軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百五十三話

試練が行われる日は決まっている。俺達が到達してから、六日後だと知らされている。

探索者ギルドに訊ねたところ、既に二つ目の試練の間……実質最後の試練まで辿り着いているのは、俺達で二パーティ目だという話だった。

「というわけで、これから探索者ギルドでまた情報を集めてみたいと思います」

「おー! また中継されるのよね? みんなに向かって挨拶する練習しようかしら」

「ふふ、メルトは可愛いですから、みんな喜んでくれるかもですね」

探索者ギルドにやって来た俺達は、再び談話スペースとなっている上階へと向かう。

試練のある日以外は、モニターに映るのはギルドからのお知らせや、訓練風景だ。

もちろん、たまに広告が流されることもあるのだが、基本は退屈な映像だ。

談話スペースで休憩していた一同は、そんな映像をぼんやりと眺めながら、提供されている飲み物を飲みながらくつろいでいた。

この談話スペースは、飲食店とまではいかないか、ちょっとした飲み物なら販売しているのだ。

「二人は何か頼んでいてよ。俺が情報を集めてくる」

「分かりました。そうですね……あの中継の影響で、女の私達は少し気まずいですし」

「??? 前の試練? あれってなんだったの?」

それは気にしないでください。いつか分かる時が来ると思います……。

俺は、手始めに今もモニターを見ている探索者に話しかけることにした。

「すみません、ちょっといいですか?」

「あん? お? お前あれだろ! 最近快進撃がヤバい若手パーティのリーダーだろ!」

「あ、知っていましたか」

どうやら、俺のことを知っていたらしい。

割と派手に動いていた自覚はあったが、ダンジョンの外でも知られているとは思わなかった。

どうやら『おイタ』をする探索者というのは、悪い意味で有名らしく、そういう人間をかたっぱしから叩き伏せている俺は、割と話題に上ることがあるそうな。

……あと、前回の試練を最速で突破したので、一部では『物凄く速いんじゃないか(意味深)』と言われているのだとか。

……ぶちころがすぞ!!!! あの試練は必ずしもそういうものじゃなかったろ!

俺知ってるんだぞ、結局あの試練『リラックスしないと進めないフロア』って言って寝転がった人がいて、そうやって突破した人が続出したんだって!

つまり『致した』人達は深く考えない短絡的な馬鹿だったってわけだ!

「お前さん達のパーティには期待してんだ、何か用か?」

「ええ、実は先日、二つ目の試練の間に到着しまして。だからどういう試練が過去に行われたのか、情報を持っている人がいないかお聞きしたくて――」

そう告げた時だった。

目の前の男だけでなく、周囲で聞いていた探索者達までもが、一斉にどよめき出す。

だがそれは、俺達がこんなに早く辿り着いたことへの驚きではなく……どこか、困ったような、そんな反応に見えた。

「……なぁ、確か次の試練開始日は六日後だったよな。あの試練は、到達出来る人間が稀なんだ。そりゃダンジョン踏破の一歩手前だから、辿り着ける奴なんざ一握りなんだよ」

「あ、じゃあ俺達は踏破まであと少しなんですね?」

「ああ、正直驚きだ。最初の試練の間以降は、基本強力な魔物ばかり出現するんだよ。お前達、よく突破出来たな。だが……悪いことは言わねぇ、今回の試練は参加しなくていい、その次、さらに二週間後に試練を受けるといい」

それは、どうにも試練の内容を知っているかのような口ぶりだった。

周囲もまた、男の提案に強く頷き、賛同していた。

「それは……どういう試練内容なんですか?」

「普通に、強力な魔物と戦うことになる。とはいえ、高ランクの探索者だって滅多に突破するヤツはいないんだ。事実、ここのダンジョンを最後に突破したのは、今から二年前の探索者パーティだ」

「……自惚れではないのですが、並大抵の魔物に負けるつもりはありませんよ。それに……『試練を受けるな』ではなくて、『時期をずらせ』というのはどういうことなんです?」

男の提案から受けた違和感。そう、受けるなと言っているんじゃない、見送れと言っているのだ。まるで、次のシーズンになればマシになるような、そんな口ぶりなのだ。

「最後の試練は……通常は強力な魔物との戦いだ。だが、二パーティ以上がシーズン中に到達しちまうとな、内容が変化するんだ。パーティ同士での戦闘にな。戦闘終了は、どちらかが戦闘不能になるまで。別に、相手を殺すなんてルールはねぇんだ。だが……今回はダメだ」

「そいつの言う通りだ。わけぇの、今回はやめとけ。俺もお前らの活躍は応援してんだ、だからみすみす『命の危険に向かわせる』訳にはいかねぇんだ」

「それは一体どういう……先に到達している人間を知っているのですか?」

つまり、俺達のパーティがこのままでは、その先に到達した人間との戦闘になってしまうからと、周囲の人間は引き留めているのだ。

その必死な様子は、本当にこちらの命に危険があると思っているようであった。

「……相手は、普通の人間じゃねぇんだ。帝国の探索者の中じゃ上から数えた方が良い相手なんだ。それも……悪いうわさが後を絶たねぇ。最近、なにかやらかして降格処分を受けたらしいが、それでも今のランクは『白金鳳翼章』つまり上から二番目だ」

「噂じゃ、あいつは希少獣人の血が混じった『変異亜人』って話だ。坊主、普通の人間が叶う相手じゃねぇ。あいつはこれまで何人もダンジョンの中で人を殺してるって噂がある。証拠はねぇが、恐らく事実なんだと思う」

