軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第082話~一方その頃~

はい、皆様こんにちは。解放軍の良心、コースケでございます。

いや、あれだけ爆弾だのなんだの作って良心は厳しいか、うん。寧ろ解放軍の黒幕とか聖王国の厄災とかのほうが実情に即しているかもしれない。

さて、今の俺は一体どういう状況なのか? と申しますと。

「ぐむっ!? むぅぅぅぅ!」

痛い! 何のサスペンションもない馬車の床に直置きはやめろ!

はい、両手を後ろ手に拘束され、目隠しの上に猿轡まで噛まされて恐らく馬車に乗っています。それも床に直置き。横になっている状態で。しかもなんか狭いんだよ。箱の中にでも入れられてるのか?

もうね、馬車がガタンッ、ゴトンッてなる度に床に殴られているような状態ですよ。めっちゃ痛い。新手の拷問かな? こうしてみると尻の肉ってのは優秀なクッションなんだなって思うよ。

何故こんな状況に陥っているのか? 俺が覚えているのはキュービにぶん殴られて絞め落とされたところまでだ。その後は気がついたらこの状況だったね。

「起きたようだぞ」

俺の呻き声が聞こえたのか、くぐもった声が聞こえてくる。やはり俺は箱か何かの中に入れられているようだ。

「もう少しで着く。そのままにしときな」

この声はキュービだな。この野郎、覚えておけよお前。どんな手を使ってでもてめーは絶対にぶっ殺す。絶対にだ。

俺だって馬鹿じゃない。キュービの行動原理はよくわからんが、今の俺がどういう状況なのかというのは察しが付く。恐らく、キュービは俺達を裏切ったんだろう。アーリヒブルグを落としたこの状況でキュービが造反する理由はわからないが、俺を売る先なんてのは容易に想像がつく。聖王国だろう。それ以外にはありえない。

「んえーっ! んっおおおお!」

「何言ってるかわかんねぇけど怒ってるのはわかるねぇ。怖い怖い」

てめーぶっころしてやる! って言ったつもりだけど猿轡さんは仕事をしすぎである。汚い喘ぎ声か何かにしか聞こえねぇだろうなぁ! 畜生め。

体力を無駄に消耗しても仕方ないので、衝撃に耐えながら静かにしておく。騒いでキュービに煽られるのも業腹だし、何より非生産的すぎる。この状況を打破する方法を考えたほうがまだ有益だ。

とりあえず、目隠しに関してはインベントリにしまい込むことで無効化できそうである。目に見えさえすればメニューを出して収納することは可能だ。恐らく、俺が入っているであろうこの箱も同じように収納できるだろう。

ただ、後ろ手に俺を縛っている縄に関しては目に見えないせいかどうにもできそうにない。足も拘束されているようだが、そっちは視界に入れられるだろうし拘束している縄そのものをインベントリに入れて拘束を解くのはできそうだな。

などと脱走計画を練っていると、馬車が一旦停止した後に振動の性質が変わった。ガタンゴトンと大きな振動をすることが無くなり、ガララララララと快調に動いているのがわかる。伝わってくる振動も非常に小刻みなものだ。これは、石畳を走っているのか?

その後も馬車は石畳と思われる場所を走り続け、何度か停止し、また走った。俺の脳裏に嫌な予感が過ってくる。アーリヒブルグ周辺にこんな広大な石畳を持つ都市などあっただろうか?

馬車の速度がどれくらい出ているかわからないが、振動の質が変わってから結構な時間を走っていると思う。アーリヒブルグなら端から端まで走っていそうな距離だ。なのに、まだ止まる気配がない。これ、随分広いな?

アーリヒブルグから程々に近い場所で聖王国軍の勢力下にあり、これだけの広さを持ちそうな都市など一つしか無い。ここは、メリナード王国の首都、メリネスブルグではなかろうか?

だが、そうだとすると時間が合わない。メリネスブルグまでは馬車でも一週間はかかる距離のはずだ。俺がどれくらいの時間気絶していたのかはわからないが、流石に一週間以上ということはありえないだろう。

となると、俺というかこの馬車はどうやってその距離を走り抜けたのだろうか? いや、待てよ? 考えてみればこの馬車も妙だ。解放軍が使う馬車は全部改良してサスペンションをつけたはずだ。サスペンションをつけたものにしては、この馬車は振動が酷い。

気絶させた俺を運ぶ際に軍のものじゃなく、民間の馬車を使ったのか? いや、アーリヒブルグを出入りする民間の馬車のチェックはかなり厳しいとシルフィが言っていた。荷物は全て検められると言う話だったはず。箱詰めされた俺が見逃されることは無いはずだ。

軍の馬車ならチェックも緩いはず……いや、馬車を使わずに何らかの方法でこっそり抜けたのか? いやいや、防壁は完璧に修復したし、防壁の警備はかなり厳しい。気絶した俺を抱えたままどうにか抜けるってのはいくらなんでも非現実的だ。

恐らく、気絶させられた俺はキュービに攫われ、軍の馬車を使って外に運び出された。その後何らかの特殊な方法でメリネスブルグまで運ばれた? どこかのタイミングで馬車を載せ替えられて? うーん、よくわからんな。考えるだけ無駄だろうか。

とにかく、シルフィ達に即座に救われるという可能性は低そうだ。ここがどこであるにせよ、馬車程度でハーピィの追跡から逃れられる筈がない。キュービは落ち着いた声音だったし、他の音を聞く限りでもこの馬車が何かに追われて急いでいるという雰囲気は感じられない。ここが彼らにとって安全圏なのであろうということは容易に想像がつく。

