作品タイトル不明
最強の斧
◎ゴルディオスの街 バトロイ工房
「できちまいやしたね」
「完璧な出来だ」
バトロイ工房内では、親方とやすのふたりが魂の抜けたような顔でソレを見ていた。
「やり過ぎちまいやしたね」
「完璧すぎた」
二人の前にあるのは神々の雷炎によって造り上げられた、龍神の鱗を材料とした龍神の斧。
かつては棒に草紐で結びつけただけだったその斧は、今ではどこに出しても恥ずかしくないほどの出来栄えの片手斧となっていた。
「本当に今までに見たこともないほどの逸品ですね。眺めているだけで圧倒されるような迫力があります。神力が溢れているのが分かりますよ。今もこの手からも微弱ながら神力が流れていますしね。これを 聖痕(スティグマ) と言うんでしょうか?」
やすの従者であるノーダインが疲れ切った顔でそう言う。そのノーダインのそれぞれの手には奇妙な幾何学模様のような痣ができていた。龍神の斧を造り上げた際に付いたもので、どうやら神力を宿しているようだった。
「けど。これ……使い手、出ないと思いますよ」
「ああ、やっちまったな」
「ええ、やっちまいましたね」
やすと親方がやりきった顔とやり過ぎた焦燥感に駆られた顔でノーダインに返す。
弓花の持つ神槍ムータン同様に、いや、ムータンに比べて二人分の暴走がかかった龍神の斧は、あまりにも強力な武器と化していた。神力を抑えず解放した造りになっていて、常人で扱うことはもはや不可能であった。
それは親方とやすが神力に精神を侵され、トランス状態で打ち込んだ結果できてしまったモノである。
ノーダインは途中で放棄したが、やり遂げた親方とやすの腕の痣は大きく広がっていて、今やノーダイン以上に神力を宿した神の手と化していた。
「だから言ったじゃないですか。ふたりとも、人の話をまったく聞かないんだから」
斧を設計したノーダインがそう言って嘆いている。
もはや自分が予定していたものとは別物の斧ができていたのだ。それは親方とやすが武器の声に耳を傾けて性能を限界まで引き上げただけあって、見事な完成度であったが、一方で大きな問題も抱えていた。
「けど、最高の出来なん……だぜ?」
「最高だっていっても、使い手のいねぇ武器なんぞゴミも同然だ……って言ったのヤス大匠様ご自身じゃないですか? なんで自分も暴走してんですか!?」
「うるせえ。弓花のオーダーはこいつに宿るゴブリンの武器なんだから良いんだよ。どうせ、武器に宿ってる魔物だ。いっしょに成長してるさ! してるよな?」
「多分……」
親方が若干自信なさげに返した。
武器に宿っている召喚体は、武器の進化と共に性能が向上する傾向にある。つまりは、中に宿るゴブリンゴッドキングも併せて進化しているはずである。
「まあ、ユミカもムータンを使いこなしつつある。だから、宿っているキングもちゃんと使いこなせるとは思いますが、今後この斧を使えるヤツが出ますかねえ」
「ぶっちゃけ、よほどの相手でないと無理だろうな。うちの皇帝陛下でもどの程度扱えるのか……ってとこだな」
「オルディア皇帝陛下ですかい。凄まじい腕の戦士とは聞いてやすがね」
ドワーフ族を中心としたボンゴ帝国の皇帝オルディアは素手でドラゴンを組み伏せたとも言われている男だ。その実力はJINJINと素手でやり合えるほどであった。
「それで、その皇帝陛下宛のものは、あのナイフで良いんですかい?」
そう口にした親方の視線の先にあるのは、神聖銀のナイフであった。
弓花の蛇蝎銀が変化した神聖銀を使用したもので、神々の雷炎で焼いて加工したものだ。それは神々の雷炎の力を見せるために、用意された一本だった。
「十分すぎるだろう。なあ?」
「ええ、あれであればジョーンズの腕も納得でしょうね」
やすの言葉にノーダインが頷いた。やすといっしょに暴走したことはともかく、すでにノーダインもジョーンズの実力自体は信頼しているようだった。
