軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八百四十八話 家族と会おう

◎ゴルディオスの街 北門

「よーしっと。荷物はオッケー。人数もオッケー。えーと仁美は残るんだったな?」

『ごめんね、やす。やすのことは愛してるけど、私はここでやるべきことがあるから』

ゴルディアスの街にある北のトゥーレ王国に通じる街道で、やすが曾孫のカダスや従者たちと出ようとしている中、JINJINはそう言ってハンカチを振っていた。

他にもその場には、風音たちやバトロイ工房の面々もいた。また、直樹やジンライたちもいる。意識を取り戻してからすでに五日経ち、彼らもようやく元の調子を取り戻しつつあったのである。

そんな彼らの前でやすが呆れた顔でJINJINを見ている。

「お前、やることって言っても温泉巡りじゃねえか」

『何よー。女の子にとっては何よりも大切なことなのよ。お肌がつるっつるになったらやすも嬉しいでしょー? こことかもすべすべよ?』

口を尖らせ、おっぱいを突き出すJINJINに、やすは何とも言えない顔をした。思わず掴もうとしてしまったが、大勢のいる前である。自制せねば……とやすは我慢したのだ。

そのふたりの横では風音が「まあ、JINJINはひとりで転移で帰れるしね」と口にする。

「というか、JINJINひとりならやすくんより早く帰れるもんね。後、やすくんもビーコンは忘れずに持ってるよね?」

「おう。これだろ」

やすがアイテムボックスからチャイルドストーンがはめ込まれた箱を取り出した。

『それ、なーに?』

説明を聞いていなかったか、聞いていても聞き流していたJINJINが首を傾げて、尋ねた。そのアイテムは、この場にいる他の人間も知っている者は少ないようだった。

「ビーコンだよ。転移魔術を仕込んであるの。このクラスのチャイルドストーンじゃあ、マッスルクレイの魔力蓄積がないと転移できないけど、座標を発信する装置には使えるわけ。 魔力の川(ナーガライン) が薄くないとこ限定になるけど」

風音の説明にJINJINが「へー」と言ってビーコンを眺めた。

「そういうことだ。こいつを持っていてメールで連絡取りゃあ、風音かアダミノくんが転移してやってくるって訳だ。便利なものだな」

やすの言葉に風音がドヤ顔になったが、ドヤるだけのものではある。これも転移魔術の応用で、風音は各国に事前にビーコンを送っておくことで、長距離ポータルの移送を瞬く間に行っていた。

それからやすがビーコンを仕舞うと弓花が少しだけ寂しそうな顔を見せた。

「けど、寂しくなりますね。最近では工房にいるのが普通って感じでしたし」

「まあ、俺が帝国に着いたら、とっとと長距離ポータルを設置して毎日これるような形にしておくさ。そうなりゃあ、色々と忙しくなるぜ。弓花も、それにジョーンズもな」

やすの返しに弓花は「えー」という顔をして、親方が「オッス」と返していた。神々の雷炎を扱う鍛冶の巫女と鍛冶師。そのふたつのネームバリューだけでも恐らくはボンゴ帝国中を激震が走ると思われた。

そして、ふたりの反応を笑っているやすを、風音がジト目で見ながら呟いた。

「んー。その時は、苦情を皇帝様に言うべきかなぁ」

その言葉にやすがビクッとなる。

「な、なんだよ風音。大丈夫だって。こっちの魔具工房がなんとかしてくれるだろ? な、なあジョーンズ?」

「へ、へい。多分……」

そして、ふたりが冷や汗を流し始めたが、そのやり取りは龍神の大剣の件に起因する。案の定というべきか、ふたりはやり過ぎていたのだ。

結果として活性化した神力を龍神の鱗(空)では抑え込めず、現状ではロクテンくんで握ることすら不可能となっていた。

「それで、ちゃんと使えるようになるならいいんだけどねえ」

風音が眉をひそめて、ため息をついた。

現在、龍神の大剣は龍神の斧同様にマジリア魔具工房に運ばれていて、神力の浸食を抑えるべく対策を取っているところである。

実はムータン対策として神具をベースに神力を抑える技術を親方は開発していたようで、龍神の斧の柄に使用されたのもそれであった。だが、竜神の大剣はそれだけでは抑えきれなかったため、今は別の対処が模索されていた。

ともあれ、やすも忙しい身だ。すでに滞在期間の予定をオーバーしていることもあり(これは主にJINJINが道中に寄り道していたためである)、大剣の結果を見る前に街を出て、ボンゴ帝国へと帰ることとなっていた。

