軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百六十一話 設計図を渡そう

カルラ王の『 金翅鳥(こんじちょう) 神殿』宣言から一夜明け、ゴルディオスの街全体が喧噪に包まれていた。

何しろ、突如とした魔物たちの襲撃に、ダンジョンの主の宣言、さらにはゴルド黄金遺跡そのものが黄金の炎に包まれた荘厳な神殿へと変わってしまったのだ。

なお、街に繰り出された魔物たちはどうやらカルラ王の出現と共に消失していたらしく、それ故に先日のカルラ王の前に駐留軍や冒険者たちが集まってこれたようだった。

そして、その騒動の中心に強引に入って暴れた風音はといえば、今はタツオ、直樹と共にミンシアナの王城デルグーラでゆっこ姉と面会をしていた。

◎王城デルグーラ 賓客室

「風音。毎回言っていることだけどね。使う前にはまず、練習をしよう。それに説明はちゃんとしておいたよね。それを忘れないようにしておこうね」

そこにいたのは笑顔の男だった。だが、笑顔であるにも関わらず、その男からは異様な威圧感があった。そして、その男とはつまりは達良コピーであった。

「ぐぐぐぐ、あそこまで限界ギリギリに絞ってるとは思わなかったんだよ。達良くんもやりすぎだと思うんだよ。私は」

対して、達良コピーの前では風音が正座でグチグチと言っていた。それには達良コピーは冷たい視線を投げかける。

「言い訳はいいからね。反省しようね」

「うぐぅ」

そんな母親とまん丸い男がやり取りをしている横でタツオがくわーと鳴いた。

『どういうことなんですか?』

母が怒って、気がついたら母が怒られていたのである。タツオも訳が分からず、くわーと鳴かざるを得なかった。それには共にいるゆっこ姉が苦笑しながら言葉を返す。

「なんでも、達良ちゃんが譲渡した武器の使い方を風音が間違っていたらしくてね。まあ、正直聞いてる私にはどっちもどっちという気がするんだけど」

「だよねー」

「反省」

「はいっ」

達良コピーの言葉に風音が正座で答える。それを見てゆっこ姉と直樹がやれやれという顔をした。

現在、風音たちが王城デルグーラにいるのは、ゆっこ姉からの状況説明の為の召喚要請があったためである。

それに風音は応じ、直樹の 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) で王城デルグーラのクリスタル風音ちゃん人形の前へと転移してゆっこ姉と対面しているのであった。

そして、達良コピーと出会った風音が、昨日の滅びの神剣『アースブレイカー』の不発について食ってかかったのである。さらに猛烈に反論されて正座したのである。風音は達良には勝てないのである。

「それで、結局、何が原因だったわけなんだよ達良さん?」

直樹は達良コピーにそう尋ねる。直樹としては昨日の状況は英霊ジークが『アースブレイカー』を使用しようとして失敗したとしか聞いていない。ここまでの話を聞いても直樹には理由がよく理解できなかった。そして、達良コピーが「端的に言ってリソース不足だよ」と直樹に返したのだ。

「その前にダメージがあったというのも制御しきれなかった原因のひとつだろうけど、ジークにはもっと別の問題があるんだよ。僕の作った滅びの神剣『アースブレイカー』は英霊ジークのスペックをフルに使用する必要があるんだ。中途半端な状態での使用は一番の害悪だからね」

「……やり過ぎなのよ。それは」

ゆっこ姉もそう小さく呟いたが、達良コピーはすでに風音には説明を終えているらしく、風音は風音で事前に試しもせずに見込みを甘く見て使用したのだから反論要素がなかった。

敢えて言うなら、まさか本当にそこまでギリギリの使用条件にまで絞ったのかというところではあるが、ともあれ、風音は「うー、次は失敗しないから」と口にして正座をしているのである。

