作品タイトル不明
第六百六十話 第五十五階層へと向かおう
◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第五十二階層
「とうちゃーく」
そこは 金翅鳥(こんじちょう) 神殿、第五十二階層の階段部屋。そこには 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) の長距離転移により白き一団のメンバーが到着していた。地上よりわずか数秒で彼らはこのダンジョンの奥深くへとやってきたのである。
それからチンチクリンが全員いるのを確認すると声を上げる。
「それじゃあ今回からは全員で進むことにするからね。まずはカンナさんと共有したルートをたどって第五十五階層まで進むよー」
その風音の言葉に全員が頷いた。
ここまではパーティを分けてダンジョン攻略してきた白き一団だったが、ここから先は纏まって行動する方針へと切り替えることにしていた。
一般的なダンジョン攻略というものは無駄な戦闘を行わず体力を温存しながら進めて行くのが普通で、魔物との戦闘回避を優先しながら動ける六人程度のパーティで挑むのが基本となっている。
だが風音の方針は好き嫌いせず出されたものは全部食べるであり、その方針を貫くために敵が強くなるであろう今後の階層では火力を集中させた状態で挑むことにしたのである。
なお、カンナとマップ共有しているのは第五十五階層までで、それも風音は情報料として有料で購入していた。
「それじゃあ……隊列を組んで進もうか」
風音の言葉に全員が頷き、打ち合わせ通りに隊列を組み始める。
それはスキル『察知』が使用できる直樹、スキル『犬の嗅覚』が使える弓花とクロマルに熟練であるジンライとシップーを前列とし、中列を風音、ライル、ユッコネエ、メフィルス、後列をティアラ、ルイーズ、エミリィ、タツオ、レーム、さらにその後ろを護衛にロクテンくん、タツヨシくんケイローン、ホーリースカルレギオン、黒ミノくんが並んで護っている形となっている。
最後列が化け物の集団にしか見えないが、基本それらは自律型のロボットのようなもので出し惜しみしても仕方がないし、通り抜けできないところ以外では出し続ける予定であった。 知性の金属(インテリジェンスメタル) の搭載されているケイローン以外は最悪捨て駒に使える要員でもある。
「うがぁあああ」
「ああ、うん。狂い鬼の出番も用意するからね。骨ばかりは飽きたよねえ」
そして風音が先に進もうとすると鎧から少しだけ顔を出した狂い鬼が吠えて、それに気付いた風音の返事を聞いてからまた中に戻っていった。その様子を見ていたジンライが風音に尋ねる。
「なんだ。あまり使ってやっとらんのか?」
「いやー。ガルーダスカルと何度か戦ってはもらってるけど歯応えがないって考えてるみたいで」
「まあ、分からんでもないが」
そのジンライと風音のやり取りに後ろでルイーズがため息をついていた。
確かにガルーダスカルの正面から戦った際の単調さはジンライや狂い鬼には面白くないのだろうと一応の理解はルイーズにもできる。だが決して油断できる相手ではないし、そんなことを言えるのは本当に限られた者たちだけであるのだ。
それから風音たちは目の前の階段を下りて、第五十三階層へと足を踏み入れる。今回は探索はなし。最短ルートで第五十五階層へと進む予定であったが、その途中で風音たちはある人物と出会うこととなった。
◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第五十三階層
それは第五十三階層を下りて、カンナのマップから見ればその階層の半ばまで来たときのことであった。
「ふーむ」
風音が手を挙げて全員の進行を止めた。それから進む通路の先に視線を移し、鼻をクンクンとさせながら眉をひそめた。
「風音。誰か来てるみたいだけど」
『母上。あの人たちですよ』
続いて弓花とタツオも反応し、ユッコネエも「にゃー」と鳴きながら風音と同じ方向に視線を向けていた。
「どうしたのだ?」
「んー。お客さんかな。魔物じゃなくて人間の」
ジンライの問いに風音はそう答える。それから少し間をおいてからジンライに対してストレートに告げた。
「相手はトールさんだよ。あっちも気付いてるみたいで近付いてきているようなんけど、どうしよう? 逃げる?」
その言葉にジンライが眉をひそめた。
「そうだな。まあ相手がこちらを認識してるのならば、敢えて避けるのも警戒されかねんか。会うなら構わん。ワシは話さんがな」
ジンライがそう言うと風音も頷いてそれから進行を再開し、そのまましばらくするとトールと『ドッグソルジャー』の面々の姿が見えてきた。そして一番前を歩いていたトールが手を振りながら前に出てくる。
「どうも、こんにちは。奇遇ですね」
「こんにちはトールさんたち。奇遇っていうか、こっちに向かってやってきてたよね?」
風音のその返答にドッグソルジャーの面々が少しばかり驚いた顔をしていた。自分たちが認識されているとは思っていなかったようである。対してトールは「ははは」と笑って返す。
「我々は、今日はこの階層を攻略中なのですよ。そちらは昨日の話の通り、少し先に進める予定で?」
「そうだよ。まだ手を付けられてない隠し部屋を見つけたいしねえ」
風音の言葉にトールが苦笑した。
