作品タイトル不明
第六百六十四話 四兄弟と会おう
◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 入り口
「そんじゃ今日もダンジョンに入ろっか」
前回のダンジョン探索帰還から二日後、再び風音たちは 金翅鳥(こんじちょう) 神殿の前まで来ていた。ジュエルラビットたちやタツヨシくんノーマルは予定通りに白の舘の護衛についており、またクロフェとユッコネエの子供であるソルがジェルラビットたちを気に入って一緒に走り回ったりもしているようである。
「あ、白き一団のみなさん」
そして風音たちは管理所に行ってみると渋い顔をしたシーザーがそこに立っていた。
「あれ、シーザーさん。なんか不景気な顔してるね」
風音の言葉にシーザーが苦笑し、管理所の方をチラリと見ながら頷いた。
「まあ、ちょっと問題がありまして。ああ、気付いたか」
そのシーザーの言葉と共に管理所の中から四人の男が出てきた。それは肌が焼けている、よく似た顔立ちの男たちであった。
「お、こいつらが白き一団かよ」
「ジョー兄貴、女の子ばっかだぜ」
「アホが。見てくれに騙されんじゃねえよ。これでもトップパーティのひとつだぞ。全員化け物みてえなもんだろ」
風音たちの前に進みながら男たちはそんなことを話している。風音が「むぅ」という顔をしたが、一般的に見た場合にその評価はあまり間違いではない。
「ヘッ、初めて会うんだろうな。俺らぁ、パーティ『シャークキラー』っていう新参だ。俺はジョー・ドライゼン。んで、こいつらはガー、アー、ジェー。俺の弟たちだ」
そう挨拶をしてきたジョーという男はまるで鮫のように鋭い顔を風音に向けてきた。
「どうも、白き一団の風音です。それで何かご用?」
シーザーと『シャークキラー』の面々の反応から見れば、彼らが白き一団を目的にこの場に留まっていたのは間違いなさそうであった。そして風音の問いにジョーが笑みを浮かべて口を開いた。
「応よ。この中に 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) ってのはいるか? 俺らはそいつに会いに来たんだ」
カシャンと狼の仮面が弓花の顔に装着された。
「 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) ? 弓花のことなら」
風音がそう言って後ろを向くと、狼の仮面を被った弓花がスッと前に出た。
『ええと……きょ、今日は風邪です』
むろん、嘘である。しかし、ジョーは素直にその言葉を受け止めた。
「ああん? マジかよ。つーかアンタ誰だ? 白き一団にアンタみたいなのがいるってのは聞いてねえぞ」
ジョーも顔こそ一致はしないが白き一団のメンバーの情報は得ていたが、狼の面の戦士のことなど知らなかった。どうやら弓花が神狼の鎧を得て、狼の仮面を手に入れたという話までは聞けていなかったようである。
「私はゆ…マスクドウルフです。弓花さんに代わって白き一団のお手伝いをすることになった臨時の助っ人です」
「助っ人って……その人数なら助っ人必要ねえだろ?」
ジョーが白き一団を右から左へと一望しながら呆れた顔で言う。普通のパーティに比べて明らかに白き一団は数が多いし個々の戦闘力も高い。実際につい最近までは2パーティに分けて探索していたわけだし『フィッシャーマン』同様にクランであると言っても間違いではない規模であった。
そのやり取りを見ながらジンライがため息をついて一歩前に出た。弟子が不審な行動をとっているのも気にはなるが、ジンライとしてはさっさとダンジョンに潜りたかったのだ。
「それでなんの用だ? ことと次第によってはワシが相手になるが?」
ジンライの言葉に兄弟たちがザワリといきり立ったが、それをジョーが手を挙げて制する。それから値踏みするかのようにジンライを見た。
「アンタは……ジンライか。レアアイテムを使って若返りを繰り返してる男と聞いたが、なるほどな。見た目は若いな」
ジョーの言葉通りにジンライの姿は若く、今は二十代くらいである。それは目の前のジョーと同じか、或いは少し若いぐらいの外見であった。
「これでもお前の倍は生きておるがな」
「良い気迫を持ってやがる。まるでウチのジジイみてえだな」
「ジジイ?」
ジンライが首を傾げると「ヘッ」とジョーが笑う。
「シャーク・ドライゼン。知ってるか?」
「会ったことはないが海神のふたつ名を持つ男と同じ名だな」