風音たちが見送る中、やすたちの乗る馬車は北へ向かって、進んでいく。

それらを見送った風音たちはその場で解散となり、白き一団のメンバーは白の館へと戻っていった。

別れがあれば出会いもある。今日はやすが帰る日でもあったが、同時に久方ぶりの人たちと再会する日でもあったのだ。

◎ゴルディオスの街 白の館 中庭

「あなたーー」

そして、風音たちが白の館に戻ると、中庭からトテトテと愛らしいといっても良い女性が歩いてきた。

よく見ればそれなりの年の女性だと分かるが、姿や身なりからは少女のような印象を受ける。また、その腕には赤子が抱かれていた。

その人物の名はシンディ。ジンライの奥さんであった。

「おお、シンディではないか。ジライドやマーリスも。後ライノクスもおるのか」

「もおるのか……ではないぞジンライ。というか俺はライノーだ」

中庭にはシンディ以外にもジンライの子供であるジライドやその妻のマーリス、さらには謎の仮面の槍使いが立っていて、その周囲にはハイヴァーン公国の護衛らしき兵たちも並んでいた。

「そんなことよりもあなた、ほらほら。私たちの子ですよ。ジライドの弟。ジライアです」

「おお、こやつがか。でかしたぞシンディ」

ライノーが「そんなこと……」とぼやいている前で、ジンライが赤子をシンディから受け取って抱きしめる。

「ふむ。やはり血か。ジライアはジライドの赤子の時によく似ておるな」

ジンライがジライアをしげしげと見ながら呟き、それを聞いたジライドが何とも言えない顔で笑う。

「みな、そう言うのですが……そんなに似ておりますか父上? ライルの時も言われていたのですが」

そのライルはエミリィと共に母マーリスの元に駆け寄っていた。そのライルやエミリィを見ながらジンライが「まあ、そんなものだろう」と返した。

「それにしても、よく泣くジライアが凄く嬉しそうに……ジライドもそうでしたが、父親と分かるのでしょうねえ」

シンディがコロコロと愛らしい笑みを浮かべながら、ジンライとジライアを見た。

生まれたときにも立ち会わず、一ヶ月以上経ってからの親子の対面であるが、ジライアはジンライに懐いているようだった。ジンライは、不思議と子供に好かれる体質なのである。

「あ、ジンライ師匠。これ、どうしたんですか?」

そして、ジンライがシンディたちと話していると、門の外から声をかけてくる男がいた。

「え?」

その姿に驚いたのはシンディだけではない。ジライドもマーリスも目を丸くしてその男を見ていた。

門の外にいたのは、今や十代の身体となったジンライとほとんど瓜二つの姿見のカールであった。

「おお、カールか。お前とも久しぶりだな」

「お元気になったと聞いて、ご挨拶に来たんですが……その、邪魔でした?」

「いやいや、邪魔であるものか。同郷であるお前にも紹介しておきたかったしな。ほれ、ワシの子たちとワシの妻だ」

そう言ってジンライが赤子をあやしながら、シンディたちを紹介する。

そのあまりにもジンライに似ている容姿に、シンディとジライドが驚きながらも挨拶を交わすと、ジンライはジライアを自慢するかのように見せながらカールと話し始めた。

それを見ながらシンディが近付いてきた弓花に声をかける。

「お久しぶりねユミカさん」

「はい。シンディさん、ジライドさんもお久しぶりです」

その言葉にジライドも頷く。それから一緒にやってきた風音とも挨拶を交わした後、シンディは視線をカールに向けながら弓花に尋ねた。

「ところでユミカさん。あの、あそこにいるうちの人にそっくりな若い方はどなたなの?」

「え? ああ、ソラエの村出身のカールさんですよ。なんでも師匠の幼なじみのお孫さんだそうでして、同郷だからか、あのふたりって妙に似てますよね」

笑顔で弓花はそう答えたが、横にいた風音がスッと顔をシンディから背けた。目を合わせられない。にこやかな家族の団らんの前にとんでもない爆弾が転がっているのを風音は理解している。ルイーズがいない今、風音はその話題をさばける自信がなかった。

そして、その風音の反応をシンディが気付かぬはずがなかった。

「カザネさん?」

「ひ、ひゃい。いや、何も知らんですよ。私は……はははは、さよなら」

黒い笑顔になったシンディに風音はそう返して、その場を逃げ出した。

しかし、風音は回り込まれた。

風音は逃走に失敗した。