作品タイトル不明
第四百四十三話 頼んでいた品を受け取ろう
前回のあらすじ。
温泉に入りたいからーと言いながらひとん家に居座ろうとする年の離れた友達が現れた。ついでにと危険な起業話を持ち掛けてきて、巻き込もうとしていた。すごく怖い。
風音は改めて話を聞いて、大体そんな感じで認識することにした。そして、客観的に見ると後で痛い目見るパターンだなー等と思いながら、他の人にもその話を投げてみて反応見ながら決めようと冷静に考えていた。
なお、そんな風音の心の声は、ゆっこ姉の人の心を見通す『 真実の目の額飾り(ホルスアイ・サークレット) 』でも知ることは出来ない。アーティファクトもゲーム的制限によりプレイヤーの思考にまでは干渉できないためである。
そして、風音の失礼な思考を知らぬまま、ゆっこ姉は若干のドヤ顔で風音に口を開いた。
「まあ、とりあえず風音は今はカザネ魔法温泉街をあなたなりに発展させることを考えて動いてなさい。ちゃんと報告さえしてくれればフォローはこっちがするから」
風音もその説明は正しく理解できたので「ラジャー」と返したのである。そして、女王の間での話が終わればプライベートタイムである。
場所を賓客室に移した後、達良コピーに風音が質問を投げかけたことである事実が判明したのである。
「やす君がまだ生きてる可能性がある?」
それは、風音がこれまでに達良の譲渡クエストを受けに来た人が他にいるかという質問であった。それに達良が特に言葉も濁さず答えたのである。
「うん。そうだね。今から121年前にセスの宿屋に訪れている。当時はまだ30ぐらいだったし種族がドワーフに変わってたね」
「確かドワーフの寿命は200年くらいだったよね。それなら、確かにどっかで生きてるかもしれないね」
風音の嬉しげな顔にゆっこ姉が「むぅ」という顔をして達良コピーを見た。
「ええと。私、聞いてないんだけど?」
「ナビゲーターは基本聞かれないと答えないからね。ごめんね」
達良コピーがそう返した。ナビゲーターとはそういうものなのである。
「けど、JINJINの方が来たのは400年以上前かあ。そこまでいくと、さすがに追うのは無理かな?」
「あの人なら、なんか本でも出してそうな気がするけど」
風音の言葉に弓花がそう答えた。弓花自身はJINJINとの面識はあまりないが、JINJINの趣味は知っている。JINJINは描いて売る方にまで手を出していた趣味の人であった。
「ちなみにやすは贈り物を受け取れたけど、JINJINは無理だったよ。僕もJINJINの性格を考えておくべきだったかもしれないね。「もーいいもんねー。わたしはやすを探すからーぷっぷー」って言い捨てて二度と来なかったよ」
とは達良コピーの言葉である。巨乳を揺らしながら去っていったそうだ。
「胸……とか、そういうのばかり見てるのね」
その弓花のつぶやきに達良が「あははは」と汗をかきながら乾いた笑いで返した。視線が冷たい。
「まあ、こっちでも変わってなさそうだってのはある意味ではちょっと安心した」
「案外アストラル系統とかになってまだ生きてるかもしれないしね」
風音の言葉にゆっこ姉がそう返す。風音も「だねえ」とは言うが、軽口の類である。そこまでして生き続けるのが幸せなのかどうかは今の風音達には分からないことだ。
そして、話もある程度ケリが付くとその場は解散となり、風音は城を出てマジリア魔具工房へと足を運んだのだった。
◎マジリア魔具工房 来客室
「おお、カザネ様。よくぞいらした」
「うぃ」
『お久しぶりです』
「にゃー」
ここはマジリア魔具工房の来客室。工房長であるアガトの出迎えに風音は手を挙げて、挨拶をする。今回、風音と共に来たのはタツオとユッコネエであった。
そして、この場に来た理由は前回の『竜喰らいし鬼軍の鎧』の加工に立ち寄ったときに依頼していたアイテムの引き取りである。
「アガトさん、マイティーの様子はどお?」
風音はアガトにまずはそのことを尋ねる。マイティーとは風音が作成したゴーレム馬『ヒポ丸くん2号』のことである。フライの魔術を付与していて空を飛ぶ性能を持っている。制作主の一人としては不具合がないかが気になるところだった。
「ええ、順調です。飛翔時間も若干延びてきたようです。あれは成長しているということなんでしょうか?」
アガトもただ漫然とマイティに乗っているわけではない。記録しマッスルクレイの活用に使えないかを日々研究もしていた。
「そうだね。ゴーレムは日頃の動きに合わせて最適化を行うからねえ。成長といっても間違いではないと思うよ。走らせ続ければ移動速度も上がるし、チャイルドストーンの運用効率も上がってくはず。まあ、その変化は緩やかだし限度はあるけどね」
「素晴らしい」
風音の説明にアガトが素直に賞賛する。
なお、風音の所有するゴーレム系統ではライルのタツヨシくんノーマルがもっとも最適化の傾向が強いようである。日頃のライルとの訓練により槍使いとしての技量が磨かれつつあるためである。