ジンライも名前だけは聞いたことがある。それは漁師であり、目の前のジョーたち同様に時折ダンジョン攻略にやってきては伝説を作ってきた男の名だ。現在はもう九十を超えているとジンライは聞いていたが、であるにも関わらず今なお活躍を聞くことがある。
なお後ろでルイーズが「ああ、シャーちゃんの」と呟いているがそれは周囲の誰にも聞かれなかったようである。
そしてこの場でルイーズだけが気付いた事実ではあるが、ルイーズはシャークのお父さんのスパニダス・ドライゼンの第三夫人でもあり、シャークのお母さんでもあるのでつまりは四兄弟の曾祖母さんでもあった。
「それがうちのジジイだ。パーティ名もあんの若作りのジジィをブッ殺してやるつもりで付けたのさ」
「まあ、そうは言ってもジョー兄貴は祖父ちゃんっ子すけどね」
「うっせーぞ、ガー」
弟の言葉にジョーが吠えた。それから再びジンライに向き合って口を開く。
「ともかくだ。猫騎士だの、猫オジサンだのと呼ばれてるアンタとやり合う気はねえ。やりあってもまだ勝てるとも思えねえしな」
ジョーがあっさりとそう言った。『まだ』と言っている辺りに若干の負けん気の強さがあったが、ジンライもジョーのその目の確かさには「ふむ」と感心していた。
「ようするにケジメだ。俺らは 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) とやり合いてえ。ウチの子分どもを痛めつけてくれた礼をしてえのさ」
「ふむ? しかし、問題を起こしたのはクラン『フィッシャーマン』であると聞いているが」
そのジンライの言葉にジョーが素直に頷く。
「ああ、そうさ。俺だって馬鹿じゃあねえ。非があるのがこちらなのも十分に理解しているつもりだ。連中も功を焦りすぎたんだろうな。人様の手柄に便乗しようなんてのは海の男と名乗る資格はねえ。そいつらについては俺が改めてシメさせてもらった」
そう言った後のジョーがクワッとジンライを睨んだ。
「けどな、ウチの連中を全員病院送りにするなんてのは明らかにやりすぎだろうが」
「まあ、普通に見ればそうかもしれんな」
ジンライも頷いた。仕掛けてきたのがどちらかは分かっているし、弓花の正当性は確定している。だがジョーの言わんとしていることもジンライには分かる。そしてジョーの言葉を聞いて風音がジト目で弓花を見て、狼の仮面が視線を避けるようにがプイッと横を向いた。
「つーわけでだ。どうであるにせよ引っ込みがつかねえ。 血塗れの狂戦士(ブラッディベルセルク) に伝えておいてくれ。決着はつけさせてもらうってな」
「承知した。必ず伝えることを師であるワシの名において約束しよう」
すでに伝えてあるので、まったく違えるはずのない約束をジンライが交わす。それにジョーが頷いて、弟たちに声をかける。
「頼んだぜ。オラ、行くぞ」
「あ、猫おじさんのサインください。後で」
「うむ。ダンジョンより戻ってきたらな」
そんな会話の後に四男の頭をジョーが「いくぞ、こら」と叩いてシャークキラーの四兄弟が去っていった。そして彼らの気配がなくなって時点でジンライが弓花の方を見た。
「行ったぞユミカ」
「うう、すみません師匠」
カシャンと狼の仮面が外れて、弓花が申し訳なさそうに謝った。その弓花に風音が尋ねる。
「つか、なんで隠れちゃったわけ?」
「だって、街で暴れるなって言われてたし、顔合わせたら戦闘になりそうだったし」
弓花が渋い顔をしながらそう返す。
「ここダンジョンだから街の中じゃないけどね」
「あ、そっか」
「いやいや、ここで暴れないでくださいよ」
風音と弓花の会話にシーザーが目を丸くして口を挟んだ。その様子にジンライが弓花に声をかける。
「まあ、ここでとは言わんが……後で受けてやれ」
「あれ。悪いのはあっちなんだよね?」
ジンライの言葉に風音が首を傾げる。
「そうだな。しかし下の連中は見ていないから知らんが、アレはまともな男のようだぞ。リーダーというのはメンツも重んじなければならん。勝つにせよ負けるにせよ決着をつけて禍根をとっておきたいというのが本音だろうよ」
「メンドくさいねえ」
肩をすくめる風音にジンライが苦笑する。
「おまえもそう言う立場なのだがな」
「私はみんなの自主性を重んじるよ。そんじゃあダンジョンに入ろっか」
その風音の言葉で話は打ち切りとなり、そして白き一団は管理所で入所記録をしてからダンジョンへと入っていったのである。