作品タイトル不明
第七百九十五話 狙撃に気をつけよう
◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第七十四階層 廃ベガスシティ
「砂漠かぁ……」
他の階層同様に地下鉄の入り口風なところから出てきた風音が、目の前の光景を見ながらそう口にした。見渡す限り砂、砂、砂である。そして申し訳程度に何かの建物が並んでいるのが遠目に見えていて、その建物にはネオンらしきものが付いているようだった。
「私、砂漠って初めてだ」
「普通はそうでしょ。鳥取にだって行ったことないし」
風音の言葉に、弓花が冷静にそう返す。
「しかし、廃墟の摩天楼よりも世紀末感があるな。モヒカンがトゲ付き肩パット付けてやってきそうな感じだ」
「モヒカンか。ワシも昔は憧れたものだな。ふむ」
「師匠。止めてください」
自分の髪を見ながら考え込んだジンライを弓花が必死な顔で止めていた。せっかく若くてカッコ良くなったのだから、モヒカンは止めて欲しいと思ったのだ。悲劇はライルだけで十分なのだと弓花は心から思っていた。
そんなライルのことを心の中で微妙にディスっていた弓花の横では、風音がさっそく遠隔視で周囲を調べ始めていた。
「うーん。街の中は結構大きいねえ」
風音が遠隔視で街の全体像を視覚的に捉えると、すでに階層を通過しているカンナと共有化していたマップウィンドウがさらに埋まっていく。
建物内メインのダンジョンとは違い、外から観察できるのだから遠隔視が使える風音が全体マップを埋めるのは容易であった。もっとも、遠隔視では街の細かい部分まで見られているわけではないので、その表示はいわゆる簡易マップ的なものとなっている。内部を細かく見るにはやはり近付いて探索する必要があるという点は、地上を旅していたときと変わってはいない。
「それと周囲はやっぱり砂漠ばかりだね。次の階層の入り口もあの街の中へとあるようだし、あの中を通るのが正解かな。ホイッと、こんな感じだよ」
風音がマップウィンドウを魔導カメラで撮影して写真を出し、それを仲間たちへと見せる。
「結構内部は複雑で、敵が隠れるにはもってこいって感じの場所ね」
「だな。周囲の警戒は今まで以上にしとかねえと危険か」
エミリィとライルがそう言い合う。崩壊した摩天楼がメインであった前までの階層に比べて街の中は道の幅は狭く、接近した状態での不意打ちの可能性も警戒する必要がありそうだった。
「そうだねえ。達良くんコピー情報によるとここは廃ベガスシティとかいうらしいよ。巨大カジノが戦争で軍に占拠された後に、野良機械たちの溜まり場になった場所なんだって」
「野良?」
直樹が首を傾げ、風音が頷く。
「この地域自体が味方信号を出してるから、色々と集まるんだってさ」
「なるほどな。こりゃ敵も多そうだ……って、姉貴、あれ!?」
直樹が唐突にそう言って、砂漠の先へと指を差した。
それはネオンのある廃墟の街とは別の方角で、何もない砂漠の中を巨大なワームの群れが移動している姿が見えたのだ。それには他のメンバーも驚きの顔をしていた。なにしろ、そのワームは今まで見た魔物に比べても極端に大きかったのだ。
「あの距離で、あの大きさかよ。でかすぎるだろ。それに何匹いるんだよ!?」
レームが驚きの声を上げて、タツオも『父上よりも大きいです』と口にする。
「あれがこのエリアの生物っぽいヤツだね。他にもいるみたいだけど、あれならレベルも上がりそうだしスキルも増えそうだなあ」
「え、あれと戦うのか?」
マジ?……という顔のレームの問いに、風音は「まあね」と返す。
「仮にあれがチャイルドストーン持ちだったなら、いずれは倒さないと駄目だろうし。まあ、場所は分かってるんだから今回は様子見だけにしとこう」
風音が眼を細めて、それを見ながらそう言った。
(大きさは……五、六十メートルはありそうかな? 雷神砲(レールガン) を集中して当てればやれそうだけど)
相手は砂の中に潜れる相手である。逃げられる可能性も考慮して対応する必要があるだろうと風音は考えた。その横では弓花が「しかしデカいわね」と口にしている。
「空竜や龍神クラスだね、大きさ的には。まあ、ひとまずは街の方に向かおう。この階層の隠し部屋はまだ見つかってないから、さっさと探しておきたいし」
隠し部屋の有無は、その階層で夜を過ごせるか否かの問題にも繋がってくる。できれば今日中に見つけたいところであった。
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「しっかし、このダンジョンってのも妙なところ過ぎるよな」
街までの途中、見え始めた街並みを眺めながら、直樹がそう口にする。もう街の全体像もおおよそ確認できる距離だ。
立ち並ぶ建物の壁や屋根にはまだ日は出ているので光ってはいないが原色のネオンが並んでいて、その建物自体はひびが入っていたり、倒壊していたり、窓ガラスが割れて、トタン板や装甲板で補強されているような跡があった。
「元々ある情報を使って用意したってカルラ王は言ってたよ。本人もあまり理解してないみたいだったけど」
