軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百六十五話 収穫をしよう

◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第五十五階層

「ふーん。やっぱりあの二体だけは常に魔物なんだな」

ライルがそう口にする。

それは先ほどの要塞の入り口の二体の石像を指しての言葉であった。第五十五階層へ転移後に白き一団が再び要塞の入り口前へとたどり着くと、そこには最初に来たときと同様に二体の石像があったのである。

そしてカンナからの忠告通りに、その二体はやはりストーンタイタンであったのだ。ダンジョン内の石像は基本的にはランダムなのだが、あの入り口の二体だけは魔物固定のようである。

「オーリングは第五十五階層にポータルを設置するまでは何度も入り口前を通ったみたいだからね。まあ、間違いないっしょ」

ライルの言葉に風音がそう返した。その言葉にライルは頷きながらも「つってもさー」と話を続ける。

「俺らはもうあの入り口を通ることはなさそうだけどな」

「そうだね。そのためにも今日には隠し部屋かポータルの設置してある転移部屋を発見しないとね。また要塞外に戻るのも面倒だしさ」

隠し部屋か転送部屋のどちらかが発見できれば、そこに 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) の刻印を刻んで転移先にすることができる。

なお風音はポータルのある部屋の整備も指名依頼されていたのだが、五十五階層の地図購入をケチっていたので場所が未だに分からなかった。

「うっし。今日こそは転送部屋見つけるぜ」

「ま、今回は昨日通って埋めたマップを参考に隠し部屋の候補も絞ったしね。何かは手に入る……と思いたいねえ」

ライルの言葉に最近スカばかりの風音が少し自信なさげに口にする。

ちなみに前列にいる直樹がチラチラと中列で仲良く並んで話している風音とライルを見ていたが、幸いなことにライルは気付いていなかった。その禍々しい視線に気付いていれば、こんな気楽に会話などしていられなかったはずである。

そんな状況の中でしばらく先に進んだところ、途中でジンライが立ち止まって槍を掲げて「待て」と口にした。

「どうしました師匠?」

弓花の問いにジンライは鋭い視線を正面の石像に向けながら「これとあれだな」と言って順に石像を指差した。その石像を風音も前に出て目を細めて観察する。しかし、風音に鼻にも分からないようだった。

「その二体が怪しいと思うのだが、どうだ?」

「むー、根拠は?」

眉をひそめて尋ねる風音にジンライはフッと笑いながら言葉を返した。

「勘だな」

「勘かぁー」

風音はそう言って肩をすくめた。それは別に馬鹿にしているというわけではなく、単純に己のスキルをしのぐほど鋭くなっているジンライの勘に呆れているだけである。

「こっちはなんも感じないんだけどね。ジンライさんもどんどん人間離れしていくよね」

「何を言うか。ワシのそれは人間の枠内で、お前らのとは違うわ」

その風音とジンライの言い合いの後ろで「どっちもどっちだなぁ」と思っている人数は思いの外多かった。また「お前『ら』?」と弓花が首を傾げていた。まさか自分も含まれているのかと疑問に思っているようだが、なぜ疑問に思っているのかがそもそも謎である。

「そんで、どうする? また俺とエミリィでつぶすか?」

『母上。今回こそは私とレームで行きます』

ライルとタツオがズズイと前に出て遠距離攻撃を申し出るが風音はふたりに対して首を横に振ってから、後ろにいる黒ミノくんを見た。

「黒ミノくんを使うの?」

弓花からの問いに風音は「うん」と頷く。

『母上。私ではいけませんか?』

その情けない声に風音が「ごめんね。そうじゃないんだよ」と言ってタツオの頭を撫でてから、黒ミノくんを前へと進ませる。

「なぜ黒ミノくんを?」

そのジンライの問いに風音が「うふふふふ」と笑って、黒ミノくんの前に立った。

「スキル・武具創造:黒炎・ 刺股(さすまた) 」

風音は武具創造:黒炎を発動させ、斧の形状になっている腕を 刺股(さすまた) の形へと変えていく。この 刺股(さすまた) とはU字に近い形をした内側にトゲの付いた武器で、捕獲などに使われるものである。それが風音のスキルによって生み出された。その姿を見てジンライも合点がいったようで「なるほど」と頷いた。

「押さえつけてアレを採るつもりだな」

「そういうこと。とりあえず弓花は私の護衛でもう一体の方はジンライさんと直樹で倒しちゃって。他のみんなはここで待機、不測の事態が起きたら対応をお願いするよ」

その風音の指示に全員が頷くのを見ると、風音が「ゴー黒ミノくん!」と言って黒ミノくんを走らせた。

巨体で黒炎装備を身に纏っていて鈍重そう姿の黒ミノくんだが、中身はマッスルクレイでできており、そのコアはリヴィアタンの心臓である。いまいち特性を生かされてはいないのだがスペック自体は当然高い。

