軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百三十四話

屋敷の内部は、まさしく『洋館ってこういう構造だよな』とイメージした通りの構造をしていた。

扉を開くとエントランスホールがあり、正面には大きな階段というありがちな構造。

大きな柱時計が設置されていたり、階段の踊り場には大きな絵画があったりと、まさしく『ステレオタイプな洋館』だった。

「ここまで予想通りだと逆に新鮮――あれ?」

後ろに続いているであろう二人へと振り返ると、そこには誰の姿もなかった。

だが、一瞬遅れてシーレ、そしてメルトの姿が、扉から入ってくるのではなく、まるで転移してきたかのよう突然に現れた。

「あれ? 二人とも……一緒に入ったよね、今屋敷に」

「は、はい……あれ? シズマ、いつの間に私の前に……?」

「あれ? 私が先頭だったと思うのだけど……」

「……屋敷の入り口がなんらかの転送装置になっていた……? なんだろう、本当に俺達は見えていた屋敷に入ったのか、それとも……」

「厄介ですね……もしかしたら屋敷そのものが異空間、複雑なダンジョンになっている可能性があるのですか」

「えー……ただのお屋敷だと思ったのに……」

「戦闘行為が禁じられてるのが本当なのか、調べてみようか」

俺は、普段使いのバスタードソードを取り出し装備する。

だが、不思議なことにその剣を構えることも、振りかぶることもできなかった。

凄く、気が進まないと言うか……忌避感が物凄いのだ。

「ダメだ、確かに戦闘行為は無理そうだ」

「確かに……武器どころか技も発動できないですね」

「私もー……魔法使いたくなーい……」

意志に介入する力を持つダンジョン……ある意味では『心穿つ久遠秋愁』と同じかもしれない。

厄介だな。しかも……今回に至っては、明確なゴール、クリア目標が分かっていないのだ。

「少し、屋敷の中を見て回りましょうか」

「そうだね……一応シーレは【観察眼】で探ってくれないかい? 俺も【神眼】で探るから」

「そうですね……ただ、今のところは調度品の説明が見えるだけで、おかしな点はなにも……」

「俺も同じく、だね。本当に屋敷に特殊な罠とかそういうのが見つからない状態だよ……」

何もない。ただの屋敷なのだ。戦闘ができないだけで、他に変わった様子は一切ない。

そのまま、三人で固まって屋敷の中をくまなく調べてみることにした。

ホールに、客室。食堂に厨房に、応接室や遊戯室。

書斎に、お風呂場にトイレ。水仕事をする洗面所のような場所もあった。

本当に屋敷、人が普通に生活していくのに必要な設備が全て揃った、ただの貴族の屋敷にしか見えなかった。

だが――

「この扉だけ開かないねー?」

「そうですね、このエントランスホールの大扉だけ開きません……この先はなんでしょう?」

「扉の大きさ的に広い空間でも広がってそうだね。考えられるとしたら……パーティを開くような大きなホール?」

「もしかしたらそうかもしれませんね……この先に進むために謎を解くのがお題、かもしれません」

「だったら、どこかに扉の鍵とかあるかもねー」

「なるほど……一通り見てきた部屋、もう一度詳しく調べてみようか」

なるほど……少し違うかもしれないが『リアル脱出ゲーム』のようなダンジョンか。

そういえばこの屋敷の名前は『矛盾と謎の館』だったな。

となると、本当に謎を解き明かすのが目的なのか……。

「やはり、一番何かを隠しやすいとなると……応接室でしょうかね?」

「そうだな……本棚も沢山あったし、もう一度調べに行こうか」

応接室、先程は部屋を全て確認するために立ち寄っただけだが、確かにこの部屋が一番何かを隠しやすいだろうとは思う。

ソファにテーブル、本棚にキャビネット、執務机まで設置されているのだ。隠す場所には事欠かない。

まずは執務机から調べてみようと、警戒しながらも近づく。

随分とこの机も良いもののように見えるが……。

「ん。手紙が置いてあるね。しっかり封蝋がしてある」

「シズマ、ペーパーナイフがありましたよ」

シーレから受け取ったナイフで手紙を開封すると、中には一枚の便箋が出て来た。

封筒も、便箋も、どちらも質のいい紙であることが、手に取っただけで伝わる。

まるで『重要なアイテムだから目立っている』かのような存在感だ。

「……なるほど、やっぱり一種のアトラクション、その導入用のアイテムってことか」

便箋にはただ一言、こうしたためられていた。

『この屋敷の中にある偽りを暴け』

具体的な謎は明示されず、ただこの屋敷の中にある偽物、騙しているものを見つけろ、ということだろうか?