つまり、俺はほぼ身一つで敵地のど真ん中に居る可能性が非常に高いというわけだ。ついでに言えば、インベントリの中身は出したら傷むであろう生鮮食料品と俺のごく個人的な持ち物を覗いて排出済みときた。

いや、俺にも言い訳をさせてくれ。確かにインベントリの中身を全部出して並べるなんて迂闊ムーブではあった。でも、自分でも把握しきれないほどの資材を並べてみたらどれくらい壮観なものなのか、見てみたいという感情があったんだよ。

そもそも、アーリヒブルグは完全に安全圏だと思っていたし、キュービが裏切るなんてことは考えもしていなかった。裏切るその瞬間まで俺はキュービを仲間だと思っていたんだ。脛に傷を持つような出自なんだろうな、とは思っていたがまさか聖王国と繋がっているとは夢にも思わなんだ。

このコースケの目を以ってしても……! はい、すみません黙ります。

何故こんなに落ち着いているのかって? そりゃすぐに殺されることはないだろうと思っているからだ。もし俺を殺すのが目的だったならキュービはとっくに仕事を終えていたはずだからな。ナイフで後ろから刺しても良かっただろうし、なんならあのまま俺を絞め殺すことだって、首の骨をへし折ることだってできたはずだ。

だが、現実にそういうことは一切なく、今は箱詰めされた芋か何かのようにどこかに運ばれている。運ばれる先が処刑台である可能性もあるけど、俺を処刑して晒し物にするためだけに解放軍の奥深く、上層部と言える地位にまで食い込んでいたキュービの立場を使い捨てるだろうか?

うーん、俺を無残に殺して遺体を解放軍の眼前に掲げたら解放軍の士気は地に落ちるかもしれないか。

落ちるか? なんかシルフィとかアイラとかハーピィさん達とか逆上してとんでもないことになりそうな気がするんだが。それで結果を出せるかどうかは別として、俺がアーリヒブルグに置いてきた各種武器を限界まで使ってキュービと俺の殺害を計画したやつだけはなんとしてもぶち殺しそうだな。

でもまぁ、俺の能力を知った上で拉致したっていうならなんとか俺を懐柔するなり、服従させるなりして俺の力を利用しようとするだろうな。

聖王国になんて、絶対に負けない!

☆★☆

「で、こうなると」

俺は独房のような狭い部屋の中でポツリと呟いた。

あの後、馬車は目的地へと辿り着いたようで俺は出荷される芋袋か何かのように屈強な男に担がれ、目隠しと猿轡と拘束を解かれ、それどころか衣服すら全て剥ぎ取られた。

震え上がりました。はい。

幸いなことに腐臭のする薄い本のような展開にはならず、薄っぺらい囚人服のようなものを着せられ、手足に鉄製の枷を嵌められ、足枷には鉄球付きの鎖までつけられてこの独房のような場所に放り込まれたわけだ。

いや、ようなっていうかこれ独房ですわ。間違いなく。

ただ、この独房は狭めではあるがそんなに悪くない部屋であるように思う。木製のベッドもあるし、部屋の端には水洗式らしきトイレもある。水の入った水瓶も設置されているようだ。ただ、少しだけ石壁は老朽化しているようで、補修の跡が見られるな。

「ふむ……」

天井近くの少し高い場所にある鉄格子の嵌った窓のような場所から光が差し込んできている。半地下の独房というわけだ。今回は手枷が前にあるので、やろうと思えばこの拘束から逃れることは容易だ。今すぐに逃げ出す算段をつけても良いのだが、どうしたものかな。

敵の狙いがわからないし、もしここがメリネスブルグだというのであればシルフィの家族……つまり、メリナード王国の王族達の行方を知る手がかりがある可能性もある。もしかしたら本人がいるかもしれない。

それに、聖王国が俺を誘拐して何をしようとしているのか、というところにも興味がある。できることなら狙いを把握しておきたい。

ただ、ここですぐに逃げないと取り返しのつかない事態に陥る可能性もある。すぐに処刑されるかもしれないし、何か不思議な魔法のようなもので洗脳されるかもしれない。奴隷の首輪が効かない俺にそういったものが効くのかどうかは知らんが。

あと、単純に拷問の類で屈服させられる可能性だってある。

俺はただの一般人だ。専門の拷問官に拷問されたりしたらすぐに屈服させられてしまうだろう。

俺は自分がどんな痛みにも耐える精神的な強さを持つ人間だとは思っていない。繰り返し苦痛を味わわせられてしまえば、じきに俺の心は折れてしまうだろうな。

拷問に耐えられないなんて心弱いなぁとか思う? そう思うなら本物の拷問というものが一体どういうものなのか調べてみればいい。俺は調べた。そして無理だと思った。無理無理。

嫌な未来を考えるのはよしておこう、うん。現実になったら困るし。

脱出のプランを考えようじゃないか。まず、枷については何の問題もない。どうにでもなる。次に、牢を破る方法だが……これもどうにかなりなそう。木製のベッドと毛布、そして補修された壊れかけの石壁。これらの要素を考えるに、石斧くらいはなんとか作れそうだ。

石斧は万能ツール。木を切るだけでなく、石壁や石床の破壊だってできないことはないのだ。トイレは水洗式のようだし、下水道に逃げられるんじゃないかな? 空けた穴を砕いた石壁や石床の素材でブロックを作って塞いでおけば逃げる時間は稼げるだろう。下水道に逃げ込めば、あとはなんとかなる。そう信じたい。

さーて、どうするか? このまま様子を見るか、早速脱獄するか……悩みどころだな。