作品タイトル不明
第七百六十話 新フォームを見せよう
地響きを鳴らしながら土塊のゴーレムたちが歩いていく。
ガーリッククレイソルジャーと呼ばれているその植物系統の魔物は、根を張った地面へと干渉し土からゴーレムを生み出して自衛を行う魔物であった。
その本体があるのは首からニョキッと出ている芽の下にある胸部の心臓に位置する場所だ。直樹は『ガーリッククレイソルジャーのすぐそば』でそれを観察しながら、頷いていた。
(よし、バレてないな。前回は鉢合わせだったから混戦になったけど、今回は完全に先手を取れた。これなら行けるか)
激しい足音を立てて進んでいるガーリッククレイソルジャーのすぐそばに直樹はいた。ガーリッククレイソルジャーは近隣の生態系においては頂点に位置する存在であり、その歩みには何ものをも警戒するそぶりはなかったが、とはいえ、それだけで魔物たちが直樹のことを無視しているというわけではなかった。
(しっかし、姉貴の『インビジブルナイツ』もあったし、今まであまり使ってこなかったが……こりゃ便利なもんだな)
直樹は改めて己の今の状態に感嘆する。現在の直樹はスキル『影世界の住人』によってアストラル体と化していた。この状態で気配を殺せば、よほど感覚が鋭敏な相手でもなければ気付くこともできない。直樹は物理的に自らの存在を隠したままガーリッククレイソルジャーのそばにまでたどり着いていたのである。
(ま、そろそろ始めますか)
すでに仲間たちも配置についている。直樹が行動に移した段階で、彼らも動く手はずとなっていた。
そして闇の気配がその場で劇的に上昇した。直樹がアストラル状態のまま、狂骨の王衣を身に纏い、スキル『暗黒の呪印剣士』を発動させて全身に呪印を巡らせ、ステータスを上昇させたのだ。
『ウォォオオオオオッ』
さらに直樹は狂骨の闇魔王剣エクスと黒曜の王剣を握って叫び声を上げ、その双剣の中にある 闇黒物質(ダークマター) を媒介として地面にある影を浮き上がらせてその身に纏い始めた。それにより闇の因子は濃度を高め、直樹のアストラル体を物理域にまで引き上げていく。
肉体からアストラル体へ変換した上で、アストラル体を物理域に引き上げる行為はもはや下位精霊が上位精霊へと変異したに等しい現象だ。
肉体は物理的攻撃によるダメージを受けるし、アストラル体では攻撃が軽くなる。しかし、物理域に引き上げたアストラル体はその両方の弱点をカバーした上に、属性ダメージにおいてもアストラル体に比べて軽減されることとなる。
その状態が今の直樹の全力。それこそがスペリオル化によりダークヒーローとなった直樹に合わせて変更された、風音の弟最強計画の現段階での成果であった。
そしてガーリッククレイソルジャーの前にいるのは、翼を生やし、全身を蒼く輝く呪印で埋め尽くした漆黒のドクロ魔人。
その伽藍堂のドクロの眼底の漏れる蒼い輝きから上位者であることを感じとったガーリッククレイソルジャーたちはその場から一歩下がって、警戒しながら直樹を取り囲んでいく。
その様子を見ながらドクロ魔人化直樹はエクスを天に掲げる。
『やれエクス!』
「ガカカッカカカカカカッ」
次の瞬間には、エクスの笑い声と共に『魔王の威圧』が放たれた。直樹の気配に飲まれていたガーリッククレイソルジャーたちはその威圧により、容易にその身を硬直させる。
『レーム。今だ』
そしてドクロ魔人化直樹が漆黒の翼を広げて飛び上がり、仲間へと指示を出す。
「よし来た!」
続いて砲撃の音が鳴り響いた。
それはガーリッククレイソルジャーたちも全く予想していなかっただろう。極めて低い位置から強烈な一撃が放たれ、彼らの土塊の足が見事に粉砕されていったのだ。まるで凪払うがごとく横へと一斉射されていく砲撃に、ガーリッククレイソルジャーたちは次々とその場に崩れ落ちていく。
ガーリッククレイソルジャーは胸部に砲弾を当ててしまうと本体を傷つけてしまう。それを欲してここに来たのに、破壊しては意味がないのだ。だから直樹は予めゴレムスキャノンの連続砲撃を横に薙ぐように撃って足だけを破壊するようにとレームに言い含めていた。
そしてその作戦は完璧に成功し、脚部を破壊されたガーリッククレイソルジャーたちは面白いように倒れていった。
「レーム、終わりだ」