「ま、そうは言っても我々もそれほど多くの隠し部屋を見つけ出せているわけでもないのですけどね。やはり階層を網羅するには時間がかかりますし、見逃すことも多いのですが」
「それでも誰かの手が入っていない階の方が見つけやすいと思うんだよね。後、ここらへんは魔物がショボい」
「まあ、確かに……」
それからトールはジンライをちらりと見たが、ジンライが首を横に向けて視線を合わせないようにしているのを察して敢えて声をかけることはしなかった。その様子を見ながら風音が尋ねる。
「それで何かご用?」
「いえいえ。今日はただ見つけたのでご挨拶にと思っただけです。こちらも通りがかっただけですのでこのまま去りましょう。それでは皆様方、お気を付けて」
「うん、そちらもね」
そう言い合ってトールたちのパーティ『ドッグソルジャー』は風音たちと別れて、またダンジョンの奥へ進んでいってしまった。
「んー、待ち伏せされてたとか?」
ドッグソルジャーの後ろ姿を見ながら呟いた弓花の疑問を風音は首を横に振って否定した。
「いんや。さすがにそれはないでしょ。カルラ王ならともかくさ。多分、本当に今はここらへんを探索中なんだろうけど……迷いなくこちらへと進んできたところを見るとやっぱり相当な探知能力だね。 探知者(レーダー) の職業は伊達じゃないってことか」
「ふん。相変わらず気に入らんツラをしておるわ」
風音の横ではジンライがひとりポツリと呟いたが、だからといってひとりでトールを追いかけるようなこともなく一行はそのまま先へと進んでいく。
途中、ガルーダスカルの奇襲を三度ほど受けたが危なげなく返り討ちにして、白き一団は夕方に差し掛かる時間までには第五十五階層へと降りることに成功したのである。
◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第五十五階層
「うわぁ、でっかいねえ」
第五十五階層に降りて、まず風音が口にしたのがその言葉だった。
そこには紫と赤の混じった空があった。さらに周囲は荒野が広がっており、その先には雷が舞っている霧がかかっていた。そして風音たちの目の前には巨大な古びた要塞が建っていたのである。
「以前にダンジョンの中にお城とかもあるってのは聞かされたけどさ。それってこういうことなんだね」
風音が驚き半分呆れ半分という顔でそう呟いた。
ダンジョンの中を進んだ先にあったのは雷舞う霧に覆われた荒野とその中心にある巨大な要塞。なんともデタラメな光景であった。
「ふむ。要塞か。であれば、ここから先は恐らく上に登っていくことになるのだろうな」
「へぇ、分かり辛いなあ。ここまでは階段を下りてたのに」
ジンライの言葉に風音がそう返す。今まで次の階層へは階段を下りて進んでいたのだが、ここから先はこの要塞内を上がっていくらしかった。
「それじゃあ先に進む? 普通に入り口があるけど」
「あ、ちょっと待って。あの入り口前の左右の石像があるでしょ」
弓花の問いに風音がそう言って指を差した。その風音の言葉通り、要塞の入り口には左右それぞれに筋肉質な石像が並んで立っていた。
「あれがどうかしたのか姉貴?」
直樹が首を傾げる。その反応に風音が「むぅ」という顔をする。
「直樹の『察知』でも反応なしか。あれ、魔物なんだよ。近付くと動き出すタイプの。要塞内は石像がいっぱいあって、その中にあのゴーレムタイプの魔物が混じっているらしいんだよね。つっても、あの二体だけはいつでも確実に魔物だったってカンナさんが言ってたから、多分今回もそのはずなんだけど」
「なるほどな」
ジンライがそう言って一歩前に出る。試しに戦ってみようかと考えていたようだが、
「あ、待ってジンライさん。ここはライルとエミリィに任せてみよう」
「……ふむ」
ジンライが少しばかり残念そうな顔をしたが「了承した」と頷いて下がる。それから風音に指名されたライルとエミリィが前に出た。
「うーし。爺さんに譲ってもらったし、今度こそ一発で決めるぜ」
「ほら、兄さん。余計なこと言ってないでやるわよ」
そう言ってエミリィが四重炎の翼竜弓を構えると、その横でライルも彗星の投槍を出して構えた。
「さーてっと」「行けっ」
そして次の瞬間には青い光に包まれた槍が投擲され、同時に矢と四重の炎が放たれると、それぞれが石像に直撃し、木っ端微塵に打ち砕いた。
「うーん。今日もこの弓は絶好調」
「よっし。一撃必殺!」
並び立っていた兄妹が互いの健闘を称えて手を叩き合う。
「楽勝だったな」
「ライル、また増長するでない。あれはストーンタイタンというヤツでな。まともにやり合えば、結構やっかいな相手なのだぞ」
そのジンライの言葉に風音がうんうんと頷きながら、口を挟む。
「そうなんだよねえ。動き出すと結構早いし、特殊能力持ちで攻撃力もあるしね。囲まれてボコられたら普通に死ぬよ」
「お、おう。気を付けるぜ」
風音の言葉にライルが少しばかり冷や汗をかいたが、風音は視線をストーンタイタンの残骸に向けながらニタリと笑った。
「とは言っても、あれからはコアストーンシグマが採れるから結構な稼ぎにもなるんだよね。まあ、今回は完全にブッ壊れたし採れるのはカケラだろうけど、慣れてきたらコアストーンシグマをちゃんと採るように頑張ってみようかな?」
ともあれ第五十五階層の最初の戦闘はまずは完勝。それから白き一団はコアストーンシグマのカケラを回収すると、そのまますぐに要塞の中へと足を踏み入れたのだった。