作品タイトル不明
第七百三話 浄化塚にたどり着こう
◎魔道大国アモリア 王城メルダス
城内は今まさに喧噪に包まれていた。蜂の巣をつついたような騒ぎとはまさにこのことだった。何しろ突然現れたクリスタルドラゴンらしき成竜が王都を横断し始めたのである。
街ではその姿に民が驚き、一攫千金を狙う冒険者たちはどよめき、さらには唐突な出現に兵たちが大わらわで動き回っており、当然城の内部もあらゆる者が忙しく動き回っていた。
竜騎士団の存在もありまったく見慣れていないわけではないとはいえ、街中で成竜クラスのドラゴンが横断するなど普通あることではない。
そんな城の中をミサリとゼンドーは進んでいく。
「狼狽えるな、あれは敵ではない。指揮官を集めよ。国王陛下にご報告の後、指示を伝える」
ゼンドーが横に付いてきている伝令兵に伝え、その兵が去っていくのを見ると、続けて横を歩いているミサリに視線を向けた。
「連中の様子はどうだ?」
その言葉に左目が青く光っているミサリが口を開く。
「彼らはすでに街の外に出ています。冒険者たちが動き出しているので門前で足止めさせるように私の配下に命じました。ゼンドー様は冒険者ギルドへの通達をお願いします」
「分かった。しかしクリスタルドラゴンか。そりゃあ動くか」
ゼンドーが眉をひそめながらそう返す。
クリスタルドラゴンのコアであるレインボーハートはまさしく一攫千金の宝だ。それも成竜のものとなればその価値はさらに高まる。冒険者たちが騒がないわけがなかったのである。
そのゼンドーの言葉にミサリは頷きながら、何もない虚空に視線を向ける。今のミサリの左目は喚び出した召喚鳥と繋がっている。距離はもうかなり離されているが、それでも遠方に風音ドラゴンの姿は見えていた。
「それと門の近くで巡回中のローグ竜騎士団長が接触したようです」
「彼らを止めてくれたのか?」
そう言って期待に満ちた顔をしたゼンドーにミサリが首を横に振る。
「いいえ。どうやら合流し共に行ってしまったようですね」
「なんだと?」
ゼンドーが唖然とするが、ミサリは何かを考え込んでいる仕草をする。
「あの男め。勝手に動きおって」
ゼンドーが苛立ちを露わに吐き捨てるが、ミサリは「いえ」と言葉を返す。
「今はその状況のままの方が良いでしょうね。我々もローグ団長の動きに合わせるべきでしょう」
「どういうことだ?」
首を傾げるゼンドーにミサリが苦笑しながら話を続ける。
「客人である他国の王族を我が国で堂々拉致させたんですよ。まあ魔影衆も職務に忠実だっただけなので仕方のないことではありますが」
魔影衆とはアモリアの暗部に所属している者たちである。彼らが直樹の護衛と監視を務めていたのだが、悪魔狩りとの契約により彼らは直樹が拿捕されたときも動けず、ミサリたちへの報告で留めていた。それもあってミサリとゼンドーは早期に風音と接触していたのである。
無論ミサリたちとしても約束事だからと言ってミンシアナとの関係を悪化させたいわけではない。ことを穏便にするために彼女らはどちらに対しても早期に立ち回ろうと動いていたのだが、彼女らの行動よりも遙かに状況が動く方が早かった。
一時間と経たずに今の有様となったのだ。であれば、風音と接触した際に全面的に協力する旨伝えるべきだったとミサリは今では後悔していたが、それを許さなかったのは風音から発する威圧である。
彼らはその視線を前に確約できる言葉しか発せなかった。嘘を付けば身に危険が迫ると感じていた。
結果としてミサリたちは事実だけを告げていたのだ。悪魔狩りの契約に対応できるのは王のみ。彼らは軽く口約束もできなかった。
「まあ、確かにな。それで?」
「悪魔狩りとの約束事はこの際無視してでもカザネ様方の行動の阻害をしない方が良いでしょうってことです。その上でローグ、我が国の戦力が助勢しているとなれば今後の話の場での面目も立つでしょう?」