その黒ミノくんの突進に対してジンライの指定した石像も反応して動き出したのだがすでに遅い。正常に動き出す前に黒ミノくんはストーンタイタンの目の前まで近づいていた。

「よし、捕らえて」

そして風音の指示に従い、黒ミノくんは両腕の 刺股(さすまた) を使ってストーンタイタンを一気に押し倒す。ストーンタイタンも抵抗するが、初動の遅れにより完全に黒ミノくんに押さえ込まれている。

「こっちも行くぞ」

「了解。ジンライ師匠ッ」

そしてシップーに乗ったジンライと、イダテンの脚甲で加速した直樹がもう一体のストーンタイタンの元へと向かって走り出す。

「そんじゃあ、こっちは収穫と行こうかな」

戦いを開始したジンライたちを見て戦闘に巻き込まれない程度には距離が開いていることを風音は確認すると、そのまま弓花といっしょにトテトテと黒ミノくんの元まで歩いていった。

「うん。上手く押さえられてるね」

「カザネ、念のため手足は壊しとく?」

その問いには風音が首を横に振る。

「いや、手足がないと自壊する場合があるからね。それは止めとこう」

コアストーンを持つゴーレムは手足を破壊されると出力した魔力が全体に上手く回らず、そのままコアへと返ってきて自壊することがあるのである。

「了解。けどコアストーンって胸の中にあるんでしょ? グレイゴーレムの時はゴレムくんで無理矢理引きはがしたけど、こいつは難しくない?」

弓花がストーンタイタンを見ながら尋ねる。ストーンタイタンのコアはむき出しではなく完全に胸の中に入っていて姿は見えない。もちろんそれを破壊するだけならば弓花にも風音にもできるのだが綺麗にコアストーンシグマを取り出せるかは別の話であった。もっとも風音にはそれを解決する手段があるようで、少し笑いながら前へと出る。

「まあまあ、だからこいつを使うんだよ」

そう言って風音はアイテムボックスから水晶に閉じこめられたアダマンチウムの球体を出してきた。それを見て弓花が眉をひそめる。

「それは……メタルカザネ?」

「そうだよ。これをね、こう使うの」

風音が水晶に手をかざして魔力を通すと、内部のアダマンチウムの塊が動き出して水晶の一部を突き破って触手のようなものが出てきた。

「それは……何?」

「触手だよ。部分的に動かす分には魔力消費も少ないからね。メタルカザネにはこういう使い方もできるのさ」

そう言って風音は目を閉じてその場に座り込んだ。

「そんじゃあ、ちょっと私は無防備になるけどちゃんと護っててよ弓花」

「了解。しくじんじゃないわよ」

弓花の言葉に風音は頷くと、スキル『情報連携』を発動させてメタルカザネ(触手)と感覚を繋いでいく。そうすることで風音はメタルカザネ(触手)と一体になり、自在に動かすことができるのである。

「ふふふ、私触手デビュー」

「え、なんでそんなに嬉しそうな顔してるの?」

「達良くんも言ってたよ。触手は 漢(おとこ) の 浪漫(ロマン) だって」

「あの男、生きてたら絶対ブン殴ってやるんだけど」

弓花の達良に対する好感度が死んだ後にも関わらず、また下がったようである。

それからアダマンチウム製の触手は指先をドリルのように回転させながら、歯医者特有のあの音のようにギュルルルルルと鳴らしながらストーンタイタンの胸部を掘っていく。その音に弓花が歯が妙に痒くなる気分に陥っていると、風音が「む、これだね」と言って頷いた。

「上手く行きそう?」

「バッチリ」

そう返した風音の言葉と共に触手がストーンタイタンから抜き出される。その触手の先にはチャイルドストーンのように透明性はないが、大理石を球体に磨いたかのような綺麗な石の玉があった。

それをメタルカザネ(触手)は風音に前に置くとまた水晶の中へと戻っていった。

「ふぅ、終わった」

そして風音が目を開けた。メタルカザネとのリンクが解けたのだ。それからコアストーンシグマを手に取って立ち上がると、風音は破壊された水晶部分を修復してからメタルカザネの球体をまたアイテムボックスへと仕舞った。

また、すでにコアを抜き取られたストーンタイタンも動きを停止しており、無理矢理コアを抜かれた際に暴れ回ったためか見るも無惨な断末魔のような表情をしながらその場に転がっていた。

それを「うわー」という顔をしながら見た弓花は、思わず目をそらしてから風音の手の中にあるものについて尋ねる。

「で、それがコアストーンシグマなの?」

「うん。傷なしの高級品。取り出すのは見ての通り難易度高いから高値で売れるんだけど、これはこれで別の使い道もあるんだよ」

「別の?」

「コアストーンシグマって出力は十階層クラスのチャイルドストーンよりも低いけど動力石として使えるんだよね。これを使って家電的なヤツを作れないかなーと思ってさ」

「へぇー」

その言葉には弓花も興味が惹かれたようである。。

またコアストーンシグマはチャイルドストーンとは違いある程度の安定供給が見込めそうな素材でもある。その潜在的需要を考えれば、今後、コアストーンシグマの価値は爆発的に高まる可能性もあった。