作品タイトル不明
第九百二十八話 決着を付けよう
『ぐぁああああああああああああああああッ』
悲しき絶叫がその場に響き渡る。それはまるで、その者の魂から溢れ出た慟哭が外へと爆発したかのような絶望に満ちた声だった。
『残酷だが……これが戦いと言うものだ。私よ』
もはや哀れとしか言い様のない姿で崩れ落ちる巨人カルラ王を見ながら、幼鳥カルラ王が同情の視線を向ける。
それは幼鳥カルラ王が出したアドバイスに従って取られた戦法だった。幼鳥カルラ王は己の所業に恐怖で鳥肌を立てた。
『まあ……これで防御のほとんどは削れたよね』
そう風音は口を開く。
巨人カルラ王の防御は、全身を覆う羽毛を媒介としているものだった。己が身を守るために進化した羽から黄金の炎を生み出し、強固な防御を形成している。
だが、それが風音のスキル『毛根殺し』によって根っこから死に絶え、今や文字通りに丸裸となっている。高速防御を行っていた翼も強固な硬さを誇っている羽根が落ちては、もうただの焼く前の鳥肉でしかなかった。
『くっ、だが……まだだ。まだ』
対して巨人カルラ王は己の惨めな姿に涙しながらも力を振り絞って立ち上がる。己のツルツルの身体を嘆きながら、ここまでにロクテンくんに傷つけられた傷口から黄金の炎を噴き出させて、全身を覆い始めた。
『傷口から出た血から直接炎を振り絞ったか。まあ、羽根がない以上はそうなるしかないが』
『ジーヴェも己の血を出して炎を出してたよね。それにしてもあれじゃあ本当に焼きと……』
焼き鳥と言いかけたところで、巨人カルラ王が血の涙を流して風音を睨みつけた。その瞳に宿った殺意は先ほどの比ではなく、風音も少し漏らしたほどである。
『あ、ブチ切れてる!?』
『当たり前だ。自分でやったことを考えてから口にしろ』
幼鳥カルラ王の言葉に風音は何も言わず、ロクテンくんに大剣を構えさせた。
別に冗談でやっているわけではないのだ。効率を考えれば、それがもっとも有効な手段だっただけのこと。黄金翼の防御封じはカルラ王攻略には必須の条件だった。
(めっちゃ本気にさせちゃったけど……まあ、想定通り)
最初の予定でも早期決着を目指していた。
例え封印門前である程度休息を取れたとしても、蓄積された肉体の疲労は回復しきれない。風音たちはより安全にカルラ王を倒す方策を練っていた。
それが今ではトールの計画通り、風音たちは休む間もなく巨人カルラ王と戦いを開始していた。風音たちの限界はそう遠くない。
(さて……身体が後どれくらい動くかな)
ギュッと風音がロクテンくんの拳を握る。体力は回復させたが疲労ばかりはいかんともしがたい。弓花とオーリもそう長く保つものではないだろう。
上で戦っているジンライたちには英霊フーネが付いているために風音たちよりは消耗については猶予があるだろうが、それでも時間が経てば経つほどに危険度は増していく。早く倒さなければ……
『うぉぉおおおおおおお』
そんなことを考えていた風音に、巨人カルラ王が剣を振り上げて駆けていく。
『って、来たか。けど、こっちだってぇ!』
風音が操るロクテンくんと迫る巨人カルラ王が激突する。剣と剣とがぶつかり合い、両者が一旦離れると、すぐさまロクテンくんの最速の突きが巨人カルラ王を襲い、それをいなしながら巨人カルラ王が剣を振り下ろし、ロクテンくんが大剣でそれを弾く。
スキルの『リーヴレント化』で剣技を再現しているといえ、剣の技量においてはそもそもリーヴレントよりもカルラ王の方が上である。だが風音はそれをスキルと仲間の力によって埋めていた。
わずかな隙をついてロクテンくんが離れるとイライザがすぐさま攻撃し、離れたところをレームとエミリィが撃ち放つ。
『チクチクチクチクと』
『ごめんね。ボス戦ってそういうものだから』
徐々に力を削がれて苛立ちを見せる巨人カルラ王に、風音がそう返す。もっとも想像以上の粘りを見せる巨人カルラ王には風音も焦りを感じていた。
『ぬぅぅう。まだ。まだだぁあッ!』
そして、ついに勝負に出た巨人カルラ王の肉体が膨張していく。己の魔力を全身に回し、筋肉を膨れ上げさせているのだ。さらには心臓球から巨人カルラ王へと魔力が膨大に流れていくのも確認できた。
