軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百九話

女王の内心複雑だった。

長らく己を苦しめてきた自国の問題が解消され、国民が救われたことへの喜びの気持ち。

そして同時に、今まさに平和を壊さんとする隣国の侵略行為と、それに対する報復をかねた宣戦布告を行うことへの不安。喜びと不安が胸中を渦巻く中、女王は会議室にて客人を待つ。

『戦力を派遣します』そう、彼女が信頼を寄せ始める男、セイムが言った。

だが同時に、強力な個にも限界があると、女王はよく知っていた。

強力な個の集団である『十三騎士』を手中に収めているが故に。

『失礼する』

だが、女王の考えが揺らぐ。

会議室に入って来たその男の放つ濃密な気配に、戦場をこの場で想起させる雰囲気に

『この個ならば、本当に戦争を左右しかねないのではないか』と。

「失礼する」

会議室のの様子は午前中と変わらず。

だが違うのは、この場にいるのが女王とコクリさんの二人だけだ、ということ。

クレスさんやシュリスさんも同席するものだと思っていたのだが、どうやら内密な話になるかもしれないと踏んだのか、最低限の人間しか同席させるつもりがないようだった。

「お初お目にかかる。冒険者ギルド所属のシレントだ。それと……旅団の最初期のメンバーだと言えば良いだろうか」

実体のない組織。だが、その虚像はセイムやシーレ、その他のキャラの存在により、現実味を帯びてきている。

『得体の知れない実力者により構成された集団』そういう認識がなされて来ているのだ。

「其方がシレントか。僅か二日足らずで蒼玉の位を受け、そして此度の侵略に関わっていたかもしれない改造魔獣の件を解決した冒険者」

「そうだな、恐らくあれが全てに繋がっているのだろうな」

「……ふむ『貴方も』なんだね。不思議な気配がするよ。それに……平穏とは程遠い気配を感じる」

俺を見るなり、コクリさんがそう評した。きっと、俺から不思議な気配を感じ取ったのだろう。

疑似的な【観察眼】のような力で、俺がただの個人ではないと感じているのかもしれない。

「だろうな。だが、今はそれが必要だとセイムが判断した。だから俺が派遣されたんだろう。なによりも『俺なら最短でこの戦争を終わらせる手段を持っている』と、ヤツは知っているからな」

そう、シレントだけが待っているのだ。この戦争を最短で終わらせる切り札を。

「最短で終わらせる、と言ったか。本当にそんなことが可能なのか?」

「……女王よ、答えろ。『何日が良い?』」

不遜に。尊大に。そして……大胆に。

……傭兵としての勘が、この場に存在する『第三者』を察知する。

「『お前』には以前言ったはずだ。その気になれば『国だって落としてやる』と。出てこい、レミヤ」

この場に存在する『もう一人』の気配に向かい、言葉を掛ける。

すると、誰も座っていなかったはずの長机の席に、突然レミヤが座った状態で現れた。

あれは姿を消す魔法だろうか……?

「お見事です。シレント様が来る以上、希望した私が出席しない訳にはいきませんから」

「そうか。だが聞いた話によると、お前はここを発つのではなかったか?」

「はい、この会談が終わったらすぐにでも」

恐らく、彼女は彼女で暗部としての仕事があるのだろう。

戦争の前哨戦とも言える情報戦か、それとも単純に伝令かは分からないが。

「それで、もう一度問う。『何日がいい?』」

「……シレントとやら、私にはその質問の意図がわからないのだが」

「そうか、なら『何日で戦争を終わらせて欲しい?』」

俺の言葉に、コクリさんを含む全ての人間が息をのむ。

これはハッタリじゃないんだ。

「これはハッタリじゃない。もし、望むのであれば、宣戦布告前にあの国を落とすことも可能だ。だからもう一度問う『何日がいい?』」

可能なのだ。他の誰でもない、シレントだけならばそれが可能なのだ。

なにせ――

「最短で一日だ。一日であの国の中枢を破壊し尽くし、機能しなくさせる準備が俺にはある」

「それは、不可能だ。移動だけで一週間以上はかかる。無論、例外もいるが」

「はい。私ならば最短で四日でゴルダ城下町までは辿り着けます。ですが、国を落とすことは出来ません。シレント様、貴方はどのようにして国を落とすつもりなのですか?」

本来ならその通りだ。移動だけで、一日で堕とすなんて不可能だと分かる。

だが――『切り札』が俺にはある。

「……不思議だとは思わないか? 俺達の旅団において、セイムは決して最強ではない。なんならアイツと俺じゃあ天と地ほどの差がある。なのに何故――」

懐から、俺は『ソレ』を取り出して見せる。

「アイツにダンジョン踏破が出来て、俺に出来ないと思っている?」

俺は『ゴルダの北端にある天然の大ダンジョンのコア』を取り出して見せる。

夢丘の大森林の支配権すら持つであろう『グリムグラムの心臓コア』を。

「これがなんだか分かるか? ゴルダ領土の大ダンジョン夢丘の大森林のダンジョンコアだ。コイツを使えば、俺は一瞬であのダンジョンまで移動出来る。後は簡単だ。あの国のトップを潰し、国を機能させなくする。必要なら軍を皆殺しにしてやってもいい。どうだ? これが一日で戦争を終わらせる俺の策だ」

