軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九百十六話 みんなに見送られよう

◎ゴルディオスの街 金翅鳥(こんじちょう) 神殿前

「うーん。なんだろう?」

白の館を出て風音たちがいつも通りに 金翅鳥(こんじちょう) 神殿へと向かっていくと、何やら街中が騒がしいようだった。また道の先からは大勢の人の声が響いている。

それに風音やティアラが困惑した顔をしていると、弓花が「ああ、もしかして」と呟いた。

「弓花、何か知ってるの? なんかお祭りとか予定あったっけ?」

「お祭りといえばお祭りよね。そういえば、やるって言ってたわ。アンタたちはそこら中回ってたから知らないだろうけど」

「何を?」

「ま、行ってみれば分かるわよ」

弓花は直樹の譲渡クエストが予定よりも早く終わったために、先に街に帰っていた。そのため、今何が起きているのかを知っているようだったが、あえて口には出さず先へと向かい始めた。それから 金翅鳥(こんじちょう) 神殿の姿とともに、手前の広場に大勢の人々がいるのが見えてきた。

「おお、凄い。もしかして、これってもしかしてダンジョン最終攻略のお祝い?」

「ああ、そうだな。カザネは驚いてっけどさー。こういうもんらしいぜ、本来は」

「白き一団以外は普通に報告して、お祝いされてることも多かったのよね。私らは報告控えめでそういうの少なかったけど」

バーンズ兄妹の言葉に、風音が「たはは」とやや乾いた笑いで返す。それは白き一団の戦果がデカすぎて、公表するのが難しい案件が多すぎたための弊害だった。

「しかし、この雰囲気はオルドロックの洞窟の時を思い出すな」

「ジーヴェ退治の時か。確かにそうだねぇ」

ジンライの言葉に、風音が当時のことを思い出す。それはもう一年も前のことだ。その頃にはまだルイーズがいて、直樹もタツオもバーンズ兄妹もレームもいなかった。

そのことに感慨深い気持ちになりながら風音が周囲を見回すと、 金翅鳥(こんじちょう) 神殿の入り口前にはゆっこ姉と護衛のロジャーたち親衛騎士団、クロフェやソル、それに護衛のアカや領主、ルネイたちがいた。また入り口までの左右を冒険者や街の住人、聞きつけた商人たちなどが大勢並んでいる。彼らはみな、この 金翅鳥(こんじちょう) 神殿を攻略するであろう冒険者たちを見に来た面々である。

それらの歓声を受けながら進んだ先には、蒼の明星と黒き牙のメンバーが少し困惑した顔をしつつも笑って出迎えた。

中でもまったくいつも通りのギャオが嬉しそうに親指を立てて「よぉ」と声をかけてくる。

「カザネ。見ろよ。こいつら、みんな俺らを歓迎してくれてるんだとよ。嬉しいぜ、こういうのはな」

「……俺は怖いだけだよ」

「もうジローったら。最近は結構強くなったんだから、自信持ちなさいよ」

怯えるジローに恋人のメロウがそう言って苦笑いをしている。

「故郷で見送ってもらったとき以来ですね。こういうのは。懐かしい」

「いや、見送りでそれだけ人が集まったことがかなり凄いと思いますよ」

ミナカの言葉にトールがそうツッコみ、ドッグソルジャーの面々がミナカが良いとこのお嬢様だと知って驚いている。ミナカの実家のライドウ家はジャパネスでも有数の武家であった。

ともあれ、どちらのクランのメンバーも多少の緊張はあるものの、この人前でも砕けた気持ちではいるようだった。

また、彼らを祝う声も先ほどからひっきりなしに続いている。

「姐さん。頼んます」

「伝説をまたひとつお願いします」

弓花後援組織ムータンは総出で見送りである。明らかに周囲の面々から浮いている強面ぞろいではあったが、この場ではみな笑顔だ。

「天使に敬礼を」

「ハッ」

天使教はいつの間にやら、ダインス天使騎士団主導により軍化していた。規律正しく並び立つ様は、ムータンとは別の異様さがあるが、彼らもまた風音たちを祝福しに来た者たちだ。

「お爺さま、見ていてくださるかしら」

「ああ、 魔力の川(ナーガライン) から見下ろしているさ。ジンライ殿には我らが祖父を破った男として強くあってもらわなければな」

「へっ、オレら兄弟の分まで暴れてくれよ」

「「「「「「「ナオキくーーん頑張ってー」」」」」」」

「猫騎士様ー」

「しっぷーも頑張れー」

知っている声も知らぬ声も響き渡る。

そんな中を風音たちは進み、そして 金翅鳥(こんじちょう) 神殿の入り口に到着するとゆっこ姉やクロフェたちが並んで待っていた。そして、最初に口を開いたのはクロフェだった。

