作品タイトル不明
第七百九十話 エネミーを倒そう
◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第七十二階層
『戦艦トンファーアタァアックと見せかけてキーーーック!』
風音ドラゴンが戦艦トンファーで攻撃すると見せかけてのキックの一撃を放ち、10メートルはある巨大エネミーのバスターウォーカーがその場に崩れ落ちる。そのフェイントに意味があったのかは分からないが、同時に放たれた砲弾はあらぬ方へと飛んでいき、離れたどこかに着弾して建物の崩れる音が響き渡った。
『そしてトンファーかかと落とし』
続けてトンファーを振るうことで勢いの増したかかと落としがバスターウォーカーへと突き刺さり、その場で爆発が起こる。
『むっ!?』
さらに風音ドラゴンに背後から巨大な砲弾が迫ってきたが、それは『マテリアルシールド』から『暴風の加護』にスキルセットを切り替えていた風音ドラゴンを護る風によって逸らされた。
さらには周辺のビルからマシンナーズソルジャーの攻撃が襲ってくるが、同じように『暴風の加護』によって銃弾の多くは弾き飛ばされ、また貫通した弾丸も元よりある水晶の外殻や鱗によって阻まれて風音ドラゴンへのダメージは少ない。なお、飛行してない、地に足の着いた飛翔体ではない状態であれば 自動機関銃(セントリーガン) も反応しないようである。
さらには、風音ドラゴンにロケットランチャーを放つマシンナーズソルジャーもいたが、それも『暴風の加護』の壁によって弾かれてその場で砲弾が爆発し、その光景はもはや怪獣映画の呈をなしていた。
『む、バスターウォーカーの新手か。まったく、際限なく敵が集まってくるね』
そう言いながら風音ドラゴンがドシンドシンと舗装された路面を破壊しつつ、新たにやってきたバスターウォーカーへと向かっていく。
そして風音ドラゴンが大物を倒している間に、その下では仲間たちも戦闘状態に入っていた。中でも一番目立っているのはレームの乗っているアダマスキヤノンだ。
「おりゃりゃりゃりゃ」
『絶好調ですねえ……と、こっちからも』
風音より渡されたコマンドゴーグルにより、敵の位置や距離を正確に視認できるレームが壁ごとマシンナーズソルジャーを撃ち抜いている。その前にはタツオがタツヨシくんツインソードに乗りながらクリスタルシールドで防御を固めており、さらに彼らの後ろにはアダミノくん搭乗のティアラとエミリィが援護攻撃を行っている。
それ以外のメンツは、今はビル内部のマシンナーズソルジャーの掃討中である。
「あ、あの建物ブッ壊れるな」
レームの言葉にタツオがくわーっと鳴く。情報連携を通じて、その情報は他のメンバーにも伝わるが、その周囲には誰も近づいていないので特に問題はないようだった。ビルのひとつがガラガラと崩れ落ちて土煙が舞うが、暴れている風音ドラゴンの『暴風の加護』により、それは散らされ視界を遮られることもない。
そして戦闘は継続。騒ぎを聞きつけたのか、周辺よりさらに集まってきたエネミーたちを蹴散らしてようやく落ち着いた後、風音たちはその日の宿を取るべく見つけた隠し部屋へと向かい始めた。それは風音たちが再びダンジョン探索に入ってから五日目のことであった。
◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第七十二階層 隠し部屋
「そんじゃあ、お疲れ」
風音の言葉に他のメンバーも口々に「お疲れ」と返していく。
時間は夕刻。第七十二階層の隠し部屋に戻ってきた白き一団は、設置された風音コテージミニの中でくつろいでいた。
今はダインス自由騎士団救助から十日後である。あの出来事の顛末としては、ダインス自由騎士団はダインス天使騎士団へと名を変え、現在は天使教へと入信したようだった。
また弓花後援組織ムータンへのアウターたちの入会もとどまることを知らない状況のようである。
現在では『ドドリアン』のリーダーであるメーデスと『熊殺し団』のリーダーであるジーゴ、ボルネオファミリーのジジルに加え、ミンシアナ王国のアウターファミリーを纏めていたジェイコブと呼ばれる男が入会したことで、ムータンは弓花をトップとした実質的な四人の指導者による巨大組織へと変わっていた。
なお、ジェイコブと現在の天使教の教祖は共にゆっこ姉の息のかかった者たちであり、要するにどちらもミンシアナ王国のコントロール下にあった。それを風音も弓花も「もう、どうとでもなれー」状態で傍観しており、そんなことをキレイサッパリ忘れるべく彼女らはダンジョンの探索に精を出してもいるのであった。
「けど、あれだけ倒してもやっぱりレベルは上がらないのね」
