軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六百三十二話 奇襲を仕返そう

◎ゴルディアスの街付近の森

「で、僕にどうしろっていうのさ?」

ゴルディオスの街より東に離れた森の中。そこには三つの鎧が並び立ち、それに向き合うように子供と竜の仮面をした黒い鎧の人物が立っていた。

『 某(それがし) らが陽動を果たす。エイジ、お前には白の館に入り込んでクロフェの子供の繭を盗ってきてもらいたい』

三体の鎧の中の灰色をした一体がそう口にした。その鎧の中は空洞であり、それは他の二体も同じようであった。つまり彼らは四日前に白き一団を襲撃したリビングアーマーと同類の存在であったのだ。

「なーるほど。お前らの尻拭いを僕にしろってんだね。まったく」

対してエイジはジト目で三体の鎧たちを見て皮肉の混じった笑みを浮かべる。

『英霊ジークは出てこない。戦場の残滓からカザネの腹のモノは偽物と判明した』

『そして再度送り込まれた 某(それがし) の探査の力によって、目的のモノは白の館の地下だろうと判明した』

『数を揃えるために用意したブラックポーションも大概が押さえられて使えないことも判明した』

三つの鎧の言葉にエイジは頭をかきながら口を開く。その顔はどちらかというと呆れているようにも見えた。

「英霊がいなかろうと風音の悪魔殺しのスキルがある以上はこっちにしてみても命がけだっての。まあ、確かに 盗賊王(シーフキング) の職業の僕なら不可能ではないかもしれないけどね」

七つの大罪のひとりである 強欲(アワリティア) のエイジは本来戦闘職ではなく、こうした仕事こそが本分ではあった。

「でも断るよ」

しかし、あっさりとそう告げたエイジに緑のジルベールが前に出て声を上げた。

『これはユキトからの厳命だぞ』

その言葉にエイジは肩をすくめる。

「うん。でもそれはお前に対してでしょジルベール。それも自分はそんな木偶を用意して僕には危険を冒せっていうんだ。まったく冗談じゃないよね」

『ぬ』

そのエイジの言葉には鎧たちの声が止まった。

「ジルベールの精神をコピーされただけの脆弱な王たちの魂。能力も借り物の武具がメインで、持っている魔力すらも 魔力の川(ナーガライン) から注入されただけのもの。そんな借り物だらけでできた劣化鎧が僕に命令すること自体がおかしいんだよってことを分かってるのかい?」

『しかし、 某(それがし) らは』

「エイジ」

エイジの言葉に鎧の一体が何かを言おうとした時、竜仮面が声をかけた。その声は老人のものだった。

「ん、分かってるよ。面倒だね、本当に。僕も前に風音たちにちょっかいをかけてユキトにお仕置きされたからさー。ここまでおとなしくしてたってのに、それで呼び出されて来てみればこれじゃん? やる気なくすよね」

