作品タイトル不明
第八百六十五話 乱入をしよう
「死んだ……だと?」
崩れ落ちたライノクスを見て、オールドジンライが震えていた。貫かれた胸から流れる血は止まらず、血溜まりが広がっていく。それを眺めるオールドジンライの表情は、先ほどまでとは違って焦燥の色が浮かんでいた。
殺したことを後悔はしていない。だが、この結末はオールドジンライの望んだものとはほど遠かった。
掴んだと思ったものがこぼれ落ちていくのを感じながら、オールドジンライは唖然とした顔で口を開く。
「ライノクス。貴様は、ワシと決着もつけずに……ハガスを倒す方を選んだというのか……何故だ?」
そう呟いているジンライの頭上を、牙炎竜フォルネシアを中心とした騎竜たちが取り囲んでいく。黒竜ハガスはすでに魔力光を散らしながら消え去りつつある。であれば、彼らの今の敵はオールドジンライひとりだけだった。
そして、眼下に倒れているライノクスを見て、臣下である彼らが憤らぬわけもない。
「貴様。大公陛下をッ」
「囲め。まだ、動いているぞ」
「逃がすなよ」
口々に言い合って竜騎士たちは、オールドジンライと距離を詰めていく。飛び回るそれらに対して、オールドジンライは燃えるような瞳で睨みつけた。その眼光に宿っているのは憤怒だ。
「逃がすな……だと? ワシが退くと思うか?」
発せられたその一言に、ドラゴンたちが総毛立ち、それに乗る竜騎士たちの心も瞬く間に恐怖に染まっていく。
「そうか。分かったぞライノクス。貴様はワシとの決着よりも大公としての道を選んだということだな。であれば、それもよかろう」
受けた者が獰猛な獣に心臓を鷲掴みにされたような錯覚すら覚えるほどの圧倒的な怒気。それを発しながらジンライが笑って告げる。
「つまりは、我が敵は貴様が護ろうとしたハイヴァーンそのものだという……そういうことでいいんだなライノクス!」
それはもはや、ただの八つ当たりでしかなかった。しかし、その言葉に即座に反応できる者はいなかった。膨れ上がるオールドジンライの殺気に、竜騎士たちはみな完全に飲まれていたのだ。
そして、オールドジンライが殺戮を開始しようと一歩を踏み出したとき、天より幼き子供の声が響いた。
「落ち着けジンライ。余興の時間は終わりだ。まだこの国を滅ぼす必要はない」
その言葉と同時に無色の光が放たれる。それはオールドジンライの周囲にいるドラゴンたちへと降り注ぎ、その場で爆発と魔力煙が吹き荒れる。
それらの上空で、ゆっくりと光学迷彩を解いた殺魅一号こと竜帝ガイエルが飛んでいた。ガイエルはここまでの間、己は手を出さずにジンライとハイヴァーンの軍をずっと監視していたのである。
「腕試しももういいだろう。そろそろ帰るぞジンライ」
「何を抜かしておる。貴様の目は節穴か、ガイエルッ!」
しかし、帰ってきたオールドジンライの言葉はガイエルへの注意喚起であった。
それとほぼ同時にガイエルの瞳に映し出されたレーダーモニターが、下にいるドラゴンたちの無事を告げてきた。 魔法耐性(レジスト) を無視した無属性のレーザーレインによって、殺さぬまでも無力化できたはずのドラゴンたちが、まるでダメージを受けていない状態でその場を飛んでいた。
(残存魔力から……神力。同じ無属性の防御フィールドが張られただと?)
