作品タイトル不明
第六百三十三話 太陽の子を見よう
◎ゴルディオスの街 ユッコネエグレートキャットカテドラル 胎盤の間
白の館の地下にあるユッコネエグレートキャットカテドラル。ユッコネエとクロフェの子供の誕生を祝って風音が造りあげたその地下施設の中枢である胎盤の間にいつになく人の気配があった。
「うわ、なんか緊張してきた」
「兄さん落ち着きなさいよ」
「姉貴はまだかな?」
本日はこの場に出掛けている風音以外の白き一団全員が揃っていた。
『歴史的瞬間というヤツであるな』
「ふふふ。光栄なことね」
ルイーズとメフィルスが嬉しそうにそう口にしあう。今日はクロフェとユッコネエの繭が孵り、ついにふたりの子供が目覚める日なのであった。
「カザネはまだ戻らないんですの?」
「ええ、なんでも西の竜の里の客人をアオ様と一緒に出迎えに行ったそうですな」
そんな中で、そわそわしているティアラの問いにはジンライがそう答える。今この場には風音とアオはいない。西の竜の里ラグナからクロフェの配下が二名やってくることになっていて、町から離れた場所で待ち合わせとなっていたためである。
「でもよーカザネたちが戻ってくる前に卵が孵ったらどうするんだ?」
『大丈夫ですよレーム。クロフェさんが竜気を込めることで正しく目覚めるようですし問題はありません』
「けど、遅いわね風音たち」
そう言いながら弓花が天井を見た。置かれた不滅の水晶灯から発せられる光が水晶によって反射し、光線のシャワーとなって部屋を満たしている。また弓花が視線を中央の水晶の杯に向けてみれば置かれた繭からも太陽のような輝きが放たれていた。
「のじゃーのじゃー」
「にゃっにゃーにゃー」
またその杯の周囲を幼女と黄金の猫がクルリンと回りながら踊ってもいた。それは魂から湧き上がる想いを込めた喜びの踊りであった。
そうしてそれはエレベータから風音とアオ、アカ、ギルヴァラの四人が降りてくるまで続いていたのである。
「おー、ようやく来たのじゃー。待っておったのじゃーみんな」
「にゃーにゃー」
ふぅ……と、まるで一仕事終えたかのような顔のクロフェとユッコネエがアオたちを出迎える。ユッコネエも風音が来たので大変嬉しそうである。
「申し訳ありませんクロフェ様。少々ゴミ掃除をしておりましたので」
「ん、ゴミ掃除を手伝ってきたよ」
アオの言葉に続いて風音も手を挙げて答えた。
そしてふたりが言うゴミ掃除とは四日前の戦い以降にアオが夜なべして仕掛けた探知の魔術にかかったジルベールたちの掃討であり、今回風音はスキル『インビジブルナイツ』を使用してアオたちの姿を隠し奇襲を成功させていた。
もっとも勝利して戻ってきたアオの顔は若干浮かない。そのことに気が付いたクロフェが首を傾げながら尋ねる。
「アオー。どうしたのじゃー?」
「ああ。いえ、なんでもありませんよクロフェ様」
アオは無理矢理に笑みを作り、首を横に振った。もうクロフェのおなかはポッコリしていない。アオはそれがただ悲しいだけであった。
ともあれ、アオとしてもそれはそれとして己の内に仕舞っておくことにし、今は言うべきことを口にする。
「さてクロフェ様、そろそろ人化の術を解いてはいかがです? 御子様に最初に会うのですから本来の姿の方がよろしいと思いますが」
「おお、そうだったのじゃー。最近はずっとこの姿でおったから忘れておったのじゃー。アオは相変わらず気が利くのじゃー」
クロフェがそう答えると途端に幼女の身体が輝き出し、光の中で鳥のような翼を持つ黄金のドラゴンへと変化していった。
同時にアオとアカ、それにギルヴァラの姿もそれぞれ蒼竜、赤竜、虎柄の竜の姿へと変わっていく。
「うぉぉお、なんかコェエ」
『カッコいい……私も早くああなりたいです』
その様子にレームが怯えて、タツオが目をキラキラさせていた。また、その光景を見ながら風音がユッコネエに尋ねる。
「ユッコネエはドラゴンにはならないの?」
「にゃー」
「ん、このままで良いんだ?」
「にゃーにゃー」