そして龍神の斧を眺めている親方たちの耳に外からガスンガスンという足音が響いてきて、子供が扉を開けて部屋の中に入ってきた。
「どうしたカダス? と、仁美もいっしょか」
「はい、そうです。おお、これが例の斧ですか。これはまた腕を振るいましたね大匠様」
『やっほー』
そう口にした曾孫のカダスとJINJINに続いて、後ろからモンドリーと何かを抱えたロクテンくん、鍛冶師型ゴーレムのスパーク号が部屋に入ってきた。
「ロクテンくん。風音の 僕(しもべ) の一体か」
やすが「羨ましい」という顔でロクテンくんを見ている。ロボットは男の夢なのだ。そして、その横で親方がモンドリーに尋ねる。
「おう、モンドリー。スパーク号はどうだ?」
「はい。上々です。覚えは並の新人くらいですが、一度覚えるとミスらなくなるのは良いですね」
ゴーレム兵製造のため、モンドリーは親方からスパーク号を借りていたのである。
「大匠様。これ、うちでも欲しいです」
「んー。ゆっこと陛下次第だろうなぁ」
「マッスルクレイやゴーレム魔術はミンシアナの秘匿技術になってやすからねえ。簡単にはあげられませんし。で、モンドリー。そのロクテンくんの担いでるものはなんだ?」
親方の言葉を受けて、モンドリーが「あ、はい。ちょっと待っててください」と返し、ロクテンくんに抱えているものを下ろすように指示を出す。それからロクテンくんによってテーブルに乗せられたソレの正体は、大人ひとり分ほどの大きさもある人型の金属フレームであった。
「親方がそっちの斧で忙しかったんで、こっちで請け負ったカザネ依頼の人型ゴーレム兵ですよ」
「あいつ、また造るのかよ」
親方が呆れた顔で言う。すでに風音のパーティ白き一団は召喚体を含めればクラン相当の規模であり、戦力だけで言えばどれほどのものかも想像できないレベルとなっている。
その上にさらにゴーレム兵の追加である。親方が呆れるのも無理はない。
「ひとまずはタツヨシくんの予備パーツで仮組み立てしたものです。タツヨシくんケイローンが破損してるんで、それの修理をしてから取りかかることになりますが……」
「おいおい。あの頑丈なケイローンが壊れたのかよ」
『ケイローンに穴を開けたハイバグモーフの爪も強力だからねえ』
少し驚いた親方にJINJINがそう返す。
JINJINも直接戦闘はしていないが、ハイバグモーフの爪攻撃は非常に強力なものなのだ。
フューチャーズウォーの主人公はゼクシアハーツのプレイヤーに比べて身体能力か常人に近いため、攻撃を受ければ即死も多かった。その実力を知っている上に近接戦が苦手なJINJINとしては、あまりやり合いたくない相手だと考えていた。
「なるほどな。大きさはジンライくらいってところか」
「ええ、まあ」
その用途について、モンドリーはジンライが憑依して使うというよく分からない説明だけを受けている。
そのことをうまく説明できる自信がなかったために、モンドリーはこの場では曖昧に返事をしていた。
「で、ですね。魔導線を多く使用して反応速度を上げる必要があるそうで、その許可を……と思ってきたんですよ」
「ああ、そいつは問題ねえがな。俺たちゃ、今度は龍神の大剣の鍛え直しをする。だから作業はそっちに任せることになりそうだ」
そう言って親方がロクテンくんの背の大剣を見た。
それは龍神の鱗をみっつ繋げて、アダマンチウムのフレームで繋げただけの無骨な武器である。
神々の炎、竜炎であっても鍛えることはできなかったが、神々の雷炎であれば可能なのは龍神の斧で分かっている。
「今度は風音がロクテンくんで使うわけだから、無茶はできねえな」
「……ですな」
やすと親方が頷き合い、ノーダインがため息をつき、それ以外は首を傾げていた。そして、龍神の大剣が完成するのは、それから十日ほど経った後のことだった。