軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百八話

「ああ……本当に……これで……ついに……」

すぐ隣にいた女王が、膝の力が抜けてしまったのか、崩れ落ちるように床に座り込む。

そんな彼女に、コクリさんとクレスさん、シュリスさんが駆け寄る。

「ようやく……ようやくだ……これで……民が、国が救われる……! コクリ、お前だけに重圧を背負わせる必要もなくなるのだな……!」

「女王陛下……! さぁ、立ってください。民の前ですよ」

「そうであったな……セイムもメルトも、私が守るべき民であったな……」

泣き出す寸前のような、震える弱々しい声と共に、三人の臣下に支えられ、彼女はソファに座らせられる。

そこにいるのは女王ではなく、ただ一人の、あまりにも重すぎる重圧と責任に疲れ果てた、一人の女性の姿だった。

「女王様、これ飲んで。美味しいよ、落ち着くわよ?」

「ん、そうか。感謝するぞメルト」

あ、こら。そんな状態の人にキンキンに冷えたコーラなんて渡すんじゃありません。

黒い見慣れない液体、だが香りがお気に召したのか、女王は一口だけ口を付け――

「む……確かに美味だ。頭がスッキリする」

「でしょー? 女王様、きっと疲れているのよ。ここで座ってコーラ飲んで、一休みすると良いと思うわ」

「そうだな……ああ、今だけは……そうしよう」

どこまで、今の状況が切迫したものなのか、彼女は理解していないのかもしれない。

けれども、純粋な、、ただ人を心配するだけのメルトの言葉は、女王にもしっかりと届いた様子。

そんな彼女達の様子に、騎士姉妹も笑顔を浮かべるのだった。

「ふぅ……セイムよ。本当に、本当に感謝する。これは、国民全員を代表しての言葉と受け取って欲しい」

「……勿体ないお言葉です。ですが、しかと受け止めました」

大陸の南半分、つまりレンディア全土の気候が人に寄り添うものに変化していく。

作物の生育速度も上がるという話だが、そちらについては実際に見てみないと分からない。

だが、リンドブルム周辺以外は、既に寒村に近い状況に陥っていたという。

それら全てが改善されるのなら……その効果は計り知れないだろう。

……今は、ここまでにしておこうか。

「コクリさん、人工ダンジョンのコアについては後日で良いですか。一度に沢山使うのはなんでだか心配です。変化の規模が大きすぎる可能性もありますから」

「そうですね……確かに前例がありません。どの道、人工ダンジョンの再開には少々時間が掛かる見通しでしたからね、事故が起きていたので。そちらのコアについては『情勢が落ち着いてから』で問題ありませんよ」

その『情勢が落ち着いてから』という言葉は、今この場においては『戦争が終結したら』という意味なんだろうな。

「さて……皆さん、では俺は約束通り、シレントをこちらに派遣します。ですが――」

さぁ、切り札を切ろう。

とっておきの、切り札を切ろう。

「シレントは、恐らく『最短で戦争を終結させる為の策』を提示するでしょう。それを受け入れろとは言いません。ですが――あの男が言う言葉に嘘偽りだけはありません。それだけ、覚えておいてください」

「其方達の旅団の最高戦力……という話だったな。それほどまでの男なのか、その者は」

「女王陛下。私は一度だけ、その者と直接話をしたことがあります。それなりに密接な、腹を割った話を――話を……その、したのですが、確かに底知れないものを感じる男でした」

すると、シュリスさんが途中で言葉に困るような様子を見せつつも、シレントをそう評した。

……思い出したんですね……一緒にお風呂に入ったことを。大変眼福でした……。

「……分かった。では、頼む。その者を連れて来てもらいたい」

「はい。どうしますか、早ければ今日の夜にはこちらに到着しますが、すぐに城に向かわせましょうか?」

「……そうだな、今はもうすでに戦時下と言っても差し支えないであろう。一刻を争うと判断する。到着し次第、城に向かうように伝えて欲しい」

「ふむ、セイムさんと一緒に来たら良いのではないかな? 話も通しやすいだろうし」

あ、それは無理です。

「いえ、シレントが抜ける以上、俺はまた少し旅団に留まりますよ。まとめ役が一人はいないと、シズマも苦労するでしょうから」

「む、そうかシズマは向こうでも頑張っているのだな。セイムよ、ならばシズマを助けてやってくれ。あれはまだ若いが……努力家だと私は思った。無理をさせないでくれ」

「ほほう、我が妹はそんなにシズマくんとやらがお気に召したんだね? 一度会ってみたいものだよ」

「姉上、からかわないで頂きたい。シズマは実際、まだ若いのです。しかしその考え方も思考も、よき師に巡り合ったのでしょう、とても大人びている。本当に惜しい人材なのです」

