軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百三十三話

入浴を済ませ、川を遡る。

仮に屋敷が復活していたら、もうそろそろ山肌に見えてくる頃合いだ。

河原を進みながら、メルトは森側を警戒し、俺は屋敷の姿が見えるか目を凝らし、シーレは川の中や向こう岸に魔物が現れないか確認するという布陣。

やがて『ソレ』が現れる。

山肌に屋敷が見えてきたわけではなく、川の向こう岸に……現れたのだ。

かつて、セリーンとして倒した『境界破り』と同じ姿をした、歪な頭を持つ、巨大な黒い狼が。

「なにあれ……恐い……凄く恐い見た目だわ……」

「……シレント。今すぐシズマの姿に戻って【神眼】を使ってください。私では情報が読み取れません。恐らく……異常な存在です、あの魔物は」

シーレの【観察眼】で正体を判別できないと言う魔物。

ならばと、俺は元の姿に戻り、川の向こう岸からこちらを睨む、異形の巨狼を確認する。

『徒喰い』

『咀嚼し飲む者』

『ここにいるべきじゃない者を滅する』

『故に自身を呪う狂った獣』

『不具合の産物』

それは、文字こそ化けていないが、意味が通じるようで通じない、でも理解出来そうな、ひどく曖昧な説明だった。

まるでこちらの動きを観察しているような様子を見せる魔物。

確認を終えた俺は、すぐにシレントの姿に戻り、臨戦態勢に入る。

「速攻で潰すよ、あれを調べたけど意味のありそうな情報はなかった」

「了解。シレントが前衛で引き付けてください。こちらも奥義を狙います」

「私は、魔法で足止めするね。川がいっぱいあるから、氷にして動きを鈍らせるわ」

意味の分からないものは、とりあえず殺す。シレントとしての強大なステータスに物を言わせ、俺は川をひとっ跳びで越え、出会い頭に大剣を強く叩きつける。

こちらを追って顔を動かしていた魔物の鼻先に叩きこまれた一撃が、魔物を大きく後ずさらせる。

俺を脅威だと認識し、大きな前足が無造作に振るわれる。

「っ! ごらぁ!」

巨大な、俺の身体くらいはありそうな足を受け止め、押し返す。

大剣を薙ぎ払い、足をさらに切り裂き、血しぶきを浴びながら、頭上に向かい剣を突き出す。

首元に突き刺さる大剣。気がつくと、魔物の後ろ脚が凍り付き、逃げ出すことができなくなっていた。そのまま、逃げられないならこのまま殺してやると、夢中になった大剣を何度も頭上に突き出す。

「シレント! しゃがんで!」

シーレの鋭い指示に従い、すぐに剣を手放ししゃがむと、頭上を何かが通り過ぎていくのを感じた。見上げれば、四肢を残し、身体が消え去った魔物の姿があった。

……随分強烈な一撃を放ったようだな、シーレは。

「ふぅ……大剣は無事だったか。お疲れ様、シーレ。メルトもナイス足止めだったね」

「わー……私達ってここまで強かったのね……あんな化け物みたいなの、あっという間に倒しちゃったわ……シレントも相変わらず凄く強い……」

「真正面から戦って攻撃を受け止めて殴り合うなど、普通はできませんからね。おかげでたっぷり技の威力を溜めてから放てました」

川を渡ってきたシーレが、回復薬を飲みながら言う。

すると、何故かシーレの表情が歪み――

「……シレント、全身返り血だらけです。もう一度お風呂に入ってください」

「げ! ……メルト、お願いします」

「しょうがないわねー! じゃあ準備するねー」

準備の間、今倒した魔物が残したドロップ品を確認する。

どうやら……何かしらの異常で生まれたモンスターや、特殊な個体、ダンジョンの主のような魔物は全員『コレ』を落とすようだな。

『追憶“原初の魔王”』

『こことは違うどこかの記憶に意味はない』

『人であろうとした人外の責任所在とは』

『責任を果たすために人の憎しみを背負う者の記憶』

また、大きなガラスの塊のようなものを拾い、メニュー画面に収めた時に表示される謎の言葉。

何かしら、意味がある説明だとは思うが、どうにもただのオブジェにしか見えないのだ。

これで何個目だろうか? 今度全部出して並べてみようか。

「お風呂準備できたよー」

「あ、了解!」

まぁ、とりあえずこの血まみれの身体を綺麗にしましょうか……死体は消えるのになんで血は残るんですか……。前は消えたような気がするんだけどなぁ。

その後、再び川を遡るように進んで行くと、ついに山肌に屋敷が見えて来た。

以前、フーレリカを消すために、とんでもない規模の大爆発を起こし、山肌も削り取られ、屋敷も木っ端みじんになったはずなのに、まったく同じ場所に屋敷が存在していた。

山も元通り……やはり、ダンジョン内の地形はある程度自由に操作できるのだろうな、ダンジョンマスターは。

「本当にダンジョンの中に屋敷がある……」

「あれが、以前破壊されていたんですね? 元に戻っているということはやはり……」

「きっと、ダンジョンの一部だ。そしてわざわざあんなものを用意している以上……」

恐らく、あそこがダンジョンマスターの根城なのだろう。

俺達は、切り立った崖や斜面を上り、屋敷を目指す。

そうだ、こんな急な道で人が屋敷を建てられる訳がないではないか。

「さてと……もう少しで屋敷に到着するわけだけど……ここから屋敷を破壊できないか試そうか」

「ええ!? ここから!?」

「なるほど……ダンジョンマスターがいるなら、外から全力で攻撃して屋敷ごと破壊できないか試す、ということですか」

「俺は今からまた元の姿に戻って、バフ全掛けの一撃を放つから、シーレも最高の一撃お願い」

「分かりました。では溜め時間に比例して威力が上がる技を……メルトは何かありますか?」

「炎の魔法かしら? いっぱい増やして操作して、高温にして、一気に放つとかできるけど」

試せることは全部倒す。以前、爆破できたのなら、俺達にもできるのではないか。

あの時は内部にダンジョンマスターがいなかったのだろう、あらかじめ罠がしかけられていたのだし。

なら、今度はどうだ? 不意打ちでいきなり屋敷を破壊したら、さすがに死ぬんじゃないか?

