作品タイトル不明
第七百五十九話 看病をしよう
死闘の末、風音たちはついにグレーターチキンの卵とササミを手に入れることに成功した。その後、アダミノくんとスザの元へと戻った風音たちは、特に他の用事もなかったため『テレポート』でゴルディオスの街へと帰還した。
一方で食材探索のためにトゥーレ王国に向かった直樹たちであったが、ガーリッククレイソルジャーの確保は未だ達成できていなかった。
◎トゥーレ王国 アライド地方 ゼナ山 山中
「うーん。見つかんねーな」
直樹がそう言いながら、たき火に乾いた小枝を投げ入れた。すでに時刻は十七時を超えている。辺りは暗くなり始めており、探索できる時間も過ぎていた。
そして、たき火を取り囲んでいるのは直樹とライルにレーム、召喚されたジン・バハル、それにジンライと弱っているシップーとそれを看護しているメイドの人形であった。
日中のガーリッククレイソルジャー探索を終えた直樹たちは今、ジンライたちが待っている山道付近の野営地へと戻ってきて、火を焚いていたのだ。
風音がいなければ当然コテージはなく野営生活である。ジンライとジン・バハルはいうまでもなく、直樹とライルも冒険者生活は長く、野営に慣れている。
なので、野営経験の少ないのはレームぐらいではあったのだが、レームは特に不満を言うことなく、たき火に薪を投げ入れていた。
「ふむ、駄目だったか。やはり、最初に取り逃したのは失敗であったな」
ジンライが珍しく落ち込んだ顔をしていた。
それもそのはずで、今ジンライの前にはシップーが弱々しい顔で横たわっていた。ジンライは探索には参加せずに、今日はシップーを看病していたのである。
「なーご」
「すまんなシップー。ワシに油断があったばかりに」
辛そうな顔で擦りよるシップーにジンライはその背を撫で続ける。
それは昨日の夕方のことだった。山中でジンライたちはガーリッククレイソルジャーの群れを発見することに成功し、攻撃を仕掛けたのだ。
相手もそれなりの強さを持っていたとはいえ、攻撃力だけならば闇の森の魔物に通じるジンライだ。初見であっても危なげなく攻略できると風音は考えていたし、実際にそれは正解であった。
今回の目的は討伐ではなく捕獲であり、ソレ故の難しさもあったがジンライも一流の冒険者だ。悪臭攻撃も事前に風音に知らされていて、それも無難に距離を離して避けたとジンライは思っていた。シップーがその場で倒れるまでは。
「しかし、シップーがガーリッククレイソルジャーに弱いとはな。ワシはその程度のことも知らなんだな」
ジンライは悲しそうにシップーを撫でる。
今でこそ意識はあるが、戦いの場でシップーは昏睡状態となり、それから先は倒れたシップーを護るための戦いにシフトせざるを得なかった。
結局、ジンライたちはガーリッククレイソルジャーを捕まえることはできず、取り逃がしてしまったのである。
「まあ、爺さん。ありゃあ仕方ねえよ。誰だってああなることは予想できなかったんだ。シップーもとりあえずは持ち直したし、良かったじゃあねえか」
ライルがそう口にし、ジンライも「そうだな」とだけ返す。
猫にとってニンニクやタマネギは毒物で与えてはいけないものだ。臭いについては十分に注意するように言っていた風音もゲーム中に猫系統の魔物をテイムしていたわけではなく、ガーリッククレイソルジャーがシップーにとって天敵であることを知らなかった。
「しっかし、危なかったぜ。よくやったぞノア」
それからレームがシップーのそばで看護をしているメイド服を着た人形に声をかける。ノアと呼ばれたソレは、レームの言葉に手を挙げて反応する。
「しかし、まさか山中に野良のメイドがいるとはな。俺ら、よくよく珍しいもの見かけるよな」
ライルがノアを見ながら、そう言って苦笑した。
「まあな。けどこれはゴーレムじゃなく人形だな」
直樹がノアを観察しながらそう指摘する。
それはレームとその祖父を長年世話してきたゴーレムメイドのノアであった。もっとも直樹の指摘通りに、ノアはゴーレムではなく人形と呼ぶのが相応しい存在であった。
「トゥーレ初代王ダンテ・ゴーリアスの作品だったっけか。ワルギレオが持ち出したってのは、まあ当然ではあるよな。多分、現存する数少ない人形だろうし」
ノアはレームが女王として利用されるために連れて行かれた際にワルギレオによって一緒に持ち去られていた。
ところが、いつの間にやら逃げ出していたらしく、行方不明になっているとレームも聞いていたのだ。
