軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八百九十話 スニークをしよう

「工房? なんで?」

首を傾げる風音にクロフェも「さあなのじゃー?」と首を傾げる。クロフェにしても、白の館の前で門番をしているアカより定期的に送られる心話によって状況を聞かされているだけなのだ。ルネイがなぜバトロイ工房に向かったのか? その事情など当然理解しているわけがなかった。

「理由は知らんのじゃーが、ソルダード王国軍は今バトロイ工房の建物を拠点にしているようなのじゃー。まあ、ソルダードと話し合いに行ったのじゃろーなのじゃー」

その言葉に、その場にいた仲間たちがざわつく。

ルネイが敵の牙城に乗り込んだというよりも、ソルダード王国軍の拠点が今いる場所の真横であるということに彼らは衝撃を覚えていた。それから風音が少し考え込んでから口を開く。

「まあ、確かにあそこは白の館と領主の館に次いで頑丈な建物だし、テスト用に庭も結構広いからね。領主の館は今も籠城していて占拠されてないらしいから……それはそれでおかしくはないのかな。けど、ルネイさんは何でそんなところにいったんだろう?」

「おい、まさか。あのギルドマスター。連中の手引きをしてやがったのか?」

「いや、それはないな」

シャークキラーのジョーの言葉を真っ先に否定したのはジンライだった。

「何で分かる?」

「ルネイ殿の母は悪魔狩りでな。以前にソルダード王国内で派手に活動をして悪魔狩り自体があの国では疎まれておるのだ。特にキャンサー家ならば尚更繋がりはないだろう」

それがルイーズの話であることも、実はジョーにとっては曾祖母の話であることも、そもそもルネイが親戚であることも知らないジョーが眉をひそめるが、ジンライが嘘を言う理由もないのでそれ以上の追求は留めた。

「恐らくだが……交渉をしにいったのであろうな。冒険者ギルドは基本的に国と国との争いには干渉せん。だがそのラインを定めるために話し合いをしないというわけではないのだ。とはいえ、目の前にソルダードの司令がいるのであれば攻め込むのも手だな。敵の頭を押さえれば、兵たちも動けまい」

そうジンライが風音に提案する。それは今いるメンバーの力があれば可能な話ではあったが、風音は少し考えてから首を横に振った。

「んー。今は止めとこう。そうするにしても領主様とルネイさんには連絡を取っておきたいし。街中に散った兵たちを私たちだけで対処するのは無理だし、変に暴走されても困るよ」

風音はダンジョン入口で遭遇した兵たちの様子から、彼らに余裕がないことを察している。自国内での敗走と逃亡生活続きで相当にストレスをため込んでいるようで、下手に刺激することは避けたいと考えていた。

「となると姉貴はどうするつもりなんだよ?」

直樹の問いに風音は「ん、まずは」と口にする。

「私がルネイさんのところに行って話を聞いてみる」

「カザネ、ギルドマスターは敵のところにいるのですよね?」

心配そうな顔のリサの問いに風音が頷く。

「まあ、そうだけど……私は隠密行動が得意だからね。問題ないよ。で、直樹は領主様んところにいって話を聞いてきてくれる?」

帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) の長距離転移は温存しておくにしても、短距離転移と風音の『インビジブルナイツ』を併用すれば、敵の包囲を抜けて領主の館まで行くことはそれほど難しいものではない。故に直樹も特に気負うことなく「了解」と口にして頷いた。それから後ろを向いてティアラたちに声をかける。

「だったらティアラとメフィルス様にも同行してもらっていいか? その手のやり取りは俺よりも早いと思うんだけど」

「分かりましたわ」

『うむ。問題ない』

ティアラとメフィルスが前に出て頷き、それから弓花が挙手する。

「そんじゃ、私はムータンのみんなのところにちょっと行ってくるわ。今どうなってるか気になるし。暴走してたら困るでしょ。何かあったらメールもらえる?」

「そうだねえ。まぁ、ルネイさんと領主様に了承とれたらムータンメンバーにも動いてもらうかも入れないしね。それにもうゆっこ姉からは好きに対応して良いって言われてるし」

その言葉通り、この時点で風音はすでにゆっこ姉へとメールを飛ばしていて、返答も先ほど返ってきていた。

そのメールの内容はといえば、司令官を捕らえてしまえば後はどう扱っても構わないとのことであった。

ゆっこ姉にしてみれば、そのまま勝手に帰ってソルダード内でゴタゴタし続けてくれる方がありがたいようだったが、自国の街を占拠されているのだからすんなり帰すというわけにも行かないようだった。