風音もノーマルのデータを他のタツヨシくんに移植することでアップデートを行っている。見えないところでなにげにライルが活躍していた。
「それで例のモノはどうなの?」
「ええ、カザネ様からお渡しされたクリスタルドラゴンの竜葬土の状態は大変よろしかったですし、問題なくマッスルクレイ化は成功しました。それを使って完成させた白蓄魔器もこちらに」
そういってアガトはテーブルの上に白蓄魔器(改)5個と小さな白蓄魔器と大きな首輪を置いた。
「ユッコネエ用の白蓄魔器、上手くいったんだね」
風音の言葉にアガトが頷いた。首輪型の蓄魔器チョーカーである。
「それじゃあ、ちょっと着けてみようかユッコネエ」
「にゃー」
風音はユッコネエに首輪をカチャカチャと着けていく。
「うにゃっ」
「ええと、ちょっと待ってねえ。ほい着いた」
そして風音がユッコネエの状態を確認する。サイズがそれなりにあるので魔力値は+221となり、ユッコネエ本人の魔力値206と合わせて満タンならメガビームを一発は撃てそうだった。もっとも魔力を貯めなければならないので現時点では白蓄魔器の魔力値はゼロではあるが。
「うん。これなら竜体化もかなり保つと思うよ」
「うにゃっにゃー」
風音の言葉にユッコネエがゴロゴロと鳴いた。強くなれるというのはユッコネエのような戦闘猫には非常に嬉しいことなのである。
『母上ー。私もー』
タツオの言葉に風音が「ちょっと待っててね」と言いながら小さな蓄魔器を手に取った。
「アガトさん、これ注文通りに出来てるよね」
「もちろんですとも」
アガトが頷くのを見て、風音はタツオの首に下げている虹のネックレスを外す。そしてチェーンをいくつか外し、その細い小型白蓄魔器をチェーン代わりに付けたのだ。それを再びタツオの首に下げさせた。
「魔力値のプラス量は50。ちょっと少ないけど、タツオのメガビームなら普段よりも多く撃てるようになるはずだよ」
その風音の言葉にタツオがくわーっと鳴いて喜んでいた。
なお、蓄魔器はタツオにも使用できるように竜気も蓄積できるのだが、本人のモノしか蓄積できない。弓花も竜気を発生させられるが、竜気だけを選別して蓄魔器に蓄積は出来ないので竜結の腕輪と同じようにはいかないという結論が出ていた。
「タツオもずいぶんと頼もしくなったし、そろそろ旦那様に会いたいねえ」
『ですねえ。父上にお会いしたいです』
風音の言葉にタツオも頷いている。
実のところ、風音は戴冠式の後に 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) 刻印付きクリスタル風音ちゃん人形をアオに頼んで東の竜の里へと運んでもらっていた。なので会いに行くことはすぐにでも出来る。ユッコネエの竜体化のこともあり、ダンジョン探索が軌道に乗ったら一度会いに行く予定だったのだ。
「後はルイーズさんとティアラにふたつ、直樹にひとつだね。オーダー通りだよ。ありがとうアガトさん」
風音の言葉にアガトもいえいえと頭をかいた。そして風音は白蓄魔器を見てニンマリする。
(ダンジョン内は継戦能力がキモだからねえ。これでみんなの魔力も倍ぐらいには上がるし、かなり有利に進められるね)
特にメフィルスが常時 炎の騎士団長(フレイムナイツリーダー) でいることを最近望んでいるので、ティアラの魔力消費が著しいのである。白蓄魔器(改)の入手はダンジョン探索に当たってはかかせない強化策であったのだ。
「でも、真白銀の方はもう入手が難しくなってきてるんじゃないの?」
その白の輝きを見ながら、風音はふと疑問に思ったことを口にした。真白銀とは魔力を吸収する性質を持つツヴァーラで採掘される稀少鉱物である。蓄魔器の材料として竜葬土と共に大量の買い占めが行われている筈であった。
「確かにそうですが、手には入らないと言うほどでもありませんよ。まあ、融通はしてもらいましたが、ガルア殿からですので」
「なるほど、そういえばお城でガルアさんとは会わなかったなあ」
「彼は現在はツヴァーラに蓄魔器のことで相談に行っているようなので今はここにはいないのです」
そうアガトは返す。ロリコンが風音が来たと知って挨拶に来ないわけがないのだ。
「ってことは入れ違いって感じかな。そしたらアガトさんからガルアさんに私がありがとうって言ってたことを伝えておいてよ」
「了解しました」
風音の言葉にアガトは頷いた。
「それと残りのマッスルクレイは入り口に運んであります。人3人分くらいはありますので、ゴーレムに使うにしても足りることでしょう」
「うん。ありがとう。一体は予定があるから、それに使うよ」
余ったチャイルドストーンを使用した風音コテージ内サポートゴーレムの予定があったのである。
「それと、カザネ様……」
「うん。とりあえず見るよ」
アガトの笑顔に風音も仕方なしと頷いた。それはゴーレム馬『マイティー・ウルティマス二世』のメンテナンスである。時間はかかるが最適化データを収得は出来るので風音にとっても無駄ではない。
もっとも、冒険者ギルドのミンシアナ本部に報酬を受け取りに行くのは明日以降にはなりそうだった。