二人にも手紙の文面を見せてみる。

「偽り……何かしらの隠し扉、擬態している存在、そういったものがあるのでしょうか」

「それって、シズマの目で調べられないのかしら?」

「それが……今のところ屋敷に置いてあるものは全て見ているんだけど、何か特殊な品とか、そういうものは一切見つからないんだよ」

エントランスのソファや花瓶、廊下のカーテンや燭台、柱時計に絵画、調べられるものは手当たり次第に調べているのだ。さしずめ、ゲームで『調べる』のボタンを連打しながら移動しているかのように。

「……もしかすれば、何か条件を達成した時に初めて、おかしなものや仕掛けが生まれるのかもしれません。私やシズマのような力は、いわば謎解きにおけるズルですから。対策がされているのかもしれないですね」

「なるほど……見ただけの段階だと普通の物品ってことも考えられるのか」

「ええ。たとえば、その調べたものに付随していて当たり前の機能に何か隠されている場合もあります。たとえば机を調べても、わざわざ『引き出しが付いていて中に何かが入っている』とは表示されないんですよ、私の力だと。シズマも同じじゃないですか?」

「言われてみればその通りだ……この力の抜け道みたいな仕組みも考えられるってわけか」

「ふむふむ? つまり、力に頼らないで、自分で調べて考えるのが大事ってことね?」

「そうですね……目で見ただけで調査から除外するのは危険です。ここからは自分で調べましょう」

メルトの言う通りだな。自分で手に取って調べて、怪しければ自分で裏を調べたりなんだりして、怪しいところがないか調べないといけないんだな。

そうして、俺達はもう何度目になるか分からないが、今一度屋敷の中を全て、自分の目と手でしっかりと調べて回るのだった。

「うーん……大きな柱時計、いかにも何か仕掛けがありそうなんだけどなぁ」

一通り屋敷を見終わった俺達は、エントランスホールにある大きな柱時計を観察していた。

まさしく『大きなのっぽの古時計』といった姿をしているが、別に持ち主はお爺さんではないらしい。

「そうですねぇ。『お約束』だと、こういう時計のギミックを解くと、謎の形の鍵やメダルが出てきたりするのですけどね?」

「さすがシーレ。必修済みなんだ『あの作品』」

「それこそ、あの作品の『1は洋館が舞台』でしたしね」

「確かに。でも本当に仕掛け、みつからないな……時計の針を順番通りに動かすとか、その番号を書き示したメモとか、そういう謎解きっぽいヒントはどこにもなかったしなぁ……」

だが、謎解きとは限らないのもまた事実だ。何せ『偽りを暴け』としか書かれていないのだから。

謎解きではないのか……? 何か偽物、まやかしを突破することで先に進めるのだろうか。

「困ったわねー。そのうち、お屋敷の中にアンデッドとかゾンビが出てきたり、0時になったら事件が起きたりするかもよねー?」

「確かに時間経過で何か変化が起きる線もあるのか……」

「ふむ……? 時間と言えばこの時計、実際の外の時間を表しているんですよね、恐らく。そろそろ一七時ですし、夕ご飯のこと、考えませんか? 幸い、立派な厨房もありますし」

