軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第081話~困惑と捜索~

Side:シルフィ

「まだ見つからないのか……」

卓上で握り締めた拳に力が籠もる。痛みも忘れて握り締めていた拳にそっと手が添えられ、撫でられた。

「落ち着いて」

アイラが大きな瞳を私に向け、静かに見つめてくる。そうだな、私が落ち着かなくては見つかるものも見つからないかもしれない。深呼吸をする。

事の発端は昼前。奇妙な報告が司令部に上がってきたことだった。

『西の空き地に大量の資材や物資が放置されている。対応の指示を乞う』

という内容だ。実際にその資材量は膨大なもので、建材に使うようなものから保存食の類、武器、矢玉、よくわからないものなど実に大量の物資だった。恐らく、そこにあるものを見て報告者も容易に連想したのであろう、コースケの事を。

一応、コースケの能力とその存在については機密扱いということになってはいるが、黒き森のエルフの里からこっち、コースケは非常に目立っていた。

その能力について、解放軍内で知らぬものはほぼ居ないと言って良いだろう。私やアイラ、ハーピィ達との関係も含めて公然の秘密という扱いだ。今更緘口令を敷いても意味がなかったというわけだ。

話を戻そう。とりあえず物資に関しては住人などによる略奪などが起きる前に確保することができた。本来使う予定のなかった倉庫や空き家まで使うことになったが。

問題は、この物資の出処である。物資の中にはミスリルで作られたつるはしやシャベル、伐採斧などもあった。どう見てもコースケの使っていたものだ。しかも、私やアイラが見たことのない武器のようなものまで多数見受けられた。恐らくコースケが試作し、何らかの理由で秘匿していたものなのだろう。

『コースケが少し話していた機関銃というものだと思う』

アイラは正体不明の武器のようなものを検分し、そう言った。確かにコースケは機関銃というものについて少し話していたな。物凄い速度で銃弾を放つことができる強力な武器だとか。ただ、弾薬の消費が激しくて現段階では実戦投入は無理だと。

その他にも銃と似たような形だがとても大きいもの、銃と似たような造形をしているが、銃口がなく、先端が膨らんでいるものなど武器らしいということがわかっても使い方や威力がはっきりしないものも多数。

これだけの種類のものを誰にも言わず秘匿しているあたり、やはりコースケはお気楽そうに見えて強かな性格をしているなと再確認させられたものだ。

とにかく、結論から言うとコースケはインベントリの中身と思われるものを全て西の空き地に吐き出して忽然と消えてしまったのだった。

最初に私の脳裏に過ったのは、役目を終えたコースケが元の世界に戻ってしまったのではないか? ということだった。解放軍がアーリヒブルグまでを確保し、またコースケによって大量の宝石……つまり精霊石の原料を得た現状、エルフの里はほぼ安泰と言って良い。

コースケは黒き森のエルフの里に危機が訪れる、というタイミングでこの世界に現れた。エルフの里に迫っていた危機が回避されたと判断され、コースケをこの世界に喚んだ精霊か何か……大いなる存在がコースケを元の世界に戻したのでは? あの大量の資材はその際に空き地に放り出されたのでは? と思ったのだ。

だが、アイラは私の考えを即座に否定した。

『それにしては置いてあるものが奇妙。コースケは生鮮食料品や作り置きの料理もインベントリに入れていたはず。そういうものが一切見当たらないのはおかしい』

確かに。全てのものがコースケのインベントリから排出されたのだとすれば、そういったものが見当たらないのはおかしい。それに、コースケが大事にしていたハーピィ達の羽も見当たらない。

