軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百七十七話

迎賓館での晩餐会から一夜明け。

俺達は他国の人間、国賓のための港に集まっていた。

一つの戦いで、国の方針が変わることもある。

あの夜、俺の見せた力の一端は、帝国の方針を大きく曲げることに繋がった。

『神公国レンディアの戦力はコンソルド帝国と対等と見てもいいのかもしれない。慎重にことを運ぶべきであり、間違っても高圧的な態度で接すべき国ではないのではないか』。

大方こんなところだろう。アシモフ公爵の態度は、あの夜以降、確かにレンディア側を下に見るようなものではなくなったと、ヴェール侯爵は言っていた。

半ば私怨の一戦でも、それが結果的に国に良い影響を与えられたのならよかった。

俺の留飲も下がったが、それ以上に帝国の格が下がりかねない、そんな悲惨な結果だったからな。

「閣下! 移送、完了しました」

「ご苦労。本国に到着するまで決して牢から出すな」

視線の先で、帝国の使節団の一部人間が船に乗り込むのを見届ける。

アシモフ公爵と一部の商人を除いて、他の人間は帝国に帰還するそうだ。

無論、俺に敗北したアンガレスも。

治療院に入院中の帝国の探索者達については、このままこの島で預かることになった。

無論、治療費は全て帝国持ちであり、退院後は帝国に戻ることも、このままレンディアに留まるのも自由となったそうだ。

まぁ残念ながら、戻ったら貴族待遇になるって話は水に流れたようだが。

公爵が用事を済ませ、レンディアの代表であるヴェール侯爵率いる俺達の元に戻ってくる。

「セイム君と言ったか。正直、君を……いや、この国の人間を侮っていた。世界の広さを知らなかったのは私の方だったようだ」

「そうですね、実際世界は広いです。自分もまだまだ足を運んだことのない土地が山ほどあります。帝国にも是非、一度足を運んでみたいと考えていますよ」

「それはいい。その時は私に一報くれたまえ。まぁ、私はしばらくこの国に留まるのだがね」

「その時は是非」

既に俺も警戒対象に入ったのか、俺の存在を意識するアシモフ公爵。

だが、案外これでよかったのかもしれないな。

そうして、アンガレスを乗せた船は、ヤシャ島を離れ本国へと戻って行ったのだった。

「では私もリンドブルムに向かう船の乗船準備に移るとしよう。ヴェール卿、今回は最上の持てなし、感謝致します。後ほど商人からも商売の話が出るかと思います。対応して頂けると幸いです」

「分かりました。どうか、これからも良き関係を築けていけることを願っております」

きっと、惨憺たる感情も内に秘めているだろう。それでも、公爵は友好的な態度を崩さず、そう言い残し迎賓館に一足先に戻って行ったのだった。

「セイム君。結果的に、我が国の外交は君のおかげで良い方向に向かいそうだ。今回は娘の依頼を引き受けてくれて本当に感謝している」

「いえ、前も言いましたが、途中から俺個人の私闘のようになっていましたから。お礼を言われるようなことはしていないつもりです」

「だが、実際こうして好転した。素直に受け取って欲しい、この感謝の気持ちを」

差し出された手を握り返し、深い握手を交わす。

彼もまた、満足げな笑みを浮かべ、迎賓館へと戻って行く。

残されるのは、俺とシュリスさんの二人。

「結局、私が思っていた心配は、起きたのか、起きなかったのか、微妙なラインだったね」

「そうですね。ただ、恐らくアンガレスとシュリスさんを引き合わせ、何らかのアクションを起こさせるつもりだったのだと思いますよ」

「確かにね。案外、人気のないところで襲われていたかもしれないね?」

「冗談でも淑女がそんなことを言わないでください」

「ふふ、すまない。案外、私も浮かれているのかもしれない。『私の友人はここまでの男なんだぞ』と、かの強国に知らしめることができたからね。嬉しいんだ」

そう言いながら彼女は微笑んだ。

朝の波止場、海にきらめく朝日が、幾度も照らす彼女の顔。

きっと、男を落とすとはこういうことを言うんだろうな、と。

そう思える笑みだった。

「その期待に見合う働きが出来るようにこれからも精進しますよ」

「そうだね、期待しているよ。さて、これで私からのお願いは無事に果たされたわけだけれど、セイムさんはこの後どうするんだい? ダンジョンに挑むのかい?」

「いえ、俺は一度リンドブルムに戻りますよ。その前に本隊に寄るかもしれませんが。今、恐らくシズマがこの島に向かっていますからね、無事に着いたことを本体に報告する必要がありますから」

「旅団で預かっている、もう一人の異世界召喚の勇者……だったみたいだね。彼は平気なのかい? 結果として、彼は同胞を失ったと言える状況だろう?」

俺のことを聞いていたのか、そんな心配を向けられる。

が、本当にもうどうでもいいのだ。生き残っている連中がどうなろうとも、関係ない。

唯一逃亡したイナミ、あいつがどうなったのかは知りたいところだが。

スティルの攻撃で恐らく呪いにかかっているんだったか?