そう言ってエイジは目の前の三体の鎧を見ながらため息をついた。

「焦って対応したのは分かるけど、だったらせめてジルベール本人が来てくれりゃあまだ……いや、見込みがないからこうして使えないのをとりあえず送ったってわけかな?」

「まあ、神様というものは元々勝手なものだ」

『何を言っているのだ?』

竜仮面とエイジの会話に、緑のジルベールが首を傾げながら尋ねる。

「いんや。やっぱり木偶は木偶ということだよ。はぁ、行くよジンライ。この状況じゃあそもそも『気付かれず』に忍び込みようがない」

その言葉に竜仮面が残念そうに口を開いた。

「これから来る連中は楽しめそうな気配なのだがな」

「よしてよ。僕は無駄死にはしたくはないよ。まったく風音たちと関わると痛い目ばっかみるんだから……さっ」

そう言ってエイジはジルベールたちへと声もかけずに竜仮面と共に黒い光りに包まれて消えていった。それは転移の術によるものであった。

『エイジめ。なんと勝手な子供だ』

そして残されたグレイのジルベールが悪態をついた。もはやエイジはいない。であれば自分たちだけでやらなければならない。

『しかしどうする? 英霊ジークは出ないにしても 某(それがし) らだけで白き一団とクロフェたちを相手にできるとはさすがに思えぬ』

それには紫のジルベールが口を開き、他のジルベールたちを見た。

『しかし我が探査の力は繭が孵る可能性を感じている。早急に襲撃を仕掛けなければ取り返しが……』

レーダードームのような盾を持った緑のジルベールがそう言いかけた時、三体の鎧がピクリと固まった。何かが迫ってくる気配を同時に感じたのだ。それは生前で言えば悪寒に該当する感覚であった。

『ぬ?』

『なんだ?』

辺りをジルベールたちが警戒するが、しかし気配は周囲にはない。何故ならばそれは上空から来たのだ。

「うぉおおおおらぁああああああッ!!」

直後に赤い彗星が空から降下し、緑のジルベールへと落ちた。

『なっ』

それには緑のジルベールが驚きの声を上げる。盾を持つ腕が切り裂かれ、宙を舞っているのが見えた。

「手緩すぎる。我が妹の力で気配を絶っていたとはいえ、こうも簡単に接近を許すとはな」

呆気にとられた緑のジルベールの前には赤い鎧を着た厳つい男がいた。その男は持っている剣を振るって緑のジルベールに対して真横に、さらには軌道を変えて真上からも切り裂いてバラバラに破壊した。そして鎧に詰め込まれた 自然魔力(マナ) が一気に噴き出してその場で爆発した。

『こいつは!?』

『アカだ。ラグナの門番、赤い魔竜の』

二体のジルベールが叫び、爆発の中でもまったく動じないアカと呼ばれた男に驚愕する。だが彼らにとっての脅威は目の前の男だけではなかった。

「先ほどの話を聞く限りでは、所詮は借り物の力と言うことだろうな。そこに肉質があろうと精神体であろうとなじまぬ身ではなかなか上手くいかぬものだ」

『なんだとッ?』

突然の背後からの声に紫のジルベールが振り向くと、そこにはいつの間にやら寡黙そうなガタイの良い男がいた。同時に紫のジルベールは向いた途端にその身を貫手によって貫かれていた。

『あ、が……』

「ふんっ」

そのまま男が気合いを籠めると、鎧を貫いた丸太のような腕から膨大な竜気が放たれる。その勢いに内部の 自然魔力(マナ) が一気に消し飛ばされて紫のジルベールだったものはガラガラとその場で崩れ落ちた。

「ぬう。聞いたよりも脆いな。急造品か?」

男はそう口にすると最後に残ったグレイのジルベールを見る。アカも共にグレイのジルベールに視線を送る。

『剣虎竜ギルヴァラ……西の里にいるはずの貴様らが……何故?』

対してグレイのジルベールは未だに驚きを隠せない。しかし、その彼にも当然のように第三の死神が訪れる。

「別に驚くほどのことでもないでしょう。西の竜の里の中心は場所ではなく、金翼竜妃クロフェというドラゴンなのです」

そして声が響いた。グレイのジルベールがゆっくりと振り向くとそこには蒼い炎に包まれた男がいた。

「我が主クロフェ様の御子に害をなそうという輩がいるのであれば我らは当然現れます。狙いが繭ということはそのまま固定して動力として使おうとしたのでしょうが……」

蒼い炎が男に怒りに呼応したかのようにさらに燃え上がる。

「そんなことを我らが許すとでも? 悪魔の下僕風情が身の程をわきまえなさい」

『ラグナの門番アカに剣虎竜ギルヴァラ……そしてお前は蒼焔のアオか』

グレイのジルベールの言葉にアオが涼しい顔で手をクイッと曲げて挑発する。

「来なさい。私は卑怯者のふたりのように不意を打ったりはいたしません」

その言葉に後ろからブーイングが響いたが、それを無視しながらアオはグレイのジルベールを睨む。対してグレイのジルベールは退路を断たれ選択肢がもう残っていないことを自覚する。だがこの状況に於いてもグレイのジルベールには勝機があった。

