作品タイトル不明
第310話 活動限界
行きよりも倍ほど遅いペースではあるが、特に何事もなくバハムートの洞窟唯一の分かれ道へと戻ってくることができた。
ここまで魔物にも一切遭遇しておらず、今のところは瘴気が消えたことによる効果を身を持って体感できている。
ただ、分かれ道の先からは広い洞窟となっているため、瘴気の元が消えた今でもまだ洞窟内に瘴気が充満しているのが分かる。
魔物の気配も感じるし、ここから先は隠密行動をしなければ魔物に襲われるのは確実。
最奥部で使った回復ポーションや、ここまで常に発動させていた【自己再生】のスキルのお陰か、徐々に体が回復して動かせるようにはなっている。
鋼の剣を支えにせずとも歩けるぐらいにはなっているし、隠密行動もなんとかこなせるはずだ。
残りの体力が非常に気になる部分ではあるのだが、最奥部で寝ていたから回復していると信じて突き進む。
【黒霧】【隠密】【消音歩行】【深紅の瞳】のスキルを発動させ、まだ魔物がうじゃうじゃといる洞窟の中を歩いていく。
行きよりも魔物の数は少なくなってはいるが、それでもロザの大森林の倍以上の魔物が見えているし一切の気を抜くこともできない。
見つかったら【広範化】と毒ポーションを即座に使うと頭に叩き込み、それでも駄目なら“ヴァンデッタテイン”を抜く。
片手で扱うには大きすぎる代物だが、ピンチを打開できるぐらいの何かしらの力を持つ剣だと俺は信じているからな。
根拠のないヴァンデッタテインの力を心の支えに、【黒霧】で暗闇にした洞窟の中を精神をすり減らしながら静かに進み続ける。
永遠に続くとも感じるほどの洞窟を一歩一歩ゆっくりと進み続けると――ようやく外の光が見えてきた。
体力、気力共に限界を迎えており、外に待っているであろうラルフ、ヘスター、スノーだけを頼りにここまで進み続けてきた。
正直、一度でも魔物に見つかれば死んでいただろうが、見つからずに抜け出すことのできた今となったらどうでもいい。
ようやく外が見えたとしても、決して気を抜いてヘマを犯さないように自分を律しつつ――とうとう俺はバハムートの洞窟を抜け出ることに成功した。
気の緩みでぶっ倒れそうになるが、ここでぶっ倒れたら何の意味もない。
それと……今更ながら思ったのだが、はたしてラルフ達は残ってくれているのだろうか。
バハムートの洞窟に潜っていた時間がどれくらいか分からないが、かなりの時間潜っていたと思う。
完全に気絶していた時間も含めると、一度帰還してもおかしくはない時間が流れていそうなのだが、みんなが帰還していたとしたらかなりまずいことになる。
俺の体力は既に限界を超えているし、洞窟の外もまだ瘴気で覆われている状態。
魔物を退ける力など残っていないし、本当にヴァンデッタテインが全てをひっくり返すような力を持っていなければ帰還することはできないのだが……。
俺のそんな不安はすぐに吹き飛ぶこととなった。
洞窟から少し離れた位置にラルフ、ヘスター、スノーの姿が見え、特にラルフに至ってはぐるぐると円を描くように歩き回っているのが見える。
向こうにも帰還した俺の姿が見えたのか、まずヘスターが駆け出しはじめ、そのすぐ後にスノー。
下を見ながら円を書くようにそわそわと歩き回っていたラルフは、大分遅れて俺のことに気が付いたようだ。
「クリスさん! 無事だったんですね!! ……本当に、本当に心配しましたよ!」
「無事と言っていいか分からないが、なんとか生きて帰ってこれた」
「アウッ! アウッ!」
「本当だ。傷が酷い……! 荷物を渡してください! すぐに中継地点まで戻りましょう」
ヘスターは手慣れた手つきで俺の持っていた荷物を預かると、スノーと一緒に荷物を半分ずつ持ってくれた。
そこに遅れて駆けてきたラルフが到着し――。
「クリス! 本当に心配したんだぞ!! 何十回、洞窟の中に入ろうと思ったか! でも、生きて帰ってきてくれてよかっ――」
「ラルフ、今はそれをやっている暇ないから! クリスさんを背負ってあげて! すぐに中継地点へと運ぶからね!」
「感動の再会を味わわせろ……って、本当にそれどころじゃないみたいだな。クリス、背中に乗っていいぞ! 痛い箇所はあるか? 気をつけて背負うからよ!」
「【痛覚遮断】のスキルを使っているから痛みは大丈夫だ。ただ左腕だけはかなりの重症だから、何かで固定してくれると助かる」
「了解! 道中の魔物は全部無視して、急いで中継地点へと運び込む! ヘスターとスノーで俺のサポートを頼むぞ!」
「分かってます! 早く行ってください!」
こうしてバハムートの洞窟から脱出した俺は、倒れ込むようにラルフの背中にもたれかかり、感動の再会を行う暇もなく中継地点へと運び込んでもらった。
本当に活動限界ギリギリだったのか、ラルフの背中に乗った時点で俺の体は一切言うことが聞かなくなり……バハムートを倒した時以上に泥のように眠ってしまったのだった。