「ふむ……そうなのかい? セイムさんから見ても彼はそんな逸材なのかな?」

……よき師、か。そうだよな、俺には『セイム』『シレント』『シーレ』を始めとした、沢山の師匠とも呼べる仲間がいるんだもんな。

「ええ、シズマは皆の教えを受け、成長をしています。いずれは……俺も、シレントも、みんなを超える逸材だと思っていますよ」

これは誓いだ。いつか、越えて見せるという、自分への誓いだ。

「では、俺はシレントを呼びに行ってきます。メルト、俺はしばらく戻ってこないと思う。そしてシレントも……少しリンドブルムから離れることになると思うんだ。留守を任せても大丈夫かい?」

「そっか、シレントが来るんだ。うん、分かった。じゃあ一度だけ、シレントに家に寄るように伝えてくれるかしら?」

それは、つまり一度話したいと言うメルトからの誘いだ。

俺が、戦争にメルトを参加させないことを決めたのに、俺だけがシレントとして関わることに、言いたいことがあるのだろう。

「女王陛下。それに皆さん。先程俺が言った言葉を忘れないでください。……そして、こと戦においては……シレントは間違いなく最強です。もし、彼がなんらかの策を立案しても、それを断り、ただの戦力として投入するにしても……その力は絶大でしょう。俺とは違う、彼は戦場でこそ輝く人間ですから」

「承知した。セイム、お前程の男がそこまで言う者ならば、私も慎重にその者の策を検討すると誓おう」

「感謝します。では……私はこれで失礼しますが、もし時間があるのでしたら、もう少しだけゆっくりしていってください。飲み物もお菓子も用意していますので」

「ふふ、そうだな。コレもなかなかの美味だ。もう少しだけ……今だけはもう少しだけ、ここにいさせてもらう。……懐かしいものだ。幼少の頃、時折私もこの家に遊びに来ていたからな……」