「そういえばそろそろお腹すいたね。食堂に行こうか、せっかくなら」

「わーい、私実はもうおなかペコペコだったのよー」

嬉しそうにはしゃぐメルトと共に食堂に向かう。

この屋敷には家具も設備も整っており、もしかすれば謎が解けなければ、ずっとここで暮らす羽目になるのかもしれない。

そしてこの充実した設備は、ここで暮らすことを決めた人間を快適に住まわせるための……一種の罠なのかもしれないな。

謎解きをさせる気を失わせる、そんな『快適な暮らし』という毒。

それを証明するかのように、屋敷の厨房には、しっかりと鮮度の良い食材が用意されているのだ。

冷蔵の魔導具の中には肉や魚もあり、もしかしたら使ったら使った分だけ、補充されたりする可能性すらある。

ある意味、一番の罠と言えるかもしれないな。こんな広大な樹海の果て、凶悪な魔物が巣食うダンジョンの果てに、こんな快適な屋敷があるのだから……。

「せっかく良い設備に食材もたっぷりあるんだし、たまには『セイラ』の姿で料理をしようかな」

俺がそうぼやいた時だった、シーレがおもむろにこちらに近寄り、耳打ちをしてきた。

「……シズマ。私とメルトは食堂で待っていますから、ここで一人で料理をお願いします。できれば……変身する姿は私やメルトに見せないでください」

「……なにか考えがあるんだね?」

「少し前、メルトが騙されたように、私もシズマを騙そうとしていると思われるかもしれません。ですがこれは、このダンジョンを突破するための作戦の一種です。そして、今日の料理は……ゲーム時代の食材を使っても構わないので、今から私の言う『料理』も作ってください。それに加え、港町で食べた料理も」

港町で知った料理といえば……エビパテトーストだろうか?

それに、ゲーム時代の食材で俺に何を作らせるつもりなのだろうか……?

「では、今から言う料理を作ってください。まず――」

そうして、俺はシーレに頼まれた通りの料理を、密かにセイラの姿になり、完璧に調理した。

さすがに【料理レベル10】の力は伊達ではなく、シズマとして覚えた【料理レベル4】とは、調理速度も完成品のクオリティも、そして作れる料理の幅も段違いだった。

「よし……エビチリにエビパテトーストにエビ天丼、シーフードシチューに稲荷寿司だ」

久しぶりの米である。ゲーム時代の食材でしかまだ見ていないが、確かに久しぶりに米を食べたい気持ちは俺にも分かる。

シーレもきっと、米が恋しいのだろう。

俺は元の姿に戻り、出来上がった料理をワゴンに乗せ、食堂へと運んでいく。

「あ、お疲れ様ですシズマ。料理の配膳は私に任せてください」

「お、じゃあお願い。メルトは……グラスを並べてくれる? リンゴジュースが冷蔵庫に入っていたんだ」

「分かった! うーん、良い匂い!」

てきぱきと、大きな長テーブルに料理を配膳するシーレ。

メルトの前にはエビパテトーストを並べ、自分の前にはエビ天丼と稲荷寿司を並べていた。

ふふ、やはり米が恋しかったと見て間違いなさそうだ。

三人で並んで椅子に座り、いただきますを言おうと手を合わせると、もう食べたくてそわそわしているのか、メルトの手が料理に伸び始めていた。

「メルト、ちゃんといただきますを言ってからですよ」

「わ、わかったわ……わー、美味しそうねー」

「よし、じゃあいただきます!」

そう、俺が言うや否や、メルトの手が、シーレの前に伸ばされた。

そして、『その料理』の皿を掴んだメルトの手を、さらにシーレが素早く掴み取る。

ちょ、ちょっと恐いぞシーレ、そんな強く睨まなくても……。

「……やはり、『こちら』を先に食べようとしましたね? ようやく確証が持てました。この屋敷の『偽り』は……貴女だったんですね? メルト」

「え!? なになに、なんなの!?」

「シーレ……何を言って……?」

そう言うと、シーレはメルトの手を掴んだまま立ち上がる。

強く、強く睨む彼女。その迫力は、思わずこちらの背筋が震えてしまうほどだった。

「……言いなさい、本物のメルトをどこにやったんですか」

「シーレ……どういうことなんだ? これはどう見てもメルトにしか見えないけれど」

「実は先程から、メルトはおろかシズマの情報も読み取れません。どうやらこの調べるという行為、人に向けることは『戦闘行為』とみなされるようでした。ですが……このメルトは偽物です」

「……その根拠は?」

「疑いを持ったのは、時計を調べていた時のことでした」

そしてシーレが語りだす。この結論に至った推理を、メルトが偽物だと断じたその理由を。