軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八百六十八話 分担を決めよう

◎ゴルディオスの街 冒険者ギルド事務所 支部長室

その日、冒険者ギルド事務所には、街にいる冒険者の中でも高ランクパーティのリーダーたちが集結していた。

白き一団のリーダー、風音。

ブレイブのリーダー、ガーラ。

オーリングのリーダー、オーリ。

レイブンソウルのリーダー、オロチ。

ダインス天使騎士団の団長モーリア。

ライトニングのリーダー、ヴァリオ。

並び立つリーダーたちを前にして、風音はキョロキョロとそれらを眺めている。

当然のことながらその場にいるほとんどの者は風音の知り合いではあった。だが、その中にただひとりだけ、会ったことはないが以前に見た顔があった。

(ヴァニルさん……)

風音はその顔の人物の名を思い浮かべる。だが、その人物はもうこの世にはいない相手だ。

かつてリザレクトの街の大闘技会で出会った悪魔の力で若返った剣士ヴァニル。ライトニングのリーダーであるヴァリオはそのヴァニルと瓜二つであったのだ。

そのヴァニルの正体とはライトニングの二つ名を持つランクS冒険者ヴァール・ニールセン。悪魔の力を失い老人に戻った後、ジンライと戦って己の人生に幕を下ろした男である。

風音たちにはジンライがそのことについては話を聞かせていた。場合によってはヴァール・ニールセンの関係者から風音たちにも迷惑がかかる可能性があることを考慮して、説明をしていたのである。

だから目の前の男がヴァニルであることはあり得ない。そしてヴァリオのフルネームはヴァリオ・『ニールセン』だと風音は聞いていた。

(確か、お孫さんだったよね?)

似ているはずである。ライトニングは、ニールセン流剣術の門弟たちのパーティなのだ。さらにヴァリオはヴァールの孫のひとりであり、ここまでに圧倒的な速度でダンジョンを攻略し、彼らはすでに第七十階層まで踏破していた。

「ああっと。すみません。もう、始まって……はいないようですね」

そして最後にパーティドッグソルジャーのリーダーであるトールが部屋に入ってきて、呼ばれていた全員がその場に揃ったのである。それを確認した冒険者ギルドマスターのルネイが立ち上がり、口を開いた。

「どうやら揃ったようですね。お集まりいただきありがとうございます。この場にいるのは皆高名な冒険者パーティのリーダーの方々。第七十階層を越える実力のある方に限定して招集させていただきました」

そのルネイの言葉に、ヴァリオが挙手して尋ねる。

「元々、この集まりは二日前という話だったはずだが……遅れたのは如何様な理由か聞いてもよろしいか?」

「それは冒険者ギルドとしてもお答えできぬ事情によるものです」

「うちの事情だけどね。ごめんね。ヴァリオさん」

ルネイに続き、風音がそう返す。それにヴァリオが目を見開いて、それから少しだけすまなそうな顔をして「であれば仕方ない」と言って引き下がった。

「風音さんは秘密多いですからねえ」

そのやり取りを聞いていたトールの言葉に、オロチとオーリが苦笑いをする。風音を含む白き一団は、本当に表立って口にできない案件が多いのだ。今回の件にしてもハイヴァーン公国の首都が攻撃されて陥落しそうだったので助けにいってましたー、その後処理に追われて帰るのが遅くなってましたーなどとはさすがに口にできない。

とはいえ、ヴァリオもあっさりと引いたので、その話はそれで終わり、続けて本題へと移った。

そもそも彼らがこの場に集まった理由は他でもない。第八十階層群の攻略についての協力体制を結ぶためである。

「ライトニングとダインス天使騎士団はまだ第八十階層までを突破できたわけではありませんが、どちらも実力を考えれば問題なしとして、ダンジョンポータルを使っての第八十階層の攻略をお願いいたしました」

ルネイが最初にそう断った。

実のところ、冒険者ギルドは第七十階層台の攻略を嫌っていたのである。未知の兵器に未知の呪いはその扱いに困ってしまうし、宇宙空間という良く分からない即死トラップもあり、あのエリアは冒険者ギルドにとっては何もかもがイレギュラーで触れたくないものだった。その上にミンシアナ王国の女王が第七十階層台のアイテムの取り扱いに厳しく制限を付けてきていて、他国へと密輸しようものならば最悪死刑もあり得るのだ。

だが冒険者ギルドは、冒険者がダンジョンを攻略すること自体を止められない。そのため第八十階層群へのショートカットの選択を用意し、そちらに誘導することにしたのである。