『作為を感じる。それに、彼も見当たらない』

そう。護衛としてコースケの側に付いていたはずの男、キュービもコースケと共に姿を消していた。

アーリヒブルグの街の制圧はほぼ終わっている。念の為まだ警戒は続けているものの、市内に限って言えば安全はほぼ確立されたと思って良い状態だ。安全圏と言っても良い。

治安維持のため警邏も密に行なっているし、経済活動も再開した。それでも一人歩きをさせるのは不用心だと思い、キュービを護衛に付けたのだ。

実際のところ、独りで出歩いて何かに襲われてもコースケを害すのは簡単なことではないと思うのだが……要人には違いないからな、コースケは。

だが、そのキュービごと姿を消しているというのは奇妙だ。

『キュービも一緒に何者かに連れ去られた?』

『それはないでしょう。奴は精鋭の斥候よりもそういった危険に敏感な男です』

今まで厳しい表情で押し黙っていたダナンが口を開いた。

『じゃあ、キュービは消えたコースケを追っている?』

『何の連絡もなしにか? あいつは目端が利く。そんなヘマは犯さないだろう。誰かにすぐに連絡をつけるはずだ』

『じゃあ、犯人はキュービということ』

アイラが突然とんでもないことを言い始めた。キュービが犯人? コースケを連れ去った?

『それはないだろう。キュービがそんなことをして何になるというんだ?』

『キュービは敵だったということ。味方のふりをしていた』

そう言うとアイラは目を瞑り、腕を組んで考え込んでしまった。アイラは頭が良くて天才肌なのは良いのだが、たまに過程を飛ばして突飛なことを言い始めることがある。ただ、だいたいそういう時はアイラの言うことが正しい。

考え込んでしまったアイラは暫く何も答えてくれないだろう。

『キュービは三年前の反乱を起こした時から行動を共にしているのだったな?』

『……はい、正確には反乱を起こす前、準備段階の時からです』

『それから反乱を経て、ほぼ準備なしでのオミット大荒野の強行軍を乗り越え、黒き森で雌伏の時を経て、今になって私達を裏切る……そんなことがあり得るのか?』

三年だ。ただ漫然と過ごした三年ではない。苦難に満ちた三年だったはずだ。その三年を、私達と共に力を合わせて乗り越えてきた。そのはずだ。

確かに、奴は掴みどころのないやつではあったが子供によく好かれる男だった。

誰とでも気さくに話せる男で、目端も利き、困りごとを先回りして見つけて解決するような男だった。出自についてはわからないことが多かったが、それはオミット大荒野の強行軍を生き延びてきた他の者達も同じことだった。

だから、私は彼を警戒などしていなかったのだ。

『馬車、発見できません……』

「わかった……引き続き捜索してくれ。ただし、あまり北側に深入りしないように。この上お前達の誰かが失われることは絶対に避けたい」

『……わかりました』

ゴーレム通信機から聞こえていたピルナの声が途切れる。

「おかしいな……いくら馬車とはいえハーピィ達の翼より早いということはあるまい」

コースケの捜索はキュービが裏切ったものと仮定して進められた。コースケのインベントリの中身が放出されていた理由や経緯もよくわからないが、キュービが犯人だとすればコースケの能力の弱体化を狙ったものだろうと予測できる。インベントリの中身を吐き出したコースケは少々気味が悪い動きができるだけのただの人間だ。

「西門から出た馬車が北に向かったのは確認できているのですが……」

ダナンが地図を見て唸る。

キュービが裏切った、と今の私達は殆ど確信を持ってコースケの捜索に当たっている。それというのも何故かと言うと、キュービの率いていた人間のみで構成された部下達もコースケやキュービと同様にその姿を消していたからだ。

彼らはアーリヒブルグの南西方向に進撃しているレオナールの部隊と合流するため、という偽造された異動命令書を使って馬車でアーリヒブルグから出発していた。

馬車をチェックした兵の話によると、馬車にはキュービも乗っていたらしい。コースケの姿はなかったが、行軍用の物資箱は積んでいたという。

キュービは解放軍の中で一目置かれてはいるが、特別な役職があるわけでもない。その時チェックした兵は特に疑問にも思わずに彼らを見送ったのだそうだ。

それはそうだろう。曲がりなりにも奴らは正規の解放軍兵士だし、命令書にも一見不審な点は何もない。書面は正式なものだし、しっかりと印も押されていた。内部犯行に対する防犯意識の薄さを突かれたわけだ。

