軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四百十四話 紅玉獣を呼ぼう

「おい、外に出ていいのかよ」

ライルが不滅の馬車の周囲を警戒していると、唐突に不滅の馬車の中からティアラが出てきた。敵のメインターゲットは恐らくティアラだろうというのは、その場の全員の一致した認識だ。それにティアラは召喚士であるため、もっとも安全な不滅の馬車の中からでも戦うことが出来るのだ。だから無理に外に出る必要はないはずだとライルは考えて、ティアラにそう言ったのだが、ティアラは「ユミカに頼まれましたので」と口にして、馬車から降りた。そしてティアラのその言葉にティアラの腕の中にいるメフィルスが眉をひそめながら口を開く。

『ふむ。まだ実戦で使用したくはなかったのだがな』

「仕方ありませんわ、お爺さま。他に手はありませんもの」

ティアラの言葉にメフィルスも特には反論もない。ティアラの言うことは事実で、メフィルスもソレは分かっている。そのやりとりを見ながらライルが尋ねる。

「何をする気なんだ?」

ティアラはライルの問いに、正面から向き合ってくるマリーたちを見ながら口を開いた。

「ルビーグリフォンを召喚します」

そのティアラの決意の言葉にライルが目を細めた。ツヴァーラの守護獣『ルビーグリフォン』。それは千の兵を葬り去る力を持ち、殲滅魔獣と恐れられた召喚獣として、ハイヴァーンの民にも知られている。

「あれ……か」

その守護獣をライルも何度か特訓中に見たことはある。特に一度目の召喚では周囲が火の海になったため、風音がドラゴンになって慌ててコールドブレスで消火していたということもあった。ライルもその場から命からがら逃げ出したのはあまり思い出したくはない記憶であった。

もっとも現在はツヴァーラ王都ではない。そのため、 魔力の川(ナーガライン) と接続して本来の力を引き出すことは出来ないだろうが、それでも強力な召喚獣であることには違いないのだ。

「やれるのか?」

そのライルの問いに、ティアラもコクンと頷いた。

「やります!」

それは断定の言葉。失敗は出来ない重責に耐え、立ち上がれる者の言葉だった。その言葉にライルがニッと牙を出しながら笑う。

「よし、ジーヴェ」

そしてライルは己が槍に声をかける。

『なんだ我よ』

「ならこっちももうちょい、無理するしかねえな」

『是非もない』

その答えにライルも頷いた。

そのライルとジーヴェのやりとりにティアラはほほえんだ後、ルイーズの方を向く。

「ルイーズさんは終わった後のことを頼みます」

「まーかせて。メフィルス、あたしに良いとこ見せてよね」

ティアラの言葉にルイーズは頷き、そのままメフィルスにも声をかける。

『任せるが良い。孫娘の頼みだ。なんとかしてやるさ』

久方ぶりに愛人に頼られたことがうれしかったのか、幼体のグリフォンがニヒルな笑みを浮かべた。

『まあ見ておれ。惚れ直してしまうぞ?』

「期待してるわ」

メフィルスの言葉にルイーズも満面の笑顔で頷く。

「それではお爺さま。いきますわよ」

『ああ、頼んだぞ』

メフィルスの言葉を合図にティアラが紅玉獣のレイピアと火炎鳥の指輪を同時に起動させる。そして目の前に呼び出されたのは 炎の騎士団(フレイムナイツ) 10体とフレイバードだ。

そして、その中心にベビーグリフォン『メフィルス』が降り立った。

「どうするんだ?」

ライルは遠目からでしか、ティアラのルビーグリフォン召喚を見たことがない。なので目の前で何をしているのかが分からない。そのライルの問いにルイーズが口を開いた。

「今のティアラのレベルは27。まだルビーグリフォンを呼べる段階じゃないわ。だから、ちょいと変則的な呼び出し方が必要なのよ」

「変則的?」

ライルの言葉にルイーズは「そうよ」と返す。

「自分の召喚体をすべて 生け贄に捧げ(サクリファイスし) て、足りない部分を補いながら呼び出すの」

「それって凄く負担かからないか?」

ルイーズの説明を聞いてライルが眉をひそめる。

ティアラは召喚体との感応性が高く、召喚体のダメージのフィードバック率も高い。それなのにすべての召喚体を捧げるというのは、どう考えてもティアラにとっては小さくないダメージが与えられるようにライルには思えた。そしてルイーズもライルの推測を肯定する。

