軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百五十一話 忠告を受けよう

◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 入り口

「おや、来たか。一週間ぶりくらいかな」

カールを病院送りにした翌日、風音たちがダンジョン入り口に設置してある管理所に入るとそこではいつも通りにダンジョン管理官である武装神官のシーザーが立っていた。

「どうもシーザーさん。オヒサー」

風音が手を振って挨拶をして、他のメンバーもそれぞれに挨拶を交わす。本日、白き一団はダンジョン探索に来ていた。

「今日はフルメンバーだね。また二手に分かれるのかい?」

シーザーが風音たちを見回してからそう尋ねる。その言葉には風音も素直に頷いた。

「うん。今日、明日中には二階層分は進んでおきたいしね。ガンガン攻めてやろうと思って」

グッと拳を突き出した風音に仲間たちも頷いた。そろそろ本格的に探索しようと思ってから幾星霜。ようやく風音たちもダンジョン探索に本腰を入れる気になったのである。それを見てシーザーがホォホォと笑う。

「なるほど、気合いは十分というわけか。まあ無理はしないようにはするんだよ。高名な冒険者であっても毒針のひとつで命を落とすこともある。特にこのダンジョンは色々と仕掛けが凝っているようだからね。足下を掬われかねない」

「うん、そこらへんは分かっているよ。何度かヒンヤリとした目にもあってるしね」

実際に風音たちも五十階層に至るまでには危険な目にもあっていた。それに 金翅鳥(こんじちょう) 神殿内の罠で亡くなった冒険者は少なくはない。曲がりなりにもここはA級ダンジョンであるのだから当然ではあるのだが。

「ま、こんな一大発明をした人物がここで死んでしまうのは勿体ないからな。十分に気を付けておくれよ」

シーザーが後ろに管理所の奥に置かれているオブジェクトを見ながらそう言った。それは転送口が四つ設置されているポータルだ。ここから飛べるのは第十階層から第四十階層までの四カ所。そして第四十階層と第五十階層、第五十五階層、第六十階層まではそれぞれの階層から順に飛ぶ必要があり、また第六十階層以降は濃い魔素などの影響によりポータルでは移動不可能となっていることも判明していた。

「順調に稼働はしているみたいだね」

「してくれないと困るよ。こいつのおかげでギルドに届けられる素材の量もうなぎ登りで、相当稼いでいるそうだしね」

『ウナギが登るのですか?』

くわーっと鳴いたタツオが首を傾げたが、それには風音が「素材の持ち込みが多いってことだよ、タツオ」と返すとタツオと一緒にレームとライルも「そうなんだ」と頷いた。

「けど、ダンジョンの攻略速度が以前に比べて段違いに早いからダンジョンの寿命そのものが縮まりかねないって問題も上では懸念されてるところなんだよね」

「まあ、そこらへんはギルドと国とで調整してもらうしかないんじゃないかなぁ。ポータルも安いもんじゃないし、攻略が遅れて困ってるダンジョンを中心に回していく感じに収まると思うよ」

風音の言葉にシーザーが「なるほどなぁ」と感心した顔をしている。

「まあ私たちは自前で行くから関係ないけどね」

「ポータルの元の転送魔術か。羨ましい限りだ」

「今は私しか使えないけど、研究中らしいからそのうち使い手も増えると思うよ」

風音がそう返すが、風音たちが使うのは直樹の 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) による転移である。まだ試してはいないが神より別の世界に飛べることも保証されているアーティファクトであるため、第六十階層以降の移動も問題ないと風音は推測していた。

「ま、ポータルも六十階層までしかって言っても、そこまでいける人も少ないだろうし、このダンジョン内ではそれほど問題にはならなさそうだけどね」

A級ダンジョンの五十階層ともなるとランクAパーティクラスの能力が必要となるのは常識で、ポータル使用条件は自力踏破であるため風音たちが降りた階層までたどり着けるパーティ自体が少ない。

「五十階層越えは現状では白き一団を含めて六組ですからね。今、街にいるパーティで越えられそうのは他に十組程度というところ。とはいえ、外からもまだ熟練のパーティが来るでしょうし増えてはくると思いますが」

「やっぱり増えてきてるんだね」

冒険者ギルドに行っても見かけぬ顔が目立つようになってきている。そのことで街の中が若干騒がしくもなっているようだった。

「やはりポータルの恩恵が大きいんですよ。低階層をスキップできて稼ぎどころにすぐに行けるから国内外の冒険者たちの間でも稼ぐなら 金翅鳥(こんじちょう) 神殿だって話が回ってるくらいらしいですから」

「しかし、このダンジョンはA級だぞ。易々と攻略できるものでは……」

ジンライの言葉にシーザーが少し困った顔で頷く。

「ええ、だから戻ってこない者も多いのです。それと……」

シーザーが眉をひそめながら小声になって口を開いた。

「問題のあるパーティもそれなりに見受けられるようになってきました。特にドッグソルジャーというパーティがいます。彼らには気を付けてください」

「どういうこと?」

首を傾げる風音に、シーザーが難しい顔をしながら話を続ける。

「評判の良くない連中なんです。今は第五十階層まで到達していますから白き一団とかち合うかもしれない」

「評判の良くない? ポータルをズルして利用してるとか?」

風音の問いにシーザーが首を横に振る。

「いえ、少なくとも話を聞く限りはまだ何もしてはいないようですが……冒険者ギルドの連絡網に彼らがダンジョン内で冒険者を襲っている容疑があるのですよ」

その言葉に風音が眉をひそめ、他のメンバーも表情が硬くなった。そしてジンライが慎重な顔をしながらシーザーに尋ねる。

「そこまで言うのだ。根拠はあるのか?」

「ありません。状況証拠以外には何も。本来であれば言うべきではないのでしょうが、近い階層で探索する上に、あなた方は名が大きすぎる。万が一を考えて警戒はしておいてもらった方がいいと……これは上からの指示ですね」