「ふぅむ。ではワシらはここで待機か」

風音の指示を聞いて、ジンライが詰まらなさそうに呟いて腰を下ろした。

「そうだといいんだけどね」

その様子を見て風音が少しだけ苦笑する。

ソルダード王国軍の数が如何に多くとも、拠点近くから出てきた風音に攻められれば戦いにもならずに頭が押さえられるだろうとジンライは考えているようだった。そしてライトニングやシャークキラーの面々はともかく、白き一団の中ではその認識は皆同じで、現時点においてそのことを疑う余地がないのもまた事実ではある。

「まあ、良い。ワシはワシでやることがある」

そう言ってジンライが視線を向けた先は、じゃれ合っているユッコネエとソル、それに二体に甘噛みされて「なーなー」鳴いているシップーであった。

ジンライのすべきこととは、その光景を己の 記憶(メモリー) にしかと焼き付けておくということだった。ついでに魔導カメラも借りて、己の魔力の続く限りジンライはシャッターを切り続けていた。

◎ゴルディオスの街 バトロイ工房 賓客室

「ふむ。明日明後日で引き揚げてくれればよいのですが」

風音たちが行動を開始してしばらくした頃、バトロイ工房内の賓客室ではルネイがひとり放置されていた。

その部屋は工房でも高貴な身分の相手をする際に使われる部屋で、その壁には強力な魔法防御が張られていて外部からの攻撃を寄せ付けない仕様となっていた。

また、それは同時に内部からも余計なことができないということでもある。ルネイがその部屋にひとりいるのも客人だからという理由だけではなく、それは実質的な軟禁であり、ひとりにさせられているのも魔術師であるルネイに兵を近付かせないための措置でもあった。

「この程度では私を封じることもできないのですが……そもそもあの方たちはこの部屋の隠し扉も知らないのでしょうね」

呟くルネイの視線の先にあるのは暖炉だ。工房内は魔法具による温度調整で暖炉はあまり使用されないのだが、元々の施設を改築する際に残された……という建前でそれは存在していた。それからルネイは、その暖炉が微妙に動き出したことに気が付く。

「おや。誰かお客様のようだ」

その言葉とともに暖炉の中の壁が動き出し、チンチクリンが隠密行動の基本である匍匐前進をしながらカサカサと部屋に入ってきていた。

「ほいやっと」

そのチンチクリンは風音であった。

実は風音もルネイ同様にその隠し扉のことを知っていた。風音が侵入するのに使用した隠密スキル『インビジブルナイツ』や『空身』、それにアストラル体となって壁をすり抜けることも可能な『影世界の住人』でも今ルネイがいる部屋にこっそり入ることはできないが、隠し扉の先にある部屋に到達するのは難しくはないのだ。

「ルネイさん発見。まあ、先に部屋の中を様子見してたから他に誰もいないのは分かってたけどね」

そう言いながら、服に付いた埃をはたきながら立ち上がった風音にルネイが微笑む。

「どうやら、ダンジョンからは無事帰還できたようですね。何よりです」

「うん。まあライトニングが少し怪我しちゃって戻ってきたんだよ。けど、この状況だからね。癒術院に連れて行きたいんだけど、今は難しいよね?」

風音の言葉にルネイが難しい顔をした。

「難しいでしょうね。思ったよりも彼らは精鋭揃いですし、この街の軍では街の半分を犠牲にして籠城まで持ち込むのが限界でした。癒術院も占拠された中にありましたので、今はやっていません。それでライトニングの容態はよろしくないのですか?」

「あ、それは大丈夫。今の状況のままってわけにも行かないけど、急を要するわけでもないし。それよりルネイさん。今ってどういう状況なの?」

「まあ、見ての通りと言うところですが。この街を占拠しているソルダード王国軍はかなり強いようです。ここにくるまでに強くなければ生き残れなかった結果でしょうが」

ルネイの言葉に、風音はここに来るまでに見た兵たちの姿を思い出す。冒険者でいえばランクBクラスの実力はあるであろう相手もそれなりにいたし、見つからないように風音もかなり警戒しながらこの部屋まで来ていた。

「それで、こちらにきたということは何か考えがあるのでしょう?」

「うん。今直樹に領主様のところ行かせてるから、そちらと連絡を取って一気に街の奪還を……む!?」

話している途中で風音がとっさに扉へと視線を向けた。

「誰か来たね。隠れるよ」

そう風音が口にすると、ルネイの目の前で風音の姿と気配が消えると天井にトンッと何かが当たる音がした。それで風音が隠密スキルを発動させ、天井に張り付いたのだと察したルネイは、その姿を探すことはせずに扉へと視線を向ける。

「待たせたなギルドマスター」

そして、扉を開けて中に入ってきたのは、どこかで見たことのある仮面を被った小男バルカンであった。