軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八百四十四話 黄金郷へ行こう

◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第七十九階層 隠し部屋

「オーライ、オーライ。よし、そこでストップ」

風音の指示に従って、サンダーチャリオットを牽いたヒポ丸くんが隠し部屋の真ん中で停止した。その馬車の中にいるのは直樹やジンライ本体、ライルやギャオたち、つまりはバグモーフに仮死状態にされている面々だ。

彼らは第七十七階層の隠し部屋から、ダンジョンポータルが近い第七十九階層の隠し部屋に移動されてきたのであった。

「ふぅ、これでやっと一段落だね」

風音がそう言ってひと息つく。他のメンバーも安堵の顔を見せていた。

今はマザーバグモーフ、リトルバグモーフを倒してから約一日後。最短ルートを通ったとはいえ、通常のバグモーフを退けながらここまで来るのは骨の折れる作業であった。

「弓花、ジンライさんの様子はどう?」

「んー、今は落ち着いてる。ようやくアストラル体が身体に定着したみたい」

馬車の中から顔を出した弓花がそう返す。その弓花の隣で寝ているのは、義手を付けた状態で横たわるジンライ(生身)であった。その返事に風音も頷きながら、共に歩いていた魔術師のオルトヴァに声をかける。

「オルトヴァさん。ひとまずはあれでいいんだよね?」

「ああ。肉体に魂……アストラル体が固定されたのであれば今は安心だろう。とはいえだ。完全に繋がりが断たれれば、ジンライ殿の魔力では通常であれば三日と経たずに死んでしまう。あまり無理はしないでもらいたいものだな」

「そう思うと結構ギリギリだったんですね」

弓花が恐る恐るそう口にした。

肉体から離れて二日ほど経っていたジンライ(生き霊)は、すでに肉体とアストラル体とはズレ始めていた。だが、心を静めて肉体と同化するように促したことで、どうにか再び融合することに成功していた。

「ま、仮死状態だったから、もう少しは保っただろうが。それに一度アストラル体が離れると癖になるからな。それにも気を付けないといけない。まあ、それを特技とする者もいるから一概に悪いとも言えんが」

そう口にするオルトヴァに弓花は「はぁ、そうですねぇ」と微妙に言いよどんだ返事をする。

実のところ、ジンライからすでに憑依を利用した武器についての話は上がっていた。弓花が「危ないですし」とは言ったのだが、己の提案に興奮しているジンライを落ち着けるためにも、ひとまずは風音も了承していた。

(……憑依用のボディかぁ)

そのジンライの提案とは、ジンライが憑依して使用する専用ゴーレムボディの作成であった。

動力はジンライが土下座して弓花から譲ってもらったリトルバグモーフのチャイルドストーンを使用する予定であった。また、パナシアの雫購入以外には散財らしい散財もしていなかったジンライには、材料費と人件費を出す費用も十分にあった。

(まあ、やるからには凄いのを造りたいとは思うけど……そこらへんは親方に相談して考えてみるかな)

そもそもが憑依人形は人形遣いの技のひとつであり、可能であることは風音も分かっている。

後はジンライが再び憑依することが可能か否かということと、実際にどの程度動かせるのか……ということであった。

「ま、後は地上に戻ってからだなぁ。それにしても今回はあんまいい素材は手に入らなかったね」

そう口にした風音に弓花も肩をすくめて頷いた。

「まあ、バグモーフの素材ってよく分からないものね」

今回のバグモーフ戦での成果だが、思ったほど実のあるものではなかった。何しろ倒したバグモーフから取れる素材は硬い爪ぐらいしかない。他の部位でも使えるものがあるかもしれないが、鑑定メガネでも識別不可能だったために、風音たちでは判別する手段がなかった。

なので、ひとまず風音はマザーバグモーフとハイバグモーフの亡骸を水晶化で固めて保存していて、後で冒険者ギルドに鑑定してもらう予定となっていた。

『フラグよ。これ、絶対にフラグよ。腹が裂けてグワーッてやられるわよ。マジで』

「まあまあ、大丈夫だよ。きっちり固めてあるしさ」

JINJINがガクブルしていたが、風音はその忠告をきっぱり無視した。冒険者としてのお仕事を映画のお約束だから……という理由で放棄するわけにもいかない。

「けど、バグモーフはともかくこの盾とかは便利そうだし、悪くはねえよ」

そう口にしたのはレームだ。

実のところ、風音たちが今いる第七十九階層の隠し部屋からはプラズマシールドという盾が手に入っていた。バッテリーが必要だが、防御力はかなりのモノがあるソレはゴレムスキャノンに回されていた。

また、この階層にあったマシンナーズソルジャー用の弾薬庫から大量の銃や弾薬も手に入ったため、スナイパーライフル使いのタツオとしても満足のいく状況だった。

「そうだね。私も新しいスキルを手に入れたわけだし、バグモーフの素材以外は悪くない結果だったと思うよ」

そう口にした風音が新たに手に入れたスキルは『Wall Run』と『Inflammable Gas』のふたつだ。

そして『Wall Run』はパッシプスキルで『壁歩き』のような発動を必要としない上に加速補助が付いているため、むしろ地上を走るよりも速いという利点があった。

バルーン型バグモーフから入手した『Inflammable Gas』は可燃性ガスであり、炎系統の攻撃の威力を上げることができる。またメゾトルの森で手に入れた『神の雷』と『雷神の盾』の実戦使用も悪くない結果であった。

