作品タイトル不明
第四百十五話 一撃で燃やそう
削り取る……ということだけを考えるならば、現在のハイヴァーンでは失われていた『風神槍』は極めて優れた槍術だった。
しかし、その技の難易度は高く、比較的容易な槍術『振』が代用される方向で廃れていき、やがてはバーンズ流槍術『大震』等といった技の中に流れを残すだけとなり、いつしかハイヴァーンの槍術の歴史から消失していた。
それが今、現代に蘇った。ジン・バハルという古き竜騎士の帰還により、若き槍使い弓花に伝承されたことによって。
その技がここで二つ放たれる。
『こぉんのぉぉおお!』
『化け物がぁああ!』
エミリィの矢とライルの槍によって道は開かれ、弓花とジン・バハルの攻撃によって肉塊マリーの両側がザックリと削りとられる。
「もっどぉぉお、 遊(あぞ) ぼぉぉぉおおお!!」
「ゴメンだっつってんだろぉがっ!」
続けてライルが風の加護の力で特攻し、肉塊マリーの身体をジーヴェの槍で貫いた。そのまま力任せに振り上げて切り裂きながら、ドラゴンのブレスを放って焼き尽くす。それは普通であれば絶命してもおかしくないダメージだ。だがマリーは普通という概念からは遠く離れた存在だった。
「ご飯、いただきまずッ!」
そして、マリーの腹がバクンッと裂けて、まるでイソギンチャクのようなヌメヌメとした口のようなモノが開かれ、そのままライルへと飛びかかる。
「兄さんッ!?」
「ちぃっ」
エミリィの悲鳴が木霊し、ライルが驚愕するが、その場に風を纏った雷が通り過ぎた。そして大口が閉じたときには、ライルは僅かに離れたところでシップーに咥えられていた。
「うわぁ。サンキュー、シップー」
ライルがマリーの閉じられた口を見ながらそう言うと、シップーは咥えていた口を離してからナーゴと鳴いた。叔父が甥を助けるのは当然のことだ……とシップーが思ったかどうかは定かではないが、シップーの高速移動によりライルが助かったのは確かであった。
「それにしても本当に倒れないなんてね!」
エミリィが矢を射る。その矢はマリーに命中するが、傷はすぐに塞がってしまう。そしてマリーは、まるでダメージがないように動き続けている。
「……本当に嫌になる」
エミリィが眉間にしわを寄せて、そう毒づく。そしてティアラを見る。すべてはティアラの召喚にかかっている。ここでマリーという名の化け物を倒すには圧倒的な火力が必要だ。そのためにはティアラのルビーグリフォンの力がいるのだ。
そして、そのティアラは今、己の召喚体を制御しながら 炎の騎士団(フレイムナイツ) とフレイバードの力をグリフォンの幼体であるメフィルスに注ぎ続けていた。
炎の騎士団(フレイムナイツ) たちの召喚体はすでにほとんど薄く消えかかっており、それと同時にティアラ自身への負担も増大している。己の分身を削り取られているのだから、それも無理はない。しかし、ここは成さなければならないと、ティアラは気力を振り絞って術を行使し続けている。
(さあ、出てきて。あなたはわたくしを継承者として選んだ。例え、悪魔の手によって結ばされたものだったとしてもそれは事実。であれば……)
「私の呼びかけに応えて出てきなさい紅玉獣『ルビーグリフォン』!」
そして目覚める。
『来るぞッ!』
『うわっ、前に見たときとはエラい違うんだけどッ!?』
凄まじい圧力を感じて、ジン・バハルと弓花が身構える。
見ればメフィルスであったグリフォンの幼体が、唸りをあげながらその姿を膨張させていく。そして、その翼は大きく広がり、体躯はがっしりと引き締まり、その瞳は現実に燃え盛っていた。そして、赤と黒の入り交じる炎を纏った、鷲の上半身と獅子の下半身を併せ持つ魔獣がそこに出現した。
「 鳥(どり) ぢゃんだぁああ!!」
その姿にマリーが目を輝かせて、ルビーグリフォンへと特攻していく。
それにルビーグリフォンは燃える瞳を向け、そして身構えた。
『ヤバいッ!?』
その様子に弓花が叫んだ。完全竜化していた弓花の『竜眼』には見えていたのだ。巨大なエネルギーが『ルビーグリフォン』に集中しているのが。そして、それは当然同じ『竜眼』を持つライルも気付いていた。
