軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百五十二話 英雄を語ろう

英雄ジロー。勇者ジロー。伝説の男ジロー。最強の戦士ジロー。

気がつけばそんな名前で呼ばれて久しい男がいた。

その男の逸話を語れば朝日が昇るほどではあるが、中でももっとも知られているのは『狂鬼群討伐』と呼ばれるオーガの集団との戦いで活躍しオーガキラーの称号を得た話であろうか。

それから英雄として称えられ始めたその男は、なみいるオーガたちをバッタバッタとなぎ倒し、たった一喝でオーガたちを追い払い、ウィンラードの街を救ったのだという。

ジローを知る者、特に彼と親しい女性は、こう口にする。

『モノ』が違うと。『男としての器』が違うのと。

ある者は言う。ジローという男は『化け物』だと。人として『規格外の存在』だと。

一説によればツヴァーラの姫を救う際、彼が裏で活躍していたという噂もある。ミンシアナ王子がドラゴン退治をした際にも、鬼殺し姫を通じて彼がアドバイスを行っていたとも言われている。

そのことを聞けばジローという男は「みんなが勝手に言っているだけだ。俺は知らねえよ」と返すのだという。自身の功績を鼻にもかけないその性格が人々の心をさらに掴み上げたのは間違いない。ジロー伝説に便乗して悪行三昧を働く『白き一団』の鬼殺し姫とは、人としての器が違うのだと言われるのも当然と言えば当然のことだろう。

もっともジローに言わせれば「アイツは共に戦った仲間で、アイツこそが本当に凄いヤツなんだ」と返ってくるのだ。

鬼をひと蹴りで殺し、無法者を叩き伏せ、盗賊集団を皆殺しにし、王族のドラゴン殺しに便乗してドラゴン素材を根こそぎ奪っていった極悪非道の鬼殺し姫。今ではミンシアナ中のアウターたちが彼女を恐れ、ドア磨きに余念がないという始末である。

ここしばらくはミンシアナを離れていたのだが、行った先のハイヴァーンでも暴れていたようで、王都では騎竜総出で出迎えをさせ、他国の将軍にドアを磨かせ、ダンジョンを心臓球ごと葬り、アウターファミリーをいくつも壊滅させた挙げ句冒険者ギルドを脅して悪行を闇に葬り、最終的に国外追放されたという話である。

最近でも天使教なる怪しげな宗教を作り、開発中の街を乗っ取って商会の人間をまるで奴隷のように働かせているという噂も出てきているのだ。

そんな噂が飛び交う悪名高い魔性の女ですら仲間だと庇うジローの懐の深さは、人々の心にさらなる敬意をもたらしていた。

彼は人々の英雄だった。

そして、そんなジローに最近新たなる伝説が生まれた。

その伝説とはオダノブナガ殺しのジロー。

闇の森に生息する中でも最上位に凶悪な魔物『オダノブナガ』種のひとつであるアシガルを倒したというのだ。

その証拠は彼自身が身につけている鎧にある。オダノブナガ種の鎧は、その素材を手に入れることが困難であるため、現存しているものは少ないが、実際に見たことがあるものは、ジローが身につけているその鎧がオダノブナガ・アシガルのものであることはすぐに分かるそうである。

そして彼の持つ紅色の水晶の小太刀もオダノブナガ・アシガルから手に入れた素材で作成した武器であるという。もっとも彼の力は、ただそれを武器として扱っているというだけではない。

ジローはオダノブナガ・アシガルの小太刀を進化させ、紅色の水晶の刃へと進化をさせたのである。魔物素材製の武器にはそういう現象が発生することがある。武器の一部となった魔物が主を認めることで、主の力と化すのだ。

そんな、時の英雄であるジローは今、ゴルディオスの街の中にいた。

彼は今、戦場のまっただ中にいたのだ。

◎ミンシアナ王国 ゴルディオスの街

『エンジョー』『アケチーオノレー』

ギィンッと、その赤い小太刀が、魔物の、鎧武者ムカデの攻撃を受け止める。石畳がひび割れるが、受け止めた男は潰れることなく、それをギリギリと受け止め押さえていた。

「こえー、こえー」

だが、男は涙声だった。泣いているのであろう。泣きながらも戦い続けていた。

『サルーサガレー』

「ヒィッ!?」

そして、鎧から発する声が告げる。それは警告だ。そしてその言葉に従って男が下がると、そこに鎧武者ムカデの鎌の手が振り下ろされた。地面の石畳が容易く割れて、ジローがもし動かなかったらという未来をまざまざと見せつけていた。

