軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百五十四話

暗闇の円卓。

俺は、自宅に戻るとすぐ、ソファで眠りに就いた。

この場所に来る為に。この場所で、決戦前の最終調整を行う為に。

最近思うのだが、自分より遥かに格上の相手と、安全に組手を行えるこの精神世界というのは、実は他の様々な能力に負けず劣らず、反則的な力なのではないだろうか?

「シズマ、状況はこちらも把握している。あの男、ヤシャ島でセイムとして戦った男とやり合うんだな?」

「んむ……一度、自分と同格か、少し上の人間と戦うべきとは思っておったが、その機会がきたのう。あれはワシの目から見ても、強者に分類される者。セイムでの時は、奥義による不意打ち、そして相手の不調が重なり一瞬で決着がついたが、あれは本来、常人とは別格の生き物じゃろう」

「やっぱりそうか……あいつ、普通の人間じゃないって聞いた。俺が補助を全部かけて挑めば、対等に渡り合えるかな?」

円卓の間にて、残ったキャラの中では武闘派であるルーエとシレントに、こちらの目的を見透かされたように話しかけられた。

俺は、現段階でアンガレスに対抗できるのか二人に訊ねる。

「俺達全員の補助を扱えるお前の一撃は、恐らく俺に匹敵する。つまりセイムの奥義をも超えるって意味だ。勝機は十二分にあると見ていい」

「じゃがその反面、最初の一撃にかかっているという意味でもある。シズマのステータスはまだセイムにも及ばぬよ。故に、確実に一撃を与えることだけに集中するのじゃ。最初の一撃、その一撃を外せば一気に苦戦することになる。初撃にしか効果が乗らない補助はそこで消えてしまうからの」

「やっぱりそうか……最初の一撃にだけ反映される補助、それを抜きにしても十分効果は残るけれど、それでどこまでやれるか未知数だもんな。普通の打ち合いになったら、たぶんまだ俺の剣じゃ渡り合えない。スキルの上ではマスターしていてもさ」

「うむ。シズマ、ヌシは結局、ここぞという場面では大剣に持ち替え、破壊力に特化した一撃、確実に当たられる場面で放つという方法でこれまで戦ってきた。じゃがこの先はそうはいかんぞ」

「そうだな、明確に知恵のある相手、それも格上の可能性がある相手になら、大ぶりな一撃は相応しくない。片手剣か片手半剣での戦いに慣れておくべきだ。今日は打ち合いの訓練をするぞ」

巨大な剣を自由自在に扱うシレントと、凄まじい技の冴えを誇るルーエ。

俺の中で最高峰の剣士二人との訓練が幕を上げた。

精神世界の時間経過が、現実でどれくらいなのかは分からないが、俺はひたすら、この最強格の剣士二人の猛攻に付き合い続けるのであった。

「うわ!」

「隙ありじゃ」

「ヌン!」

シレントの体当たりで崩されたところに、ルーエの一撃がすかさず割り込み、その一撃を受けて怯んだところに、ダメ押しのシレントの一撃を振り下ろされる。

精神世界故に致命傷には至らないが、明確に『死』を感じさせる一撃を受け、俺は床に倒れたまま、この暗闇を見上げていた。

「つええ……まるで歯が立たねぇ……」

「それはそうだろ……俺とルーエを同時に相手にするなんざ……」

「うむ、そうじゃな。が……なんとか十数秒は凌げるようになったのう?」

「逃げるので精いっぱいだけどね……いや、やっぱり二人は別格で強いよ……」

身体を起こし、汗一つかいていない二人を見上げる。

荒療治の極み。短期間で格上の相手と打ち合えるようになる為なら、多少無茶をしても構わない。

「シズマ、随分と剣の扱いが上手くなったのう。スキルでマスターしているからか、細かい技術の習得が早い。これなら剣にかかる負担も少なく、身体にかかる衝撃も上手くいなせるはずじゃ」

「そうだな。俺の大剣の攻撃を受け流せていたんだ、少なくとも剣の防御は完全にマスターしたと言っても良い。あとは切り返し……確実に一撃を与えるカウンター、そいつの訓練だな」

「じゃな。ワシの一撃、そしてシレントの一撃、それぞれ訓練してもらうぞ」

「わ、わかった……」

二人の訓練は終わらない。ルーエの正確無比な、最速の一撃にカウンターを合わせる訓練と、シレントの強大な一撃に合わせてカウンターを放つ訓練。二つの極致を相手に訓練だ。