そう言われてジンライの目が細まる。

「なるほど。心に留めておこう。しかしドッグソルジャーとは聞き覚えのない名だな。リーダーの名はなんと言う?」

「は、リーダーの名はトール・ミハラー。おそらくジンライさんなら聞き覚えがあるでしょうが、 地獄の番犬(ケルベロス) のふたつ名で呼ばれる男です」

その名を聞いてジンライの眉がピクリと動いた。

「知り合いですか、師匠?」

弓花の問いにジンライが頷いた。そして苦々しい顔で口を開く。

「ああ、知っている。忌々しいヤツだ。そして恐ろしい男でもある」

そう言うジンライの顔には嫌悪感がにじみ出ていた。だが侮っている風はなく、相当に警戒しているようだった。

「しかし、パーティの名を変えておったか。どうせまた使い潰したのであろうが」

「よっぽどの人みたいだね。強いの?」

風音の問いにジンライは一言「強い」と返す。

「キメラ種という存在だ。この中でもまともにやり合えるのはワシかカザネ、ユミカぐらいなものだろう。オーリやオロチに準ずる強さだと思っていた方が良い。その上にヤツは手段を問わん。注意してし過ぎるということはない相手だ」

その言葉に直樹たちがざわめく。その言葉に風音も肩をすくめながら苦笑する。

「そりゃあ、知らない臭いの連中には近付かないようにした方が良さげかな」

風音のその言葉にはジンライも頷き、実際にその方向でダンジョン探索を行うことを決めると風音たちはシーザーと別れ、以前に 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) の刻印を刻んだ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿の五十一階層入り口付近へと転移した。そして風音組と弓花組に分かれて五十一階層を行動することとなったのである。

◎ 金翅鳥(こんじちょう) 神殿 第五十一階層

「あっぶなー」

グツグツと岩を溶かしていく黄金のマグマを見ながら風音がそう呟いた。

「カザネ、大丈夫」

「ああ、平気ー。問題なし」

後ろからルイーズが声をかける。

今は弓花たちと分かれて第五十一階層を探索し始めてから一時間ほど経ったところ。メンバーは前回同様、風音を中心にティアラ、ルイーズにレームとタツオ、それにメフィルスで構成されている。その後ろにロクテンくんやタツヨシくんケイローン、ホーリースカルレギオンが付いているのも変わらずである。

そして風音が先頭に立って黄金色の洞窟の中を歩いていると、唐突に目の前の岩から黄金のマグマが噴き出してきたのだ。それを風音はとっさに『マテリアルシールド』で弾いてダメージを回避していたが、かなり紙一重のタイミングではあった。

そして後方のルイーズが前に出たのは水の精霊を呼びだしたからだが、幸いなことにその出番はないようだった。

「まーた、気付けなかった類の罠なの?」

「というよりも反応が多すぎて、気付くのが遅れたっていうか」

ルイーズの問いにそう返しながら風音が周囲を見回す。マグマが常駐している岩が多くあるのだ。それは『犬の嗅覚』では感じられないし『アラーム』も動きがなければ反応できない。今は『直感』によって直前に察知し、どうにか防げたというところであった。

「あーもう、造った人の嫌らしい性格がにじみ出ているようだよ」

その言葉にルイーズが苦笑しながら口を開く。

「カルラ王は白き一団に合わせてダンジョンが変わっていくって言ってたんでしょ? 多分、アンタ対策に特化していってるんじゃないかしらね」

ルイーズの言葉に風音が「うっ」という顔になった。

「ということは今後もそういうの増えてく可能性が高そうだね。あーやだやだ」

風音が肩をすくめ、他のメンバーもうんざりした顔をする。それから風音はあることを思い出してルイーズに尋ねた。

「ああ、そうだ。ルイーズさん、さっきの話なんだけど」

「さっきの? 何かしら?」

首を傾げたルイーズだが、すぐさま『さっきの話

』に思い当たり、風音に尋ね返す。

「もしかしてトールのこと?」

それに風音が頷いた。

「ジンライさんの知り合いだったみたいだけど……どういう人なのかなって?」

『キメラ種という話ですが、それはユミカたちが前に戦った暗殺者たちのひとりと同じ者ということでしょうか?』

タツオの言葉にルイーズが難しい顔をして口を開いた。

「あたしも詳しくは知らないんだけどね。多分、あの化け物よりはまともなはずよ。人間社会で生きていける程度には……ね」

その言葉にティアラが少しばかり安堵の顔をしていた。暗殺集団のひとりであったキメラ種の女の化け物ぶりはティアラの脳裏に今も刻まれている。

それからルイーズは少しだけ考え込んでから口を開いた。

「それにジンライくんは昔、その男とパーティを組んだことがあったはずなのよ」