軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百五十ニ話 相手を知ろう

◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第五十一階層

「トールがどういうヤツか……だと?」

「はい」

ジンライの言葉に弓花が頷いた。

弓花たちは現在、先ほど分かれた風音たちと同じ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿の第五十一階層を進んでいた。

メンバーは弓花とジンライを先頭に、続いてライル、直樹、エミリィに、一番後ろはマッスルクレイの身体を黒炎装備で包んだミノタウロス型ゴーレムである黒ミノくんがいる。また弓花の横にはクロマルが、ジンライの横にはシップーが並んで歩いていた。

そして弓花がジンライに尋ねたのは、先ほどダンジョンの入り口で武装神官のシーザーの言っていた男のことであった。

トール・ミハラー。その男はジンライの知り合いらしく、ジンライも危険な人物だと断言し接触せぬ方向でそのまま話を終えてしまったが、弓花はその相手の具体的な情報をジンライに求めたのであった。それにはジンライも渋い顔をしつつも「まあ、危険とだけ言っていても分からんしな」と理解は示して頷いた。

それからジンライは周囲を警戒しながら口を開いた。

「ワシはな。以前にヤツのパーティに参加したことがあるのだ」

「その……トールという男のですか?」

ジンライがコクリと頷く。

「お前も知っているようにワシは白き一団に入る前も冒険者をしておってな。シンディたちの元を去ってからはしばらく大陸中を旅していたのだ」

「えーと、師匠。差し出がましいことをお聞きしますが、何でシンディさんたちの元を離れたので?」

「強くなるためだ。シンディも理解してくれておったのでな。ワシには出来過ぎた良い妻だ」

何気なく言っているが結婚後、子供もできた後にブラリと家を出ていってしまった旦那の発言である。理由は強くなりたいから。夫としては最悪の部類であったが、ジンライはまったくそれを意識していないようである。

後ろで聞いていた孫ふたりが微妙な顔をしていた。弓花も「まあ、師匠だからなぁ」とジンライに聞こえないようにぼやいて、続きを促した。

「む、良いのか? では話を続けるぞ。ヤツと会ったのはここより北西にあるヌマ共和国でのことよ。当時その近隣に新しい国ができてな。そこで強者を求むと触れ込んでおったのでワシも武者修行の旅の成果をと思って向かっておったでな。確かそこはお前の知り合いであるギャオやギュネスの故郷だったな」

ジンライの言葉に「へぇ、ギュネスさんのですか」と弓花が返す。ギャオは無視した。

「ああ、それで道中、路銀も心許なくなったということもあってな。あやつのパーティ参加募集に乗ったのさ。そしてワシを含めて十人で一時パーティを組んでおったのだ」

「ん、爺さんはそのときは特定のパーティは組んでなかったのか?」

これはライルの問いである。その孫の質問にジンライは頷いた。

「組んでいたときもあったが、ソロだったときもあった。このときは移動中でひとりであったがな」

一定人数がいないと攻略が困難なダンジョンのあるこの街ではそれほど多くはないが、特定のパーティに組みせず助っ人として参加する者は珍しくはない。レイブンソウルに入る前のミナカなどがそうだったし、以前のギャオとメロウのようにふたり組で行動しているというのもそれなりに見られる。またガーラたちのようにパーティが死者多数や物別れ、仲間が引退したりでやむなく分裂し、気のあった他の冒険者たちとパーティと組み直すということも一般的な冒険者の間ではよくある話であった。

「ともかくだ。ワシはヤツと組んでいくつかのクエストをこなした後にそのランクAクエストを受けたのだ」

そう言った次の瞬間にはジンライの顔が怒りで歪んでいた。

「しかしあやつはそこでワシ等をハメた。あやつは仲間全員を囮にしてひとり手柄をかっさらっていったのよ。ワシ以外は全滅だ。みな魔物の腹の中に収まってしまった」

その言葉に弓花たちの目が見開かれる。それを見てジンライが苦笑する。

「そう、怖い顔をするでない」

一番怖い顔をしていたはずの男が弓花たちをなだめた。

「冒険者は暴力を生業とする者。そうしたことも日常茶飯事とは言わぬが、起こり得るものなのだ」

「まあ、それは分かります」

そう言ったのは直樹であった。ライルとエミリィも苦い顔をしているところを見ると三人で組んでいるときにも似たようなことがあったようである。その中で一番反応が大きかったのは弓花だ。

「そう……なんですか?」

「そうだ。だから信頼できる仲間に早々に巡り会えたお前はとても幸運なのだぞ。まあ、そうしたことをはねのけるほどの強さを今のお前は持っておるがな」

キョトンと弓花にジンライがそう言って笑った。それには弓花以外の他のメンバーも笑う。今の弓花をどうにかできる者など早々いない。さらに完全神狼化すれば、もう手が付けられない……というぐらいに弓花は成長している。またそれ以上に弓花をハメる様な者がいればムータンの者たちも黙っては見ていないだろう。単純な力だけではない、暴力と権力を有した者はこういう面でも強いのだ。とはいえ、特に実感のない弓花はそこら辺を深く考えはせずジンライに続きを促す。

「はぁ、それで結局師匠はそれからどうしたんですか? 死んだわけでは当然ないでしょうし」

「当たり前だ。ワシはひとりになりながらどうにか切り抜けてな。依頼を受けたモードリアの街へと何とか戻ることができた」

それから苦い顔でジンライは言う。

「そして戻ってみれば、ヤツは手に入れた報酬で豪遊しておった。それから抜け抜けと言いおったのさ。『ああ、生きてたんですか。それは良かった』と」

「ええと。それを見逃したんですか……師匠は?」

普段のジンライを知っていればそれはもう殺し合いになってもおかしくはないと弓花は思う。いや、そもそもがジンライでなくとも許せる話ではない。だがジンライの口から発せられたのは意外な結末だった。