我ながら随分とスパルタだが、これくらい必要な相手なのだ。

強くならないと。今後、もっと強い相手が現れた時、自分の力で勝てるように。

かつて、俺が手も足も出なかった相手がいる。気まぐれか温情か分からないけれど、結局はこちらに勝利を譲ってくれた相手、ダンジョンマスターの『フェルシューラー』。

ああいう相手が今後も出てくるかもしれないのなら、俺自身の強さを上げるのも大事なはず。

キャラクターのスキルを継承するだけじゃない。根本を、俺そのものを強くしなければいけないのだ。

「じゃあ、ルーエから頼む」

そうして俺は、この最強の剣士二人との訓練を再開したのであった。

「う、ううん……おかしい……身体は寝てたはずなのに……凄い疲労感だ」

俺は気がつくと、ソファの上で目を覚ましていた。

窓から差す光は既に失われ、今が夜なのだと察するも、部屋の明かりはついたまま。

シーレとメルトはどうしたのだろうかとあたりを探ってみると、家の外、庭から二人の話し声が聞こえてきた。

『ほら、これなんてもういいんじゃないですか?』

『ダメよシーレ、まだ生だよ? シズマが起きた時にこんなの食べさせたらゲェってしちゃうわ』

『なるほど……表面だけじゃダメなんですね』

『じっくり焼くのよ、前に野営の時、レティちゃんに教わったの』

どうやら、二人は庭で何かをしている様子だ。

俺は硬くなった身体をほぐすようにしながらおきあがり、玄関の扉を開く。

「おはよう、二人とも。俺、どれくらい寝てた?」

「あ、おはようシズマ。えっと……帰ってきてから今までだから……」

「七時間くらいですね。大丈夫ですか? 昼夜逆転生活は今後の活動に支障が出ますよ?」

扉の向こうでは、二人が庭で焼き台、バーベキューコンロのようなものを設置し、なにやら食材を焼いているところだった。

香ばしい食材の焼ける香りと、薪が燃える香りが鼻孔をくすぐる。

「大丈夫、ずっと頭の中で戦って、もう眠くないはずなのに疲れてヘトヘトだよ。またすぐに眠れそうだよ」

「なるほど……無理はしないでくださいね? 本来、睡眠は脳内の老廃物を排出する為のプロセスなんですから。ほどほどに、ですよ」

「シズマ、お腹減ってないかしら? 今、鶏のお肉と玉ねぎ焼いてるのよー」

「お、いいね! じゃあ焼けたら俺も貰おうかな」

簡単な焼いただけの食材なのに、焚火の香りが付いただけでこんなにも美味しくなる。

塩とハーブだけで、美味しくなる。玉ねぎの甘さと一緒に頬張る肉が、こんなにも美味しい。

二人が用意してくれた晩御飯に舌鼓を打ち、夜が過ぎていく。

決戦の時が、近づいていく。

「……どこかしらで因果は繋がっていくんだな……やっぱり」

偶然だとは思う。だが、こうして過去に関わった相手が再び立ちはだかるこの事態に、なんだか因縁めいたものを感じてしまう。

因縁……ならばいつか必ず、俺は再び出会うのだろう。俺の前から逃げた、最後の元クラスメイト。あのクサレビッチ、名前も思い出したくない、あの女子生徒が。

決戦に向け、日々精神世界での修業や、実際に現実世界でシーレやメルトと手合わせをしながら過ごす日々。

そんなある日、俺達の借りている家に、郵便屋を名乗る男がやって来た。

「ここの借家のオーナーさんから頼まれてきました。シズマさんにお手紙だそうです」

「手紙……ですか? ありがとうございます、受け取り印とか必要ですか?」

「大丈夫ですよ、では自分はこれで」

そう言いながら去っていく郵便屋を見送り、手にした手紙に視線を落とす。

白い封筒。それを裏返せば、封蝋と共にある文字が示されていた。

「あいつ……いつのまにこの世界の文字を勉強したんだ」

そこには確かに、この世界の文字で『狂信者より我が主へ』と書かれていた。

「シズマー、それってお手紙?」

「あ、そうだよ。ここの女将さんからだね。たぶん、契約の更新が必要か聞く為じゃないかな?」

興味を持ったメルトに嘘の理由を述べ、興味をなくしたところで中を確認する。

するとそこには――

『三日後、私は北都ポルクラットに移動します。最後にもう一度情報交換をしませんか? 本日の夜一〇時、再びあの酒場にてお待ちしております 追伸 小狐さんにドロップを一缶分けてあげてください』

ふむ、そうかもう移動するのか。このタイミングでの情報交換となると……追加で何か情報を得たのだろうか? それとも、俺達の情報があちらの耳に入り、何かそれに関する話でもある、か?