「それでも、やるべきと判断したんでしょうね。ならあたしたちは成功を信じて見守るしかないわ」

その言葉にライルは、迫ってくる敵を睨みつける。

弓花とジン・バハルにエミリィを乗せたシップー、それにそれらを追って肉塊マリーがこちらに向かってきているのがライルには見えた。

「いいや、違うぜルイーズさん」

「ライル?」

ルイーズの疑問の声にライルは視線を迫り来るマリーたちに向けながら答える。

「俺は見守るだけで終わる気はねえ」

『当然だな』

ライルの言葉にジーヴェも同意する。そしてライルも体内の竜気を燃やし、走り出した。休息は得た。であれば、戦場へとライルは突き進む。

**********

一方で、マリーと弓花たちの戦いは、今はマリーをルビーグリフォンの射程への誘導へと切り替わっていた。

そしてエミリィがシップーに乗った状態で放った矢がマリーに命中する。

「まったく効かないってどういうことよ」

しかしエミリィの言葉通り、効いた様子がない。竜気を乗せた竜弓術『牙竜』は威力重視だが、肝心のマリーはその身が貫かれようとも気にせず向かってくる。そして貫いた場所もすぐに完治してしまう。

『効いてないわけではないだろうがな』

『回復速度が速すぎるんでしょうね』

ジン・バハルの言葉に弓花が補足する。マリーの化け物っぷりにはその場の全員が悲鳴を上げたい気分だったが、あいにく逃げられる場所はなかった。今は向き合って戦うしかなかった。

「ナーーーッ」

シップーがじれたのか、猫なでパンチをなごなごと撃って、そこから 鎌鼬(かまいたち) を発生させる。しかし連続して生み出された風の攻撃はマリーから出てきた長い毛の生えた尻尾によって弾かれる。シップーの攻撃力ではマリーにダメージを与えることすら出来ないようだ。

「シップー叔父さん、落ち込まないで」

「ナー」

エミリィが頭をなでて、シップーも気を持ち直す。しかし、マリーから生えてきた尻尾が奇妙な音を上げているのにシップーは気付く。

「ナ、ナーゴ!?」

その毛の周囲がヴヴヴヴヴと何か妙な音がして気が逆立っていく。

『みんな避けろ。あれはカマイタチの尻尾だッ!』

その正体を見たことがあるジン・バハルが叫んだ。それはシップーの技ではなく、魔物としてのカマイタチの尻尾。つまりはそれは……

『来るぞッ!?』

ジン・バハルの言葉と同時に、その場に強力な風が吹き荒れた。風魔獣カマイタチ。その尾から発せられる 鎌鼬(かまいたち) はシップーのものを遙かに凌ぐ強力な風の一撃だ。それが、

『グガァッ』

爆発的な叫び声によってかき消された。そしてそれを行った相手を弓花はその眼に捉える。

『ライルッ!』

「よっ、助けに来たぜ」

ライルが槍を構えながら弓花にそう返した。

『今のって?』

『ドラゴンの声には魔力をかき消す力もあるのだ。まあ、よほどのドラゴンでなければ無理だがな』

弓花の問いにはジーヴェの槍が答える。それは自分の能力は高いと言外に弓花に伝えているようだった。もしかすると完全竜化した弓花に対抗心があったのかも知れないが、弓花は『なるほど』と頷いただけである。

『感心している場合じゃねえ。ユミカ、来るぞ』

『もう、次から次へと』

ジン・バハルの言葉通り、マリーの体内から巨大な鎌の手が出てきて、弓花の背後を狙う。それを弓花は背中から出現させた『刀』で弾いた。その刀を周囲の仲間たちが驚きの眼で見た。仲間の背中から刀が生えてきたのだ。そりゃ驚かないわけがなかった。

『な、なんだ。それは?』

その中で代表してジン・バハルが恐る恐る尋ねる。そのジン・バハルの問いに弓花はバツの悪そうな顔をして、頭をかきながら口を開いた。

『さっき倒したイジカ……敵が持ってた刀なんですけどね。ええとなんか取り憑かれちゃったんで、逆に支配したら離れなくなっちゃって』

『支配しただぁ?』

ジン・バハルの怪訝な顔に弓花が『一応、化生の巫女なんで』と返すが、なおさら唸られた。とはいえ、そういうスキルなのでしょうがない。弓花は凶刃イジカの使っていた刃身一刀『マサムネ』を完全に支配下において操れているようだった。

『私も人のことは言えないんだが、お前ももう大概に人間辞めておるな』

『いや、しみじみ言われるとマジ傷付くんですけど』

ジン・バハルの言葉に弓花は泣きそうな顔をするが、ドラゴンの姿なのでその顔はただ睨んでいるようにしか見えず、怖いだけだった。

「そんなことより、もう間近だぜ?」

『いや、そんなことじゃないんだけどね。結構切実なんだけどね』

ライルの言葉に弓花がブツブツ言うが、もう不滅の馬車まで目前である。そしてティアラはまだ準備中のようである。本来であれば未だ実戦で使えるような術ではないのだ。その姿を見て弓花も今は落ち込んでいるときではないと気を取り直す。

『そんじゃあ、ここらで逆転しよっかね』

そして弓花たちはその場でUターンをして、追いかけてきたマリーに突撃する。今、ようやくの長き戦いの決着が訪れようとしていた。