軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七十八話 激怒をしよう

◎オルドロックの洞窟 入り口 夕方

「ちょ、ちょっとみなさん!?」

風音たちが第五階層の階段を見つけたところで探索を終了し洞窟の入り口まで戻ってくると管理官が慌ててこちらに走ってくるのが見えた。

「なんでしょう?」

ティアラが首を傾げて仲間を見るが、誰にも覚えがないようでみな首を傾げていた。

「どうしたの管理官さん?」

そう尋ねる風音に管理官が慌ただしく質問し返した。

「ええと、そのですね。ちょっとお尋ねしたいんですが、ここの離れで温泉付きの家を作ったのってあなた方ですか?」

「そうだけど?」

風音が答えると「やっぱりそうですか」と管理官がため息をつく。

「何かあったのか?」

その様子にジンライが眉をひそめ管理官に尋ねた。

「それがですねえ。あの家を巡って何人かの冒険者が取り合いになってまして」

「取り合い?」

「穏やかではないな。詳しく話してもらえるか」

ジンライの言葉に管理官も「はい」と頷き、事の経緯を話し始める。

事の発端は、今より数時間前にある冒険者のパーティが不思議な家を発見したことから始まったのだという。まあ、数日前まではなかった石と土でできた家がいきなりあったことには驚いたが、もっと不思議なことにそこからは硫黄の臭いがして横から川に向かってお湯が流れている。不審に思ったそのパーティがドアをこじ開け中に入ってみるとそこにはトルダとマルクニの温泉街のような浴場があったのだ。そしてその話を聞いた別のパーティがやってきて、その家の所有権を巡って喧嘩になり、さらに話を聞きつけた商人たちがやってきて、彼らも所有権を主張し始めたということだった。

「私のドアが破壊された?」

急ぎ歩きで先に進みながら風音がギリギリと歯ぎしりをして尋ねる。その鬼気迫る様子に管理官は怯えながらも「はい」と答えた。

「とは言ってもドア自体と言うよりは扉をはめ込んだ横の壁を破壊したっぽいです」

「この世界の土地の所有ってどうなってんだろ?」

弓花の問いにメフィルスが答える。

『土地の所有というならまあ誰が家を建てても今なら何も言われんよ。B級ダンジョンになったことだし、今後街としての体裁が整えられてくればツヴァーラから領主を置くし、その後はある程度の整理と管理は行うがの』

ある程度の利益が見込めた段階で事後的に国で取り込むということらしい。実際にはその前段階での様々なことがあるのだが。

「けどあの家のドアにはカザネの名前で所有権を主張する文言が入っているものねえ。それを引き合いに出せばあたしたちも所有権主張のテーブルには乗るわよ」

「ようは奪い合いだ。こうした土地柄では金、暴力、あるいは権力などの力を示して所有権を主張するしかないわけだな」

ルイーズに続くジンライの言葉に管理官が首を横にフルフルする。

「いえいえ、そのためにギルドや商会の皆様方がいるので大抵は話し合いで終わりますよ。普通ならばカザネさんの扉があるなら問題なく所有を主張できます」

管理官がフォローを行うが、だが今回は普通ではないということだろう。

「第三の温泉街の可能性ありとなれば、納得がいかない連中も多いでしょうねえ」

ルイーズの言葉に管理官が「そうなんですよ」と涙目だ。

「で、力ずくでいいの?」

風音がジンライに尋ねる。

「殺すなよ」

ジンライが物騒なことを言い返し、その言葉に管理官が顔を青ざめる。

「勘弁してくださいよ。もっと穏便にいけませんか?」

「でもねえ。温泉が湧いちゃったのが知られた以上もう後戻りはできないけどね」

ルイーズの言葉に管理官が唸る。

「えっと、ここってダイナ商会が仕切ってるのよね?」

「は、はい」

ルイーズの言葉に管理官が頷く。

「だったらそっちから話通しましょう。ティアラもちょっと来てくれる?」

「分かりましたわ」

ルイーズが立ち止まり、ティアラもそのそばに行く。

「あと、カザネ。ムチャはしないように」

ルイーズの言葉に風音はルイーズを見ずに頷く。

(うーん、キレてるなあ)

その後ろで弓花がジークを連れて歩いていく。

「大丈夫なんでしょうか?」

ジークの問いに

「大丈夫……じゃないですかね」

と弓花は返す。まあ親友なら皆殺しとかそんな物騒なことにはならないと弓花は思うのだが。

◎オルドロックの洞窟近辺 温泉コテージ

「だからよ。ここは俺が先に見つけたんだよ」

「ザケンナ、こら。これを建てたのはうちらだっつーの」

「話をする気がないなら帰ってくれ。我々がここを使用する権利を持っているのだ」

何人もの冒険者たちに護衛を引き連れた商人たちが割って入り、場は一触即発の状態となっていた。

「ふむ。ロクなのはおらんか」

それを外からジンライが見ている。技量の高い人間はジンライの見た限りいないようだった。あえて言うなら冒険者のリーダーらしき二人と商人の連れている護衛の一人が出来るようだが、それもジンライにとっては大した脅威ではない。

