軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七十九話 先に進もう

風音が作った浴場の周りには翌日には仮設宿屋が複数並んでいた。それはザクロが用意した宿で、周囲にはいくつかの土地もキープしているようだった。どうもここを町の中心に据えるつもりらしく、洞窟前の市場も徐々にこちらに移動してくるようだ。

もっとも昨日の顛末はすでに周囲に広まっているようで風音のコテージに近付くような迂闊な連中はいなかった。

「もう夕方にはあの温泉を使えるようにしておくそうよ」

「商魂逞しいねえ」

と風音が感心するが、それが可能な浴場をわずかな時間で作れる風音の方こそ凄いんだけどねえ……とルイーズは思った。

「ちなみに名前はカザネ温泉で決まったから。多分そのままカザネ温泉街とかになる可能性あり」

「マジで?」

またよく分からない話の展開になったようだった。タツヨシ王との引き合いに、『英雄お湯を好む』と呼ばれることとなるとはこの時の風音はまだ知るよしもない。

まあ夕方には知ることになるのだが。風音のエピソードを知ったザクロさんがつけたキャッチフレーズだし。

「それで入浴料の管理はあっちがやるけど取り分とかで注文があれば言ってもらって良いわよ」

「いや、ザクロさんに任せるよ。ルイーズさんとティアラがバックにいてヒドいことになるとも思えないし」

これに実際にはミンシアナの女王にゼニス商会の代表、ツヴァーラ国王、元国王も入る。背後関係が恐ろしすぎた。そもそも風音の評判は昨日の一件と鬼殺し姫が結びつき、本人の情報だけでもエラいことになっていた。

ちなみにゆっこ姉にもその件をかいつまんで連絡したのだが

ゆっこ姉「じゃああっちはカザネ魔法温泉街でいくから」

と返ってきた。そういえばコンラッドでも温泉街は計画されているのでした。将来的に互いに名前を間違えて違う温泉街に行ってしまう可能性が大いに予想された。

◎オルドロックの洞窟 第五階層 昼前

「急いできてこの時間かあ。日帰りが結構厳しくなってきたかなあ」

その風音の言葉にジンライが頷く。

「そろそろダンジョンの中で夜営をしながら先に進むことも考えるべきだろうな」

ジンライの提案に風音が頷く。弓花はそうでもなかったが魔物のいるところでの寝泊まりという話にティアラやジークは不安そうな顔を浮かべる。だが日帰りでは32階にいるドラゴンまでは届かない。

「潜るのは何日ぐらい?」

「とりあえず三日分くらいの食料を持って様子を見ながら考えるで良いんじゃないか? どの程度狩りが進むかも判らんしな」

狩り取ったモノをため込んでおくわけにもいかない。戻るタイミングも重要である。

「そうだねえ。正直このままだと行って帰ってで終わりそうだし次からはそうしよっか」

「ああ、そうだな」

ジンライも頷く。王族二人組が不安げな顔をしていたが、そろそろ頃合だろうとジンライは感じていた。

本日は5階層の探索。だんだん、洞窟というよりは岩場に群生した森という光景になってくる。

(ホント、異様な光景だなあ)

風音が周囲を見回す。まさしくダンジョンという風に道で区切られているのが作為的に過ぎる。

(まあ、分かりやすくていいっちゃあいいんだけどね)

風音は余計な考えを捨て、周囲を警戒しながら先に進む。ギルドで購入した地図を見ながら、まだ未踏の場所を中心に探索していく。

「む、ダーツボアとバロウタイガーがいるね」

風音が黒牙を抜きながら言う。

「ということは争っている途中か?」

「じゃないかな。どっちも興奮しているし」

魔物も同種族でない相手とは基本的には組まないし、争う。そうして経験を多く積んだ魔物がボスなどになったりするらしいと風音は聞いていた。

「数はどっちも3ずつ、無視してもあっちの争いが終わってから入ってもいいけど?」

「やれん数じゃあないだろう」

ジンライはやる気だった。

「了解。じゃあティアラはフレイムナイトを一体防御に、一体を戦闘に回してもらえるかな。ジークは先制でホワイトファングで攻撃。2発撃ったら下がって」

「分かりましたわカザネ」

「分かりました」

ジークのホワイトファングは威力と飛距離はあるがまだ命中力に難がある。味方への誤射を考えると先制攻撃に限定する方が安全に運用できる。

もっとも風音たちが戦闘に出ればジークたちの攻撃も必要はないのだが、今はティアラとジークの経験を積ませることも並行している。

「ジーク、イノシシが来たら戦って良し。バロウタイガーは避けて」

「は、はい」

風音はそれぐらいならばと判断し、ジークの剣術も鍛える方向で調整する。『戦士の記憶』の剣技とは言え、振るうのは自分の肉体である。ジーク自身の戦闘経験としても当然蓄積されていくのは風音自身の経験からも分かっている。