「そうだ、後でメルト君に私から直接謝罪したいな。私達のクランの仕事を手伝ったばっかりに、彼女はアンガレスの被害にあった。そのことを正式に謝罪したいんだ」

「それなら、クランの拠点で遊んでいると思いますよ。随分ダーツにはまっているみたいです」

「ふふ、そっか。それなら後で顔を出しに行ってみるよ」

アンガレスを倒したことは、昨日ホテルに戻った段階で報告したのだが、どうやらメルトはそこまで気にしていないのか『そっか、分かった』とだけ口にし、興味を失っている様子だった。

なので、謝罪もすぐに受け入れられると思う。

「さてと……では再三になるかもしれないけれど、今回のことは本当にありがとう、セイムさん。言うなればこれは私のわがままだったんだ。それでもこうして動いてくれて、本当に嬉しかった」

「どういたしまして、シュリスさん」

「私はまだしばらくこちらに留まるけれど、リンドブルムに戻ったら何かお礼をさせて欲しい」

「了解、今回はちゃんと遠慮しないで受けますよ、お礼」

「はは、そうしてくれ。では……もう行くのかな?」

「ですね。このまま港まで向かいます」

「そっか。じゃあ、心配いらないと思うけれど、道中、気を付けて」

「ええ、そちらも」

そうして、シュリスさんと波止場で別れた俺は、港に向かうために沿岸をぐるりと回り、島を半周するようにして歩いて立ち去っていく。

彼女の姿が見えなくなり、周囲に完全に人の気配がなくなったところで、俺は沿岸沿いの森の中へ向かい、完全に姿を隠す。

……ここからは、また俺が俺自身として行動を開始するターンの始まりだ。

俺はメニュー画面の『ログアウト』を選び、本来の姿、シズマに戻る。

「ふぅ……黒づくめの装備のままだな。回避特化スタイル。このままでいいか」

そこまで奇抜なデザインでもないので、このまま港に向かう。

天然のダンジョンに挑むんだもんな。だったら回避と速度に特化した、現状最も強い構築で挑むのが吉だよな。

「お、丁度定期船が出たところか」

港に着くと、港町に戻る船が出航するところだった。

あれにセイムが乗って行ったということにして、俺は今上陸したってことにしよう。

さて、じゃあ急遽姿を変えたし、メルトと合流してホテルを再契約しないとな。

市街地を歩くと、連日のグローリーナイツやセイム、メルトの取り締まりの甲斐あってか、大きな騒ぎが起きている様子はなかった。

以前は白昼堂々、刀傷沙汰なんか起きることもあったし、食い逃げなんてしょっちゅう起きていた。それくらい治安が悪化するほど、今このヤシャ島には人が集中しているのだ。

今回は帝国の探索者がほぼ入院中だったり、問題を起こしそうなアンガレスが送還されたからこれ以上の治安の悪化は免れたようだが、今後はそうもいかないだろう。

それこそ、使節団とは関係のない探索者が帝国から来るかもしれないからな。

「……どの道、ダンジョンの早期攻略は必要、か」

海底の地形変化による渦潮発生の件もあるしな。

市街地を進み、ホテルよりも先にメルトがいるであろうグローリーナイツの拠点を目指す。

もし、ダンジョンをクリアしてこの場所のダンジョンが休眠状態に入れば、ここにいる多くの人間は島を去るだろう。

そうなった時、この場所はどうなってしまうのだろうか? ふと、そんなことを考える。

ただの避暑地、観光地になるのか、はたまた何かしらの売りが生まれるのか、その辺りのことも考える必要があるな。

ダンジョンのクリアって、本来そういうものなんだよな。

俺の場合、クリアしたら問答無用でダンジョンコアを自分のものにする予定だし。

考え事をしているうちに到着した拠点。その入り口に向かい、声をかける。

「すみませーん! ここにメルトっていう女の子、来ていませんかー?」

元々この拠点を訪れる人間は多い。その例に漏れず、俺の呼びかけにもすぐにクランメンバーが対応してくれた。

「ん? なんだい兄さん、メルトの嬢ちゃんなら奥にいるが、何の用事だい?」

「俺、メルトの知り合いというか、セイムの知り合いでもあるんですけど、島に到着したので挨拶に来たんですよ」

「お、セイムさんの知り合いか! なら待ってろ、すぐにメルトの嬢ちゃんを呼んでくるから」