帝国の最大戦力の一角……? そこまで危険な相手が、今このダンジョンにいるというのか。

……帝国の人間の強さは知っている。俺は一度、セイムとして、恐らく最高戦力の一角である探索者と、一戦交えたことがあるのだから。

だが、その時はセイムの姿であったこともあり、一瞬で勝利することが出来たのを覚えている。

名前はたしか――

「『アンガレス』は普通じゃねぇ。一度戦闘が始まっちまえば、近くにいるだけで攻撃対象になっちまうような、狂戦士なんだ……それがダンジョンのルールでおおっぴらに、人前で手を出せるんだ……間違いなく殺されちまう!」

「……アンガレス、ですか。そうですか、教えてくれて感謝します」

そうだ、その名前を憶えている。俺がセイムとして、全力で潰した相手だ。

メルトと交戦し、あの強いメルトを一方的に下し、悔し泣きさせた相手だ。

降格処分……恐らく、俺との戦闘での敗北、それにこれまでの言動や他国で帝国の威信を落とすような負けザマを披露し、罰を受けたのだろう。

「……ありがとうございました。仲間と相談して決めてきますよ」

「ああ、そうしな。あんな綺麗な子二人もつれてんだ。アンガレスがどんなことをしでかすが想像もできねぇ」

なんというか、奇妙な縁だ。

何かしらの罰は受けるだろうと思っていたが、ランク降格か。

この大都市のダンジョンを踏破し、再びランクを上げようと思っているのだろうか?

俺は二人の元に戻り、この情報を伝えることにした。

「ただいま、二人とも……って、なんだいこれ」

二人のテーブルに戻ると、そこにはテーブルが見えなくなるほどのグラスが置かれ、様々な飲み物が所狭しとならんでいた。

なんだ、こんなにたくさん注文したのか!? それとも店が一時的に置いているのか!?

「あ、おかえりー! みてみて! こんなにたくさん飲み物があるのよ! 飲み放題ね!」

「おかえりなさい。実は……先程から次々と差し入れをされていまして……」

「私達を応援してるっていう人が、私とシーレに奢ってくれたの! でも少し多すぎねー」

なんと……! 二人はそこまで注目されているのか。俺達が映されたという中継……一体どんな風に映っていたのか気になるな……。

「みてみて、コーラに似てるのもあるのよ。ピリっとしてるけど美味しいわ」

「ジンジャーエールのようなものですね。シズマ、飲みながらお話を聞かせてください」

「……全部飲んだらお腹たぽたぽになっちゃうな。じゃあ報告。あんまりいい話じゃないけどね」

待ち受けている試練の内容、そして戦うことになるであろう相手、その詳細を語る。

メルトにとっては因縁の相手であり、シーレも当時は俺の中にいた為、状況は知っているはず。

この話を聞いて、二人は何を思うのか。

「! アイツね! 私の尻尾の毛、ぶちぶちぶちー! って、沢山抜いたヤツ! アイツと戦うの!? 私、リベンジ出来るかしら?」

「やる気だね。ただ……あの頃と比べて、自分の中で成長した実感、どれくらいある? あいつは強いよ、かなり強い」

正直に言おう。メルトは成長している。以前よりも剣技のキレ、動きの機敏さ、魔法の幅も増えている。そして使う剣も、恐らく武器同士の打ち合いになれば、一方的に相手の剣を破壊出来る業物だと思う。だが……その上で、まだメルトがアンガレスに勝つのは難しいと思うのだ。

「うむむむ……まだ勝てないわね。速さも力も足りてない。ダンジョンの中で戦うのよね……自然がいっぱいな場所で広ければ、勝てる方法も見つかるかもしれないけど」

「では、私が相手をしましょうか? まぁ仮に一対一でやる場合の話ですけど。もし、パーティ単位なら三対一になりますね。三人なら確実に勝てますが、一対一なら私が」

セイムで勝てた。なら、シーレでも勝てる可能性が高い。純粋な戦闘力だけならセイムとシーレにほぼ差はないのだから。

だが、相性の差がある。向かい合って戦闘開始となる場合、シーレは弓で戦う分、距離を取る必要がある。

無論短剣で戦うことも出来るが、それで倒せる相手ではないのだ、アンガレスは。

「俺がやる。相性的に俺しかないと思う。……いい機会じゃないか。俺が、どこまで強くなれたのかを調べる。セイムと俺の差がどれくらいなのか、それを調べるまたとない機会だ」

セイムで戦った時、俺は怒りに任せ、最強の技を初手でぶちかましてやった。

そして、俺の現在のステータスは……残念ながらまだそこまでの域には達していない。

が、それを差し引いても俺は様々なスキル、技を習得、引き継いできている。

それを駆使すれば、アンガレスには負けない、そう信じている。

「シズマ、大丈夫? 勝てる? あいつ、凄く強いのよ?」

「ふむ……事前に準備を出来るのなら圧勝ですね。補助の重ね掛けをしてから挑みましょうか」

「そのつもりだよ。正々堂々なんてやってやるもんか。ダンジョンに入る前に全部かけてから挑む。今度は中継で大勢の探索者が見てるんだ。前みたいに貴族や限られた人間だけじゃない、皆の前で無様な姿を晒させてやるよ」

あいつ、あの時確かに……海水の中で漏らしていたからな。

今度もさせてやる。メルトの尻尾の毛を何本も引きちぎったり、顔に傷をつけたこと、まだ贖いきれてないんだってこと、しっかり分からせてやる。

「六日後の本番に向けて、暫く訓練でもするよ。頭の中でね」

「そうですね、訓練相手には事欠きませんからね。応援しています、シズマ」

「うん、私が戦えないのは少し悔しいけど、応援するわ! めっためたにしちゃって!」

情報を得た俺達は、探索者ギルドを後にする。

きっと、ここの人間は俺達が試練を辞退、時期をズラすと思っているのだろう。

……見せてやるよ、この国の最強の一角が、中継中に崩れ去るその瞬間を。