「オッケー、よくやったわジロー」

「ま、任せやがれアンナ」

涙目の男ジローは後ろから声を掛けてきた褐色肌の女性アンナにグッと親指を立てた。アンナは射程距離に収まった魔物を見て、その場で杖を振り上げる。

「猛々しき風よ・我が前の魔に戒めの鎖をッ!」

そして、アンナの杖から緑の魔力の風が放たれる。それは鎧武者ムカデの全身に広がり、まとわりつきその動きを抑えつけた。

「メロウはフォロー。ガーラ、ギャオッ!やりなさいッ!!」

「了ッ解ッよ!」

家の屋根の上から声があがる。パーティの後方担当であるメロウが矢を放ち、動きの止まった鎧武者ムカデのその目を射抜いた。

「へっ、ラクショー」

「油断するなよギャオ」

獣人の男ギャオが飛び出し、その後ろをガーラが続く。

「油断とかッ」

ギャオがその鉄甲に包まれた拳を握りしめ一気に突き進み、鎧武者ムカデの腹を殴りつける。

「俺っちがするわきゃねーだろっ!」

そして、ギャオの攻撃がその腹部に浸透し、そのまま殴られた部分が爆ぜて体液が飛び出した。

「ほらよっ」

「バカがッ!」

破壊音が響きわたった。それは鎧武者ムカデの手の鎌をガーラのハルバードが破壊した音だ。それはギャオの一歩手前のところでのことだった。

「す、すまねえガーラの旦那」

「いつも言ってるだろうが。お前は詰めが甘いってな」

そう口にするガーラの頭部には小さな角が一本生えていた。

そして、その左腕はどこか赤黒く、右手に比べてアンバランスに大きかった。そのガーラはギャオに怒鳴りつけながらも、正面の敵を見る。そして、

「くたばりやがれッ!!」

ハルバードを振り上げて、一直線に切り裂いた。そのまま鎧武者ムカデの身体が崩れ落ちる。

「ジロー、やっちまえ」

『ホトトギスーコロセー』

ガーラと鎧からの声に、ジローは「うわぁあ」と情けない声を上げながら走り出し、鎧武者ムカデの頭部に生えている、まるで鎧をまとった戦士のような上半身に突撃する。

「グギャアアアアッ」

「倒れろぉっ」

そして一閃。その両手に持つ紅色の水晶小太刀の二刀が、敵の攻撃を仕掛けていた腕を切り裂いて、そのまま首も切り落とした。

「くく、やるじゃあないか。アイツも」

「あの鎧の力っすよ。クソッ、俺が倒すはずだったのに」

それを見ながらのガーラの笑い声に、ギャオが拗ねたような声を出す。

「そういうな。戦力が増強されたことはこちらにとっては喜ぶべきことだぞ」

「わーってますけどね」

ギャオも、よっと立ち上がると、周囲を見渡した。

「それにしても突然っしたねえ」

「まあな」

『狂鬼腕』のガーラ。今ではそのふたつ名が定着したガーラが、ゴルド黄金遺跡の方を睨みつける。

「誰かがモンスターハウスを踏んだんだろうが、それにしては強力な魔物が出過ぎている」

そのガーラの言葉に、後ろからやってきたアンナが口を開いた。

「また拡大期に入ったってことかしらね。これで内部の方もまた様変わりしたかもしれないわね」

「お宝が復活したと思えば嬉しい話っすけどね。それでどうします?」

ギャオの言葉にガーラはやはり遺跡の方をにらんだまま、進んでいく。

「俺の中の『狂い鬼』がざわついてやがる。大物が来るってな。ジロー、悪いがもう一働きだ。頑張ってもらうぜ」

「ま、任せろってんだ!」

ジローも青い顔をしながらも、そう強がった。しかし、この先に何かがあるのはすでに理解している。

『ホンノウジーホンノウジー』

鎧から声がするのだ。風音から『何故か』送られてきたオダノブナガ・アシガルの鎧は、ダンジョン攻略中にとある理由で進化し、ジローの身体能力を底上げして危険などを感知し声を出すようになっていた。

危険が迫ったりチャンスであったりすると鎧が声を上げてくるのだ。だからこそ、その先にいるものが強敵だとジローには分かる。

『グギャアアアアアアアア!!!!』

そして、恐ろしい叫び声が響きわたった。それはゴルド黄金遺跡から響いた、ドラゴンの声だった。

「大物か?」

「こっちの鎧武者ムカデもかなりの大物だと思うんだけどよ」

ガーラの声にギャオがそうため息混じりに言葉を返した。

「不味いわ。こっちに来るわよ」

そして、家の屋根にいるメロウが、下のギャオたちに声を上げる。メロウには見えていたのだ。ゴルド黄金遺跡から、何か巨大なものが迫ってくるのが。

「こっちに?なんで?」

ジローが涙目でそう言い、ガーラがチッと舌打ちする。

「この鎧武者ムカデを倒したのが、分かったのかもしれねえ。ここが一番の難所だってバレたんだ」

「ははは、この街で俺っち等が一番強いってわけか」

そう笑うギャオの顔にも余裕はない。そしてバキバキと家が崩されながら、それが姿を現した。それは、

「ビッグストーンワームか」

ガーラがそう叫んだ。それは岩で出来たミミズである。全身が硬く、また斬られたところで動き続ける巨大で厄介な魔物だ。それが今、ガーラたちの目の前にいた。

「不味いぞ、旦那。こりゃ、俺っち達だけじゃぁ手に余る」

「くっ」

ギャオの言葉にガーラは眉間にしわを寄せながら、それを睨んだ。ビッグストーンワームは巨大だが素速い。そのくせ、目以外の器官で敵を追うから逃げるのも難しい。戦うにしても足止め出来る力がなければ蹂躙される。

(ここで、足止めしてほかの冒険者たちが来るのを待つしかないか)

そうガーラが思い、観念したときだった。空より虹色の小さな飛竜が舞い降りたのは。