軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八百七十話 仕合をしよう

◎ミンシアナ王国 白き一団訓練場

「ぬぅぅうおおおおおおっ」

『せいやっ』

ミンシアナ王国の山脈のどこかにある白き一団専用の訓練場。

その中の闘技場エリアでは刃と刃が交差しぶつかり合い、衝突で火花が散っていた。そして、打ち合う片方の槍使いはジンライだった。対して戦っているのはジンライがよく知る相手だ。

「なんというキレ。まったく以て感嘆に値する」

『貴様こそやるではないか』

そう言い合うふたりは、まるで互いが互いを知り尽くしているようだった。

ジンライは目の前の男へと槍を振るうが、そのすべてに対して相手も同じように槍を振るい、それらは完全に同じ動きとなっていて、互いに隙がほとんど見られない。

ここに至るまでにジンライはそうしたやり取りを何度となく繰り返し、そのたびに己の動きを修正もしていた。だが相手も同速度で動きに変化を加え、己の隙を埋めていく。ジンライと対峙する相手はジンライが勝てぬほどに強かった。

「ぬぅぅう」

『ふんぬっ』

しかし、どのような戦いでも何かしらの決着は訪れるものだ。

最後に槍の刃先を激突させ弾かれたジンライは体力の限界で力尽き、対する相手も魔力の限界のその場に崩れ落ちた。勝負はドロー。だが疲労のあまり地面に転がったジンライの顔は晴れやかだった。

「くっ、やるな」

『貴様こそな。まったくやるではないか』

それからジンライは目の前の男はその場に倒れながらも、笑ってそう讃え合ったのだ。そして、

「いや、キモくねえ。それ?」

その場にいたレームの冷めた言葉にジンライの熱も急速に冷めていった。ジンライと共に倒れているのは言うまでもなくメカジンライである。ジンライはここまで己の分身のような相手であるメカジンライと延々に戦い続けてきたのだ。言ってみればエアライバルとでもいうべき相手とジンライは語り合いながら戦っていた。

それからジンライは無言でメカジンライから己のアストラル体を自分の身体に戻すと、レームに視線を向ける。

「や、やる相手なのは確かなのだから」『よかろうではないか』

「いやいや、ジンライさん。漏れてる漏れてる」

「む!?」

その返しに、ジンライが自分の身体から飛び出した 己のアストラル体(ジンライゴースト) に気付いて慌てて身体の中に戻した。そして入りきるのを待ってからレームが問うた。

「で、ジンライさんよ。実際どうなんだよ? 相手が自分ってのは修行になってんのか?」

「当たり前であろう。まさしく客観的に己が見れるのだからな。自身の問題点も浮き彫りにできる。もう少し慣れればシップーを使っての訓練にも移せそうだ」

ワハハと笑うジンライだが、シップーは少し離れた場所で丸くなって眠っていた。今は早朝訓練後の追加の鍛錬であり、シップーは昼前の陽気には勝てなかったのだ。

「んー、そっか。けどまあ、あんま認識ズレちゃうと戻れなくなるそうだから気を付けろよジンライさん」

「分かっておるわ。ふふふ、お前も気にかかっているようだな。まあ、そうなってしまう気持ちも分かるが」

ジンライがチラチラとメカジンライを見ながらドヤ顔でレームにそう言うが、レームはジンライの仕草の意味が分からず首を傾げていた。

(ふむ。誤魔化しおって。まあ、若いということか)

一方でジンライは己のメカジンライを見てレームが嫉妬しているために気にかかっているのだろうと考えていた。何故かジンライにとってのレームとはパーティ内でのライバル的立ち位置となっていた。

しかし、ゴレムスキャノンなどという乗り込み型の旧式はすでに時代遅れ。今の流行りは憑依型なのである。ジンライはそう考えることで気分を良くしながら修行を終えて準備をしていく。

ちなみに憑依合体は危険な行為であるため、制作者のひとりでもある風音は、訓練中には必ず誰かがついているように指示していた。レームはその監視役を買って出ただけで他意はなく、つまりレームは仲間思いの非常に優しい娘ということであった。

そしてジンライは、レームと、義手シンディと合体し自立型に変わったメカジンライ、目を覚ましたシップーと共にアダミノくんの転移でゴルディオスの街に戻ったのであった。

◎ゴルディオスの街 白の館 中庭

「ジンライ殿はいずこにいらっしゃられるのか?」

ジンライが館の中庭へと転移すると、そこには風音たちがいてジンライの名前が上がっていた。それにジンライが訝しげな視線を向けると、転移に気付いた風音たちもジンライへと顔を向けた。そしてジンライは、その面々の中にいるはずのない顔が混じっていることに気が付いた。

「ヴァール・ニールセン殿……いや、違うか」

「い、今、転移。転移してきましたわよヴァリオ兄さま」

「ああ。もしや、じ、ジンライ殿だろうか?」

ジンライはかつての知己と似た顔の男がいたことに驚き、一方でヴァリオたちは転移で帰ってきたジンライたちに驚いていた。

ヴァリオとリサはポータルのことは知っているが、それはダンジョン限定のものだと考えていた。ダンジョンの中でしか転移を見たことがないために、そうした先入観があったのである。ましてや今の転移は歩くポータルとでもいうべき便利ゴーレムアダミノくんでの転移だ。風音たちがその反応に「あ!?」という顔をしていたが後の祭りであった。

