軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八百八十七話 手袋を見よう

◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第八十階層群 第八遺跡前

「ふーむ」

十騎士との戦闘後。ライトニングとシャークキラーの面々をすべて発見した風音たちは、彼らを隠し部屋に設置した風音コテージミニで休ませて、自分たちは遺跡の探索を開始して、その戦果を遺跡前に集めていた。

「思ったより、不作でしたね師匠」

「本来であれば豊作といっても良いのだがな。まあ、売ればかなりの金額にはなるだろうよ」

そう話し合う師弟コンビの前には、発見したいくつもの武器防具があったが、特に装備を代えたいというほどのものはなく、それらはすべて冒険者ギルド買取となる予定であった。

「それにしても連中も全員無事で良かったぜ」

『何人かは捕まっていたがな。まあラヴァーソンが己の手駒を増やそうと部下に指示していたのだろう。そういう甘さがアレのダメなところなのだ』

『まあ、それで助かったのですからこちらとしてはありがたいですけどね』

レームの言葉にクワーックワーッと幼竜と幼鳥がダブルで鳴いている。ふたりはなぜか仲が良かった。その面々の前で唸っている風音にティアラが声をかける。

「それで、その手袋はどうなんですのカザネ?」

風音が先ほどから見ているものは、十騎士と戦う前に弓花が隠し部屋で発見した『強奪の魔手』という魔法具であった。

「うーん。強奪の魔手ねえ。こんなアイテム、私知らないんだよなぁ」

風音がその片手の手袋をジロジロと見ながら呟く。

全体的に黒いその手袋には細かく呪印が施されており、それらが禍々しいビジュアルを醸し出していた。だが、風音が気にしているのは、そういう部分ではない。

「姉貴。何か気にかかることでもあるのか?」

「そうだねえ。例えば鑑定メガネで見ると、リサの説明通りにスキルを奪えて、それを解除するにはアイテムを破壊するか、使用者を倒すか、取られた人間が死ぬか……って解説が出てくるんだけどさ」

「んー。死んで戻る? なんで戻るって分かるんだよ姉貴?」

「そこなんだよねえ」

死んだ人間にスキルが戻る。鑑定メガネでそう説明が出てきている以上、それは他の商人にも見れる情報なのでリサがその話を知っていること自体は不思議ではない。だが、それをどうやって判別したのかが風音には分からなかった。

『余のような者が試したのではないのか?』

一度死んで召喚体として復活したメフィルスがそう口にしたが、風音は「そうかもしれないけど」と前置いてから強奪の魔手をさらに凝視した。

「どうも死ぬことも前提にした相手……プレイヤー向けのゲームアイテムの説明のような気がするんだけど……ただ、ゼクシアハーツにはこんなアイテムなかったんだよね」

ゲームに出ていないアイテムを見るのは、別に珍しいことではない。むしろ、ゲーム内のアイテムを目撃することはそこまで多くはない。リアルな世界にはモノが多く溢れているし、ゼクシアハーツというただのゲームにはそこまでの情報量はなかった。

だが、目の前のアイテムはゲームシステムに則った説明があるゲームアイテムのようだし、かなり利便性の高そうなアイテムなのに風音はその存在を知らなかった。そこに微妙に歯切れの悪いものを感じていた。

(そもそも、そんなアイテムがあれば魔物のスキルもちゃんと判明してただろうしね。どういうことなんだろう?)

基本的に、風音が魔物から手に入れているスキルの多くは風音の知らぬものばかりであった。

それは風音がゼクシアハーツを熟知していないから……というわけではない。風音もプレイヤーが習得できるスキルやメガビームなどの名称が知られているものならば把握している。だが、それ以外の魔物所持スキルは本来ゲームにおいては内部データに設定されているだけでプレイヤーには見れないモノであった。

でなければ『おっぱいプラス』や『触手パラダイス』などといったあからさまにふざけた名前のスキルがプレイヤーの間で話題に挙がっていないはずがない。

(やっぱり私たちの『知らない』ゼクシアハーツが混ざっているのかもしれない)

それがどういった意味を持つのかは風音もここまでの状況から推測はできている。だが、その推測が事実だったとしても自分にできることはないと考えて、風音はひとまずはそのことを置いておくことにした。

「ま、考えてばかりも仕方ないか。よいしょっと」

それから風音は強奪の魔手を装備すると、近くにいた弓花の胸をグイッと揉んだのである。

「まっ」「おっ」

それを見たティアラが目を丸くし、ライルがガン見したが、風音は気にすることなく揉みしだく。それから五揉みほどしたところでガッカリした顔をして肩をすくめた。

「奪えない……か」

「奪うなッ」

ポコンと弓花が風音の頭を拳骨で叩いた。

「痛い。いや、急激な成長はスキルによる増幅効果なのかと思ったんだけど……」

「違うし。大体ゼロに何かけてもゼロなんだから、増幅じゃ意味ないでしょ」

「ぜ、ゼロじゃないもん」

風音が怒り、直樹が後ろでニマニマしている。直樹は姉の怒った顔も可愛いなぁ……と心底思っていた。エミリィに振られて、ティアラには同好の士として認められ、弓花は元から直樹の本性を知っているのだ。その上にレームは直樹に興味なしな状況であるため、直樹はあまり自重しなくなっていた。最悪である。

