軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第八百三十二話 資格を得よう

◎ゴルディオスの街 バトロイ工房

「おお、こいつが持って帰った龍神の鱗かよカザネ」

親方が、手渡された竜神の鱗を見ながらそう口にする。その大きさは一メートルほどで、神力が宿っている状態の突き刺さるような威圧感はその鱗にはない。もっとも、残滓のような気配は残っていて、その影響で少しばかりの痺れを感じながら親方は鱗の状態を確認していく。

「まーねー。それ一枚しか持ってこれなかったけどね」

そう言った風音は、少しばかり申し訳ないという顔をしていた。風音としては何枚も手にして親方にまとめて進呈したかったのだが、結局、今回手に入れた龍神の鱗(空)はゴブリンゴッドクィーンの一枚だけであったのだ。

そして、今はゴブリンゴッドキングとの戦いから三日目。二日かけて森を探索したが結局他の鱗は見つからず、今朝方に転移魔術を使ってゴルディオスの街に風音たちは戻ってきたのである。

そして風音たちはそのまま仲間たちと共にバトロイ工房へと向かい、親方に竜神の鱗(空)を手渡したのであった。

その鱗をじっくりと眺めながら親方が尋ねる。

「んー。というとよ。やっぱり、他の鱗は見つからなかったのか?」

「いやー、あったんだけどね」

そう言って風音が後ろをちら見すると、弓花が自分の所持している竜神の鱗(ゴブリンゴッドキング)をアイテムボックスから取り出して見せた。それを見ながら風音が空地を開く。

「ちょっと、 空(から) ではなくなっちゃったんだよね」

親方は、弓花の持つ鱗の中に何かが宿っているのを感じて目を細めた。

「んー、そりゃあ召喚具か?」

「分かります? ゴブリンの強力なのが入ってるんですけど」

弓花の言葉に親方が「ほぉ」と口にした。その気配からすれば相当に強力な魔物であるのは親方にも分かる。

「で、他の鱗は、魔物に持ち去られてもう森にないらしくてね」

風音たちは二日かけて探した後、ゴブリンゴッドキングのキング(弓花命名)にも質問し、他の鱗を手に入れた魔物はすべてメゾトルの森を去っていったのだということを知った。最初から聞いておけば良かったと一同は落胆したが、キングとしても何を探しているのかを聞かれなければ答えようもないので、どうしようもなかった。

ともあれ、キングもその行き先までは把握していないとのことで、これも国と冒険者ギルドに連絡する必要のある事案であった。

「で、親方。ひとまずはその鱗で試してもらいたいんだけどいける?」

風音の言葉に、親方は「まあ、問題はねえだろ」と言ってから、やすへと視線を向けた。

「ヤス様。それでコイツをどうしやす? 砕いちゃっていいんですよね?」

「そうだな。弓花、キングの鱗を寄越せ」

「あ、はい」

弓花が竜神の鱗(ゴブリンゴッドキング)をやすに渡すと、鱗から淡い輝きが放たれたが「これからテメェを強くしてやんだよ」とやすがいうとその光も収まった。

「ジョーンズの持っている鱗を砕いて炉に入れて、こっちのゴブリン入りのをまともな斧に仕上げる。ジョーンズ、俺とお前でな」

「ヤス様。それは……どういうことでしょうか?」

そのやすの言葉に反応したのは、留守番を任されていた従者のひとりであった。もっとも声を上げたのはその男だけだったが、他の四名に関しても表情からは同じ気持ちのようだと察せられた。また親方も、若干所在なさげな顔をして、やすと従者たちを交互に見ている。

そもそも親方はその名こそそれなりに売れてはいるが、ミンシアナという小国の鍛冶師のひとりに過ぎない。大陸の北を席巻するドワーフ族のボンゴ帝国、そこでもっとも権威ある大匠のやすとの共同作業など親方にとっては夢のまた夢の話であった。

そして大匠の従者であり直近の弟子でもある彼らを差し置いて、自分が……と親方が考えて恐縮するのも当然ではあったのだ。

そうした周囲の空気を感じたやすが「分かってねえなあ」と言いながら舌打ちをすると、弓花の方を見て「ムータンを出してやれ」と口にする。

「あ、はい。どうぞ」

それに弓花も素直に従って、アイテムボックスからムータンを取り出した。

この神槍ムータンは、神聖銀の刃と 神聖物質(ホーリークレイ) の柄で構成された上に、今では神力を宿して神槍と化している。また威力が上がった分、以前に比べて蛇蝎銀が増えていて、最近では蛇蝎銀が神聖銀に変質しているのが発見されており、神聖銀の鉱脈的な扱いにもなっている恐るべき槍でもあった。弓花はムータンから被せてある竜血布を外して、その刃を従者たちに見せた。