「いいや。当時のワシは今よりも少々荒れておってしな。激怒してヤツに挑んだのだが、負けたのよ。完膚無きまでに」

その言葉に弓花の眉がピクリと動いた。

「その上にヤツはワシを倒した後に癒術院に送り込んで治療費も出して去っていきおった」

「以外に親切……なんですね?」

「親切と言うべきか否か……まあ、それは良い。負けた上に情けを掛けられたとあって、ワシはもうヤツを追う気にはなれんかった。結局実力不足を痛感したワシは目的であった新興国にも向かうことなく、また修行の旅に戻っていったわけだな」

ジンライの言葉に弓花たちが耳を傾けている。

「だが、それからもワシはヤツの噂を知ったのだが、どうにもヤツは以前から似たようなことを繰り返しておったらしい。魔法具の密輸などにも手を出したとも聞くが結局は捕らえられておらん。目を付けられても証拠がないのだろう。アレは抜け目ない男であったしな。ワシらも普通に逃げ遅れたと処理されておったよ」

そう口にするジンライの握る拳は硬く、シップーが「なー」と鳴いてすり寄ったことでようやくそれは解かれた。

「む、心配かけたかシップー」

「なーご」

ジンライの問いにシップーが鳴いて頷いた。

「すまんな。まあ、ワシは平気だ。過去のことではあるしな。それでヤツの実力はといえば、先ほど言ったように当時のワシよりも強い。今ならば負けぬと言えるがあれから二十年近くは経っておる。それもヤツは短命で知られるキメラ種であるにも関わらず今も正気を保って生きておるのだ。現在の実力は正直分からんな」

そう言ったジンライの言葉に一同の顔が固まる。

「それだよ爺さん。そのキメラ種ってヤツだけどさ」

「お爺さま、それはあの暗殺集団の化け物と同じものなの?」

以前にティアラを狙って襲った暗殺集団の中にいた魔物を多く取り込んでいた化け物を彼らは思い出していた。ライルたちの知っているキメラ種はそのひとりだけなのだからやむを得ない話ではあるが、ジンライは笑って首を横に振る。

「いいや。アレはもはや規格外だ。暴走状態を維持しながら、あの吸血鬼めの力を受けて再生を繰り返しておった。まあ、近い能力ではあるが……む、ユミカよ」

「はい。師匠」

唐突に立ち止まったジンライに追従して弓花も立ち止まる。それに気付いた後ろのメンバーも併せてそこに留まった。

「どうかしたのか?」

後ろから尋ねるライルに対して、弓花がスッと口元に人差し指を当てて「静かに」とジェスチャーを降るとライルが口に手を当てて頷く。

「先ほど風音からメール連絡があって、岩からマグマが急に噴き出してきたって書いてあったんですが」

「こちらはマグマではないようだな」

ジンライと弓花がヒソヒソと話してから、ジンライがライルの方を向いて尋ねる。

「ライル。彗星の投槍はあるな?」

「お、おう。あるけどなんだよ?」

戸惑うライルにジンライがニタリと笑うと、真正面の岩のひとつを指さした。

「あそこに向かって思いっきりぶちかませ」

「岩に?」

訝しがるライルにジンライは頷きながら、後ろのエミリィにも視線を向ける。

「エミリィも弓を構えよ。ファイア・ヴォーテックス四連を準備しておくのだ」

「はい。お爺さま」

その言葉にエミリィが嬉しそうに頷く。四重炎の翼竜弓を手に入れてからのエミリィは戦闘の組み立ての中でも重要視されることが多くなった。それがエミリィには酷く嬉しいようだ。弓が不遇職であった時代は終わりを告げたのである。

「んで、俺はアレを狙えばいいんだな」

ひとり前に出たライルがアダマンチウムの槍がいくつも入っている不思議な槍袋から彗星の投槍を取り出して構えた。

『初めての本番だが大丈夫か?』

背負われているジーヴェの槍が尋ねる。

「練習じゃあ何度も投げてるっての。つか、投げてみて何もなかったらショックなんだけど大丈夫だよな爺さん?」

「いいから。早ようせい。そろそろ気付くぞ」

ジンライの言葉にライルが目の前の少し先にある岩を改めて見る。微妙に揺れ始めているようにも見える。それにライルの中の何かが反応し、表情が真剣なものに変わった。

「なるほどね。そんじゃあ、全力でぶちかますぜ」

そう言ってライルが膨大な竜気を投槍に込め始めると、ガシャガシャと槍が変形していく。その姿は次第に鋭い形状へと変わり、青い魔力光が噴き出していた。そしてライルが大きく振りかぶって、

「ウォッリャアァアアアアアアアアアアア」

彗星の投槍を一気に投擲するとそれは回転しながら青い尾を引き、そのまま目的の岩へと激突して中規模の爆発を起こした。

「おっし。うん?」

会心の出来とライルが笑うが、その表情はすぐさま引き締まる。爆発の中から何かが出てくるのが見えたのだ。

「なんだありゃ?」

バラバラと骨をまき散らしながら長い巨大な何かが岩の中から出てくる。

「ガルーダスカルの集合体か。まるでムカデのようだが」

ジンライがそうつぶやきながらエミリィに合図をする。

「よし、撃てエミリィ」

「はい、お爺さま!」

そしてジンライの言葉に従ってエミリィが矢を放ち、同時に四つのファイア・ヴォーテックスも弓から放たれた。