ともあれ、風音の怒り顔もすぐに消え、それから強奪の魔手を付けた腕でグッと拳を握って天へと掲げた。

「ま、それはそれとして『深化』ゲット!」

風音がそう言って、弓花が「あ、ヒドい」と声を上げる。リサの大事なものを試しに奪おうとした女とは思えない反応である。

「まま。ひとまずはスキルリストを見てみてよ。確認が必要でしょ?」

「むー。後で返してよ。絶対だからね。あ、スキルリストの『深化』が赤くなって、使用不可になってる」

弓花がスキルリストを見ると『深化』は赤く表示されていて、使用できない状態になっていた。そのウィンドウを風音も眺めながら、自分のリストの方を見る。

「こっちには表示されてないけど、こっちには出てるのか」

自分のスキルリストには入っていないが、装備リストの『強奪の魔手』のスキルセット欄に『深化』と表示されていた。その横には本来の所持者である弓花の名前も表示されていた。どうやらセット可能なのはひとつだけのようである。

「うーん。強奪っていうけど、これって多分だけどアイムの腕輪やユッコネエとの同期みたいに対象者のスキルを借りてる感じだね。ロックがかかって使えなくなるにしても、スキル自体を奪えているわけじゃないと思う」

風音の装備しているアイムの腕輪は召喚体から己のスキルを使用させるもので、ユッコネエは主である風音と同期して風音のスキルを使うことができる。そのどちらも風音からスキルを奪っているわけではなかった。

「で、それって使えるの?」

「うーんと。竜体化くらいかなぁ? ちょっと使ってみる」

「あ、風音。少し待って」

その弓花の忠告を聞く前に、風音がメキメキと変化していく。

「ちょっと、大丈夫?」

心配そうな顔の弓花の前で、15メートル級の青い水晶竜がその場に現れる。

『大丈……ぶ? むむ?』

そう口にしながらカザネドラゴンの瞳からは徐々に知性の光が失われていく。全身を覆う水晶の鎧がメキメキと伸び始め、より凶暴な姿へと変わっていく。

『母上。これですっ!』

そのときである。未来予測でその後の状況を察したタツオが知恵の実をカザネドラゴンに向かって投げて、それを食べるとカザネドラゴンの瞳に知性の光が戻った。

『は、危なかった。なんかバカになってた』

カザネがそう口にした通り、風音は『深化』により竜の野生が大きくなったために、知力が大幅に減少していた。スキル『精神攻撃完全防御』も精神に障害が発生したのであればともかく、自ら頭が悪くなっていくだけでは反応しないのである。

「もう、『深化』の反動は結構でかいんだから気を付けないと」

『失敬失敬。けど、やっぱり頭クラクラするし戻ることにするよ』

そう言って風音はドラゴンから元のチンチクリンへと戻った。

「あーしんどい。なんか知恵の実食べても頭軽い感じがする。どんだけ知力下がったんだろう?」

風音が恐ろしげに先ほどの状況を思い出す。思考から選択の幅が徐々に消えていく感覚にゾワッしていた。

場合によっては乳を譲らない親友を怒りのあまり攻撃しかねないところであった。

「まあ、けど効果の方は実証できたね。解除っと」

そして風音が強奪の魔手の効果を解除すると、弓花のスキルリストにあった『深化』の文字色が元に戻る。

「うーん。効果はあったけど、リサが言うように剣術自体を盗めそうではなかったね。盗めるリストに『閃』とか『転』とかはズラズラ並んでも『バーンズ流槍術』とかないし。まあ私は『ソルダード流王剣術』を持ってるから、そういうスキルがないってわけじゃないんだろうけど」

「ふーむ。恐らくはユミカの槍はワシ同様に流派に合わせたものではないからかもしれんな」

横からのジンライの言葉に風音が「そういうもの?」と首を傾げる。

「ふむ。それではカザネよ。次はワシのも見てみてはどうかな」

そう言ってジンライが「むんっ」と服を脱いで胸をはだけさせた。若返ったからか元からなのか、きれいなピンク色であった。それをグイッと風音に近づけたが、風音は少しだけ気まずい顔で首を横に振った。

「あ、ジンライさん。別に胸は揉まないからね」

「そうなのか? 男女では違うと言うことか」

首を傾げるジンライに風音がさっと強奪の魔手を使ったところ、弓花のときとは違って少しだけ間が空いてから弓花と同じように並び立つ槍術のリストが出たが、その中にひとつ目立ったスキルがあるのを風音は見つける。

「お、『 一角獣(ユニコーン) 』ってのがあるね」

「ほぉ。あれはワシにとっては特別なものだからな。しかし、アレを他人が使えるとは思えんが」

ジンライ流槍術『 一角獣(ユニコーン) 』はジンライが死の淵に瀕した際に開眼したものだ。それを己以外の人間が扱えるとはジンライには思えなかったが、一方で風音も不思議そうな顔をして、そのリストを見た。

「あれ、これは奪い取れないね。どういう基準なんだろ?」

風音が首を傾げる。ジンライの槍術のいくつかは奪うことはできるようだが、やはり『 一角獣(ユニコーン) 』だけは手に入れることができなかったのである。

それから風音は色々と調べた結果、『竜体化』や『精神攻撃完全防御』、それに直樹の『魔剣の支配者』などといったいくつかのスキルはロックがかかって奪うことはできないようだった。

その規準は不明だが、ともあれその手袋の応用力の高さについては全員一致で認めるものであり、どう運用するかを彼らは思案することになったのである。