軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百五十九話 神剣を出そう

そして、ジンライはそれを視界に捉えた時、己の内側から抗いがたい衝動が支配した。目の前のソレを殺せと全身が訴えていた。殺さなければ殺されると本能が叫んでいた。だが、ジンライがその一歩を踏み出す前に、空からソレはやってきた。光の中から最強の戦士が一直線に飛び出してきたのである。

「ウォォオオオオオッ!!」

「ほぉ?」

それは真白い甲冑と赤いマントを身に包んだ銀髪の戦士。風音の英霊である『ジーク』が、カルラ王へと飛びかかったのだ。

「なんとも見栄えの良い戦士であるな」

それに対してカルラ王は黄金の炎の剣を生み出して受け止める。そして、接触した剣と剣からは黄金の炎と八色の光が発生して周囲に放たれ、それにより発生した魔力風が暴走したかのように吹き荒れた。

「クリカラ剣か。節操のない」

「ふむ。やれる者かと思えばプレイヤーの木偶だな、貴様」

英霊ジークの言葉に、カルラ王が目を細めながらそう返す。カルラ王はどういったわけか目の前の存在を的確に把握しているようだった。

「ぬぉぉおおっ!」

そこにジンライが特攻する。一対一の勝負などといった綺麗事はこの場には存在しないのだ。両の槍を握りしめ最速の動きでもってカルラ王へと突き刺そうとするが、

「竜の牙か。私に対して……な」

そう口にしたカルラ王の手前でジンライの攻撃は防がれる。背の黄金の翼が正面に出て壁となって槍の一撃を止めたのだ。そして、その防御の厚さにジンライが呻いた。それを見て英霊ジークが叫んだ。

「ジンライ。離れろッ」

ジンライは英霊ジークの言葉が何を意味するかは分からぬが、瞬時にその場から飛び下がった。そして、入れ替わるかのようについ一瞬前までジンライのいた場所に黄金の炎の柱が吹き上がったのだ。ジンライは目を見開いてそれを見る。英霊ジークの指示がなければ、ジンライはあの炎の中にいたはずだった。

「近距離にいると自動防衛の炎が発動する。気をつけろ」

「ッ……しかし、あなたは?」

ジンライは英霊ジークを見るが、その英霊ジークはすでに黄金の炎に包まれていた。しかし、炎の中でも英霊ジークはニヤリと笑う。

「聞いているはずだ。我は防御主体に構成されていると。たかだか自動防御では我には傷一つ負わせられんッ」

「なるほどな」

英霊ジークの言葉にカルラ王が頷いた。それを英霊ジークがにらみ返す。

「だが、我が翼まではどうかな」

「天鏡の大盾よッ」

カルラ王の両翼が鎌のように英霊ジークへと向かうのと同時に、英霊ジークが自らの盾を前へと突き出す。

「我を護れッ」

そして、天鏡の大盾ゼガイの表面にある虹色の紋様が広がり、刃の如く鋭くなって襲いかかる黄金の翼を弾いた。だが、それを見てカルラ王が笑う。

「なるほど、これは護らねばならぬというわけか」

舐めるかのようなカルラ王の視線に、英霊ジークは狼狽えもせず、紋様が肥大化した盾で押さえつけながら、まるで重機の如くそのまま突き進む。

「ははは、これは溜まらんな」

そう言いながらもカルラ王は嬉しそうだった。そして、英霊ジークの力に圧されるカルラ王だが、次の瞬間にはその身を黄金の炎へと変えて、その場からかき消えた。

「何ッ?」

そのことにジンライが驚き叫ぶが、カルラ王の姿はジンライには察知できない。その場で炎と共に一瞬でかき消えた。そうとしか思えなかった。

だが英霊ジークは慌てない。英霊ジークにはもうひとつの攻撃手段が存在する。彼と同じ存在は、もはや彼に護られるだけの存在ではない。

「スキル・キリングレェエエエッグッ!!」

そして、空から大きなうねりがやってくる。炎をまき散らしながら、獰猛な牙を地上に降り注ごうとソレは進撃する。

「カザネバズーカかッ!?」

それを見てジンライは叫んだ。

上空から『インビジブル』と『光学迷彩』で姿を隠していた風音が『カザネバズーカ・インフェルノダウン』で特攻してくる。それはテラバスターにより地球を破壊した風音がその罪を背負って地獄に堕ちていくという妄想が込められた悲しき必殺技だ。

カルラ炎により火の玉のようにも見えるが、カルラ炎は防御用であり、見た目以外には特に威力も上がっていないし火属性も追加されてない。完全に見せかけだけの、テラバスターと同等の強力な必殺技なのだ。

(だが、カルラ王は消えたのだぞ?)