そして、ひと息ついたところで風音たちはコテージの浴場で汗を流し、それからリビングに集まって今後の方針を決めるミーティングを始めたのである。その議題は、第八十階層のダンジョンポータルについてであった。

◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第七十九階層 隠し部屋 風音コテージミニ リビング

「そんじゃお疲れー」

風音の声に全員がお疲れと返し、手に持ったグラスの飲み物を煽る。

この場にいるのは風音、弓花、エミリィ、レームにJINJIN。それにオーリたちやアンナたちといったクラン『蒼の明星』の中でも仮死状態にはなっていないメンバーである。

「お疲れっていっても俺らは何もできなかったけどな」

「そんなこともないよ。実際に第七十七階層からマザーバグモーフを退けたのはオーリさんたちの攻撃だったみたいだしね」

オーリの自嘲混じりの言葉に、風音がそう返す。

あのマザーバグモーフは倒しては逃げてを繰り返すタイプの敵だと風音は見ていた。その認識から言えば、初戦は直樹たちが捕らえられたものの、結果としてオーリたちはマザーバグモーフを第七十八階層に追い返すことには成功していたともいえたのだ。

「ま、それよりも今後のことだよ」

「ああ、次の階層。第八十階層のダンジョンポータルを使って、地上に戻るという話だな」

オーリの問いに風音が頷く。

「でも前回と同じなら、今回もまた風音ひとりでの戦闘があると思うけど大丈夫? ロクテンくんは今、地上でメンテ中よね?」

弓花の言葉に一同の顔が少し暗くなった。

ここまで風音たちに助けられた上に次も風音ひとりに負担をかけることになるのが心苦しい……というところであったが、こればかりはどうにもならないことだ。

ダンジョンポータルは、カルラ王からの風音への贈り物であり、オーリたちは挑戦する資格すらない。

「とは言ってもさ。今から第七十階層に戻る方が危ないよ」

動けないメンバーを運びながら二階層分の移動をするだけでも骨が折れる作業だったのだから、第七十階層まで戻るのも厳しいというのは、風音に言われるまでもなく誰もが理解していることだった。

「何とかはなると思うよ。最悪、切り札を使うしさ」

そして、当の風音本人はあまり気にした様子もなくお茶をすする。どのみち風音は直樹を早く医者に見せるためにも退くつもりはないのだ。だから、オーリは苦笑しながらも風音の案に乗るしかなかった。

それから風音たちは翌日、予定通りに第八十階層まで進んでいく。途中でマシンナーズソルジャーたちの襲撃を二回ほど受けたが、元々第七十九階層は他の階層に比べてあまり広くはなく、それほど労せずに第八十階層の出入口に辿り着くことができた。

宇宙基地には不釣り合いな遺跡のような扉を開けて階段を降り、そして辿り着いた先で一同は声を上げた。

◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第八十階層

「おぉ!?」

その先には、大地が広がっていた。その先には森と遺跡らしきものの姿もある。そこは紛れもなく地上であった。だが、風音たちが見たのはそれだけではなかった。

「え、ドラゴン? 蛇みたいなヤツだけどデケエ」

「大きいわね」

彼らの前を突然巨大な東洋竜が通り過ぎていったのだ。さらに東洋竜が先にあった遺跡に突撃すると、途端に空間が歪んで別の大地が出現したのが見えた。

続けて東洋竜が出現した大地の遺跡に入ると再び大地は広がり、それが何度となく繰り返され、やがて球体の内側のような世界が風音たちの前に現れた。空を見上げれば太陽と空がある。だがその先に間違いなく地続きの大地もあった。

「なんなのよ。これ?」

弓花が呆気にとられた顔のまま呟く。それはこの場にいる全員が同じ思いだった。目の前で起きた現象は彼らの想像を超えていて、何が起きているのかまったく理解できていなかった。

だが、その現象を起こしている東洋竜は、そんな風音たちのことなどまったく意に介さずに再び姿を現わすと、やがて空の中心にある太陽へと伸びて、そのまま巨大な塔へと変わっていった。

「風音。あのドラゴン、塔になったわよ」

「分かってるけど……もう何が何やら」

そのあまりにも常識外れの光景を前に風音も呆然としていたが、しかし、その惚けた顔をすぐさま引き締めざるを得ない事態が風音たちの前で起きていた。

「で、やっぱり出たわけか」

そのことにいち早く気付いた風音が、いつの間やら彼らの前に立っていた男に視線を向ける。そして、そこにいたのは風音もよく知っている人物だった。

「よく来たなカザネ。ようこそ我が黄金郷へ」

そう口にした男の名はカルラ王という。

風音たちが攻略しているダンジョン 金翅鳥(こんじちょう) 神殿のダンジョンマスターが再び彼女らの前に現れたのである。