『ズッコい。それにデカい』
『ダンジョンマスターの特権だ。これで決着を付ける!』
そう言って、巨人カルラ王が一気に石台を蹴り上げて突撃する。
『ぉぉおおおっ!』
対する風音もロクテンくんを駆けさせて、両者の剣と剣が激突した。火花が散り、繰り返される斬撃の応酬は、まるで暴風のようであった。
『近寄れんな』
「クケーーーーッ」
「ピヨッ」
それを幼鳥カルラ王と十騎士イライザ、ローランが見ている。そのあまりの激しさに彼らも入り込む隙を見い出せなかった。また、それは離れた位置にいるタツオたちにしても同じだ。
『母上。凄まじい戦いです』
「こりゃあ、入り込めねえな」
「油断しないで。最後の最後でこっちの力が必要になるかもしれないんだから」
さらには麒麟狼化弓花やオーリたちもまた、分身の炎の巨人を倒してその様子を見守っていた。
『ここに来て接近戦か。早く決めなさいよ風音』
「カザネ。そいつを倒せば、きっと道は開く。俺に父の故郷を見せてくれ」
「にゃー」
「グガァアアア」
誰も彼もが見守る中で、永遠に続くかのように見えた戦いにも終わりが近付いていた。それを当人たちが一番理解している。風音は疲労が、巨人カルラ王は肉体の負荷が限界に達しようとしていたのだ。
『ダメージは与えている。けど、魔力が送られ続けていて力が衰えない。今のままだと決め手が欠けてるか』
『考える余裕は与えん。スキルは使わせんぞカザネ』
その言葉に風音が眉をひそめる。確かにここまで絶え間ない攻撃を仕掛けられては、次の手を考える余裕もない。中途半端なスキルを使用しても反撃を食らうのがオチだ。
『けど、仕込みはすでに終わってるんだよね』
『何?』
巨人カルラ王がその言葉に声を上げるが、その言葉の通りに風音はこの時点で準備を完了していた。ただ、ずっと狙っていたのだ。その攻撃で倒せるくらいまで巨人カルラ王にダメージを蓄積させ続けていたのだ。
『さあ、これでお終い』
『くっ、これは!?』
剣と剣が再度打ち合われたその一瞬に、ロクテンくんの中からポイッと投げられたものがあった。
それはスキル『光輪』によって生み出される、光術を吸収しそれを攻撃に転化できる光の輪だ。すでに『メガビーム』を吸収させているソレがロクテンくんと巨人カルラ王の間の宙を舞う。
『こんなもの、弾き飛ばせば……なっ』
巨人カルラ王がそれを剣の腹で外へ弾こうとした瞬間、上空から飛びかかってその攻撃を防いだ者がいた。
『これは、なぜ……こいつがここにいる?』
巨人カルラ王が動揺してソレを見る。そこにいたのはタツヨシくんツインソードだ。その存在を巨人カルラ王はここまで全く認識できていなかった。
『手札は最後まで伏せておくものだよカルラ王!』
風音がそう言って不敵に笑う。
タツオがアダミノくんに乗っているため一時的に護衛から外れていたツインソードは、『インビジブルナイツ』によって隠蔽され続け、今の今まで天井に張り付いて待機していたのだ。それを風音は今使用したということだった。
『さて、もう間に合わないよ』
『見事だ。だが光輪の範囲外に離脱する間は与えん』
巨人カルラ王が叫ぶが、だが風音は強ばった顔でなおも笑みを崩さず、カルラ王の体を押さえつけながら言葉を返す。
『逃げないよ。一緒に喰らってあげる』
『チィッ、そういうことか。だから貴様は』
その言葉が最後まで発せられる前に、光輪がその場で大爆発を起こした。石台の中央が光で満ち、部屋全体が白く染まった。
『母上ぇえッ』
『風音ッ』
タツオと弓花が同時に叫ぶ。そして徐々に光が消えていくその場所にふたつの影があった。
それはいまだ健在の黄金の巨人と、炭化した鳥頭の巨人だった。フラフラとしているロクテンくんを前に、仁王立ちした巨人カルラ王が笑っていた。
『くくく、最後は自爆技……か。だから、だから貴様は厄介なのだ。いつだって、本当に予想を覆してくれる……な』
そう言いながら鳥頭の巨人が、ゆっくりと崩れ落ちて、その場に大の字になって倒れる。それが、風音が巨人カルラ王に勝利した瞬間であった。