煙が晴れていくに従って、わずかな白い雷光が散っていくのが見えた。
「どういうことだ、これは?」
ガイエルが呟く。同じ無属性の防御フィールドであれば、確かにガイエルの攻撃は防げるだろう。だが目の前にいるドラゴンたちの中で一番成長している個体ですら成竜だ。神力を扱える神竜に届くドラゴンなどその場にいるはずもなかった。
そう、考えたときだった。ガイエルは上空から凄まじい速度で何かが迫ってくるのを感知した。
「チッ」
構成物質はアダマンチウム。それだけは辛うじて把握したガイエルは、プラズマシールドを発生させて攻撃を逸らした。だが、その恐ろしく重い一撃にシールドごと揺さぶられて空中での姿勢が大きく崩れた。
「外した!?」
「残念。さっさと 解放神狼(リバティフェンリル) 化して弓花。こっちも準備するから」
そしてガイエルの頭上から、ふたりの少女たちの声が響き、直後に四メートル半を超える黄金の翼を生やした巨大な銀狼が出現したのだ。それに対してガイエルがとっさにレーザーレインを放つが、
「スキル・雷神の盾!」
その攻撃は白い雷の壁によって防がれた。ガイエルは、それこそ先ほどのドラゴンたちを護ったものであると把握する。
「お前たちとは戦うなと言われているんだけどな」
そう言いながらもガイエルは嬉しそうに上空にいる敵を見た。
槍を持った巨大な有翼銀狼の背後から剣で造られた東洋竜が出現したのがガイエルの水晶眼に映し出される。それは空中で分解して二百本の剣となり周囲に展開し、そのままガイエルへと全方位攻撃を開始し始めたのである。
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「キィィイサマァアアアアアアッ!」
そうして上空でガイエルと風音たちが戦闘を開始している一方で、城の屋根の上では生身のジンライがオールドジンライへと突撃していた。その勢いに押されつつもオールドジンライが笑った。
「まさか。貴様がここに現れるとはな。どういう仕掛けだ?」
「ハッ。ポータルを破壊しおったな、間抜けが。カザネのナビが教えてくれたぞ。ハイヴァーンのポータルが戦闘で壊されたとな」
「そういうことか」
オールドジンライが、なるほど……と頷いた。
先ほどのライノクスの一撃。黒竜ハガスを貫通し、そのまま床に落ちたにしては軌道がおかしいとオールドジンライは感じていたのだ。
ライノクスの持つ神槍グングニルは、投擲後に自在に動かす力があるという。それをオールドジンライは警戒もしていたのだが、そのまま中庭に落ちたので操作に失敗したのだろうとも考えていた。だが、ライノクスの狙いは最初からポータルだったのだ。今ある危機を風音たちに告げる。それがライノクスの判断だったのだ。
「なるほど。ライノクスは自らポータルを破壊して、お前たちを呼び寄せたというわけか」
であれば……とオールドジンライが倒れているライノクスを見れば、案の定そこには直樹とライル、それに英霊フーネがいた。そして、ライノクスを治療しているようだった。
「ふん。治療を得意とする英霊だったか。アレであっても我が槍を受けては回復しきれるかどうか。だが、ここで口直しに貴様とまみえるのも面白い」
「黙れ。貴様はここで」『死ねっ』
そのジンライの言葉と共に、屋根が破壊されて下から何かが飛び出してきた。
「ぐぬっぉぉおお!」
その唐突な一撃はオールドジンライの腹部を貫き、魔生石の体にヒビを入れる。そして、天井を貫いて一撃を放ったのはメカジンライだった。
「城の天井を突き破って、ワシに一撃を与えただと? なんだ、これは?」
『喋るな』「死ねと言っただろう」
メカジンライとジンライの言葉に、オールドジンライは状況が分からず、更なる攻撃を受け続けて、魔生石の欠片を散らせる。
ここ最近はオールドジンライも情報収集もしていなかっただけに、メカジンライのことを知らなかった。
何も知らず、その上に集中力に欠いた状態でメカジンライの奇襲を喰らっては、さしものオールドジンライでも防ぐことはできなかったのだ。
「こなくそっ」
それでもオールドジンライはとっさにメカジンライを強引に蹴って、ふたりのジンライから離れる。
だが、敵はジンライとメカジンライだけではない。
『お覚悟を』
「主の 命(めい) だ」
左右の物陰からナビ操作によるジュエルカザネローパーと龍神の片手斧を振るうゴブリンゴッドキングのキングが、オールドジンライへと襲いかかったのだ。
「チィッ」
オールドジンライは同時に二槍を振るってそれらを弾き飛ばす。その攻撃でジュエルカザネローパーは 魔金剛石(マナダイヤ) の身体にヒビが入ったもののすぐさま修復し、キングは龍神の片手斧で攻撃を受け止めて無傷であった。
「カザネたちの指示か。退けと言っても退かんだろうな」
その二体をジンライとメカジンライがひどい剣幕で睨むが、ローパーとキングはそれぞれぼつりと口にする。
『上空の敵のこともありますので』
「全力でこちらを止めろと言われている」
それにジンライも歯軋りするが、今は決闘の時ではないのはジンライ自身が一番分かっていた。だから罵倒の言葉をとっさに抑えて、オールドジンライへと槍を向ける。
そして、彼らの上空では今まさに無数の光球が輝く、凄まじい砲撃戦が展開されていた。