問題は、そのような命令書は私もダナンもメルティも書いた覚えがないということだ。印を押すのは私の役目だが、私はそんな書類に印を押した覚えはないし、印章は肌身離さず持ち歩いている。

よく見れば押された印には微妙な違いがあったが、よほど疑ってかかっていないとこれを見分けるのは困難だっただろう。

そもそも、人や馬車の出入りを監視している兵の全員がちゃんとした門番としての訓練を受けているわけではないのだ。そこまで手が回っていないというのが現状である。今回起きた事件を考えると、今後は防諜にもしっかりと気をつけなければならない。

『馬車を発見しました! 北西の森の中です!』

その時のことだった。ゴーレム通信機からピルナの声がしてきたのだ。私とダナンは身を乗り出すが、アイラは少し大きな目を細めただけだった。

「森の中を走っているのか?」

『いえ、停車しています。馬も繋がれたままのようです』

「最寄りの部隊を誘導し、監視を続けろ。不用意に近づくな。敵はクロスボウやライフルで武装している可能性もある」

『了解』

通信が途切れる。

「どう思う?」

「停車させている理由ですか。馬車を捨て、森に身を隠しながら聖王国軍の勢力圏まで逃げる……というのはあまり現実的ではありません」

「そうだろうな」

森の中であろうともハーピィの目から逃れ続けるのは難しい。キュービ一人であればそれも可能かもしれないが、十数人の部隊がハーピィの索敵から逃れ続けるのは至難の業だ。

それなら馬を潰す勢いで全力で北上し、聖王国軍の勢力圏を目指すほうがまだ確実性が高い。

「多分、転移魔法。馬車はもぬけの殻」

「転移魔法だと?」

アイラに聞き返すと、彼女はコクリと頷いた。

「複数の人間を長距離転移させるのは不可能ではない。一人の空間魔法使いに十数人の魔力を集め、更に魔晶石などで補助をすればできる。もしかしたら、神代のアーティファクトを使った可能性もある」

「そんなものが使われたと?」

「コースケの重要性を知っていればそれくらいのことはしてもおかしくはない。コースケの力があればたった三〇〇人の亜人がここまで戦える。それを私達が証明している。帝国との戦が長引いている聖王国は力を欲しているはず」

キュービがどうやってそのようなものを用意したのか、という疑問点はあるが……沈黙が場を支配する。それを打ち破ったのはゴーレム通信機だった。

『報告! 目標の馬車はもぬけの殻です!』

「……そうか。周囲の探索を。しかし、そこは聖王国軍の勢力圏に近い。警戒を怠るな」

『……了解』

アイラの予想は当たり、馬車はもぬけの殻で周囲には徒歩で移動した痕跡は見つからなかった。まるで忽然とその場から消えてしまったかのようだ。恐らく、その通りなのだろう。

「コースケ……」

「大丈夫、とりあえずすぐには殺されたりはしない。そのつもりなら連れ去りなんてしないでその場で殺してる」

「それは……」

そうだろうが何を悠長なことを、と言おうとして言葉を失った。アイラの目が昏い光を帯びていたからだ。

「絶対に私が居場所を突き止める。そして報いを受けさせる」

「あ、ああ……私にもできることがあるはずだな」

「シルフィにも協力してもらう。コースケと一番の『縁』を持っているのはシルフィだから」

「わかった、私にできることならなんでも言って……ひぇっ」

グリンッ、とアイラがこちらに首を向け、昏い光を宿す瞳を向けてきた。

「何でもするって言った?」

「えっ……え? うん?」

軽率な事を言ったかな、と少しだけ後悔をした。一体何をさせられるのだろうか……?