『グッ、うぉおおおおお!!』

叫びながら走り出したグレイのジルベールの握っている剣はアカの持っている剣と同じドラゴンキラーの一振り。それは今回クロフェ対策に用意された剣だ。もっともその剣を見てもアオの表情には焦りがない。

「なるほど。全身を竜殺しの装備で固めましたか。まあ、無駄ですがね」

そう言いながらアオが両手を広げて魔力を込める。

「スキル・ラストマジック・プラズマヘイロウ」

そして、アオの大魔術が放たれる。

瞬間的に蒼い光の輪がグレイのジルベールを覆うようにいくつも発生して拘束する。

『グッ、なんだと?』

もっともソレは拘束魔術ではない。

『これはグリモア最終章の……』

グレイのジルベールがすべてを言い終わる前に輪の中で蒼い炎の柱が噴き上がった。それが輪の中に留められグレイのジルベールを焼き尽くしていく。

『ガァアアアアアア』

叫び声が上がり、鎧が融解していく。そして魔術が終わった後には溶けた鎧がアオの前に転がっていった。それから、その鎧を見たアカとギルヴァラが同時に口を開いた。

「おい。まだ、生きてっぜアオ」

「ふん。手緩いな」

「うるさいですねえ。ワザとですよ。ワザと」

ふたりのツッコミにアオが肩をすくめて返す。

『チィ』

そのやり取りから、グレイのジルベールは不意を突くのは無理だと悟ると一気に立ち上がってドラゴンキラーを振るい、そのままアオを切り裂いた。

『何ィ!?』

しかしグレイのジルベールが切り裂いたアオはそのまま蒼い炎となってかき消えてしまう。それは幻術の一種だったのだ。

「ふぅ。その腕は邪魔ですね」

さらに背後から声が聞こえて剣を持つ右腕に手が置かれたと思えば、接触した部分が蒼い炎によって溶かされ剣と共に地面に落ちた。続けてアオは左肩をガッシリと握ってその場でグレイのジルベールを押しつけて膝を突かせた。

『……う、動けぬ!?』

その微動だにできないグレイのジルベールを見下ろしながらアオが口を開いた。

「さて、勝負はつきましたのであなたの主にお伝えください。クロフェ様の御子はもう目覚める。手遅れだと。これ以上は『西の竜の里』との全面戦争を覚悟せよ……とね」

そう言い終わるとアオはグレイのジルベールを片手で持ち上げ、森の方へと投げ飛ばしたのだ。

『くっ……』

グレイのジルベールは無様に木に叩きつけられ地面に落ちると、チーズのように溶けた鎧の身体を引きずりながら森の中へと去っていった。

「確保は?」

ギルヴァラの問いにアオは首を横に振る。

「必要ありません。また送り込まれても面倒ですからね。あちらの要望に応えられないことは早急に伝えた方がよいでしょう。それにどうせトカゲの尻尾。必要な情報は得られないでしょうし、自爆でもされては面倒です」

そのアオの言葉にアカとギルヴァラが苦笑する。

「それであれか。相変わらずえげつねえ」

「性格がにじみ出ているな」

アカとギルヴァラには見えていたのだ。アオが肩に置いた腕から力を鎧に注いで何か細工をしたのを。また鎧の内側に一瞬蒼い炎が舞っていたのもふたりには見えていた。

「うるさいですねえ。ほれ、そろそろクロフェ様の元に向かいますよ。そのためにあなたがたも里から出てきたのでしょう? そして見て驚くと良いですよ。地下にあるユッコネエグレートキャットカテドラルはちょっと考えられないものですから」

そう言って歩き出したアオに、アカとギルヴァラも期待の籠もった顔をしながらそのまま共に森を去っていったのであった。