軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百四十二話 隠居先を決めよう

達良コピーのサプライズに始まり、ツヴァーラ王家との交渉を終えてアングレーの調査の報酬も受け取った。

これで風音たちがゆっこ姉の元に訪れた目的も終わりかと言えば、実はまだふたつほど用件が残っていた。

うち、ひとつは海底で見つけた『神々の種火』のミンシアナ王国への帰属の相談だが、これはゆっこ姉も諸手をあげて喜び、そのまま受け入れられることとなった。

親方が『神々の種火』を持っていないことから分かるように、ミンシアナ王国には現在、神々の炎が宿った炉がないのである。それ故にミンシアナの鍛冶師にとって神々の炎の譲渡は悲願であり、鍛冶の巫女の誕生は国にとっても最重要な案件であった。そして、ひとまずはドワーフ達に早々に情報が漏れてトラブルが発生したりしないようにと、親方にのみ火を授ける方向で話を進めることになったのである。

そして、最後の案件は風音発案のカザネーランドである。

それはカザネ魔法温泉街に巨大なお城を中心とした都市を作ろうという計画であった。ルイーズの言葉通り、風音はゆっこ姉とこの計画を進めようとしていたわけである。

「実はね。ジークが成人したら、あの子に王位を譲って私は引退しようと思うのよ」

爆弾発言である。その話に入ってすぐにゆっこ姉がそう切り出してきたのである。そばにいたロジャーも元々知っていたようで、特に何も口には出さなかったが神妙な顔にはなっていた。

「えーと、女王様を辞めちゃうの?」

首を傾げる風音にゆっこ姉は頷く。

元々ゆっこ姉はジーク王子を傀儡にして、王国を手に入れようとしていた貴族たちと戦うために女王となったのである。ジークが無事に即位し、己の力で国を動かせるようになるのであれば、ゆっこ姉としても自らが表舞台から降りるのは当然だろうと考えていた。

そのゆっこ姉の言葉に、特に理由もなく庶民的な感想として「惜しいのでは」と……風音や弓花は思ったのだが、メフィルスやルイーズの反応はそうではなかった。

『ようはやりすぎたのだろうな』

「そうねえ」

小声で呟くメフィルスにルイーズが苦笑する。

ゆっこ姉が王座についてからすでに10年近くが経過している。その間に彼女が振るった大鉈は大衆に利益をもたらしたが、貴族たちにとっては必ずしもそうではなく、敵を増やし続けてきた経緯がある。

ゆっこ姉も牙を剥いてきた強硬派こそは駆逐し尽くしたが、動きを見せない穏健派もこの国には未だに多く存在している。そして、彼らにとってゆっこ姉とは一刻も早く退場願いたい相手になっていた。

ゆっこ姉もそう考える人間が多くいることは知っているし、亡き夫に報いられる形でジークが王となってくれるならば、その要望にも応じるつもりであった。

「ジークが独り立ちできる能力と人脈を得られれば、厄介者である私が去るのは正しいのよ。そのための掃除も概ね終えたのだしね」

「その引退後の隠居の地にカザネーランドを使いたいと?」

その風音の問いにゆっこ姉が頷いた。使いたいらしい。

「元々は西の竜の里にお邪魔しようかとも思ってアオさんに相談してたんだけど、カザネ魔法温泉街なら温泉があるでしょ。山と海が近いし、引退後をエンジョイするには持ってこいだと思ったのよね」

そしてゆっこ姉が風音と弓花を見る。

「それに風音も弓花もいて、 直樹(タクシー) もいるし、本人ではないけど達良ちゃんもいるわけじゃない。いっそプレイヤーを集めた独立国でも作ろうかと思ってるのよ。カザネー『ランド』だし問題ないわよね?」

一人余計なルビがついていたが、便利なので仕方がない。 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) の便利さは風音もよく分かっているのだ。

「えーと、問題ないんですか師匠?」

「わ、ワシに聞くな」

「というか、この話。私聞いてていいのかなあ?」

弓花の問いにジンライが唸り、エミリィが青い顔をしていた。普通に始末されちゃう類の話を聞いているのでは?……とエミリィは思っているようだが、その認識で正解である。客観的に見て暴君で通っている女王が、自らの身を守るために国を割って独立しようとしているという内容であった。

「マッカさんがさすがに死んじゃうんじゃないかなあ」

それに対して風音は風音でズレた方向で考えていた。投げる気満々だったのだ。つまりはカザネーランド初代女王代行マッカさん誕生の予感である。

マッカは出番もろくにないのに、本人の知らぬ間にドンドンと大物への道が開けていくようだった。そして風音としてもそれには全力でサポートする所存である。

金銭、コネ、人材の確保にゴーレムの守護竜まで送ったのだから確かにサポート力は十分にはあった。だからこそ重いのである。

「いや、さすがに彼女一人に任せるわけには行かないわよ。正直、現時点でも許容量オーバーだと思うし、こっちからもサポートを回すように手配はしてるわ」

「さすがゆっこ姉」

その朗報をマッカに後で知らせておこうと考えた風音であったが、その朗報の前の大計画も併せて知らせることでマッカの胃痛はさらに増すことになる筈である。世の中ままならないものであった。