「うりゃあああ」

風音の指示通りに、角を越えた先に飛び出したジークが白剣を発動しホワイトファングを撃ち放つ。

「「「ぎにゃあ」」」

「「「ブモモオ」」」

突然の攻撃に争っていたバロウタイガーとダーツボアが目を丸くして慌てふためく。

「ダーツボア一体にバロウタイガーの足を掠めたか」

「すみません。狙いがちゃんと」

申し訳なさそうに風音を見るジークに

「良し。とっさに構えてあれなら上々」

と頭をポンッとはたいて褒める。実際、ダンジョン探索はおろか魔物との戦闘も風音たちに会ってから初めてやったにしては大変よくやっている。

(ゆっこ姉の教育の賜物かなあ)

「風音、私ら突っ込む?」

「うん。弓花とジンライさんはバロウタイガーを狙って」

飛びかかってくるバロウタイガーたちを見て弓花とジンライがうなずきながら走り出す。

「ティアラはフレイムナイトでダーツボアをこっちに追い込んで。ジークは一緒に戦うよ」

「分かりましたわ」「がんばります」

ふんすと意気込むティアラとジーク。その裏でルイーズが余裕そうな顔で風音に尋ねる。

「あたしはいいの?」

「必要あったらフォローよろしくっ!」

風音はそう返し、フレイムナイトに追いかけられるダーツボアに向かって走り出す。

「いるかしらフォロー? ねえ?」

そうティアラに聞くルイーズだがティアラはフレイムナイトを操るので精一杯で答えられない。ルイーズはその様子に肩をすくめ「がんばれー」と応援を始めた。なお、このレベルの相手に熟練魔術師の魔力を安易に減らせないという判断であってハブってるわけではないですよ。

「そんじゃっと」

風音は多段ジャンプで空に上がる。着地においても感覚的に空中跳びを行い衝撃を抑えられるようになったのは大きい。風音は空中を自由に飛び跳ね、ダーツボアに斬り掛かる。

「ブモッ」

切り裂かれたダーツボアが悲鳴を上げる。だが風音の目に情けというモノはない。詰めを誤ったりはしない。

「スキル・キリングレッグッ!」

素材となる毛皮を傷つけぬよう腹を蹴り上げ止めを刺した。

「うううう、やあああああ」

その裏ではジークがダーツボアを相手に剣を振るっていた。

ダーツボアの牙が襲いかかり、ジークがそれを白剣で受け流す。

「そこだ。やっちゃえっ!」

「はいっ」

受け流し、懐に飛び込んだところで、前足を切り落とす。

「ブモォオオッ」

「くっ」

ダーツボアの出血に一瞬ジークはたじろいだが、それでも気勢衰えず止めを刺した。

「だああッ」

心臓の付近のコアを白剣で突き立て破壊する。

ダーツボアの悲鳴とともに動きが止まった。

「はっ、はあ」

「よし、よくやった」

「はいっ」

風音の掛け値ない褒め言葉にジークもまた元気よく返事を返す。

「ティアラもあんがとっ」

「ふふふ、任せてくださいまし」

額に玉のような汗をかき、ティアラが返事をする。召喚したフレイムナイトは二体だったが、風音とジークのもとにダーツボアを追いやるという作業に精神力をかなり消費していた。フレイムナイトはユッコネエやメフィルスのように意思を持つわけではなく、完全に術者の制御によって操作される召喚騎士だ。自由に操作はできるが複数を動かしたり細かい作業となると難易度はかなり高めである。

そして弓花とジンライは、

「ちょっと弱かったですね師匠」

「ダーツボアとの戦闘で疲れていたんだろうさ。ツマらん」

余裕だったようだ。特にジンライのキレが凄まじかったとのんびり観察していたルイーズが言っていた。

◎オルドロックの洞窟 第五階層 夕方

「ちょっと疲れたしここらで休憩しよっか」

風音がそう言って後ろを向くと、パーティ全体の足が止まる。

昼前のバロウタイガーとダーツボアの混成との戦闘から3回ほどさらに戦闘があった。ティアラとジークの魔力はほぼほぼなくなり、そろそろ帰る頃合いであった。

「休憩は良いが、もうそろそろ戻る頃合いじゃあないか?」

ジンライは風音にそう尋ねる。

「そうなんだけどね。ちょっと相談。なんか尾けられてる」

「むっ」

ジンライが眉をひそめる。

「最初はたまたま進む道が重なっただけかなと思ってたんだけど、やっぱり止まったね」

「それって昨日の連中ですか?」

「いや、あそこにはいなかった臭いだなぁ」

ティアラの問いに風音がそう答える。

「む。離れてくみたいだ」

こちらが止まったのが尾行に気付いたためと悟ったのかもしれない……と、風音は考えたが結論は出ない。

「どうするの? 追う?」

弓花がそう風音に訊く。弓花は昨日のジンライの「ダンジョンで襲われる」という言葉を聞いて少し過敏になっていた。

「いや、戻ろう。やっぱりたまたまって可能性もあるしもう『臭い』も覚えた」

風音の言葉に全員が頷き、元来た道に戻ることにする。

途中で隠し部屋をひとつ発見。風音は喜び勇んで隠し部屋に通じる壁を破壊し中に入ったのだが、だがそこに『いた』のは……