そのジンライの心の中の問いへの答えを示すが如く、カザネバズーカは迷いなく一直線に突き進む。そして、それが『英霊ジークの背後に出現したカルラ王』へと突き刺さる。

「ふんぬうぅううッ」

その、カザネバズーカの向かった先に吹き上がっていた黄金の炎の中から姿を現したカルラ王はその顔を歪ませていた。

出現ポイントを知られての先制攻撃を喰らった形ではあるが、両翼による防御は間に合った。しかし、カザネバズーカの威力は絶大だ。見た目通りに火属性ならばカルラ王へのダメージも軽減されるはずだがその攻撃は完全な物理攻撃である。カルラ王には竜属性への耐性があるため、若干の威力軽減はされているがそれも微々たるものでしかない。

そして、未だ勢いのあるカザネバズーカにカルラ王は苦悶の表情を見せながらも、尚正面の男と対峙せねばならなかった。さらには背後の男とも。

「くたばるが良いッ」

「往生せよッ」

カルラ王に英霊ジークとジンライの声が前後から響く。大翼の剣と、二対の竜牙槍がカルラ王へと向けられ、そして……

「むっ!?」

風音の『直感』が危険を知らせた。その『直感』に従い風音は足下にマテリアルシールドを張る。それはカザネバズーカに対する反発を利用した強制離脱だ。併せて英霊ジークもまた天鏡の大盾の防御フィールドを発動させる。しかし、それは英霊ジークに対してではない。

「燃え尽きろッ」

カルラ王が叫びながら全身を震わせて爆発し、周囲に黄金の炎を吹き荒れさせる。

「グォォオオオオオオッ」

ジンライはその爆発を前にして叫んだ。だが、黄金の炎はジンライへは届くことはなかった。何故ならばジンライを護る力が目の前にあったからだ。

(これは、ジーク殿の、盾の)

ジンライの正面には、ホログラムの紋様があった。英霊ジークは天鏡の大盾の力をジンライへと使っていたのだ。しかし、その護りも次の瞬間には破壊される。

「ぐぬぅッ!?」

それは炎の中から出てきた巨腕だった。その攻撃は、その紋様を破壊し、両槍で防御するジンライを弾き飛ばす。

『なるほど、防御力が高いか。あの直撃を喰らってなお、倒れぬとはな』

そして、炎の中から黄金色の鳥の顔をした巨人が出現する。先ほどの優男風ではなく、5メートルはある巨大な魔人がそこにいた。

「まあ、鍛えてるのでね」

対して、巨人の目の前にいる英霊ジークは、ボロボロではあったがその強気な表情は未だ崩れてはいない。足腰もしっかりとしており、ダメージ自体はないように見えた。

しかし、それでもなおジンライには衝撃的だった。何故ならば英霊ジークがまともにダメージを負った姿をジンライは初めて目撃したのだから、それも当然ではあろう。

『プレイヤーの木偶がよくも言う』

そして、そう言って笑う巨人もそれほど余裕があるわけではなかった。その背にあった見事な黄金の翼は、千切れて地面に転がっていた。それはさきほどの炎の爆発の代償だ。カルラ王は翼に込められた魔力を暴走させて大爆発を引き起こして、風音たちの攻撃を回避したのだ。

「ジーク、受け取って!」

そして、対峙する二人の前に、上空へと離脱し無傷であった風音が天使の翼を羽ばたかせながらアイテムボックスから何かを投げた。それはそのまま回転しながら英霊ジークの前の地面へと突き刺さったのである。

「それは……!?」

それには当然、ジンライにも見覚えはある。なぜならばこの街にくる前に、レイサンの街で見たからだ。

滅びの神剣『アースブレイカー』。

見かけこそただの銀色の剣だが、普段は酷く恐ろしいものを平気で造り出したりしても平然としている風音が脅えたほどの性能の剣である。それはつまり、英霊ジーク専用に達良が作り出した最強の剣であったのだ。

それを今、英霊ジークが握った。

「今こそ達良くんからもらった力を見せるときだよジークッ!」

「ォォォオオオオオッ!!」

風音の言葉と共に英霊ジークがその剣を握り力を込めると、英霊の力が『アースブレイカー』へと流れ込まれていく。

「ウォォオオオオオオオオオオッ!!」

ジークの叫びが遺跡入り口に木霊する。

それは風音のときとは比でないほどの、体力と魔力を併せた膨大な生命力だ。このアースブレイカーは体力と魔力、そのどちらもを併せてこそ真価を発揮する剣だ。そして、銀の質素な剣はその存在力を極大に高め、見た目こそなにひとつ変わらないはずなのに、目の前のカルラ王から冷や汗が垂れるほどの力が込められていく。

そして、

「ふむ。無理だな」

「へ?」

英霊ジークの一声に風音が首を傾げたが、英霊ジークの顔を見て、その理由を理解する。英霊ジークの耽美な顔からあぶら汗が垂れまくっているのだ。

「どう考えても、これは……」

「ええと、ジーク?」

「くっ、ウォォオオオオオオアアアアアア!?」

驚きの風音の前で、風音の分身である筈の英霊ジークが、そのまま剣の中に吸い込まれて消えたのだ。そして、剣だけがその場にカランと落ちたのだった。

「え……うそ?」

風音の目が丸くなる。冗談でもなんでもなく、本当に英霊ジークはその力を吸い尽くされ、そのまま剣を振るうこともなく消失させてしまった。

『……どうする?』

「ええと、ちょっと……タイムで? 駄目?」

そして、冷たい視線で尋ねるカルラ王に風音はそう返した。

冗談にしか聞こえないが、それは今の風音の本音そのものであったのである。