軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九百十八話 消耗をしよう

「そんじゃ、構えてッ」

風音の声に合わせて各々が自らの得物やスナイパーライフルを構えると、それぞれの分担のミラーミノタウロスへと狙いを定めていく。

スナイパーライフルに慣れてない面々もいるが、距離自体はそう遠くない。風音のスキル『遠隔視』と『情報連携』によって照準精度も上げられている。

そして、その場の全員の準備が整うと同時に風音が右手を挙げる。

「そんで一気に撃てぇええ!」

次の瞬間に銃声や砲音が一斉に響き渡り、ミノタウロスの群れの中にいたミラーミノタウロスたちが次々と倒れていく。 雷神砲(レールガン) で撃たれたミラーミノタウロスの頭部は吹き飛び、その他の目標も血を噴いて崩れ落ちていくのが見えた。

「ブモォォオオオオオオオッ!」

その突然の事態に魔物たちは一斉に叫び声を上げる。それからすぐさま彼らは風音たちへと視線を向けたのだ。

「気付かれたぞ姉貴」

「想定内だよ。直樹、突撃の準備して」

今の攻撃で『インビジブルナイツ』の効果が途切れ、風音の姿はミノタウロスたちに認識された。もっともそれは最初から分かっていたことだ。それよりも問題は別にあった。

「不味い。一体生きてるぞカザネ」

レームの焦った声が風音の耳に届く。狙撃のほとんどは頭部へと命中していた。だが何発かは角によって弾かれ、ミラーミノタウロスの一体が致命傷を免れていたのだ。

残ったミラーミノタウロスを見ながら、風音が眉をひそめる。

「うーん。一体でもメガビームは弾かれちゃうしなあ。む、ジローくん?」

「大丈夫だ。撃てカザネ!」

「分かった。頼むよッ」

横に出てきたジローの言葉に、風音はジローが何をするかも聞かずに瞳を光らせ始めた。

ジローも風音の返答を聞く前にすでに手を前に出して構えている。勝負は一瞬。ここまでこのダンジョンで鍛え上げられてきた両者はそれを理解している。

「ビッグストーンワーム。足を絡めろ」

そしてジローの声に反応して召喚体であるビッグストーンワームが床を破壊して地面から飛び出すと、ミラーミノタウロスの足を絡めてその場で引き倒した。

「スキル・メガビィィイイイイム」

続けて風音が叫び、高出力の極太レーザーが両目から放たれる。それは倒れたミラーミノタウロスを除くミノタウロスたち全員へと真横に薙ぐように照射され、彼らを焼き尽くしていく。そのままメガビームの光が真横の壁を削り、破壊された石壁によってその場に煙が巻き上がったが、風音がすぐさま虹杖を振るって『暴風の加護』を発動させ、煙を一気に吹き飛ばして視界を確保させる。

「よし。まだ倒しきれてないのがいるけど、これなら問題はないね」

残っているのはジローに転ばされたミラーミノタウロスと、仲間が盾になって生き残れたミノタウロスが五体だ。その数であれば、今のメンバーにとってはさしたる脅威ではない。

「それじゃあ、一気にトドメを。前衛組、ダッシュ!」

風音の指示にジンライたちが一気に駆け出し、次々と敵を仕留めていく。

物理メインの前衛組といえど、この場にいる彼らはマテリアルシールド対策ぐらい当然のように所持している。倒しきるのにさしたる時間を必要とはしなかった。

**********

「うしっ、一体を倒したぜ」

そう言ってギャオがグッと拳を握る。

ミノタウロスを倒したギャオが立ち上がると、すでに他の仲間たちもミノタウロスを倒しており、戦闘はすでに終了していた。

「しかし、このまま袋小路に突撃されていたら、さすがに危なかったですね」

トールの言葉にオロチが頷く。唐突な魔物の出現だったが、運に助けられた面もあった。あのまま突撃されていれば状況を把握する前に戦闘となり、混戦となっていた可能性もあった。それはミノタウロスの集団に対しては最悪のパターンだ。

「まあ、このメンツであれば、どうにかはなっただろうが……風音、魔力は大丈夫なのか?」

「うん。蓄魔器も使ってないし、自前の魔力で収まる範囲だね。問題はないけど、しばらく戦闘はお任せして探索に専念するよ」

そう言いながらも風音の視線は、すでに原形を留めていない冒険者に向けられていた。戦闘前は割り切ったが、やるせない思いがあるのはどうしようもない。その風音にトールが頷く。

「それが良いでしょうね。先は長いですし、さっさと進みましょう」

その言葉に、ギャオが「おいおい」と声を上げた。

「ちょっと待て。こいつらの素材を持っていかないのかよ?」

「そんな余裕はないよ。周囲から色々と気配が近付いてきてるのを感じる。このままだと、この袋小路で追いつめられたまま戦闘を繰り返す羽目になるよ」

「マジかよ……ってマジだな」

改めて自らの鼻で状況を確認したギャオが引きつった顔をする。そしてその様子をその場の全員が理解すると、すぐさま文句一つ言わずに一行は動き出した。

それから先へ進む彼らの背後からドタバタとした足音が近付いて、遠ざかっていくのが感じられた。この深淵迷宮は音が響きやすいのだ。派手に戦闘をすれば近くにいる魔物にすぐに気付かれてしまう。