「そうでしたね、女王陛下。……懐かしいですね」

……そうか。きっと、ここの元の主もまた、コクリさんのように女王からの信頼が厚かった人なのだろうな。

そうして俺は、シュリスさんとクレスさんにも別れを告げ――今回は北門からリンドブルムを発つのだった――

北門から少し離れた場所、街道からも少し外れた森の一角が、大きく破壊された跡を見かけた。

恐らく、そこがアンダーサイドでの爆発により生じた大穴で、イサカやイナミの逃走経路なのだろうとあたりを付ける。

なら、やはり二人はゴルダに帰還したのだろう。

確かまだ、焦土の渓谷は休眠期間に入ったまま、通り抜けは出来ないはずだが……。

「いや、もしかして今俺がコアを返還したことで変化が生まれたのか……?」

今すぐには確認に向かえないが、いずれ確認しないとな。

あそこを通り抜けられるようになったら、いよいよ両国を隔てる壁がなくなってしまうのだから。

「……ダンジョンコアの操作メニューの内容からしても、間違いなくいけるだろうな……」

最速で戦争終わらせる為に、俺は街道をひた進み、人気のない森に入っていくのだった――

「……意識に問題なし。人格も……俺だ」

シレントの姿になり、自分の意識を確認する。

シーレが、消えた影響が他にも出ている可能性を考えて。

俺の、シズマの成長が他のキャラクターに与えた影響も考えて。

……以前よりも、少しシレントの気持ちが、考えが理解出来るようになった気がした。

今確実に、シレントが燃えているのが伝わってくる。

「戦だ……戦争だ。戦争が俺を呼んでいるってヤツ、だな」

尤も、大規模な戦火が広がる前に決着をつけるべく、俺は切り札を切るつもりだが。

「……戻るか、リンドブルムへ」

北の街道を悠然と進む。

この街道は本来、ゴルダとの国境に続く街道であるため、平時はそれなりに人が行きかう場所だったのだろう。

だが、俺が初めてこの国に来た時にはもう、国境付近には神公国の騎士団が展開していた。

表向きは『ダンジョンから逃げ出してきた魔物やならず者に対処する為』という話だったが、今にして思えば、既にその頃からゴルダを警戒していたのだろう。

もしくは、大々的に焦土の渓谷を攻略する腹積もりだったのか。

「……急ぐか」

セイムやシズマほどの速度は出ない。本来なら。

ただの一般的な高速移動しか使えないのだから。

が、この世界はステータスが反映される以上……セイムの三倍近いステータスを持つシレントで全力で走れば――

「……一時間ちょいか」

大体、セイムで二時間程かけて移動した距離を引き返す。

そうして、悠然と北門へと向かうのだった。

「止まってください。現在、北門から街中へ入る際は手続きが必要になっています。身分証を提示してください」

何気に初めて間近で見る北門の門番は、意外なことに二人とも女性の兵士だった。

そうかそうか……しっかり女性も活躍出来る職場なんだな……! そういえば、以前俺が隊を率いた時も、元神公国に所属していた弓使いの女性がいたな。

「冒険者ギルドの登録タグだ」

「確認いたします。……蒼玉!? 失礼いたしました!」

「え? 蒼玉の冒険者って、三人しかいませんよね? こんな人いましたっけ?」

「は!? 貴方! これ偽造品ですね!? 人数の少ない蒼玉に偽造なんて詰めが甘いですよ!」

え!? 嘘、こういうパターンもあるの!?

俺はこの女門番に捕まり、そのまま兵士の詰め所に連行されるのだった。

……全力で抵抗して強引に突破しても良いが、これから城に行く人間がやることじゃないよなぁ。

恐らく冒険者ギルドから人が来るだろうし、それまで大人しくしておくかな。

この門番さん……たぶん処分が下されるんだろうなぁ、可哀そうに。

「一応忠告しておくが、冒険者ギルドに問い合わせれば一瞬で身元がはっきりするぞ。今なら勘違いってことで水に流しても良いが」

「いいえ! 私、元冒険者だから蒼玉ランクの人は把握しているんですからね!」

「ですよね。そんな大きな功績を上げた冒険者なんて最近聞きませんし……」

そうか、割と内密な任務で稼いだ功績でランクアップしたもんなぁ俺。

「ギルドの職員が来るまで、この牢に入っていてください! 武器は没収で――ぐぎゃ」

「大丈夫ですか先輩! く……こんな重い大剣……なんて危険な!」

……なんか、東西南北の門番の中で、この子達が一番がっかり感が漂うなぁ……。

少しすると、総合ギルドの冒険者ギルド受付の職員がやって来た。

む、見覚えがあるな。確かシレントでも顔を会わせたことのある、メルトの冒険者登録を受け付けてくれたお姉さんだ。

「ヒッ!!! シレント様!?!?!? 貴女達! なんということをしてくれたのですか! この方は正真正銘、蒼玉ランクの冒険者です! 今、自分達が生きていることに感謝してください! このことはしっかりと神公国側に抗議しますからね!!!」

「いや、良い。事を荒立てるな。俺が表に知れ渡っていないのも無理からぬことだ」

「しかしシレント様……」

「これから王宮に用事があるのでな、あまり騒ぎ立てられると俺が困る」

「ヒッ! まさか……直接……殴り込みに……」

違います!

「さて、ではこれで失礼する。武器を返してもらうぞ」

ただ、少しだけ不満だったので、ちょっとだけ威圧します。

手枷を力を籠めるだけで粉砕して見せる。

そして剣を受け取り、牢を後にした。

「……じゃあな」

……まぁ貴重な体験が出来たってことで良いのかね。

門って、結構しっかり中に施設が詰まってるんだな……。

もしかして街壁って内部に普通に空間とかあるのだろうか?

そうして街の中を通過し、南門から外に出る。

もちろん、王宮に続く道である以上、門番はしっかりとここの出入りには気を配っている。

特に、今は人工ダンジョンも閉鎖され、本来ならこの先に向かう人間はほぼいないはずだ。

……分かってる、勿論分かっている。俺が事あるごとに門番に止められるのは、この容姿によるところが大きいのだと。

「という訳でこれが身分証だ」

「は。確認が取れました。お通り下さい」

さっきの件が門番同士で共有されているのだろうか?

近距離の有線通信なら既に実用化されているようだし。

……電波的なものって魔法で再現出来ないのかね?

「……先にメルトに会いにいくべきか、王宮が先か……王宮だな、どの道後で家に戻る必要があるんだし」

あれから時間も経っているのだし、さすがに女王も他の人間も王宮に戻っているはずだよな。

……さすがにまだ家でコーラ飲んでたりする訳ないよな……? な?

若干の心配を余所に、王宮で俺を待っていた門番は、すぐに王宮内に俺を通してくれた。

午前中と同じ、会議室の前まで案内されるも、今回は特に注意されることもなかった。

つまり、この中には最低限の人員しかいないって訳だ。

……さて、ではシレントとしては初めての邂逅となる女王陛下。

少々……刺激の強い会談と参りましょうか。