「これは、上位パーティ同士による協力を以て第八十階層群の攻略を優先すべきと考えたからです」

そうした建前を口にしてからルネイは風音に視線を向けた。

「それではカザネ、例のものを」

「おいっす。これが第八十階層群の地図だね」

ルネイに促された風音がアイテムボックスから出した丸い球をその場に置くとフワリとそれが浮いた。この球体の内部には竜の心臓が入っていて、それにはフライの魔術が付与されている。無駄に性能の高い球であった。

そして、その球には地図が描かれていた。それらを興味深そうに眺める各パーティのリーダーたちに風音がドヤ顔で説明する。

「これが、第八十階層群の全体図だよ。実際の構造は球の内側だけどね。まあ、見辛いのでボールの外側に描いてみました」

その言葉にオーリが「へぇ」と言いながら眺めていると、ふと気にかかる部分があって指を差した。

「でも一部が描かれていないようだけど?」

「そっちは太陽の裏側で見えなかったんだよね。だからもう少しエリアを移動してみないと分からないと思う。そうなると他の階層エリアに入っちゃうし、一旦は切り上げてきたんだよ」

「なるほど」

オーリも第八十階層群は見ているので、その言葉の意味は理解している。あの場所には中央に太陽が存在しているのだ。光り輝くその先に恐らくは隠れたエリアがあるのだろうが、それを調べるにはまた探索を行い、近付かなければならない。

「そして、地図に描かれている大きな遺跡に、敵がいるということだったか?」

ガーラの問いに風音が頷く。

「攻略した遺跡の感じからして、各エリアの遺跡には十騎士っていうガルーダ族の戦士がいるんだと思う。んで、そいつらが落とした紋章を全部揃えると塔の入り口の扉が開くギミックっぽいんだよね」

「扉が開く?」

ヴァリオの問いに風音が「そうだよ」と返した。

「太陽に続いている塔の入り口に紋章をはめ込む場所があってね。入れたら 閂(かんぬき) のひとつが壊れて、残りの閂が九つになってた。だから同じことを九回繰り返せば開くんだと思う」

その言葉を聞いてトールが挙手する。

「風音さん。無理矢理に破壊ってのはできないんですかね。聞いた話では、その十騎士ってチャイルドストーン持ちではないんでしょう? だったら旨みも薄いし、スルーできたらしたいんですけど」

「うーん。破壊はオススメしないよ。やってみないと分からないけど、壊そうとすると門がドラゴンになって襲ってくるのは確実。ついでにいえばドラゴン自体が塔に変化したものだから、倒しちゃったらどうなるか分かんないし」

その風音の言葉にトールを始め、それ以外のリーダーたちも眉をひそめた。その中でヴァリオが挙手し、質問する。

「チャイルドストーン持ちではない魔物に、塔に変化した魔物。それらが本当の次の階層への道から目を逸らさせるためのフェイクの可能性は?」

「ないとは言えない。ただ、それにしては力を入れすぎてるから可能性は低いと思う」

風音も良く分かっているわけではないが、ダンジョンは内部で何かを行うには魔素などといった何かしらのリソースが必要なのだ。

カルラ王の状況を知っている風音としては、あれだけ力が注がれている十騎士がフェイクであるとは思いにくかった。

その説明に「なるほど」とヴァリオは頷くと、風音に対して「ありがとうございます」と返して手を下ろした。それを見たルネイが話を続ける。

「それではひとまずは各遺跡をパーティ『白き一団』、クラン『蒼の明星』、クラン『黒き牙』、ダインス天使騎士団でそれぞれ分かれて行動してもらおうと思っているのですが……ライトニングはいかがしましょう? 六名のいちパーティでは戦力不足だとは思いますが、いずれかに参加しますか?」

その言葉には、ヴァリオが「大丈夫だ」と口にする。

「人数の問題ならばシャークキラーに協力を要請している」

それは弓花と戦った、ルイーズの曾孫ジョーたち四兄弟のパーティである。その言葉にガーラが首を傾げた。シャークキラーのリーダーであるジョーはこの場にはいないことに疑問を感じたのだ。

「彼らは呼ばなかったのか?」

「呼びはしたのですが、第七十階層を独力攻略できていない自分たちにはこの場に参加する資格はないと」

「プライド高そうですからね。あの人たち」

トールが笑ってそう口にし、その人柄を知っている者が少しだけ苦笑する。そして、ルネイ主導でそれぞれの分担が決まり、風音たちはその中でもひとまずはふたつの遺跡の攻略を選択した。それは召喚カルラ王が指定した場所であった。その選択には他のリーダーたちも訝しげな視線を風音に向けていたが、白き一団は今回の第八十階層群の情報を集めた功労者であるために、反対意見が出るまでにはならなかった。

こうしてリーダーたちの話し合いも円満に終了しその場は解散となったのだが、その同時刻に白の館ではとある問題が発生していたのである。