「逃げるぞシップー。エミリィもッ」
「ナー!」
「え?」
ライルが風の加護を用いて全力疾走し、エミリィもシップーに咥えられてその場から待避する。弓花とジン・バハルも一気に走り出した。
巻き込まれてはたまらないと。
「わあ、 鳥(どり) ぢゃんが……」
その中でマリーだけは、その輝きを愛おしそうに見ている。
そしてそのマリーに向けて放たれたのだ。ルビーグリフォンから、とてつもなく高密度の炎の塊が。
「 綺麗(ぎれい) ねぇえ……ぇ……ぇ…………」
その強大な炎は瞬時にマリーを飲み込んだ。その威力には、例えどれだけ加速させていようが生命の再生など追い付くはずもない。肉塊マリーは全身を焼き尽くされ、その身を消滅させていく。そして、一秒とかからずにマリーはその場から消え去った。
『キュォォォオオオオオオオ!』
しかし、ルビーグリフォンの炎はそれだけでは止まらない。それは大地を切り裂く巨大な炎の剣のようにルビーグリフォンの正面を業火が舞い、大地すらも焼き尽くしていく。
その熱量は凄まじく、あまりにも膨大なエネルギーによって、さきほどのルイーズのジャッジメントボルトのように周囲の空間にヒビが入っていく。
『なんだ?』
『やったかな?』
その様子をジン・バハルと弓花が観察している頭上で、さらには赤い月が砕け散った。それはもう見事にまっぷたつに割れて破片となって散っていく。
「ああ、こっちのクマも消滅したわね」
さらには、それらの現象がすべてが終わった後、ルイーズはライトニングスフィアの中で再生し続けていた白熊ゴーラの気配が消えたことにも気が付いた。どうやら魔力の供給が止まって再生力が消えたことでライトニングスフィアの継続ダメージだけで倒しきったようである。
(後は……と)
『ティアラッ!』
弓花の声が響いた。そしてルイーズが見ると、そこには消失しつつあるルビーグリフォンと、その場で倒れているティアラがいて、そのティアラを弓花が駆け寄って抱き上げていた。
『ティアラ、しっかり。起きて』
そう言ってティアラに叫ぶ完全竜化の弓花の姿は、普通にティアラをそのまま食べてしまいそうに見えたが、ルイーズはその突っ込みを抑えて、ひとまずは近づいて弓花に声をかけた。
「今は寝かしておきなさいユミカ」
『でも、ルイーズさん。ティアラの魔力がもう……』
ドラゴンが凄い顔でルイーズを睨んでくる。竜眼でティアラの魔力を把握しているが故の焦りなのだろうが凄く怖い。ルイーズは顔を背けたくなるのを堪えながら、言葉を続ける。
「ルビーグリフォンは、本来は守護兵装として王都で顕現させて 魔力の川(ナーガライン) からエネルギーを受けながら戦うように調整されてるのよ。だから人間の身だけで扱うのは元々難しいの。一撃で魔力を全部持ってかれたりするんだから。今回みたいにね」
その言葉に弓花の顔が青くなる。訓練中のルビーグリフォンの召喚はあくまで召喚して形を出すまでの訓練で、最初の召喚時の暴走以外はただ呼び出されただけだった。だから、弓花は攻撃のリスクまでは聞いてはいなかったのだ。
『それじゃあ私、とんでもないことを頼んで……あ、そうだ。ルイーズさん、ティアラにもさっきの薬を』
「なーに? ティアラまでエッチな気分にさせてナニしようっての? やっぱりアンタ……」
『冗談は止めてください』
ガーと叫んだ弓花にさすがのルイーズも仰け反った。というか今少しブレスが出た。(怖いわ、この 娘(こ) ……)とルイーズはなおさら思ったが、ともかく首を横に振った。
「あれは元気の前借りみたいなものだからね。効果が切れた後の反動が怖いから、今はダメ。ともかく、あたしが看病するから、あんたたちはあっちを見てなさい」
『あっち?』
弓花はそう首を傾げたが、ルイーズの視線の方角を見て、その意味を理解して全身に鳥肌が立った。
「心配はしてないけど、あなたたちは見ておいた方が多分いいわ。これから先、どれほど見れるか分からないもの」
そこにあったのは、まさしく次元を超えた戦いだったのだ。
「今のジンライくんの本気なんてね」