そのままで良いそうである。ユッコネエは今が本来の姿なのだ。だからクロフェも特には何も言わず、猫のままでも不満はないようで、であれば風音もそれ以上は何も言わなかった。それからクロフェが風音の前へと進み、口を開いた。
『それでは我が子を起こすのじゃ。カザネよ。頼んだぞ』
「あいよっ」
クロフェの言葉に風音が頷く。周囲が何のことかと見ていると、風音が床をダンと音を立てて踏んでそこから床が割れたかと思えば赤いボタンの付いた台座がゆっくりと上がってきたのである。
「え、自爆ボタン?」
「いや違うだろ。いやー、違うよな姉貴?」
弓花の疑問に直樹が若干疑問系になりながらも風音に尋ねたが、風音は特に答えずに、
「ポチッとな」
とスイッチを押した。爆発はしなかった。だが部屋全体がわずかにだが揺れ始めたのである。それには周囲がざわめくが風音は気にせず両手を持ち上げて天井を見て声を上げた。
「さあユッコネエグレートキャットカテドラルの真の姿をここにッ」
ちなみに今この場で驚いていないのは風音と事前に聞いていたクロフェと、風音のすることには全肯定のユッコネエだけであった。
『上に昇っている?』
その動揺している者の中でもっとも冷静だったギルヴァラが浮遊感からそう判断する。天井が開いていく。本当の空が、青空が見え始めた。
また中からでは把握できないが外から見ればその変化は劇的なものだった。白の館の中庭が割れて、そこから突然水晶のつぼみのようなものがせり上がって出現したのだ。それえからまるで開花していくかのように水晶の壁が一枚ずつ開いていくのが白の館の周囲にいた人々には見えていたはずである。
また、この施設に使用している動力は最近使用していなかった小型竜船の動力球(小)。そこから生み出された魔力によって水晶花はゆっくりと開き、そのまま胎盤の間が地上へと姿を現した。
「やりすぎではないか、これは?」
「ねえ……」
ジンライとルイーズが呆気にとられながら言葉を交わすが、もはや手遅れである。この場はすでに太陽の真下だ。
「最初から設計は仕込んではあったんだけどね。この子は太陽の属性持ちだし、であればお日様の元で目覚めさせようってクロフェさんがね」
風音はそう言ってクロフェを見て、クロフェも頷いた。
また強大な力を持つドラゴン四体は一応周辺の水晶の花弁によって隠れているので姿は見えないが、その放たれている強大な竜気に気付いた冒険者も少なくはない。
もっとも気付いた者がこの場に入ることはできない。何故ならば白の館の周辺には黄金の光の壁が出現し、何人たりとてこの場に立ち入ることができなくなっているためである。
『クロフェ様の黄金領域か』
『久方ぶりに見たぜ』
ギルヴァラとアカが辺りを見回しながら口を開いた。
そしてクロフェが水晶の杯に置かれた黄金の繭の前に立ち、両腕を挙げて口を開く。
『さあ、すべての用意は整ったのじゃ。目覚めよ我が子よ! 太陽に祝福されし竜ソルよ!』
それからクロフェは一気に己の竜気を注き、金色の繭も輝きを強めていく。ユッコネエも「にゃー」と鳴きながら一緒に竜気を込めて繭へと送り続け、その輝きはさらに増していく。
「生まれるのか」
「……綺麗」
直樹と、その横にいるエミリィが目の前の美しい光に心奪われている。輝きが増し、やがて繭が引き裂かれてさらなる光が胎盤の間に満ち溢れた。
「にゃーーー」
その姿を見てユッコネエが歓喜の声を上げた。我が子の目覚めである。喜びがないはずがなかった。
「にゃぁあああ」
同時に光の中から鳴き声が聞こえたのだ。
『うぬ……にゃあ?』
その鳴き声にギルヴァラが首を傾げた。周囲がざわめく。
まさか生まれたのは猫なのではないか? そんな疑念が彼らを襲ったが次第に光は収まっていき、ついには繭から出てきたソレの姿が見え始めた。
その出てきた姿は金翼竜妃クロフェと同じ鳥の翼を持ち、全身を金毛で覆った微妙に猫っぽい姿のドラゴンである。
「にゃあああ」
それが、太陽竜ソルが世界に姿を現した最初の瞬間であった。