「まあ、いいわ。そのままで良いから、ともかく私は状況の説明が聞きたいの。そういう反省は特に良いから」

そして、ゆっこ姉はそう切り出した。別にゆっこ姉は風音に猛省を促して正座させるために呼び出したのではないのだ。

知りたいのはA級ダンジョン『 金翅鳥(こんじちょう) 神殿』とその主であるカルラ王のことだ。ゆっこ姉はその説明を風音に求めて呼び出したのである。

「そうだねえ。まあ、大体はメールで送ったとおりなんだけどね」

風音はそう切り出しながら、昨日に起きたことを最初から話し始めた。

◎ミンシアナ王国 ゴルディオスの街 バトロイ工房

「……はぁ」

そして、風音たちがゆっこ姉と会っているのと同じ頃、ゴルディオスの街のバトロイ工房ではジョーンズ・バトロイこと親方がため息をついていた。

「ええと、親方?」

「いや、なんでもねえ。分かってる。大丈夫だ」

目の前でキョトンとしている弓花を前にして、親方はそう口にした。しかし、弓花を見ては親方からはため息が出てくる。

普通に会えたのだから、素直に嬉しいはずなのだが、なんともいえないモヤモヤ感が親方の胸の内にはあったのだ。

「んー。私、何かしました?」

そう尋ねる弓花に親方は首を横に振る。弓花自身に何かあるわけではないのだ。

それは親方の中だけの問題だ。弓花にどうこう言うのは筋違いと親方は言葉を飲み込んでいた。それを見てモンドリーが口を開く。

「いや、親方。昨日はね……」

「モンドリー」

余計なことを口にしそうなモンドリーに殺気のこもった視線が刺さった。

故にモンドリーも「あはは」と苦笑いで言葉を濁すしかなかったのである。

「うん。まあ、久方ぶりに会えて親方も嬉しいんだよ。うん」

「はあ、それと親方、大丈夫ですか? なんか目が赤いし昨日寝てないんじゃ?」

続く、心配そうな弓花の言葉に親方が「で、でえじょぶだ」とどもって答える。

親方もさすがに言えるはずもなかったのである。昨晩から朝にかけて人の道から外れてしまった弓花を偲んで泣きながら飲み明かしていたなどとは。

そして、明け方に眠りこけて、昼過ぎに弓花が尋ねてきたと聞いて、慌てて飛び起きたのだということを。

ともあれ、親方は「ゴホンッ」と咳払いをした後、弓花と向き合うことにした。余計なことを考えるよりも話を進めたほうが良いと判断したのだ。

「それで、そっちはどうなんだ?」

「ええ、今はとりあえず宿屋を確保して、風音はちょっと出てますが、他のみんなは冒険者ギルドと癒術院に回ったりしてますよ」

親方は獣化して戻ったらしい弓花の体調のことを気にして聞いたのだが、弓花は白き一団の現状と受け取ったようだった。もっとも、その白き一団の状況にも興味はあるし、弓花自身が気にもとめていないようなので親方もそれ以上は特には何も言わなかった。

「まあ、昨日はいろいろとあったからな。なんでも天使が現れて、癒術院や神官でも匙を投げたような傷を治したってぇ話じゃねえか」

「ええ、まあ。そういう話もありましたね」

その言葉には弓花は苦笑いで返した。その天使のことを弓花は知っていた。

そして、その天使の正体とは直樹の英霊フーネである。

職業『至高の癒し手』であるその英霊はシップーを全快させるために呼び出され、それが成った後には、直樹曰く天使そのものである性格から術者の指示には従わずに勝手に飛んでいって人々の傷を癒して回ったのである。

実のところ、風音も知らぬことだが、ゼクシアハーツ時代の直樹のロールプレイはまさしく天使そのものであった。男であっても公平に、女性に対しても優しく接し、好感度をあげまくっていたのである。直樹は基本イケメンだがイケメンとは外面だけのものではない。男女問わず好かれているほどの絶大で高度なコミュニケーション能力こそがイケメンがイケメンたる理由なのである。

そして、それは当然フーネにも受け継がれており、直樹の実の姉と同じ顔をしながら、その姉よりも遙かに優しく、愛らしく、まるで慈母のような存在として人々の心に強く残った筈である。つまりは風音の株爆上げということでもあった。

「こっちは一応、シップー以外は大した傷はないですしね。まあ、今は師匠がちょっと心に傷を負って落ち込んでまして、それで、こっちにはこれなかったんですが」

「あー、アイツも結構繊細だからなあ」

弓花の言葉に、ジンライとは長年の付き合いである親方がうんうんと頷いてそう返す。

「後は私たちの住む場所も決まってまして、昨晩と今日は宿屋泊まりでしたけど、風音が戻り次第そこに拠点を構えるつもりです」

「おお、そりゃあ良かったな。ここらの土地ももう場所の確保も大変でな。ウチらもこんな端っこに構えることになっちまったんだよ。店は商業区にあるんだけどな」

その言葉に弓花も笑う。

「それはこっちも同じでして。お隣さんですよ親方」

「マジかよ。てぇことは、あっちの広い空き地か。予約が入ってるってのは聞いてたけどな。お前たちだったとはなぁ」

親方の言葉に、横でモンドリーが驚いている。

「というか、1パーティで今のゴルディオスの街で物件を購入できるってのがそもそもすごいんですけど。どんだけ稼いでるんですか!?」

そうモンドリーは言うが、実際にはミンシアナ王族としてゆっこ姉を通じて領主からただで頂戴したというのが真相である。ロイヤルな権力がその裏にはあったのだ。

「まあ、その稼ぎには俺らからの金も流れることになるわけだがな」

親方がそう言って弓花を見た。その表情は先ほどまでとは違い、もっと別の、何かを求めているような色のある顔であった。それは弓花が工房に来た理由でもあった。

「ユウコ女王陛下からは話は通ってる。あるんだな、ユミカ?」

その親方の言葉に、弓花が頷いた。

そして、手のひらを前に出し、そこからスーッと刀を取り出していったのだ。そのまま弓花は刃身一刀『ヒノカグツチ』を完全に取り出した。白い炎が刀身を覆うように燃え盛り輝いている。