なんにせよ……なんだ、結構メルトのこと気にしていたんじゃないか。素直じゃないな。

「シーレ、メルト。今日は俺、夜に借家のオーナーの女将さんのところに行ってくるよ」

「分かったわ。じゃあご飯はどうするの?」

「んー、先に食べていていいよ」

夜に抜け出す口実を作ると、シーレは今回も察してくれたのか目くばせしてくれる。

「気をつけてください、夜に一人で出歩くのは危険ですから。念の為、あの鎧を着て姿を隠すといいですよ」

「ん、了解」

俺が変装することに違和感を覚えないように先に話を振ってくれる。

……シーレって、人格が元々ゲーム制作のスタッフの一人が元になっているらしいが、きっとかなり仕事が出来る人だったんだろうな……なんとなくそう感じた。

夜、まだ約束の時間には早いが、俺は鎧を身に着け家を出発する。

「じゃ、先にご飯食べていていいからね。もしかしたら遅くなるかもだし」

「分かった、シズマも気をつけてね? その鎧恐いから、変な人に絡まれないようにね」

「確かに。シズマ、あまりおかしな場所には近づかないように、ね?」

二人に見送られ、まだ通りを行き交う人間が多い中、歓楽街へと向かう。

スティルとの約束の時間までまだ二時間ほどあるが、適当に夜の街を散策していればすぐだろう。

夜の歓楽街に辿り着く。既にバーの場所は知っているのだし、そこで時間を潰すことも出来るのだが、あえて今回はどんな店があるのか見て回ることにした。

やはり、少し奥まった通りに向かえば、明らかに『そういう店』や『そういう宿』が目立つ。

客引きの女性の姿も目立ち、不思議なことに、そういった女性の獣人比率が高いように思えた。

隣の国が獣人の国だからであろうか? 出稼ぎ目的……?

やはり度胸が据わっているのか、この鎧を身に着けた俺相手にも、怯まずに声をかけてくる。

が、それを無言で手で制し、周囲を見て回る。

歓楽街にも飲食店はある。漂う刺激的な香りに腹の虫を鳴らしながらも、時間を潰す。

そうして時間を潰し終えた俺は、目的のバーへと今回も辿り着いたのであった。

「失礼する」

扉を開くと、今回も来客を知らせるベルが鳴るも、やはりこちらを振り返る客は誰もいない。

まだ時間が早いのだろう、前回よりも客が少ない中、俺はマスターに向かい話しかける。

「待ち合わせだ。奥の席、使ってもいいか?」

「……スティルの兄さんとか。なら使っていいぞ。まだ来ていないが」

想定より少しだけ早く来てしまったようだ。

奥のブース席に座り、とりあえず軽くつまめるものと、スティルが頼むであろう紅茶を先に注文する。

「さて、出発前にどんな話を聞かせてくれるのやら」

運ばれてきたオードブル、ピンチョスと呼ばれるものを頂きながら、到着を待つ。

やがて、つまみを食べ終わりそうになったところで――

「おや? 待たせてしまいましたか?」

来客を知らせるベルが鳴り、スティルの飄々とした声が店内に響く。

すると、今度は店内の客が全て、スティルへと視線を移していた。

……なるほど、どうやら中々派手にここで動いていたようだ。

そんなスティルが店主に言葉をかけるでもなく、真っすぐに俺の元へやってくる。

「お待たせして申し訳ありません、我が主」

「構わないよ。というか……ワザとか?」

恭しく、まるで傅くように礼をする。

それはまるで、周囲に『この人は自分の上に立つ人間なのだ』とアピールしているかのよう。

その姿に、静かなどよめきが上がる。

「……なるほど、今後の為か」

「ええ、私がいなくなった後も、ここを活用しやすくなるでしょう?」

「密会する相手なんていないがね」

「それもそうですか。さて……では早速本題に入りますか?」

席に座るスティルが本題に入ろうとするのを手で制する。

「紅茶を注文しておいたよ。まず軽く喉を湿らせな」

「お気遣い感謝します」

そうして、二度目の密会が始まった。