「なるほど、あちらへの言い訳も立つか」
納得したゼンドーにミサリが頷く。それからミサリが風音たちの向かう方向へとさらに召喚鳥を飛ばすと、その視線が急に鋭くなった。
「どうした?」
その状況にゼンドーが眉をひそめたが、ミサリの眉間にしわを寄せながら口を開く。
「浄化塚から……異変?」
ミサリの魔術師としての感覚がその先で起きている何かを察知していた。そして、その先にあるものとは悪魔狩りが所有している浄化塚であった。
◎魔導大国アモリア周辺
『良かったのローグさん? 一緒に付いて来ちゃって?』
バサァと鳥のような翼を広げながらドラゴンとなった風音が訪ねる。今の風音は、青色の肌に鳥の翼を持ち水晶の甲殻を纏った成竜の姿をしている。その背には白き一団の面々が乗っており、また後ろには別のドラゴンが飛んでいた。
「いえいえ、その姿こそがあの神竜皇后陛下と言うことなのですね。実際に見れて感激ですよ」
どうやらドラゴンマニアらしいローグがそう言って嬉しそうに頷いた。
『我らがクロフェ様の奥方の主を護衛するのは当然のこと。気になされるな』
騎竜であるバスカルもそう言って飛び続けているが、彼は彼でかなり強ばった顔をしている。それは風音の速度に付いて行くのがギリギリであるためだった。風音の竜体化は飛属という属性が今はついていて同サイズのドラゴンよりもかなり速い。
風音ドラゴンの背後にいて風の影響を受けぬとは云え、成竜ですらないバスカルにはきつい速度であった。もっとも目的地はもう目の前であった。
『それよりも気にすべきはミサリ殿らの不手際よ。あの者らは、ことの重要性を理解していない』
バスカルが怒りの咆哮を上げている。ローグもバスカルの怒りに呼応して頷いているようだが、どうもバハムート・シーラカンスを食べたことにより『古代化』現象が進んでいるようである。その性質がワイルドに変わっているために若干荒っぽくなっているようだった。
『まあ、そのことは後で。今は直樹を救わないとね』
風音がそう言ってバサァと翼をはためかせ降下する。その先にあるのはアモリア大浄化塚だ。そしてそこにはユッコネエが両前足を持ち上げて「にゃー」と鳴いて待っていた。
「お待たせユッコネエ」
◎アモリア大浄化塚前
風音が竜体化を解いて地面に着いた。仲間たちも一緒にその場に降り立つ。また降りてきたバスカルがユッコネエに深々と頭を下げ、申し開きをしているようだったが風音はとりあえずそれを無視して浄化塚を見た。
「結界が発動してる?」
風音が眉をひそめながら周囲を見渡す。
「スキル・ファイア・ヴォーテックス」
それから風音が魔術を発動させて大浄化塚へと撃ち込むと、途中で不可視の壁に阻まれて霧散してしまった。
「魔術系統に特化している防御壁かな?」
「ルビーグリフォンの攻撃では崩すのは難しいですわね」
ティアラが無念そうにそう口にした。ルビーグリフォンは広範囲攻撃を主としているために、こうした防御壁との相性は悪い。
「だったら物理攻撃に特化させてオーバーフローを狙うのが」
考えをまとめた風音がそう口にした途中のことだった。大浄化塚の中から誰かが飛び出してきたのが見えたのだ。
「ナオキッ!?」
エミリィが期待に満ちた目でソレを見たが、どうやら出てきたのは直樹ではなかった。建物の中から現れたのは三人の男だったのである。
「あれはエルフだ。悪魔狩りの人?」
風音が目を細めてそれを見る。そしてスキル『イーグルアイ』によって拡張した視力で男の表情を見て風音は気付いた。
「何かに怯えてる?」
風音が首を傾げる。男たちの顔は恐怖で歪んでいた。そして続けて出てきたものを見て風音たちの目が見開かれる。
「あれはっ!?」
「黒いドラゴンだって?」
仲間たちの言葉を聞きながら風音はその存在に気付いた。ドラゴン頭部、額の場所に『あるもの』が付いていたのである。
「白い仮面……悪魔だ。あれは東の竜の里を襲ったヤツラだよ」