その気になれば、戦争すら起こさせない。

開戦前に国を滅ぼすことだって出来てしまうのだ。

が、きっとそれは『他国の手前、選べない手段』だろう。

だからこそ、宣戦布告と共に、開戦した後に俺が動くのだ。

「ま、待ってください。そのコアが本物だとは私には思えません」

「黙れ。今は戦争の話をしている、コアの真偽? それは俺が偽りを述べ、この国を騙そうとしているって意味になるが、どうする。戦時下の疑いは『敵国の間者を疑う』ってことだ。この国は敵対するのか? 俺と」

殺気と共に、コクリさんの疑問を一蹴する。

今はそんなことに時間は取られたくない、この選択の迫る勢いを殺されたくないのだ。

狂気に、そして可能性に狂って選択してくれ、女王。

俺に命じるんだ、国を亡ぼせと。戦争を最短で終わらせろと。

「っ! ……失礼しました、口が過ぎました」

「構わん。俺も久々の戦争で高揚している。決断しろ女王、お前が望むなら……宣戦布告と同時に国へと跳び、そのまま落としてきてやる」

「……それは、あまりにも戦果が大きすぎる。其方に私は、何を差し出せば良いのだ。戦争を最短で終わらせる……もしもそれが可能ならば、どれだけ無駄な血が流れずに済むか。我が民も、ゴルドの民も、失われるものが少なく済むのなら、どれほど良いことか」

……そうだ。戦争なんて本当は起きない方が一番良いに決まっている。

が、もう引き返せないのだ。起こさない訳にはいかないのだ。

宣戦布告をしないなんて選択はもう出来ないのだ。

国内の貴族だけじゃない、他大陸の人間だって今の情勢を知らないはずはない。

ここで戦う意思を見せなければ、第二第三のゴルダのような国だって現れるかもしれないのだ。

早い話『舐められたら終わり』なんだ、戦争も、国の運営も。

「俺の望みは、夢丘の大森林をそのまま俺の領土にすること、それとゴルダ上層部の生殺与奪の権利を全て俺に与えることだ」

「な……! だが、それはもはや要求ですらないではないのか? 全て其方の匙加減ではないか」

「確かにそうだな。既にコアは俺のものであり、国を落とすのも俺である以上、生かすも殺すも俺次第だ。だが、俺は正式にゴルダの上層部を生け捕りにし、この国に捕らえた後に――すべきことをして人知れず皆殺しにする。俺には俺の目的があってこの戦争に参加する。その手伝いをしてもらうのが、俺が最短で戦争を終わらせる条件だ」

聞かねばなるまい。何故『銀狐族の里を生贄にしたのか』を。

ただ都合が良かったから……とは思えないのだ。

何者かが、ゴルダにダンジョンや異世界召喚の知識を与えていたのですないか?

その何者かが、メルトを始めとした銀狐族を邪魔に思ったのではないか?

俺は、この戦争でそれを確かめたいんだ。

なによりも――メルトに、決着を自分でつけたいか否かを問う為に必要なことなんだ。

「要求を飲むのなら、最善の結果をもたらすと約束する。だが、宣戦布告をした瞬間、もしかすれば既にこの国に入り込んでいた勢力が動き出すかもしれない。向こうも既に開戦の準備を始めているのかもしれない。だから宣戦布告をどのタイミングでするかが重要になってくる」

「……そう、だな。完全なる無血終戦とはいかぬのだろうな。……建国祭は新年祭と同時に行うのが我が国の通例だ。だが、その前には戦争を終結させたい。シレント、今は一二月三日だ。私は……一〇日に宣戦布告をする。そのタイミングで動くことは出来るか?」

「可能だ。その日にちにした意味は?」

一〇日、それは早くも遅くもない、何かしらの下準備に必要な時間なのだろうか。

「ゴルダ国内にある冒険者ギルドに働きかけ、秘密裏に所属する冒険者を国境付近に集結させます。旧街道、以前魔物の討伐に向かった山脈へと向かわせる予定です。我々は、ゴルダの国民に無駄な血は流させたくありません。ですがあの国の冒険者は、戦時下においては徴兵されることになっています。それを未然に防ぐ為の工作が必要なのです」