「あいつ、私のドア踏んでる」

ジンライの横で風音はぼそっと呟いた。

「好きにしろ。雑魚はやってやる」

実際ジンライも怒りを覚えている。孫的ポジションの風音の苦心作を土足で踏み荒らす。万死に値する行為だ。

「大丈夫。このこらにも頼むし」

そう言って腰につけてるポーチを叩きながら風音は飛び上がる。

パッシブで自由に発動できるようになった多段ジャンプによって高く跳び上がった風音は、倒れたドアを踏みつけている男に向かって急降下し、そのまま狂鬼の甲冑靴で蹴りを見舞った。さすがにキリングレッグこそ使わなかったが、男が一撃で意識を失い、

「邪魔だよ」

さらに思いっきり蹴りつけてドアの上に倒れ込む前に蹴り飛ばした。これはキリングレッグと共鳴している狂鬼の甲冑靴の補助効果によるものだ。普段はキリングレッグとの併用だったが非殺傷ならばこれだけで十分だった。

「なんだ?」

突然空からきた少女に驚く男たちだが、風音は鞘をつけたままの黒牙を振るい、その場にいた男たちを瞬時に叩き倒す。風音の使用している『戦士の記憶』はランクB相当の戦士の強さだ。それだけでも十分に目の前の男どもには通用するのだが『直感』によってもっとも確実なタイミングで、そして『身軽』によってキレよく叩き潰すことを実行させた。風音無双である。

「な、なんです。お嬢ちゃん?」

今まで話していた冒険者が瞬時に叩き潰されたのを見て商人が目を丸くして驚いている。もっとも風音にはそんな商人の驚きなど知ったことではない。むしろこちらの恐れを抱いてくれた方が次のスキルは効きやすいと冷静に考えた。

「スキル・タイガーアイ」

風音は商人を少しにらんだ後タイガーアイを発動する。瞬間的に商人と護衛の男たちが固まる。金縛りにあったのだ。

「こいつ、魔眼持ちだと?」

だが一人だけ金縛りにかかりきらなかった男がいた。それは先ほどジンライが強いと感じた護衛のひとりで彼だけはこの場でランクBの冒険者だった。金縛りにかからないということはなかなかに強い精神力の持ち主であると言えるが、動きが鈍った状態では風音の攻撃は避けられない。そして風音は次の瞬間には最大限弱めたキリングレッグでその男も弾き飛ばした。男が3メートルは吹き飛んで倒れる。

「魔眼じゃあないんだけどね」

ぼそっとつぶやく風音。周囲がそれを呆然と見ている中、風音はさらにこの二体を呼び出した。

「ユッコネエ、タツヨシくん」

トドメのそれはすでに雰囲気に呑まれていた周囲の冒険者たちを震え上がらせるには十分過ぎる役目を果たした。

「え、エルダーキャットじゃねえか」

「なんでこんな化け猫がここに?」

「チャイルドストーン使いとかありえねえだろ」

チャイルドストーン持ちを倒すことはあっても、召喚し従わせられる人間はごくわずかだ。当然冒険者たちは驚きの顔でそれを見ていた。

「フニャアアア!!!」

怯える冒険者たちを威嚇するユッコネエ。口々に騒いだ冒険者たちが一瞬で静まる。そして周囲のすべてを掌握した風音は震えている冒険者の一人に尋ねた。

「で、この中で偉い人って誰かな」

悪魔の微笑みである。男は恐怖にかられ、金縛りにあった商人と倒れている冒険者のそれぞれのリーダーらしき二人を指さした。誰もそれを裏切りとは思うまい。自分が聞かれれば同じように対応しただろう。

「か、彼らだと思います」

「あんがと」

風音はにっこりと答えた男に笑いかけ、そしてタツヨシくんに命令する。

「タツヨシくん、そいつら家ん中に連れてって」

タツヨシくんは頷くと事も無げに俵三つ担ぐように男三人をかついで家の中に入っていった。そして風音も中に入っていく。

「にゃあッ」

その入り口にユッコネエが座り込み、冒険者たちを睨みつける。誰も彼もがそれに恐れて動けない。

実際、この数の冒険者ならばエルダーキャットと戦うには十分な数ではある。だがそれはちゃんと装備を調えて万全の体勢で挑んでこそだったし、目の前の化け猫と対峙するということは中に入った少女の形をした何かと敵対するという意味でもあった。無謀過ぎると誰もが思った。

そして10分ののち、中に入った三人の男どもが泣きながら出てきて、風音のドアを丁寧に洗い始めた。外にいた彼らの部下はそれを唖然としてみていたが、男たちの涙が止むことはなく、まるでドアが新品のようにピッカピカになるまで洗い続けていた。

