作品タイトル不明
第358話 湧き立つ感情
落ち着き払っている西地区とは違い、凄まじい盛り上がりを見せているメインストリートを素通りし、俺は治安の悪い東地区へとやってきた。
ラルフの怪我を治しに来た時以来で、以前とは見え方も違っていて何だか新鮮な感じがする。
例の如く、闇市場へと続く道には門番のような柄の悪い男が数人立っており、正面からでは伝手がないと入れないようになっていた。
前回はヘスターの手引きでスムーズに入ることができたのだが、今回はあの門番みたいな男たちと会話することもできない。
闇市場はひとまず置いておき、東地区の他の場所を見て回ってもいいのだが……やはり東地区の情報集めといえば闇市場。
リスクはあれど、この三日間でいつかリスクを取らざるを得ない日が来るため、早めに散策してしまうことに決めた。
人目につかないように侵入できそうな場所を確認し、例の門番が入れ替わるタイミングを見計らってバリケードのようになっている柵を一気に登って侵入した。
バリケードの至るところが有刺鉄線で覆われており、手のひらが軽くズタズタになったもののなんとかバレずに闇市場に侵入することに成功。
【痛覚遮断】と【自己再生】のスキルを追加で発動し、更にローブの裾を切って手に巻き付けて処置は完了。
早いところ闇市場の情報集めを行い、存在を勘付かれる前に退散したいところ。
何事もない顔で人混みに紛れて闇市場の中へと進んで行った俺は、久しぶりに王都の闇市場というのをこの目で見た。
前回訪れた時は昼間で人もそこそこって感じだったのだが、闇と付いているだけあって夜の方が人の数が多い。
やはり何と言っても目に付くのが獣人種の亜人で、基本的には首輪をつけられて働かされているのが目に止まる。
首輪をつけられた獣人種の店員が獣人種の奴隷を売っている店なんてのもあり、異様に胸がムカつく感覚に襲われた。
昔にこの光景に思っていた感情を未だに忘れたことはなかったのだが――いつかここにいる全ての奴隷を解放する。
そう誓った日のことを再び鮮明に思い出した。
頭に血が上り、無性に暴れてしまいたくなる感情をなんとか押し殺し、俺は冷静に獣人の奴隷たちの横を通り過ぎて行く。
今はまだ自分のことで手一杯で他人に構う余裕がない。
ただ『アンダーアイ』を壊滅させ、クラウスへの復讐を果たした暁には……必ずこの闇市場全体をなんとかしよう。
そう自分に言い聞かせながら、闇市場の情報収集に専念することに決めた。
レアルザッドの裏通りのようなテントの店が立ち並ぶエリアを抜け、高さのある建物が立ち並ぶエリアへと辿り着く。
この一角に例の闇医者がいた建物があったのを思い出し、少しだけ顔を覗かせようか迷ったが、どう転んでも絶対に良い気分にはならないだろうし踏み留まった。
俺の勘が当たっているのであれば、この高い建物が立ち並ぶどこかに『アンダーアイ』の拠点があるはず。
周囲をしっかりと警戒しつつ、索敵を行って強い反応がないかを探っていると……前方の建物三つから強い生命反応が感じられた。
一番反応が多いのは右側手前の建物で、一番強い反応があるのが左側奥の建物。
そして、右手奥の建物からはそこそこ強い反応が複数感じられるって感じだな。
ここまで強い反応を感じられなかったし、急に強者が揃う建物が一気に三つ現れたのは違和感しかない。
三つの建物の内のどれかに『アンダーアイ』の拠点がある可能性は高いし、下手すれば三つとも拠点の可能性だってある。
さて、ここからは建物の中に実際入るかどうかの選択だ。
まだ確信を持てていないため、この目で確認しておきたいところではある。
ただ実際に建物の中に入ると相当なリスクが伴う訳で、実力者なら俺の存在をバラすことになる可能性が高い。
ヘスターやラルフが集める情報を待ってからでも遅くはないし、一度ここで引き返す選択が賢いように思えるが……。
かなり頭を悩ませたが、近づいて実際に確認することに決めた。
ここからは今まで以上に周囲への警戒を行いながら、他とは違って生命反応を感じない左側手前の建物に入って向かい側から中の様子を窺う。
気配を消している可能性も考慮しつつ、慎重に建物を登って行き――この建物の奥にある一番強い反応を感じる建物を盗み見た。
感じ取れる反応が大雑把でしか分からないため、生命反応を細かく確認して場所を探り当てることに成功。
気配を完全に消して窓から誰か見えないかをジッと待っていると、そこから見えたのは長い白髪の女。
一瞬、強い生命反応とその姿の乖離に別の奴かとも思ったが、間違いなく白髪の女からこの生命反応が感じられた。