元の姿に戻り、威力重視の大剣を装備し、補助を自分に重ね掛けしていく。

シーレも弓を構え、周囲の空気が渦巻く程の魔力が集まっているのが見て分かる。

そしてメルトは……自分で作った火花が、彼女の頭上でどんどん膨らみ、膨張している。

三者三様の溜めが始まり、これから同時に放つこの攻撃なら、屋敷を完全に吹き飛ばせると確信が持てた。

もはや赤を通り越し、白に近い色に変貌した、巨大なメルトの火球。

かなり空高くに停滞しているはずの魔法なのに、じりじりと肌を焼くような感覚が伝わってくる。

シーレの弓は、つがえた矢が深い闇のような黒を滲ませ、周囲に禍々しいオーラを放っている。

これは、最大まで溜めた時のエフェクトではない、ゲーム時代は見たことのない色だ。

……この世界で限界なんてないのかもしれない。

そして、俺も全てのバフをかけ終え、全身に力が漲り、大剣を振りかぶる。

「みんな、狙いはあの屋敷だ。いくぞ……!」

全身全霊の攻撃が、炸裂する。

「『ゲイルブレイク』!」

「おっきい炎! いけー!」

「『極射“星霜”』」

屋敷に向かう巨大な火球。巨大な風の刃、黒い光線のような矢。

それらが全て屋敷に炸裂し、山全体を揺らす衝撃が奔った。

「……こういう時、お約束だけど言っちゃダメなセリフがあるよね」

大量の煙に屋敷が包まれる。

崩れた山の砂埃も共に舞い上がり、こちらを照らす太陽光すら覆ってしまうほどに。

「そうですね、フラグ……がありますからね」

シーレも『ソレ』を理解しているからか、煙に包まれる屋敷を見ながらも『その言葉』を口にしないようにしていた。

だが――

「やったかしら! あんな攻撃だもの、無事なはずがないわ!」

メルトが、見事に完璧なフラグを立ててしまいました……!

煙が晴れると、メルトの責任ではないだろうが、見事に無傷の屋敷がそこに残っていた。

だがそれは、逆に一つの仮説を俺に与えてくれた。

「……つまり、本来ダンジョンは外部からの衝撃で壊れることはない、物理法則からかけ離れた存在ってことか。なら前回破壊されたのは、ダンジョンマスター側が仕掛けたか、もしくはあらかじめ破壊できるように人間と取り決めを交わしていたか。確定だ、ここのダンジョンマスターは『人間となんらかの取り決めを交わしたり交渉をする余地のある相手』だ」

「確かに、そうとも取れますね……ただ、今の攻撃で完全に敵対したかもしれませんが」

「えー! なんで壊れないの! 今の魔法、本当に山を消し飛ばしたことあるのに!」

「え! メルトそんなことしたの!?」

「……一回だけよ? 森に住んでいた頃、海沿いの山を一つ攻撃したことあるの……」

どうやらメルトは、破壊力に特化させたら、俺達のようなネトゲ由来の技に匹敵する魔法を使えるみたいです。

なんと末恐ろしい……! 鍛えたらもっともっと強くなりそうだな!

「よし。屋敷に行ってみようか。罠があるかもしれないから、またシレントの姿に戻るよ」

「そうですね……一応、予防として補助薬等を飲んでくださいね」

「罠かー……恐いね……落とし穴とかかしら」

落とし穴ならどんなによかっただろうか……。

あの爆発、また起きないとも限らないからな、慎重に……。

「あ、やっぱこの姿のままでいいか。【神眼】で罠とか見破れるし」

「そういえばそうでしたね。地形の情報も読み取れるんでしたか」

そうして、しっかりと目で安全を確認してから、俺達は屋敷の前に辿り着いた。

前回は、すぐに爆発してしまいろくに観察もできなかったが、今回はしっかりと確認できた。

見たところ、この世界で見かけるのと同じ文明レベルの洋館だ。

ダンジョンマスターがどこか別な世界、別な次元の存在だとしても、こういった建築物は世界に合わせて建てているのだろうか?

「……【神眼】で見た結果だけど、どこにも罠はないね。ただ屋敷の名前が――」

『矛盾と謎の館』

『ダンジョンマスター“ルーラザレス”の作り上げた拠点』

『全ての存在の一切の破壊行動を禁ずるが条件を満たせばそれが解ける』

『極めて異質な存在である』

「どうやら、この屋敷では戦闘行為ができないらしいよ」

「また、特殊なギミックのダンジョンなのですね」

「戦えないの!? 一方的にやられちゃうよー!」

「いや、たぶん相手もそうなんだと思う。……入ってみよう」

どうやら、今回もまた特殊な条件でクリアとなるダンジョンのようだ。

……何か、抜け道がないか考えておいた方が良さそうだな。