弓花がそう口にした。ここに降りるまでに相当数のエネミーを倒している。しかし、風音、弓花、直樹に召喚師であるティアラは経験値を得ることでレベルが上がるはずなのだが、今のところその様子はなかった。その弓花の問いに風音が「そうだねえ」と言いながら、言葉を返す。
「カンナさんたちの話だと、七十四階層で現在のビル群からエリアが切り替わるらしいし、なんか普通の魔物っぽいのも出るらしいんだよね」
その言葉に弓花は「へぇ」と口にした。そんな会話をしているふたりの横では、直樹が稼働状態の機関銃を手に取っていた。
「武器は一応使えるようにはなったけど、これもいらないよなぁ」
以前に風音が触ったときはエラー表示が出て、また 無限の鍵(インフィニティ・キー) でロックを解除しても接続ケーブルが出てきただけで使用不可だった武器だが、今では使用が可能となっていた。
その理由は通常のドロップアイテムとして入手した、ロック解除キーと、接続プラグのあるバッテリーにあった。カードで電子ロックを解除し、出てきたケーブルをバッテリーと接続することにより使用が可能となったのだ。もっとも、だからといってそれが使い物になるかといえば別であった。
「だねえ。正直、持っててもって感じだし」
風音も苦笑いをして、直樹から手渡された銃をジロジロと見る。
「カザネたちの故郷では使われていたものなのだろう。お前たちでは使えないのか?」
「いや、ジンライさん。誤解ないように言っておくけど、私たちはこんなの使う生活してなかったからね。実際に訓練を積んだ人なら使いこなせるかもしれないけど、この階層クラスの魔物や機械の兵隊倒すんならパワー不足。手持ちの武器で倒しちゃった方がいいんだよね」
ランクの低い冒険者が使う分には有用だろうが、普通に戦っていた方が威力は高いし、弾の消費量も大きく銃弾もドロップ以外は入手経路がないとあればまったく使い勝手が悪いものであった。手榴弾や閃光手榴弾、ロケットランチャーはロック解除キーで解除をすればそれだけで使えるようにもなるし、一応銃と弾丸も併せて集めてはいるが、普通に戦っている方が明らかに風音たちの戦闘効率は良かったので利用する予定は今のところなかった。
「この永久バッテリーってのが手に入っても、意味ないわよね」
そして本日の戦利品。風音たちが現在いる隠し部屋で発見したものを弓花が指差した。
「建物の中にある電化製品も全部使用不可だからねえ。なんで動かないんだろ?」
「あの砦のような建物の中のガラクタか。確かに、お前たちはそのばってれいというのに繋げようとしておったな」
『見たことのないものばかりであったな』
ジンライとメフィルスの言葉に「動けば便利なんだよー」と風音が口をとがらせて返す。ビル内部のパソコンや冷蔵庫や、その他の電化製品もプラグが共通だったのでバッテリーに差してみたのだが使用はできなかったのである。
「多分だけど、それって電子パルス兵器とかいうののせいだろうなあ」
「何それ?」
ボソリと口にした直樹の言葉に、風音が眉をひそめる。その問いに直樹は、頭の中から絞り出すようにゆっくりと口を開いた。
「ええと、核戦争後の世界ものなんかの定番でさ。機械破壊電波ーみたいな感じで、電子パーツ部分を壊すのがあるらしいんだよ。そうなると、シールド処理をした軍事兵器や施設以外は全滅なんだって……そんな話があってさ」
「よく知ってるわね」
弓花が訝しげな顔で直樹を見る。直樹はこの世界に来る前からイケメンではあったが、勉強ができないお馬鹿な面もあった。そうした弱点がある方が愛嬌があっていいなどと抜かす女子も多くいたのだが、ともあれ頭はあまり良くないはずの直樹の知識披露を弓花が疑問視するのは当然のことではあった。
「いや、達良さんが教えてくれたんだよ。いずれ、役に立つときもあるだろうって」
「いずれっていつよ。って、今か」
直樹の知識の出元は達良くんであった。達良くんは己の妄想シリーズのひとつ核戦争後にどう生きるかを直樹に話していたのである。
「うーん。軍事兵器や施設か。となると……これってどうなんだろ?」
直樹と弓花のやり取りを聞いた風音はマップウィンドウを出して、それをカメラで撮影して写真を全員の前に置いた。
第七十階層辺りともなると探索パーティもほとんどいないために現時点では探索されていないエリアも多数存在する。そして風音が写真に収めたマップには、今日の昼頃に遠目から発見した、とあるエリアが映っていた。
「ふむ。あれか。あの金属兵たちが大量にいた……」
ジンライの言葉に風音が頷く。
「うん。明日は、ここの基地っぽい場所に進入してみようっか。実際にマシンナーズソルジャーたちは動いているわけだし、ここなら使えるものもあるかもしれない」
そこは、機械兵たちに厳重に護られていた軍事施設。そして風音たちの明日の目標が決まったのであった。