『しかし、新しい国とは少々、過ぎるのではないか?』

難しい顔をしているメフィルスの問いにゆっこ姉が頷く。

「まあ、ね。けど流石にプレイヤーが集まった勢力をどこか一国に所属させておくのは都合が悪いと思うのよ。例えば、そちらのジンライの義手。シンディと言ったわね。これを後100個量産した部隊をミンシアナが保有すると言ったらどうする?」

その言葉にはメフィルスも唸る。命中力に若干の難があるなど、数がそろえば関係などなくなる。数千の兵が数十秒で虐殺され、僅かな時間で街が崩壊する。それは危険すぎるだろうとメフィルスも理解する。

『なるほど』

そして、メフィルスがゆっこ姉に深く頷いた。普段慣れたものだから薄れつつあるが、風音の造るゴーレムは危険な兵器であるのだ。

「素材が素材だからそんな数作れないけどね。腕だって隻腕の人じゃないとちゃんと使えないし」

その風音の言葉にはゆっこ姉は首を横に振る。

「素材は国を動かせば揃えられるし、腕は切り落とせばすむのよ風音。ゲームでは笑えた話が、現実で起きる可能性はあるわ。少なくともジンライの腕にはそれだけの価値がある」

その返しに風音は「むぅ」と言いながら、口をへの字にする。

「プレイヤーの固有スキルはその多くがプレイヤー本人だけの固有のスキルとして留まるものなのだけど、風音のゴーレムメーカーは個人には留まらないでしょう。それと同時にゴーレム使いの可能性を考えれば、私はトーレ王国を攻めてでもゴーレム使いを生むグリモアフィールドを奪取する価値があると思ってる」

急に物騒な話になったが、現にゆっこ姉はマジリア魔具工房のアガトの所有するゴーレム馬マイティーの存在を知った軍部からその点をつつかれてもいた。ゆっこ姉も侵略行為を是とするわけではないが、トーレ王国とはゴーレム使いについては協力関係を含めての協議が必要だとは考えていた。

「将来的には起こりえるでしょうな。ミンシアナが動かなくとも他が動く」

そうジンライが告げる。義手の力を最も知るジンライだ。そもそもジンライはその実力ではなく、義手の力を知られてランクS冒険者という化け物の仲間入りを果たしたのだ。それを風音が量産出来るということは、ランクS冒険者を量産出来るということに等しい。

「けど風音と普通のゴーレム使いではかなーり力にも差があったと思うけど」

その弓花の指摘もゆっこ姉は「甘い」と切り捨てる。

「同じものである必要はないの。劣化版でも使用に耐えられればね。風音のゴーレムメーカーの技術の応用を彼らが使えるようになれば、ゴーレム使いという存在価値が一変するのは間違いないわ」

「そうだねえ」

その言葉には風音も頷いて、ゆっこ姉の言葉を認めた。自分だけのスキルで収めないために、風音はゴーレム使いのユズにゴーレム人形を渡して調べるようにお願いしているのだ。それはゆっこ姉のような物騒な発想から出たものではないが、ゴーレム使いの発展を期待してのものであった。

「けど、その力が手に入ったとしてもそこまでバランスが崩れるかな……という気もするけど、やっぱり自重をすべきって話なのかな?」

その風音の言葉にゆっこ姉は首を横に振る。

「だからこそ国を興すの。ゴーレムメーカーや、それを通じてゼクシアハーツのライブラリから私たちの世界の技術を引っ張ってくることも出来るし、風音ほどではないにしても私たちの固有スキルだって解析すれば、他の人間にも使えることだってあるでしょう。それらを応用して様々なことが出来るようにだってなるはずだもの。そしてカザネーランドを中心に、ミンシアナやツヴァーラや、そうねリンドー王国も緩衝材にして技術を流して、この世界に徐々にパラダイムシフトを起こしていくのよ」

その言葉にメフィルスやルイーズは衝撃を受ける。内容は色々と詰めが甘く、いくつも検討しなければならない青写真にしか過ぎない。しかし、それは確かに不可能とはいえない。目の前のチンチクリンがいれば、出来なくはないのだ。

そして風音は、

「なるほどね。分かるよ。さすがゆっこ姉、怖い人だね」

よく分からなかったので、とりあえず難しい顔をしてテキトーな事を言ってごまかしていた。