「それが、ヒノカグツチ。なるほど、ジャパネスの刀か。俺もそれなりに見てきたつもりだが、これは確かに見事な業物だな」

「槍使いの私には勿体ないと思うんですけどねえ。懐かれちゃって」

弓花の握るそれは白き炎を纏った美しい刀だった。唐突に弓花の腕から出てきたことにはふたりとも驚いたが、それ以上に武具に携わるものとして芸術品とも言える刀身の輝きに魅せられていた。

「その纏っている炎が神々の種火ってことか」

親方の言葉に、横で共に見ているモンドリーがゴクリとのどを鳴らす。

それは、鍛冶師にとっての憧れのものだった。鍛冶師という存在を一つ上の段階へ引き上げるための絶対要素。そして、ドワーフとは親交のないミンシアナ王国の鍛冶師すべてにとっての悲願とも云える炎だった。

「モンドリー、出せ」

「はいっ」

親方の言葉に従い。モンドリーがランタンを取り出した。それは、オーリオルの海の中で神々の種火を納めていたものと大凡同じ形をしたものであった。神々の種火の大本は剣に宿っているため、継ぎ火された炎は正しく管理しておかなければすぐに消えてしまう。

そのランタンの中に弓花が刀の先を入れて火を移すと、白き炎がランタンの中にも宿った。それを親方は見て頷いた。

「確かに頂いたぜ。モンドリー、すぐさま炉に持ってけ」

「了解です」

親方の指示でモンドリーがすぐさま部屋を出ていく。

「まったく鍛冶の巫女様々だな。お前がいてくれたおかげで俺たちは40年ぶりに神々の炎を扱えるってぇわけだ」

「ま、こっちとしては拾ったものですから。お役に立って何よりですよ」

そう言って弓花は肩をすくめた。弓花としてはたまたま手に入れただけに過ぎないシロモノだ。それで感謝されるのはなんだか悪い気がしていた。

「まあ、これで俺もお前等の依頼を優先的に受けるっていう契約が成立したわけだが」

そう親方が口にする通り、神々の種火の使用条件は、風音たちの依頼を優先的に引き受けるという内容だった。

なお、ゆっこ姉からの要望で、当面の間は神々の種火製の武具は情報漏洩を防ぐために白き一団などの一部の者以外のオーダーは受けないことが定められていた。

「どうする?」

親方の問いに弓花は考え込む。そして、口を開いた。

「とは言っても、私からのオーダーは風音が戻らないと対応できませんしね。とりあえず風音からはこれに目を通してもらうようにって預かってます」

弓花はそう言ってアイテムボックスから何枚も重ねた紙を取り出してテーブルの上に置いた。

「それは?」

「風音からの預かり物ですよ。戻ってきたら改めて相談するそうですが、神々の炎の試運転にはちょうど良いんじゃないとか言ってました」

その弓花の言葉を聞きながら親方はその設計図らしき紙を手にとって目を走らせる。

「試運転か。相変わらず、軽く言ってくれるな。アイツは」

その言葉に弓花が眉をひそめた。

「私も内容は知らないんですけど、なんなんです?」

その弓花の問いに親方が難しい顔をしながら答える。

「こいつはヒポ丸くんとタツヨシくんシリーズのアダマンチウム素材を用いた改修だ」

ヒポ丸くんは新動力であるベビーコアの出力に耐えきれずに現在破損中である。またタツヨシくんドラグーンは黒岩竜の骨を、タツヨシくんノーマルはオダノブナガ・アシガルの外骨格を使用しているが、ヒポ丸くんや量産型タツヨシくんA・Bは未だ鋼鉄のままであったのだ。故に装甲を代えて防御力強化を図るのであれば弓花も納得はいくが、親方の説明はそれだけに留まらなかった。

そして「こいつも見ろ」と親方は読んでいた紙を一枚、弓花に見せる。ソレを見て弓花は首を傾げる。そこには何か奇妙な物体が描かれていた。

「ヒポ丸くんに、ドラグーンが乗ってる? いや、これは……」

戸惑う弓花に親方が言葉を続ける。

「合体させてえらしいんだよ、アイツは」

弓花の見る紙に描かれていたもの。それはヒポ丸くん、タツヨシくんドラグーン、量産型A・Bと合体した巨大なタツヨシくんの姿であった。