「チッ、このまま全滅できそうなんだけどな。ま、しゃーない。弓花にボロボロのもん食わせるわけにもいかねーか」
レームがそう言って撃つのを止める。そして、その言葉は決して大言壮語ではなく、事実としてレームならば……というよりもゴレムスキャノンと 雷王砲(レールキャノン) ならば可能であるはずであった。
そのことを理解しているライルは少しばかりゾクッとしたものを感じた。
ライルも自分たちが己の実力以上の装備を手にしていることを自覚はしているが、それでもゴーレム魔術を少し使えるだけでライルたちを超える戦闘力を発揮してしまうゴレムスキャノンと 雷王砲(レールキャノン) 、それに 雷神砲(レールガン) は風音の造ったものの中でも異質なものだった。
量産化されれば大陸の覇権を握ることすらも可能であろうと危険なシロモノを前に、いずれは国を預かる身としての恐怖があった。もっとも……と、ライルは笑う。
「ま、カザネがそういうヤツじゃなくて良かったよ」
「なんだって?」
レームが訝しげな目でライルを見たが、ライルは「なんでもねー」とだけ答えて槍を構えた。
「んじゃあ、ジンさん行くぜ」
『ふむ。手応えのない狩りになりそうですな』
「いや、ジンさん。あんま油断しない方がいいと思うんだけど……俺が言うのもなんだけどさ」
ライルも人のことは言えないのだが、ジン・バハルのやられ率はかなり高いものがあった。故に今のジン・バハルの言葉は、風音や直樹辺りに言わせればフラグが立ったというものだろうとライルは思ったのだが、対してジン・バハルは『今日ソレを払拭します』と返してきた。本人も気にしていたようである。
しかし、ジン・バハルとライルが動き出す前に、すでに交戦状態の直樹は行動を取っていた。
『エクス。連中を黙らせろッ!』
「ガカカカカカカカカカ」
直樹の言葉にエクスがさらに威圧を高めていく。風音ほどの効力ではないが、エクスも魔王の名を冠する魔物。放たれた強力な『魔王の威圧』の圧力の前には、足を崩されたガーリッククレイソルジャーたちでは対処できず、その場に伏せざるを得なかった。
しかし、まだ足を破壊されていない個体もそこには存在した。上位個体である四体のガーリッククレイナイトは『魔王の威圧』を振り切り、すでに再生させた足を使って直樹に向かって飛びかかった。
『甘いな』
だが直樹は慌てない。それから黒曜の王剣をスッと下ろすと同時に地上から影が延びてガーリッククレイナイトたちの足を絡めとる。それに気付いたガーリッククレイナイトが錆びた剣を振り回して影を切り裂こうとするが、すり抜けてしまう。
「飛竜ッ!」
そこに水晶竜の魔剣と竜炎の魔剣が変じた飛竜が突撃し直撃した。その攻撃でガーリッククレイナイトたちの内の二体は吹き飛び、残り二体については直樹自身が飛び出して二体同時に胴を切り裂いた。
『ん?』
そのまま大地に降り立ったドクロ魔人化直樹だが、周囲のガーリッククレイソルジャーたちが囲んでいることに気が付いた。
「直樹、スメルボムだ」
その光景を見てライルが叫ぶ。それは昨日にシップーを昏倒させた激臭攻撃の準備動作だ。
『分かってるさ』
だが直樹は慌てず、逃げることもせず、それからガーリッククレイソルジャーたちは爆発したような煙と音を出してきた。
「クセェエエエ」
『私は鼻などないから先に行きますぞ』
そう言ってジン・バハルが飛び込んでいき、ソレを見ながらジーヴェの槍がライルに口を開いた。
『我も鼻はないが』
「俺はあるんだよ。つかナオキは大丈夫なのかよ?」
鼻をつまみながらのライルの問いに、ジーヴェの槍が『問題あるまいよ』と返す。
『我が親友殿はあれで抜け目がないからな。あの姉のことを抜かせば』
ジーヴェの槍はそう口にして、槍の先を煙の中に突き出した。そして、そこにいたのは、翼を広げた 黒い幻影(ブラックファントム) 。今の直樹には、物理現象に属するスメルボムも効きはしないのだ。それを見ながらライルが肩をすくめる。
「相変わらず俺の親友は、人の出番を奪うのがお得意だな」
そう言って笑いながら下がるライルの目の前では、直樹とジン・バハルがガーリッククレイソルジャーの本体を次々と回収していく光景があった。
ガーリッククレイソルジャーの本体、マスターニンニクの確保の完了である。