軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七百五十八話 鶏狩りをしよう

スキル『直感』が働き、下方からさらにふたつの種の弾丸が飛んでくるのを風音は知覚した。だが足の触手は離れてはくれない。

「うわぁああっ!?」

このままでは激突する。そう考えて風音が叫んだが、直後に『暴風の加護』が発動して一個はあらぬ方向に、一個は岸壁に逸らされて激突した。

「ああ、そうだ。忘れてた」

それをホッとした表情で風音は見てから、続けて自分の足に絡む緑の触手へと意識を集中した。種子から出たばかりで、まだヌルヌルとしていて気持ちが悪い触手である。場合によっては風音は様々な意味で危険な状況に陥りかねない。

風音はそれを見て、以前にゆっこ姉にそそのかされて見てしまった達良のパソコン内の触手と書かれた隠しフォルダの中身を思い出してしまう。まだ幼い少女があられもない格好で触手に絡まれている画像と同じになってしまうという恐怖に駆られた。

「そんな達良くん好みの展開なんてやらせるかぁああ。スペル・ファイアストーム・スライサー!」

そして発動したのは炎の魔術だった。広範囲魔術を円盤状に薄く圧縮した炎の刃が触手を切り裂くが、如何せん威力不足である。触手を切断できていなかった。

「ッ硬い。んじゃ仕方ない」

さすがに闇の森の魔物の種だと風音は、それに対抗するために風音の虹杖を振るった。

「スペル・黄金の黄昏ウィズ旦那様ブレード!」

かけ声と共に風音の虹杖と虹竜の指輪とが共鳴して虹色の輝きが広がり、空中に黄金剣『黄金の黄昏』を持ったドラゴンの腕が出現する。

それは風音の虹杖にはめられているレインボーハートを虹竜の指輪の補助にすることで備わった新たなる力で、手足尻尾などの部分召喚であれば風音の竜気のみで出現させることが可能となっていた。

「やっちゃえ旦那様」

そして出現したドラゴンの腕は、風音が召喚した黄金剣を握って触手を切り裂く。その威力にはさすがの闇の森の触手といえども抗しきれない。ナーガは己の后を触手プレイの魔の手から救ったのだ。

「よーし、切れた。と、そっちからもか」

脱出には成功した風音だが今は空中に投げ出された状態であった。そして敵は触手だけではないのだ。

「コケッコーーー」

風音に続けてグレーターチキンからの追い打ち投擲が繰り出される。

(おっと、今度は慌てないよ)

風音は空中で翼をはためかせながら片手を突き出し、正面に 円錐(コーン) 状のマテリアルシールドを張った。スキルレベルが上がったことで生まれた新たなるマテリアルシールドは受け止めて反射させるのではなく、逸らすことで防御能力を向上させたものだ。その防御壁は想定通りにその能力を発揮し岩弾をすべて防ぐことに成功した。

「ま、暴風の加護でも防げただろうけど、一応ね」

それから風音は続けての触手の攻撃を避けながら周囲を見回す。

(思った以上にこの触手は厄介だ。グレーターチキンはティアラたちに任せるとしても、下からの攻撃も怖いか。だったら)

「天よりの使者ポッポさん、ゴー!」

風音が叫ぶと、天より崖下へと雷が飛来した。それはよく見れば鳥の形をしていた。上空で待機していたカイザーサンダーバードのポッポさんが、種を撃ち出している魔物を倒すべく崖下へと特攻したのだ。

(ポッポさんならば下の魔物とも退治できるはず。後は)

風音は崖に突き刺さったふたつの種子を見てから、続けて自らの鎧へと声をかけた。

「狂い鬼も来てッ」

その言葉に鎧が輝いて反応し、空中に瞬時に狂い鬼とベヒモス・ビーストが出現する。

「ウガァアアアアアアアアアアア」

そしてベヒモス・ビーストが悲しそうに鳴きながら崖下へと落ちていった。その様子を呆気にとられた顔で風音と狂い鬼が見ている。

「な、何してんの?」

「うがぁ」

狂い鬼も悲しそうに鳴いた。翼を持たないベヒモス・ビーストには空中戦ができない。それが残酷な現実だったのだ。

「あーもういいから。それよりも狂い鬼、アレの片方を任せたからね」

「ウガァアア」

ふたつめの種子からもすでに触手が出てきている。対して黄金翼をはためかせた風音と、純白の翼を広げた狂い鬼がそれぞれの種子に向かって迎撃を開始した。

**********

「あっちはどうにかなったみたいですわね」

そして風音たちの反撃が始まったのを見て、ここまで気が気ではなかったティアラがホッと一息ついた。ティアラは風音を救うべく飛び出したい衝動に駆られたのをずっと抑えていたのである。