もうすっかり、このクランの面々にも気に入られているメルト。

もう普通に毎日入り浸って遊んでいるくらいだもんな。

すると、すぐに店の奥からバタバタと足音がし――

「シズマだ! シズマもう来たの! ということは――『セイムは帰ったのね?』」

「そ、俺と入れ違いで船に乗って帰っていったよ」

「そっか。じゃあ今日からシズマと一緒ね?」

既に、今日明日にはセイムから俺の姿に交代すると宣言してあるので、すんなりと話が通る。

何故か、俺の姿の時になると、いつもよりワンランクほどメルトのテンションが高い気がする。

やはり歳が近いことが関係しているのだろうか?

「セイムの代わりにホテルの契約をし直さないといけないから、できればメルトにも一緒に来てもらいたいんだけど、今時間大丈夫?」

「うん、大丈夫よ。じゃあホテルに一回戻ろっか」

「そうしようか。すみません、失礼しました」

「おう、どうやら本当にセイムさんやメルトの嬢ちゃんの友達だったみたいだな。名前、教えておいてくれるかい?」

「シズマです。セイムが元々所属していた『旅団』に籍を置いてる者です」

「ああ、噂の旅団の人か! いやぁ、若そうなのに風格あるなって思ってたんだ。じゃあな、シズマさん。何かあったらクランに連絡してくれ」

想像以上に、セイムや旅団の名前の効果が大きくなっているのか、好意的な反応が返ってくる。

改めて、俺がセイムとして少々回りくどい立ち回りをしたのが、正解だったんだなと思い知る。

……そうだな、もし仮にここのダンジョンコアを手に入れて、人格をしっかり宿せるようになるとしたら……セイムとシーレ、この二人を先に召喚するべき、だな。

メルトと二人、市街地を進む。

ウキウキとした足取りの彼女を見ていると、こちらまで足取りが軽くなっていくようだ。

「シズマ、キルクロウラーの人達が来るまで暇よね!?」

「そうだなぁ、時間的に余裕はあるね」

「だったら私、この島の市場とかお店をめぐりたいわ! あのね、この島って昔っから他の国の品とか、ダンジョンから出たアイテムが流通しているんだって!」

「なるほど、港町より変わったものがあるかもしれないな」

「そうそう。今回お薬の材料もいっぱい使ったから、珍しい材料とかもあるといいなー」

「へぇ、そういえばホテルでも薬の調合してたよね。もしかしてどこか具合悪いのかい? それなら俺も出来ることは全部するつもりだけど」

そういえば最近、イズベルの時もそうだが、メルトがこっそり薬の調合をしていたり、材料を探し求めることが増えた気がする。

あまり深く聞くのは身体に関することだし控えたいのだが……身体に、健康になにか懸念があるなら……俺は持っている全ての薬を提供するし、この世界にあるものでしか解決できないなら、大金をつぎ込んでも協力したいと思っている。

その考えを彼女に伝えると――

「う……ち、違うのよ? 今回調合したのは、本当に個人的な問題を解決するためのもので、もう終わったのよ? もう一つの貴重な材料については、研究に必要なの。でも、私の身体がどこか悪いとか、そういうのじゃないの。本当よ? 心配かけちゃったごめんね?」

「そうなのかい? ならいいんだけど……なにか協力できることがあったらなんでも言ってよ? 俺はメルトの家族なんだから。俺は家族のためならなんでもやるつもりなんだから」

「そうねー、私のためにアイツ、お空にぶっとばしたもんね! 凄かったねー」

「そうそう、空にぶっ飛ばし――あれ? なんでそんなことまで知ってるの?」

「え? あ! えっと、実は……こっそり覗きにいったのよ! どうなるのかと思って」

なんと……! 迎賓館にこっそり見に来ていたのか!

そうか、だから俺がアンガレスについて報告した時、そっけない反応だったのか。

もう、実際に見ていたってことか。

「さ、さぁホテルに戻りましょう? 新しい契約、しないとね」

「そうだね。じゃあ契約が終わったら、市場を覗きに行こうか」

なんだか少しだけ、秘密を持つようになったメルトに、俺はむしろ『成長してきている』なんて思いながら、ホテルへと戻るのだった。