それから風音たちは何度となく魔物と遭遇し、階段を二回ほど見つけて下り、さらにダンジョンの奥へと向かっていく。

◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第九十三階層 深淵迷宮

「でえええやぁあああああああ」

直樹が大翼の剣リーンから八属性の光波ゼクシアレイを放ち、その場にいた最後の魔物を倒す。そして、アダマンチウム製の甲殻を持った蟻の魔物アダマンアントは、その殻のみを残して全滅していった。

「やったぞ。畜生」

その様子を確認した直樹が、勝利の声を上げてその場に倒れた。新たなる装備でもぎ取った勝利だが、今の直樹にはまだ消耗の激しい武器だ。また、その場で休んでいる時間もなかった。

「また魔物の臭いが近付いてるぞ。くそったれ」

ギャオの疲れた声に一同がげんなりとした顔をする。だが、それに対する選択はふたつしかない。戦うか逃げるかだ。

「直樹は今ので消耗したでしょ。トレインに入って回復薬使ったら休憩。すぐさま移動するよ」

風音の指示に直樹が疲れた顔で頷く。それから移動用に召喚されていたサンダーチャリオットトレインの中へと入ると、一行はすぐさまこの場から離脱していった。

*********

「一応、これでオッケーと」

風音が前後の道をアダマンチウムゴーレムの壁で固める。それは先ほど倒したアダマンアントの殻をゴーレム化して壁にしたものだった。

その様子をユズが驚きの顔で見ていたが、上位金属のゴーレム化は今のトゥーレ王国ではとうの昔に失われた魔術なのである。

「これで、どっちかから敵が来ても当面はしのげるし、すぐに逃げ出すこともできるね」

そう言って風音がその場に座り込んだ。

ナビがメインで操作しているにせよ小型ゴレムくんによる探索やこうした壁を作ったり『インビジブルナイツ』を使い続けたりと、風音もここまでに負担を強いられ続けている。

戦闘の参加は控えていたとしても、精神的な消耗は回復薬でも癒せない。その上にこの階層クラスの魔物は『インビジブルナイツ』も嗅ぎつけることがあるし、即死クラスの罠も点在していた。

それから全員が疲れ切った顔で休んでいる中で、まだ余裕がありそうなジンライが呟く。

「ようやく一息つけるか。しかし、この敵の動き様はアレを思い出すな」

「アレってなんだよジンライの爺さん?」

ギャオの問いに風音が「闇の森だね」と即答する。

「魔物のランクも闇の森の下位クラスには匹敵してるし、敵がひっきりなしに近付いてくるところも似てるかも」

「闇の森かぁ。おれっちはまだ行ったことないけどよ。そこからお前らは何度か戻ってきたんだろ。なら……」

白き一団が闇の森から帰還しているという話はすでにゴルディオスの街でも広まっている。ギャオたちはそもそも本人から聞いているので、そのことは当然知っていた。だが楽観的なギャオの考えに対して、風音はジト目になりながら首を横に振って否定する。

「私ら、基本は数戦したら逃げ帰ってたからね。正直、転移で距離を離せないなら森の中に入る気もしないよ。あれ、普通に死ぬって」

当然のように言う風音に、白き一団以外のメンバーがゾッとした顔をする。

「まあ……ここは森の基準での上位や中位クラスの魔物はいないから、まだ何とかなると思うけど……闇の森はヤバいよ。出会った魔物次第じゃ簡単に詰む」

「そうですねぇ。私ももう闇の森の中に行くのはコリゴリです」

「え、トールさんにも経験があるんですか?」

風音の言葉に同意したトールに対し、その横にいたミナカが驚いて問いかけた。それにトールは苦笑いで頷く。

「ええ、仲間に強制的に誘われましてね。あのときは本当に死ぬかと思いました」

そのトールの表情は、これまでにない素であった。

「ふふ」

「なんですかミナカ?」

不思議そうな顔のトールにミナカがさらに笑う。

「いえ、トールさんでもそういう顔するんだなって。すみません」

「確かにトールはいつも笑ってばかりで逆に感情を見せん男だからな」

ミナカの言葉を聞いて、ドッグソルジャーの面々も笑っている。同じパーティとはいえ、ドッグソルジャーのメンバーはこのダンジョンを攻略するためにトールと契約によって組んでいる者たちだ。ここまで個人的な付き合いの少ない彼らにとって、今のトールの表情はツボにはまる要素があったらしかった。

「なんなんですかねえ、あなたたちは」

そういってトールが少しばかり不機嫌な顔をして苦笑いすると、周囲の笑いはいっそう大きくなった。

ともあれ、そんな簡単な談笑を交えた束の間の休息もそう長くは続かない。一時間ほど休憩をとったところで片方のアダマンチウムの壁が魔物によって殴りつけられ始めると、風音たちは反対側の通路からさっさとその場を去っていく。

残りは七階層。終わりなきように感じられたが、終着地点は確実に近付いてはいた。