作品タイトル不明
第九百二十話 脅威を退けよう
風音たちの前にいるクリスタルドラゴンの姿は十二。アダマンスカルアシュラは百体近くはいるだろうか。その物量を前に仲間たちが圧倒されている中、風音が一歩飛び出して声を張り上げた。
「今ならまだ連中も動きが鈍い。旦那様、ジーヴェ、一気にぶちかましてッ!」
風音の叫びに反応して指輪と鎧が輝き出し、大部屋の中に二頭の巨大なドラゴンが出現した。そして、間を置かずに神竜帝ナーガが無数の 七色の光(セブンス・レイ) を、黒曜竜ジーヴェが 炎に包まれた無数の鱗(フレイムスケイルレイン) を咆哮しながら正面の敵へと撃ち込み続け、出現した魔物たちが吹き飛んでいく。
「いきなり大技か。温存しないで良いのかよ?」
ギャオの声に、オロチは首を横に振る。
「いや、上手い。モンスターハウスで出現した魔物の一番の隙は出た直後だ。見ろ、敵が一気に片付けられていくぞ」
そのオロチの言葉通り、クリスタルドラゴンが二体崩れ落ち、無数のアダマンスカルアシュラが修復できぬほどにバラバラに吹き飛ばされていく。だが、まだアダマンスカルアシュラの数は増えていた。
「風音。あのクリスタルドラゴン、頭からなんか生えてるわ」
「多分、ドラゴンイーターだね。ドラゴンフェロモン対策はばっちりってわけだ」
『まあ、私だからな。当然だろう』
カルラ王の言葉を聞いた風音が忌々しそうに唸る。
「ともかく初撃で二体のクリスタルドラゴンは倒せた。けど、他のクリスタルドラゴンは傷口を植物が修復してる。厄介だよ、本当にね」
また、アダマンスカルアシュラたちも無生物な為に今の攻撃を食らっても怯む様子はなかった。さらにクリスタルドラゴンが暴れてもアダマンスカルアシュラはまるで気にせず突撃してくるはずだ。混戦になれば、風音たちが苦戦を強いられるだろうことは明らかだった。
「広いとはいえ室内だ。クリスタルドラゴンを早めに倒さないと不味いな」
オロチの言葉に風音が頷く。かつて戦った頃よりも風音たちは大きく成長しているが、それでも残り十体は多い。
「クリスタルドラゴンは矢除けの加護はかかってないから遠距離攻撃も効くけど、クリスタルブレスには気を付けて。解除はできるけど砕けちゃったらさすがに治すの厳しいし」
「それは怖いですね」
「当たらなければ、どうということはありません」
トールとミナカがそう口にして構える。どちらもクリスタルドラゴン狙いのようだった。
「後は切り札のセブンスレイは撃たせないようにね。ユッコネエとライルはドラゴンになって、クリスタルドラゴンとアダマンスカルアシュラを分断して。狂い鬼やゴーレム軍団はアダマンスカルアシュラを攻撃ッ!」
その指示によって、まずは風音の 僕(しもべ) たちが動き出す。
「トールさんとミナカさんはクリスタルドラゴン狙いだよね。後は私、弓花、ジンライさん、オロチさん、オーリさん、キングでクリスタルドラゴンを、ガーラさん指揮でアダマンスカルアシュラを食い止めつつ、後衛組でクリスタルドラゴンを攻撃して」
その言葉に仲間たちが同意の頷きを返すと、風音は飛び上がってロクテンくんを喚び出し乗り込んだ。もう温存している事態ではなかった。なお、今回は新たに手に入れた覇王竜の仮面も被っての出陣である。
『スキル・魔王の威圧!』
飛びかかった風音がスキルを放つと物理的な重力が発生してクリスタルドラゴンたちの動きを止める。そのまま続けて風音は大魔王モードへと変形すると、白き雷を宿らせた龍神の大剣を振るってクリスタルドラゴンの一体の首を斬り落とした。
『旦那様たちのダメージが残ってた分、防御が弱くなってるか。っと、二体来た。雷神の盾!』
『魔王の威圧』の重圧を振り切って、クリスタルドラゴンたちが迫ってきている。それを風音は実体化した雷『神の盾』を拡大させて、突撃してきた二体を止めた。
『でぇえええいい』
「うぉぉおおお」
そこに麒麟狼化した弓花と、幻創剣カリバーンを振るうオーリがロクテンくんを飛び越えて仕掛けていく。その攻撃にクリスタルドラゴンが悲鳴を上げるが、倒すには至っていなかった。だが決して状況は不利ではない。他の仲間たちも次々とクリスタルドラゴンを押さえ始めている。
『風音ッ』
もっとも弓花の余裕のない声が風音の耳に届く。その視線はアダマンスカルアシュラたちの方に向けられていた。さらに数が増大した骨の魔物を相手にガーラたちが追いつめられていたのだ。
『ここはいいから、あんたはアダマンスカルアシュラの方に。ちょっと不味いかも』
『むぅ、確かにクリスタルドラゴンよりも厄介か』
クリスタルドラゴンを押さえること自体は間違ってはいないが、残りのアダマンスカルアシュラの攻撃に後方が耐え切れていない。逡巡する間もなく、風音はロクテンくんを駆け出させていく。
『んじゃ、ここは任せるよ。こっちは 触手(ローパー) モードで突撃ッ』
ロクテンくんが大魔王モードから 触手(ローパー) モードへと切り替わると、接触したアダマンスカルアシュラから次々と斬り飛ばしていく。数を相手にするのであれば、高威力よりも手数。
『ティアラとユズさんがピンチか。カルラ王、お願いッ』