「なるほど。そして同時に、こちらからも多数の冒険者を国境に配備、俺が国を落としたと分かるや否や、完全に王都を掌握する腹積もりか」

「さすが、ご明察です。……シレント様、ゴルダには強力な手駒、我ら十三騎士のような者こそおりませんが、豊富な備蓄と兵器、そして圧倒的多数の兵を抱えています。それらを本当に一人で抑えられるのですか?」

「蟻の軍勢を恐れる人間がどこにいる。何千何万だろうが踏み潰し、すり潰すのみだ。たとえそこに……異世界の勇者がいようともな」

もう、あの二人を生かすつもりはない。

殺すさ、しっかりと『完全なる決着をつける形』で。

「では、決行は一〇日だな。約束は忘れるな、女王。それと、念の為しっかりと軍は開戦に備えて展開しておくことだ。どこに目があるか分からないからな」

「ああ。その日までに書状をゴルダに送り、各国にも通達しておくつもりだ。無論、国境への軍の配備もしておくつもりだ」

「なるほど? 察するにレミヤはその為にゴルダに潜入するのか」

「その予定です」

「そうか。気を付けろよ」

「! お気遣い、感謝致しますシレント様」

四日でゴルダに潜入……つまり七日には向こうにいるのか。

そこで冒険者に働きかけ、一〇日には向こうの城に書状を届ける……と。

こいつ、その後どうやって抜け出すんだ?

「レミヤ、ゴルダからはどうやって抜け出すつもりだ。さすがに戦争準備中に国境に逃げるのはお前も難しいのではないか?」

「問題ありません。あちらの冒険者ギルドで『元同僚』が働いていますから。その方と二人、この国に無事に脱出してきます」

「そうか」

まだ、凄腕がギルドには隠れていたのか。

つくづく層が厚いな、この国は。

「では俺は戻らせてもらう。セイムの家を借りている、何かあれば訪ねるといい」

「分かった。では……この国の行く末の一部、其方に託そう、シレントよ」

「今更言うのもなんだが、よく初対面の俺に頼る気になれたな」

「……疑えぬよ。其方の成し遂げてきたこと、そしてセイムの言葉を信じた以上」

「そうかい」

これもまた、セイムで築き上げてきた信頼によるところが大きいんだろうな。

……戦争は、俺が終わらせる。国の為でもあるが、何よりも俺の為、そして……メルトの為に。

すっかり星が空を埋め尽くす頃、王宮を出た俺はなんとなく、ゆっくりと歩いて自宅を目指す。

静寂の森。夜の闇を恐ろしいとは、シレントでいる時はやはり感じない。

それはきっと、シレントの記憶が、経験が、この身体と意識に染みついているからなのだろう。

……ゲームのストーリーを思い出す。だがそれは、あくまでシレントの回想という形で。

「……そりゃ、高揚もするわな」

祖国を守る戦いで敗れ、生き残る。

復讐を誓い、仇国を攻める傭兵団に身を置き、本懐を果たす。

傭兵団が、次の戦場で壊滅する。

それは自分達が滅ぼした国の生き残りの騎士団の手によるもの。

無常だと、だが因果応報だと、死を覚悟した中で思った。

それでも死ねなかった。シレントは、プレイヤーは、物語における主人公であったから。

幸福な結末なんて用意されている訳ではないけれど、それでも戦い続ける道を選ぶんだ。

『傭兵/戦士』に背負わされたストーリーは、そこで終わる。

ただ戦いを求め、彷徨う戦士としての道を歩み始めるところで、物語は一時完結するのだ。

「……だったら、その先の幸福を俺が勝手に付け足しても良いよな」

再び、国の為に戦う喜びを。戦場で血に狂う熱狂を。

寂しさを、孤独さを埋めてくれるような戦場と、出会いを、与えようじゃないか。

「……なんてな」

星が、澄んだ空気の向こうで冷たく輝く下、夜の林道を一人歩き続ける。

そっか。この世界の新年はもうすぐそこ、なんだもんな。

めでたい知らせで、終わらせたいよな。

「……レミヤ、用事があるなら出てこい」

「……やはり気が付かれましたか。これより、私は森を抜け北に向かいます」

「そうだったな」

「……どうか、ご無事で」

「そちらもな」

それだけの短い言葉を交わすと、今度こそレミヤの気配が消える。

……なんでシレントは気が付けるんだ? 俺の意識は気が付いていなかったのに、脳裏に『いる』という直感が駆け巡るのだ。

これがシレントの気持ち、経験から来る力なんだろうな。

「さてと……メルトに色々言わないといけないな」

きっと、彼女も選び取れるはずだ。

過去との決別、決着をつける道を――