「カザネ、心配はしておらぬがちゃんと戻ってくるのじゃーぞ。ソルの親をなくすでないのじゃーぞ」

「うん。了解だよクロフェさん。ね、ユッコネエ」

「にゃー」「にゃー」

風音の言葉に、ユッコネエとクロフェに抱き抱えられたソルがともに鳴いた。その横にいるアカも風音たちに声をかける。

「てめえも気を付けな妹。それに弟よ」

「うん、お兄ちゃん!」「あいよ、あんちゃん」

風音とライルが同時に返すと周囲がざわめいた。

その言葉の意味は、西の竜の里ラグナの番人と、風音やライルが義兄弟の契りを交わしているということであった。彼らの素性を知っている者たちからすれば、それはさらに衝撃的な事実であっただろう。

それから簡単な挨拶をクロフェと交わした風音が、次に視線を向けたのはゆっこ姉だ。JINJINと達良のナビが離れた場所から笑顔で見守っている。何も心配などしていないとでも言うかのように。

そして、ゆっこ姉が口を開いた。それはクロフェのように身内としての会話ではなく、女王としてその場にいる者たち全員への言葉だった。

「A級ダンジョン『 金翅鳥(こんじちょう) 神殿』もいよいよ閉じるときが来ました。長き戦禍の影響により、もはや封印するしかないと思われていたこのダンジョンが終わりを迎えるであろうこと、まだ成し遂げたわけではないが、ここまで探索し続けてくれた冒険者たち、それらを支えた者々すべてに感謝をいたします」

その言葉に歓声が爆発した。

であるにも関わらず、ゆっこ姉の言葉は彼らに耳に響いていた。それは魔術によるものである。それから歓声の中でさらに女王の言葉が響いていく。

「そして、これより最後の冒険へと赴く白き一団、蒼の明星、黒き牙にはさらなる感謝とともに、無事の帰還を命じます。我らが神ミュールの加護の元で見事心臓球を持ち帰り、攻略者の名を勝ち取りなさい」

その言葉に風音たち全員が跪いた。

それからまたいくつかの言葉を交わした風音たちが人々に見送られながらダンジョンの中へと入っていく。また、その途中でゆっこ姉から風音たちへとチャットが届いた。公の場では気軽な会話もできないが、ウィンドウを介したチャットならば知られることもないので問題もない。

ゆっこ姉「風音、弓花、直樹。頼んだわよ」

風音「まかせて」

弓花「うん」

直樹「は

※※※直樹がブロックされました。

※※※直樹は退室しました。

「姉貴ぃ」

「あ、ごめん。つい癖で」

いつもの癖で直樹をブロックしてしまった風音が「てへへ」とベロを出して謝る。

「し、仕方ねえな」

その仕草がとても可愛かったので、直樹は許した。満面の笑顔である。

「キモいわー」「うん、キモイ」

そのリアクションを見ていたゆっこ姉と弓花が氷のような冷たい視線を向けたが、太陽のような直樹の笑顔を凍らせることはできなかった。

そして、歓声に見送られながら風音たちはダンジョンへと入り、第一階層に設置したポータルを使って転移する。そのまま倶利伽羅竜王の塔前のダンジョンポータルまで一瞬で辿り着くともう人々の声は聞こえなくなっていた。

「む。何やら知らぬ野営の跡があるな。誰か来たのか?」

周囲を見渡していたジンライが、門より離れた場所にあるものを見てそう呟いた。その視線の先には、比較的新しい焚き火の跡が確かにあった。

「先ほどルネイ殿が言っていたが、どうやら先に第九十階層に入った連中がいるらしいんだ」

少しばかり苦い顔をしたガーラが、ジンライの疑問に答えた。それには周囲のメンバーが眉をひそめる。

「どういうことなのガーラさん?」

「この半月の間に何組かの冒険者たちが、ギルドが止めるのも聞かずに最奥に向かったらしい。もうじき攻略終了だと聞いて功名心に駆られたんだろうな」

その言葉には、誰もが何ともいえない顔をした。

このまま先行した者たちにダンジョンが攻略されてしまう……という不安は誰も持ってはいない。ここは、A級ダンジョン攻略者であるダインス天使騎士団が自らを力不足と諦めたダンジョンなのだ。並以上の実力者だとしても、ロクな結果にはならないのは明らかであった。

「そりゃあ、無謀だな……」

ライルの呟きに何人もが同意の頷きを返した。だが、そうした者たちを咎める声はない。自ら選んだ道だ。冒険者であれば、どういう結末であれ受け入れるべきだという考えがそこにはあった。

「ま、おれっちらはおれっちらでやるだけだ。なぁ、相棒」

「だな。もう覚悟は決まってる。先に進もう」

ギャオの言葉に笑みを浮かべて頷いたギュネスが目の前の開いた門を見た。

それに全員の視線が同じように向けられると、彼らはゆっくりと門の中へと入っていった。そして全員が門の中に入ると、ドラゴンの頭部を模した門はゆっくりとその扉を閉じたのである。