風音の言葉に巨大なひよことそれに乗った小さな鳥たちが魔法陣から現れて、アダマンスカルアシュラたちへと攻撃していく。途中でローランが補助魔術を完成させて発動させると、イライザがパワーアップして、アダマンスカルアシュラたちへとさらに強力な一撃を与えていく。
「カザネ……助かりましたわ」
「助かったぁ」
風音が近付くと、グッタリした顔のティアラとユズがサポートスパイダーに乗りながら感謝の言葉を告げてくる。ふたりとも最初の罠で 炎の騎士団(フレイムナイツ) と配下のゴーレムを失い、そのフィードバックによりダメージを負っていた。戦闘は可能だが、他の仲間たちに比べて疲労は大きい。
『ここは引き受けるよ。アダミノくんのところまで下がって』
現状のアダミノくんはタツオ、レームのゴレムスキャノン、エミリィやメロウたちといった狙撃組が乗って移動砲台と化していた。ともあれ、元々はクリスタルドラゴンへの後方支援の役割を負っていたが今は迫るアダマンスカルアシュラを追い払うので精一杯というところだった。
「お願いしますわカザネ」
ティアラが下がり始める。まだダメージが重いようだが、意識を途切れさせると前線で戦っているメフィルスを召喚解除しかねず、ここで無理をするわけにもいかない。そのティアラたちを後目に風音はロクテンくんを操作してアダマンスカルアシュラたちに突撃していく。
『オォォオオオオオッ』
触手が縦横無尽に振り回され、魔物たちを弾き、コアを潰し、倒されかかった仲間を護り続けていく。
『戦力的には負けてないけど、やっぱり疲れが大きいか』
この物量を前にしても風音たちは互角以上に戦えている。徐々に減っていく敵に対し、風音たちは何人か負傷はしているもののひとりも欠けてはいなかった。だが、それでも蓄積された疲労は隠しようもない。彼らはここに至るまでに肉体的にも精神的にも消耗し過ぎていた。
「トールさんっ」
戦場でミナカの叫び声が響く。それの声に反応した風音の視界に映ったのは、ミナカを庇ってクリスタルドラゴンの爪に切り裂かれたトールの姿だった。明らかに致命傷。床を転げてグッタリと崩れたトールに、さらにはクリスタルドラゴンが駆けより次の攻撃を行おうと迫っていた。
それを止めようとミナカが動き出すが足が動かない。スピード重視であるミナカは度重なる高速移動についに疲労が限界に達していた。周囲の仲間も自分の請け負った相手だけで精一杯だ。
このままではトールが死ぬのは確実。風音の判断は一瞬だった。
『お願いジーク!』
「オォォオオオオオオオオオオッ!!」
切り札の一枚。英霊ジークがその場を飛び出し、凄まじい速さで駆けていくとクリスタルドラゴンの爪が弾き、トールへの攻撃を防いだ。だが、トールはすでに虫の息である。
虚ろな瞳でトールが崩れ落ちる中、そこに近付いた弓花が生命樹の朝露を集めて造ったセフィロトポーションを取り出して使用する。
『間に合った。風音、トールさんは無事!』
『よっし。ジーク、喚び出したからにはさっさと片付けてもらうよ』
「カルラ王と戦えると思っていたのだが仕方ないな。汝よ、龍神の大剣を」
『任せたッ』
風音がロクテンくんの持っている龍神の大剣を英霊ジークへと投げ渡す。風音では使うだけで精一杯の龍神の大剣だが、英霊ジークならば『使いこなす』ことができる。そして大盾を手放し、大翼の剣リーンと合わせて二刀流で挑む英霊ジークの参入により形勢は一気に傾き、戦闘は早期に終息していった。
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「ごめんなさいトールさん、私が鈍いばかりに」
「いえ。あなたを守れて良かった」
戦闘終了後。サンダーチャリオットトレインの中で、特に疲労の激しい者たちは休憩に入っていた。トールもセフィロトポーションで回復はしたものの、未だに疲労のために顔を青くしている。とはいえ、今は無事だと主張せんがために気丈に、謝るミナカの頭を撫でていた。
それからトールが御者席にいる風音へと顔を向ける。
「風音、あなたにも感謝を。けれども英霊を失ってしまった。申し訳ないことをしました」
「ううん。他に手はあるし、まだなんとかはなるよ」
そう風音が返す。風音も今回の戦闘でレベルも上がり、地力も増した。
最悪まだセカンドキャラを喚ぶことはできるし、ジークに匹敵するオロチの英霊『ひめ蛇子』もいる。回復役には直樹のフーネが、囮役であるアーチも残っている。今回の戦闘でティアラの大型蓄魔器もどうにか使用せずに済んでいた。今の風音にとって英霊ジークは唯一の切り札というわけではなく致命的なものではなかったのだ。
(とはいえ、ジークや旦那様、ジーヴェはこの探索中には再び喚ぶのはもう無理だね。それに一番の問題は……)
問題は疲労であった。今までにない戦いの繰り返しに仲間たちの精神も磨耗してきている。ゆっくりと回復することが難しい現状では、一刻も早い最深部への到達を望まざるを得ない。
そして、手痛い状況のまま風音たちは先へと進んでいく。先へ、先へとダンジョンの探索は続いていくのであった。