軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第296話~ハーピィショック~

エレンとアマーリエさんの部屋が過ごしていたサロンを後にして城の中庭に移動すると、俺の護衛役のハーピィさんはすぐに見つかった。俺が中庭で手を振ると、それに気付いた護衛役のハーピィさんが翼状の腕を広げてひらりと中庭へと降りてくる。

「旦那さん、どうしたの?」

「ペッサー」

俺の目の前に降りてきたのは小鳥種の茶色ハーピィであるペッサーであった。甘えん坊の可愛らしい性格のハーピィさんで、黒き森を出た時からずっとハーピィ爆撃隊の一員でもある古株のハーピィさんだ。

「聞きたいことが、あるんだ」

「う、うん?」

思わず鬼気迫るような声が出てしまったせいか、ペッサーが引き気味である。しかし今はそんなことを気にしている場合ではない。

「ハーピィは短命種だから、人間と同じくらい子供ができやすいはずだよな?」

「う、うん。まぁ、人間同士よりは若干できにくいけど、エルフや単眼族に比べればずっとできやすいね」

「だよな。それで、俺はペッサー達と随分早い段階から仲良くしていたし、特に避妊とかもしていなかったと思うんだが、子供が出来たという報告を一度も聞いていないのはなんでだ?」

「えっ、教えたほうが良かった?」

「えっ」

「黒き森のエルフの里を出た時から一緒に居る子はもう全員産んでるよ。ボクももう一回産んでるし」

「聞いてないんですけど! 聞いてないんですけどッ!?」

「うえぇっ!? ご、ごめんなさい!?」

思わずペッサーの細い肩を掴んで叫ぶ。しかしペッサーが涙目で見上げてくるのですぐに頭が冷えた。落ち着け俺。落ち着くんだ。クールになれ。

「とりあえず、手が空いてて集合できる経産婦ハーピィさん達を集めてきてくれ。話が聞きたいから。もし今妊娠してるハーピィさんが居る場合は、無理しないように伝えておいてくれ。お腹の子供を最優先で」

「う、うん……で、でも護衛……」

「ここにいるから。ここから動かないから」

「わ、わかった」

ペッサーが中庭から飛び立ち、中庭を臨む王城の屋根の上にいる仲間達に声をかけてメリネスブルグ中に散っていく。俺はとりあえず中庭に大きなテーブルを用意し、適当な数の椅子を用意して席に着く。

「どうして……」

どうしてなんですかね……? いや、ハーピィさん達が集まってから聞けば良いことなんだけど、どうしてという感情しか浮かんでこない。知ってさえいれば色々と手を打てただろうに。ああ、生まれた子供達は無事なんだろうか? 病気や怪我はしてないんだろうか? ハーピィさん達の給料は安くはないというか、寧ろ兵の中では高給取りの筈だが、俺は父親と名乗るに相応しい甲斐性を彼女達に示していないように思う。生活は苦しかったりしないだろうか。心配だ。とても心配だ。

いや、考えてみたら今更なんだよな。ハーピィさん達が短命種だというのはずっと前から知っていた。気づこうと思えば気づけていた筈だ。妊娠したら教えてくれるだろうという俺の考えが甘かったのだろう、きっと。

と、テーブルに肘をついて頭を抱えながら独りで煩悶していると、ペッサーから連絡を受けたらしいハーピィさん達が続々と城の中庭に舞い降りてきた。

「えっと、旦那さん……?」

「ああ、うん。とりあえず適当に座ってくれ。椅子が足りなかったら言ってな」

「う、うん」

真っ先に降りてきたピルナにそう言ってインベントリからハーピィさん用の取っ手が二つ付いているカップを取り出し、冷たいお茶を注いでやる。結構暑くなってきたからな。そろそろ冷たいお茶が美味しい時期だ。

お茶を用意している間に他のハーピィさん達も集まってくる。碧羽ハーピィのフロンテ、橙羽ハーピィのフィッチ、漆黒羽ハーピィのレイ、茶色羽ハーピィのカプリ、フラメ、ペッサー、白羽大鳥種ハーピィのイーグレットや、茶褐色大鳥種ハーピィのエイジャ他、最終的に合計で十五人のハーピィさん達が集まってきた。

「ええと……ちょっと、ちょっと待ってくれ。ここに呼んだのは、俺の子供を産んだハーピィさん達なんだよな……?」

「うん、妊娠中とか子供の世話で来れない子が居るから全員じゃないけど」

「ああそう……まだ居るのね」

俺、種をばら撒き過ぎでは? いや、ハーピィさん達はそれはもう数の暴力と言って良いような状態でもみくちゃにしてくるから、正直に言うと誰が誰だかわかんないような状態になることも多いんだけどさ。ああ、頭が痛くなってきた。