そのノアがシップーが倒れた際にいきなり現れたのだ。
「つか、ノアは屋敷のそばでずっと隠れていたのかよ?」
レームの問いにノアは手振りでそうだと答える。
ノアは逃げ出した後、帰巣本能によりレームたちの住んでいた屋敷まで自力で戻り、その周囲で待機していたようだった。すでにメイド服もボロボロで見る影もない。
そして再び戻ってきたレームを確認したノアではあったのだが、白き一団メンバーをワルギレオの仲間と認識したのか、ずっと離れて観察していたようだった。
「こっちを観察してたのに、シップーが倒れたらきてくれたんだな」
「ノアは動物好きだからな」
レームの言葉にノアが頷く。
また、レームはゴーレムメイドは簡単なことしかできないと口にしていたのだが、こと治療技術においてノアは優秀であるようだった。シップーが持ち直したのも、ノアの早期の対応によるものである。
それから直樹は「おっ」と声を上げた。
「姉貴たちが卵を手に入れたみたいだ」
どうやらたった今風音から直樹宛にメールが届いたようである。そして直樹は急いでウィンドウに映されている文章を読んでいるようだった。
『となるとあっちは手が空く。手伝ってもらうのも手ですな』
ジン・バハルがそう提案すると、直樹は少しばかり眉をひそめた。
「けど、姉貴はこれから色々と準備があるからな。明日駄目だったらエミリィたちの手を借りることを検討しよう。時間についてはまだあるだろうし」
時間。それは弓花がいつまで神力に耐えられるかの時間である。
現在弓花はドラゴンフェロモンの影響で白の館で一日中ボーッと過ごしてはいるが、その様子のままならばアオの見立てでは一ヶ月は保つだろうという話であった。
もっとも心理的な状態変化や、内臓などが弱ったりすれば一気に悪化する可能性もある。
弓花自身に耐性はあっても、所詮は生身の人間。その小さな身に龍神の神力を宿すのはどだい無理な話なのだ。
ともあれ、すべては同時に進行している状況でもある。であればできる算段があるうちは、自分たちは自分たちの役割を全うしようと直樹は考えてその場で告げると、それには仲間たちも同意した。
それから翌日にはシップーの看病をしているジンライとノアを馬車に置いて、直樹たちは再びガーリッククレイソルジャー探索へと山へ向かうこととなる。
また、場合によってはジンライには信号弾を上げてもらう手はずにもなっていた。シップーの体調が悪化した場合には直樹も英霊フーネを喚ぶ用意があった。
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「今日こそはこいつでバッタバッタと切り倒してやるぜ」
「はしゃぎすぎるなよ」
一行は山中を進んでいた。その先頭にいるレームはゴレムスキャノンに乗りながら、以前にダンジョンで手に入れたオリハルコンの大剣をブンブンと降り回して、草を切り落として道を造っていた。
そのゴレムスキャノンの後ろから直樹が呆れた顔で忠告する。なお、現在の編成はレームのゴレムスキャノンを先頭に、ジン・バハル、直樹、ライルにタツヨシくんケイローンの順に並んでいた。
「わーってるけどさー。今までこの剣の出番って全然なかったからなあ。ちーと、気合いも入ろうもんだぜ」
そう言いながらレームは目の前の草をさらに刈り取って進んでいく。他のパーティであれば、非常に大事に扱われるであろうオリハルコンの大剣もレームにとっては草刈り鎌と大差がないようだった。
なお、ゴレムスキャノンの砲撃での戦果は直樹やライルのソレを超えているのだが、接近戦においてはあまり実績がなく、大剣が活躍したこともほとんどなかった。
そうして意気揚々とレームが剣を振り回しながら先へと進んでいくと、直樹がスッと手を挙げて「ストップ」と口にして、全員の足が止まった。
『む、いたか?』
ジン・バハルの問いに直樹が頷く。それから右側の方を指さした。
「ここから先、十七、いや十八か。います」
直樹は移動をしながら遠見のイヤリングとスキル『察知』を併用し、上空から周囲の捜索を行っていたのである。
そのために編成は直樹を守るように配置されていたわけである。
そして直樹は遠隔視によって、今はっきりと目標を捉えていた。そこにいたのは、土塊でできたマッスルなゴーレムボディだ。それが山中を集団で移動していたのだ。そして、その頭部らしき場所からはニンニクの芽が出ていた。
その一風変わった魔物の名はガーリッククレイソルジャー。それはゴーレムを使って己の体を移動させる珍しい植物型の魔物であった。