「これは……美しい」

従者のひとりがそう呟く。蛇蝎銀の黒い気配と合わさって淫猥な気配が漂い、従者が全員股間を押さえた。鍛冶師である彼らにとっては、もはやそれは抗いがたいものがあったのだ。

また刃に使われている神聖銀だが、これは本来 神聖物質(ホーリークレイ) から微量に抽出できるもので、無色透明な材質であり、文字通りに透き通った世にも美しい刃であった。

「ウチでもほとんど扱わねえ神聖銀だが、それをそっちのジョーンズは扱って、こんなヤバいもんを仕上げやがった。お前たちなら、この刃の価値は分かるな?」

そう言われては従者たちも黙るしかない。彼らも大匠であるやすに選ばれた帝国の中でも指折りの実力者たちだ。

神聖銀を扱った者もいるが、目の前の神槍ムータンを前にしては、自分の方が上だとは決して言えなかった。

その様子に親方が恐縮しまくっていたが、その親方の肩をやすがポンポンッと叩いて笑う。

「ま、本来俺らはお前の腕を見に来たんだがよ。コレなら何も文句は言えねえな。お前に神々の炎を扱う資格は確かにあるって報告できる」

「へ、俺を? そうだったんですかい?」

その言葉に親方が目を丸くしていた。どうやら、今初めて聞いた話のようだった。

「オレァ、てっきりユミカが神々の炎に相応しいかを確かめにきたのかと……」

「んなわけねえだろ。そもそも炎が認めた鍛冶の巫女様の資質を俺らで改めて判定できる訳ねえっての。不敬だ、不敬。帝国ならそんな真似しただけで打ち首にされかねねえんだよ。んでだ。ロクでもねえ腕前の鍛冶師が巫女様を不当に囲ってた場合も同様でな。ウチの皇帝様にゃあ、ジョーンズ・バトロイってのがロクデナシなら最低でも腕は持って帰れって言われてたからな」

その言葉に従者たちがうんうんと頷き、親方が顔を青くする。それにやすがしてやったりという顔をして笑うと、話を続けていった。

「つっても、お前はちと無軌道すぎる。入れ込むとやりすぎる手合いだな。だから俺はコイツをサポートして、まずはひとつ武器を造り上げる。ノーダイン、お前は一緒に来い。斧ならテメエの領分だろ?」

「はいっ」

その言葉にノーダインと言われたドワーフは笑顔で頷いたが、他の従者からはまた先ほどと同様に不満が顔に出た。だが、やすは従者たちに対して、今度は混じり気なしの真剣な顔をして、首を横に振った。

「悪いが、今回のはウチの帝国の今後にも左右する事案でな。ノーダイン、テメエも魔術での契約書を結んでもらう。ゆっこ……ユウコ女王陛下にもそれで話は通ってる。口滑らしたら、マジで首飛ばすぞ」

やすの言葉にノーダインと呼ばれたドワーフが「はいっ」と声を張り上げて大きく頷いた。

「そんじゃ、ひとまずは鱗の処理だ。風音、竜神の大剣を貸してくれ。鱗もそれでなら削れるだろ」

「あー、はいはい。あ、モンドリーさん。ロクテンくん出すからメンテをお願いできる? フレーム回りと、魔導線の追加とか色々お願いしたいんだけど」

「はい。お任せを」

親方の横にいたモンドリーが、力強く頷いた。

モンドリーも今ではゴーレム兵団製造チームのリーダーである。己らの造るものの数百年は先を行くであろうロクテンくんを見れるのであれば、メンテなどむしろ金を払って行いたいというところであった。

そして、龍神の鱗(空)はバトロイ工房に運ばれ、神々の雷炎を使用した最初の武器として、ゴブリンゴッドキングの宿る龍神の鱗を斧にする予定が立ったのである。

もっとも、それが完成したときに、その場に風音と弓花の姿はなかった。何故ならばその頃の風音たちはダンジョンを必死で駆けていたのだから。

ふたりは、直樹やジンライたちと共にダンジョン攻略中のカンナから届けられた一通のメールを見て、 金翅鳥(こんじちょう) 神殿第七十八階層へと急ぎ向かわなければならなかった。それほどの危機が直樹たちの身に起きていたのである。