「ええと、みんな俺の子供を産んでくれたんだよな……?」

「うん、旦那さんとしかそういうことしてないから間違いないよ」

「それは皆同じやろねぇ」

「うん、わかった。それでその、何故子供が出来たことを教えてくれなかったんだろうか?」

「え? 言ったほうが良かった……?」

「寧ろ何故言ってくれないのかが俺にはわからないんだが」

「子供を育てるのは女の仕事」

「そうですわ。殿方が子育てに関わることはありませんもの」

「OK、恐らく何か文化的な大きな齟齬がありそうだ。今一度ハーピィさんの生活観というか、結婚観というか、家族観を教えてもらいたい」

話を聞いてみると、なかなかにこう、なんと言えば良いのか……ハーピィという種族はエキセントリックかつユニークな家族観というか倫理観というか、それとも繁殖観念とでも言えば良いのか……とにかく俺の想像を超える文化を持っているということがわかった。

まず、彼女達ハーピィ族には雄性体というものが存在しない。雌性体しか存在しないのだ。よって、繁殖するために多種族の雄を必要とする。そんな生態でよく滅びないものだと思うが、それで彼女達は今日まで命脈を繋いできているのだから、一生命体が取る生存戦略としてはアリなのだろう。少なくともこの世界においては。

そして彼女達は基本的に群れで活動し、基本的には一体の多種族の雄を群れに迎え入れてハーレムを形成する。迎え入れられた雄はハーピィさん達に何から何まで世話をされ、繁殖活動に専念することになる。うん、これなんてエロゲ? と思わなくはないが、そこにケチを付けても仕方がない。彼女達がそういう生態というか、文化を有していて、それで今まで上手くやってきたのだから、そこにケチをつけるのは傲慢というものだろう。

で、だ。ここからが今回彼女達が俺に子供が生まれたことを言わなかった原因なのだが、基本的に群れに迎え入れられた雄性体は子育てに参加する余裕がない。何故かって? ハーピィさんの形成する群れの大きさは小さくとも十人弱、多ければ最大五十人ほどにもなるという。

その中に男は一人。もう一度言おう、男は一人だ。つまり、そういうことだ。子育てに参加する体力なんぞは普通は搾り取られて欠片も残っていないのである。なので、彼女達ハーピィの子育てには男が介在する余地は無い。というか、伝えることすらされないのが普通。

寧ろハーピィさん達全員を相手にした上に他にも嫁がいて、なのにピンピンしている俺の生命力が普通ではないのだ。

「そういう意味でも旦那様は規格外ですよね」

「そ、そうですよね。普通は寝たきりになるって……」

「ちょっと怖いこと言うのやめて」

やっぱり君達生命力的なサムシングも一緒に吸ってるんじゃないのか?

「とにかく、事情はわかった。今後は子供ができたら、ちゃんと言ってくれ。せめて男として責任くらいは持ちたいから」

「うん、わかった。ごめんね、旦那さん。ちゃんと私達も確認しておくべきだったね」

「ちなみに、今ここにいる中だと私とイーグレットとレイとカプリが妊娠してるよ」

「ちょっと!? 妊娠してるのに飛んでるのか!? というか仕事してるのか!?」

「はい、妊娠してても私達は普通に動けますから」

「ハーピィは妊娠しても飛べますし、つわりなども特にありませんのよ」

「妊娠したくらいで飛べなくなったら死ぬ」

本当にビックリ生物だな君達!? 実はエルフや単眼族よりもよほど不思議な生命体なんじゃないのか?

「と、とにかく、子供の安全を第一にしてくれ……あと、俺にできることがあれば言ってくれ。住む場所や生活資金に困ったりはしてないか? 子供達は怪我や病気をしてはいないか?」

「怪我や病気は大丈夫だよ。旦那さんには何回か頼ってるし」

「えっ?」

身に覚えがない。

「何回か子供が怪我や病気をしたからって言って魔法薬を貰ったよね?」

「そう言われると何度かライフポーションやキュアディジーズポーションを渡したことが……って、あれは俺達の子供のことだったのか!? 友達の子供って言ってたじゃないか!?」

「友達」

「ともだち!」

フロンテとペッサーがそう言って翼状の腕で互いを指し示す。ああそう。うん。間違ってはないね。二人とも友達だよね。姉妹ではないとは聞いてるし。ある意味姉妹だろうけど。頭が痛ェ。

「お給金は問題無いんやけど、住む場所はどうにかして欲しいわぁ」

「あ、それはそうだね。平屋は住みにくいし」

「OK、シルフィやメルティに拝み倒してメリネスブルグに家を立てよう。いくらでも建てよう。どんなのが良いんだ?」

「えっと……」

翌日から俺はハーピィさん達の意見を基にハーピィさん達用の集合住宅を作り始めた。

地上二十階のこの世界としては例を見ない高層建築である。ベランダが広く、ハーピィさんであれば飛んで直接出入りができるようになっているのだ。子供が高層階から飛んで事故死するのではないかと心配したが、ハーピィの子供は立てるようになると同時に飛ぶこともできるようになるそうで、何の問題もないらしい。それでも俺は心配したのだが、大丈夫だからと押し切られた。

「ハーピィは飛べないと死ぬから。飛ぶのは本能」

漆黒羽ハーピィのレイがそう言っていたのが印象深かった。