「ティアラ。こっちに集中。攻めてきてるわよ」

「分かっておりますわ。騎士たちよ。守ってくださいまし」

その指示に反応してティアラとエミリィの乗る 炎の鷲獅子(フレイムグリフォン) の前を 炎の鷲獅子使い(フレイムグリフォンライダー) となった 炎の騎士(フレイムナイト) たちが大盾を二枚持ってガードの態勢を取る。それはグレーターチキンの投擲攻撃対策であったが、それでも防御は万全とは言えなかった。

「コケコッコー」

グレーターチキンから岩弾が投擲され、 炎の騎士(フレイムナイト) の一体が盾ごと吹き飛んで崖壁に激突したのだ。どれだけ盾が大きくとも空中でぶつかれば踏ん張ることはできない。 炎の騎士(フレイムナイト) たちにできるのは受けてその弾道を逸らす程度なのだ。もっとも彼女たちもただ防御しているだけというわけではない。

「こんのぉおお」

続けて仕返しとばかりにエミリィが四重炎の翼竜弓から矢と炎を放ち、グレーターチキンの一羽へと直撃させた。ダメージを受けたグレーターチキンは「コケーー」と鳴きながら吹き飛び、崖へと落下していく。

「お爺さまっ」

『任せよ!』

そして、その次の瞬間にはティアラの声を発し、 炎の鷲獅子(フレイムグリフォン) に乗ったメフィルスが飛び出して落下していたグレーターチキンを確保し、捕まえると同時にトドメを刺した。

『二羽目であるな』

それからメフィルスは 炎の鷲獅子(フレイムグリフォン) に倒したグレーターチキンを縛って、再び戦場を飛んでいく。

メフィルスの役割は岩弾を避けながらエミリィが倒したグレーターチキンを回収すること。メフィルスもすでに現役の勘を取り戻してはいるが、それでもギリギリの集中力を必要とするハードな役目であった。

『まったく。現役でもここまで神経にくる仕事はなかったのだがな』

メフィルスがそうぼやくが、実はそういうのはジンライがすべて引き受けていただけというのが真相である。

それから十分ほど空中戦が続き、グレーターチキンの捕獲も六匹になったところでティアラが風音に声をかけた。

「カザネ、六羽捕まえましたわー」

「よーし『卵も捕獲完了』してるし撤収しよッ!」

そして風音からの返事により、全員が一斉に崖を上昇し始めた。

「コケコッコー」

「コケー」

それを見てグレーターチキンたちが興奮した声を上げた。相手は怯み逃げようとしている。であれば勝てるとグレーターチキンたちは考えたのだ。しかし、さらに攻撃を仕掛けようと岩を構えたグレーターチキンたちに崖下から何かが迫っていた。

「クケエエエエエエ」

「コケッ!?」

それはカイザーサンダーバードのポッポさんだ。崖の岩肌ギリギリを飛びながらポッポさんはグレーターチキンを蹴散らして天へと帰っていく。グレーターチキンもポッポさんクラス相手に背後から突撃されてはひとたまりもなく、何羽かが崖に落ちて、何羽かが電撃を食らって悶死した。

「お、ウィングアームとかいうのが手に入った」

そのポッポさんが通過するのを眺めながら風音がそう口にする。種子も崖下の魔物も倒しきれず、グレーターチキンも撃破していなかった風音だが、最後の最後でスキルをひとつ手に入れることには成功したようだった。

そして風音たちが無事崖を登り切ると、そこに立っていたのは土まみれのタツオと体内に無数の卵が入って小太りになっているジュエルカザネであった。

「無事、成功ですわね」

「はぁ。疲れた」

タツオとジュエルカザネを確認したティアラとエミリィがそう言葉を交わす。

実のところ、崖下での風音たちの戦いはグレーターチキンたちを巣から遠ざけるための陽動であったのだ。戦闘中にジュエルカザネが地面を掘り進んで崖にあったグレーターチキンの巣へと到達し、タツオと共に卵を回収していたのである。

『母上。大漁です!』

「でかしたよタツオ!」

くわーっと鳴いて両手を上げているタツオの腕を掴んで風音はヒョイと自分の頭に乗せると続けて杖をジュエルカザネへと向けた。

「よーしジュエルカザネ。戻れ」

そしてジュエルカザネが杖の先へと戻って球体となり、風音も受け取った卵をすべてアイテムボックスに収納すると、一行はその場を去ったのであった。目標達成。ボーナスはグレーターチキンのササミであった。