「タイミングが悪かったか?」

少し戸惑っているジンライの言葉に、風音は肩をすくめた。

「いや、どっちかというとタイミングはいいんじゃないかな。ね、ヴァリオさん?」

風音へとヴァリオへと視線を送ると、ヴァリオも戸惑った顔からようやく落ち着きを取り戻し、ジンライに声をかけた。

「あ、ああ。いきなりで驚いたけど、あなたがジンライ殿ですね」

「うむ。そうだが、どちらさまかな?」

「はい。僕の名はヴァリオ・ニールセン。これは妹のリサ・ニールセン。我々はヴァール・ニールセンの孫です」

その言葉にジンライが目を細める。来るべきときが来たという顔であった。それから静かにジンライは頷く。

「なるほどな。今回の用件は、ヴァール・ニールセン殿の仇討ちというわけだろうか?」

その言葉にリサが反応するが、ヴァリオが制止する。

「いえ。ただ、祖父を倒した男を見ておきたく」

「なるほど。であれば目的は果たしたな。ではどうする?」

ジンライの言葉にヴァリオは少しだけ考えてから、口を開く。

「できれば祖父の最後をお聞かせ願いたい」

「語れるほどのものはない。偶然出会ったヴァール殿にワシが死合を望み、打ち破った。それだけよ」

その言葉にヴァリオが首を横に振る。

「ジンライ殿。僕たちは聞かされています。祖父が悪魔に魅入られていたことを。祖父は生前に我々に手紙を寄越していたのです」

その言葉にリサが眉間にしわを寄せ、風音たちの表情も硬くなる。だがジンライはまた首を横に振った。

「ワシの出会ったヴァール殿は、まごうことなき人の剣士であった。悪魔に魅入られた男などワシは知らぬ。ライトニングのヴァール・ニールセン。その男とワシは尋常に勝負をし、ワシが討ち取ったまで。その事実に余計なものはいらぬ」

ジンライのその言葉には、否定を許さぬ意志が込められていた。その言葉にヴァリオは、目をつぶって頭を下げる。

「ありがとうございます」

その言葉にはいくつもの意味が込められていたが、それを口に出す野暮はそこにはいなかった。ジンライを敵視しているリサでさえ、何も言わずにジッと耐えているようだった。その様子にジンライはさらに首を横に振る。

「礼など言らぬ。それでどうする?」

続けてのジンライの返しに、少しばかりキョトンとした顔のヴァリオが尋ね返す。

「どうする……とは?」

「ワシを見た。祖父の終わりを知った。であれば、お前はどうする? 何を望む?」

「試合っていただきたいと思います」

わずかな逡巡の後、ヴァリオは率直に答える。

「ヴァリオ兄さま。やはり、お爺さまの仇を」

「違う。それに……分かっているだろうリサ。僕が望むのはそういうことじゃあない」

そう言ってヴァリオが剣を抜いた。

「閃光剣ガルナー……」

それを見て風音が呟いた。その剣を風音はゲームで見たことがあった。その風音の言葉にヴァリオが少しだけ笑みを浮かべる。

「良くご存じで。これは大匠ヤス様が生み出した渾身の作と聞いています。祖父が振るったのは一度きりだったそうですが」

「その剣で戦い、お爺さまはランクSの称号を得たのよ」

リサが自慢そうに言うが、ヴァリオは首を横に振る。

「その言葉は確かですが、祖父は剣の力が強すぎると言って置いたんです。己を曇らせると……僕は未熟故にこれに頼ってしまっているのですが」

「まあ、ヴァール殿の気持ちも分からんではない」

ジンライにも覚えがある。己の力ではない、義手シンディの功績で得たランクSなど自分にとっては何の意味もなかった。どちらかと言えば己が義手の付属品になったかのような、逆に憂鬱な気分になっていた。

ジンライは後に己の力でさらにランクSSを勝ち取ったが、ヴァールにはその機会がなかったのだろうと察し、同じ気持ちを共有した者として心の中で哀れんだ。

それからジンライは、その場で正座している直樹を見た。

「ではナオキ。立ち会いを頼む」

「俺でいいんですか?」

直樹の問いにジンライが頷いた。

「ユミカ。お前はただ見ておれ。そして糧にせい」

「はい」

師匠の言葉に弓花が頷く。それから風音の横へと並んだ弓花が、風音へと尋ねる。先ほど風音が剣の名を口にしたのを聞いて、それが気にかかっていたのだ。

「ねえ風音。あの剣を知ってるの?」

「うん。結構な強武器だよ。閃光剣の名の通り、めっちゃ振りが速いの。その分軽いんだけど……ただアレがやすくんの造ったものなら、それだけじゃないはずなんだよね」

風音はジンライと向かい合ったヴァリオの剣を見て目を細めた。風音はやすが二重付与を完成させたと聞いていた。であれば、閃光剣への付与は斬撃の高速化だけではないはずだと読んでいた。

そしてヴァリオと向かい合ったジンライが少しばかり笑う。

「仇討ちなど望んでいない……か。なるほどな」

「何か?」

そう返したヴァリオの顔には、先ほどまでのどこか情けない表情はなかった。まるで凍り付くような殺気をみなぎらせていたのである。

「理屈では心を納得させることはできんということだ。それを表に現さぬのは、若いのに見事……としか言いようがないが」

対してジンライが隻腕で槍を構える。

「すべてを受け止めてやる。『殺す気で』かかってこい」

「仕合。始めッ」

そして直樹が手を挙げると、ヴァリオがすさまじい速度でジンライへと駆けていった。