「そうなるとジーヴェの再生体みたいに、昔にこういう街が実際にあったってことなのか?」
「どうだろ。ビルの中も役に立ちそうなのもないし、それにゲーム準拠過ぎる気がするんだけど……モデルになった街とかはあるのかな。ルネイさんは古イシュタリア文明遺跡とかって言ってたし」
その風音の言葉には、後ろからメフィルスが口を挟んできた。
『カザネよ。あれはあれで、結構いい加減なものでな。今の余らでは生み出せぬものは大体イシュタリア産と分類しておるのだ』
「あーそうなんだ。まあ、竜船を造ったって人たちだものねえ。そりゃ、ちょっと路線が違うか」
ゼクシアハーツにおいても、イシュタリア文明は未来世界というよりはファンタジー寄りだったと風音も記憶している。そんなことを話し合っているところに、
『母上ッ』
タツヨシくんツインソードに乗っているタツオから声が飛んできた。そして風音も『直感』が働いた方向へと視線を向けると、右腕を前に出した。
「あいよっと」
そして、風音が発生させたマテリアルシールドにより銃弾が弾かれる音がして、砂にポスッと何かが刺さる音がした。
「見えた。砂漠の中、倒すよ」
「お願いッ」
今ので位置を把握したらしい弓花が神槍ムータンを構える。
「いけぇええッ!」
そして弓花が闘気のみを飛ばす『雷走り』を放つと、それは砂漠の中へと消えていってすぐさまボフッと砂柱が上がった。それにライルが「やったか」と声を上げたが、弓花の顔は険しく、何かに気付いて走り出した。
「避けられた。クロマル。行くよ」
「ふむ。なかなかすばしっこいヤツのようだな」
そして弓花に続いて、クロマルやシップーに乗ったジンライが駆けていく中、風音は周囲を見渡す。
「他はいない?」
「にゃー」『感じません』
スキル『直感』持ちがそれぞれ見回し、そう言い合った。それから風音たちが警戒を強めながらも弓花たちのいる場所へと向かうと、そこには砂色のマントを身に付けたマシンナーズソルジャーが倒れていたのである。
「仕留めたみたいだね」
「うん。けど、前の階層のよりも素早かったよ」
「確かに」
弓花の言葉にジンライが同意する。どちらも苦戦した様子はなかったが、敵の能力が上がっていることには懸念の表情を浮かべていた。そして倒れているマシンナーズソルジャーを直樹が見下ろしながら、口を開く。
「こいつ。上の階層よりも、随分と錆び付いてるな」
「それだけじゃないね。パーツが前のよりもおかしい。色々と付け足して、足なんかぶっといし。それにこの銃、狙撃銃じゃない?」
風音が落ちている長い銃を持ち上げる。それは今までの階層でマシンナーズソルジャーが持っていた機関銃とは明らかに違う形をしていた。
「ふむ。妙に長いが、遠くに飛ばしやすくするためか?」
「多分、そんな感じ。む、使えるようだけど……ふーむ」
風音が電子ロックカードキーを使ってロックを外し、出てきたケーブルをバッテリーに差した。それから起動した銃のスコープを覗き込み、銃口を街へと向ける。するとスコープ内にはデジタルの距離計が表示されて射程外と出てきたのである。
(残り五百メートルで射程内。つまりその距離まで近付くとあちらからも狙うことが可能ってことか)
「こりゃ、街に入るときには気を付けた方がいいね」
狙撃銃を下ろした風音がそう口にする。
「狙われるってこと?」
「その可能性は高いと思う。遠隔視で探っても隠れられてたら発見しようがないし。今だって砂漠の中から隠れて撃ってきたわけだからね」
「確かにな。そこらへんはつまりスナイプスコーピオンのようなものか」
「えーと、そうだね。ジンライさんたちの感覚なら、そんなところだと思う」
スナイプスコーピオンとは砂漠に出没する魔物の一種である。かなり長距離の毒針弾を放つ砂漠の殺し屋と呼ばれる魔物であり、名前の通りスナイプを得意としていた。
「暴風の加護があるからそこまで問題にはならないとは思うけど、まあ注意しておくのに越したことはないかな」
風音の言葉に全員が頷くが、それから風音が「ん?」と何かを見つけて首を傾げた。それに気付いた弓花が尋ねる。
「どうしたの?」
「いや、あれ」
そう言って風音が指を差した先にあったのは、砂に紛れて隠れている黒い何かであった。
「うーん。みんな、ちょっと下がってて」
そう言って風音が、風音の虹杖を掲げて『暴風の加護』を発生させる。すると吹き飛んだ砂の下から大きな鉄の扉が出現したのだ。
「これは……地下への入り口か?」
「ああ、それでこのマシンナーズソルジャーがここにいたってことか」
ジンライの言葉に直樹が納得した顔をする。
それからジンライが近付いて扉を開けると、特に問題なくそのまま開いた。その中をジンライが慎重に覗き込みながら、風音に尋ねる。
「何もいないようだが、どうする?」
「入ってみよう。街まで通じてるなら、狙撃の心配もなくなるわけだし。ユッコネエ、念のためにちょいと確認」
「にゃー」
それから中に入ったユッコネエから問題なしという感じの鳴き声が返ってくると、風音たちは大型のタツヨシくんケイローンやアダミノくんを大型格納スペースへと仕舞い、順に中へと入っていったのである。