後からやってきたルイーズが「あたしたち、いらなかった?」と聞くとジンライは苦笑した。そしてルイーズの背後にいる商人の姿を認め「まあ、正式な手続きも必要だろう」と応える。

「ふう、ピッカピカだよ」

ドアを眺める風音はご満悦だ。さっきまでの鬼気迫る態度が嘘のようだった。冒険者や商人たちや野次馬の集団はルイーズの連れてきた商人の説得で解散となり今コテージの外にいるのは風音たちのみである。なお荷物は全員持ってダンジョンに行っていたしコテージの被害はドアだけだった。

「『フィアボイス』で説教でもしたのか。なかなか派手にやったな」

その横からジンライが声をかける。「そうだよ」と答える風音。

「あれぐらい脅しておけばまたドアを壊されることもないと思ってさ」

「まあ、言わんとしていることは分かるがな」

風音の言葉にジンライも頷く。人格者であろうともそうした世界で生きてきたジンライは結構そういう面では荒い性格だ。

「師匠、分かっちゃうんですかあ?」

弓花がジンライの言葉に「えー」という顔をする。

「実際、禍根を残さぬぐらいに徹底的にやらんと逆恨みで夜襲を受けたりダンジョン内で襲われる可能性もあるからな。そういう芽は完全に潰しておくに限る。どちらの身の安全のためにもそうする必要もあるということだ」

命のやりとりを持ってこられれば、ジンライも相手を生かしておくという選択肢は持てない。

「むう。そうですか」

「そういうものだ」

唸る弟子に頷く師匠である。

「ま、ジンライくんの言うことも間違ってないけど、権力のある人間はもっとスマートにいかないとね。で、こっちの人連れてきたわよ」

ルイーズがフフンといいながら後ろの男を紹介する。さきほどからいる商人だった。

「ご紹介に与りますダイナ商会のザクロと申します。この度は源泉を掘り当てたということで、ルイーズホテルのオーナー様とティアラ王女様のお力添えもあり私めに源泉の管理を任せていただきたいと思いまして馳せ参じました」

「管理って言うと?」

風音が話の中にあったその言葉に反応し尋ねる。

「ぶっちゃけるとあたしに近い感じかな。源泉の所有権を国に保証させて、それを貸すわけね。まあ温泉宿とかが軌道に乗ればそのうちお金が入ってくるわよ」

「めんどそうだねえ」

入りたいから掘っただけなんだけどなあと風音はぼやく。

「けど、それが必要なら仕方ないか」

「では?」

ザクロが身を乗り出す。彼は現在この街を取り仕切っているダイナ商会の、まとめ役としてこの街に派遣されてきた商人だ。最終的にここに街が出来ればダイナ商会の代表となることが予定されている。温泉が発見されたとあれば近辺にあるふたつの温泉街同様にこの街も大きく発展する可能性が増す。ここで温泉の源泉をキープできるということは今後に対して大きな意味を持っていた。

「とりあえずこっちはしばらく使うしそのままにしておきたいからね。ここのお湯を分けた仮の浴場を用意するからそっちを使ってもらって良い?」

「ええ、構いませんが、用意とはどういうことでしょう?」

ザクロが首を傾げるがルイーズが面白そうに風音に尋ねる。

「もうひとつ浴場を作るわけ?」

「コンラッドで作った大浴場をコテージから分離させたものがあるんだ。それを用意してみるよ。男女用に二つ用意すりゃそこそこの広さになると思うし」

と風音が言う。

「???」

ザクロがよく分からないという風にルイーズを見るが

「まあ、見てなさいな。面白いから」

といって取り合わなかった。よーしと言って風音が少し離れた場所にゴーレムメーカーを使う。

「うわっ!?」

ザクロが驚きの声を上げている間に瞬く間にそれは完成していく。

出来上がったのはまったく同じ形の2対の浴場。そして風音が先ほど出して待機状態だったタツヨシくんに命じて溝を掘り、ゴーレムメーカーで補強してからお湯を通すと徐々に温泉がたまり始めた。

「とんでもないですなあ」

ザクロは驚愕の顔を崩さぬままルイーズに向き合う。

「彼女一人いれば町ぐらいすぐに出来上がるのでは?」

『土木関係の仕事に就く気はないと言っていたのぉ』

ザクロの言葉にメフィルスがそう返す。

「そうなんですか。残念ですね」

ちなみにルイーズがダイナ商会に行ったときに二人は面会済みであった。ザクロは王様しゃべりのメフィルスを見て何かしらの曰くありげな召喚体だとは思っていたが、まさか自分の国の元国王とまでは気付いていなかった。ティアラだけでもイッパイイッパイだったのでそれを知ったらザクロは倒れていたかもしれない。