包み込んだ。

体力消費が激しく、何度も連続して使うことができないこの【神の加護】。

状態異常攻撃を使う相手との戦闘前や、敵の大技に合わせて発動させるくらいしか使いどころのないスキルだったけど……。

どんな攻撃からも自分の身を守れるのであれば、【神撃】の衝撃に体が耐えることできるはず。

【神撃】は過去に数回だけ使用したことはあったけど、これまで【神撃】のスキルに俺の体が耐えられずに全て不発に終わっていた。

ただ【神の加護】で身を守った状態で使えば――【神撃】の反動に体が耐えられる。

俺の体を金色の光が包んだ瞬間に何かを感じ取ったのか、ドレークは猛スピードで距離を詰めてきた。

盾を構えながらも剣を振りかぶっており、阻止しにかかってきている。

だけど、【神の加護】さえ発動できてしまえば【神撃】に溜めは必要なく、ノータイムで放つことができる。

向かってくるドレークに対して、これまでやってきたのと同じように剣を使って【神撃】を放とうと思ったが――直前で変更。

【神の加護】を使っていても、腕だけでは衝撃には耐えられないと直感的に感じた俺は、剣を投げ捨てて両手で盾を支えるように構えた。

ドレークとの戦いで何度も放ってきたシールドバッシュの集大成をここで発揮させる。

膝を曲げて体の重心をできる限り低くさせ、肘を直立に曲げて体を盾に密着させる。

拳、肘、肩の三点で三角形を作るように盾に押し当て、気合いと根性で全てを支える足腰を岩をイメージして固めた。

俺の準備が整うと同時にドレークが間合いに入り込み、叩きつけるように超速で剣を振り下ろしてきたタイミングで――。

「【守護者の咆哮】」

【守護者の咆哮】は敵のヘイトを集めるスキルだけど、攻撃を行っている最中に発動させることで攻撃を直情的に行わすことができる。

いくら超速の攻撃といえど、攻撃が来る場所とタイミングさえ分かれば、【猛鬼猛攻】下での攻撃を何度も受けた俺なら躱すことができる。

上段からの振り下ろしを斜め前に潜り込むように回避してから、俺はスキルを発動させにかかった。

ただ――ドレークは攻撃だけでなく、守備にも意識を向けている。

振り下ろした状態ながらも視線は潜り込んだ俺へと向けられており、片手に持たれている盾はしっかりと俺に向かって構えられていた。

「ラルフ、詰めが甘ぇよ! 【金剛不動・大天山】」

そんな言葉と共にドレークの盾には青白い光が纏い、聳え立つ山を彷彿とさせるどっしりとした構えを取った。

だけど――ここまできたら関係ねぇ!

俺の体に神が降りたかと錯覚するほど、爆発的な力が一気に漲る。

意識した三点に力が均等に分散するようにし、俺は漲る全身の力をぶつけるように盾を突き出した。

「【神撃】――!!」

俺の盾とドレークの盾が激しく衝突し、耳を劈くような衝撃音が『フォロ・ニーム』に響き渡る。

体が消し飛ぶのではと思うほどの衝撃だったが、俺を包んでいた光の衣が威力を最小限に抑えてくれた。

それでも【神撃】の威力は殺し切れておらず、盾を構えている左半分の感覚がないほどの衝撃が襲っている。

【神撃】に俺自身がふっ飛ばされそうになるが――全部の歯がへし折れていい覚悟で食いしばり、自分の足腰に檄を飛ばす。

俺はもう絶対に誰にも負けねぇ!

ドレークにもクラウスにもクリスにも……そして、全てを環境のせいにしてきた俺自身にもだッ!

「ウオオおおラああああアアッッ!!」

腹の中に溜まっているもの全てを吐き出すつもりで雄叫びを上げ、俺は正面にいるドレークに全てをぶっ放した。

地面と一体化しているのではないかと錯覚するほどの強固なガードを見せてきたドレークだったが、俺の全身全霊の【神撃】にとうとう受け止めきれなくなり――凄まじい衝撃音と共に、背後の壁を崩しながらふっ飛んでいった。

砂煙が立ち昇っていて姿が見えないけど、流石に【神撃】を食らって立ち上がることはできないはず。

自分に打ち勝ち、今までで間違いなく最強の相手だったドレークを倒した訳だし、湧き上がってくる喜びのままに勝ち名乗りを上げたいところだけど……。

俺の体はもう限界を既に超えている。

頭は真っ白で意識は朦朧としており、湧き上がっていた勝利の喜びもすぐに沈下していくのが分かった。

踏ん張りすぎたせいで体はほとんど動かないが、少しでも早くクリスの下に戻らないといけない。

俺は壁に手を当ててなんとか支えながら、ほとんど意識を飛ばした状態のまま――。

クリスの勝利をこの目で見たいという気持ち一つで、一歩一歩ゆっくりと闘技場へと向かったのだった。